5
5
「おじいちゃん、聞きたいことがあるんだけどさ」
さおりは、言った。
「マジックってむずかしい?」
「むずかしいのもあるし、やさしいのもある。覚えておいて損はないぞ。新しい学校で友達を作るのに役に立つと思うよ」
「卒業式の前の日に学校で謝恩会があるの。それが開かれる前にみんなの前で、六年生の一組から三組の各クラスの何人かが秘密の特技会をやる話があるわけ」
「秘密の特技会?楽しそうだな。それで、さおりは、マジックをやることを考えているわけだな」
「全然決めてないよ。ただ、友達のひとりが、その子には、前におじいちゃんに教えてもらったトランプのマジック見せたことがあって、私にやればってすすめて来るから」
「トランプか」
おじいちゃんは、ソファから立ちあがると、縦長の本棚の前に立った。上から三段目までは、本が並んでいるが、その下は、扉がついた物入れになっている。そこに様々なマジックの小道具が入っていた。その中から、トランプのケースを持って来た。
おじいちゃんは、ケースからトランプを出すと、サァーッと五十四枚のトランプをソファの前の低いテーブルの上に流した。さおりは、目を奪われる。一枚一枚が、同じように重なり合っているのだ。さらにふたつに分けて、パラパラと左右を交互に重ね合わせる切り方、さおりがこれをやると右側が五枚、左側が三枚という具合でおじいちゃんみたいに一枚一枚交互に重なり合わせることとは程遠い。
おじいちゃんは、トランプをさおりの前に置いた。
「じゃあ、トランプのマジックやってみて。教えたのはあれか。おじいちゃんは、横向いて目をつむるからな。つむった」
おじいちゃんは、そうして、さおりがトランプに仕掛けをするのを待った。
「やるけど、おじいちゃんは、種明かしを知ってるわけだからやりづらい」
「今は、僕は、マジックを知らないお客さんだ」
そんなこと言ったって、本当は、「マジシャン相島」なのだ。緊張する。
さおりは、二十枚のトランプの中から相手が選んだカードをあてるマジックをすることにした。
「準備、オーケー」
という言葉におじいちゃんが、目を開けてこちらを向いた。
「それでは、お客様、この中から、好きなカードを選らんでください」
裏返しに重ねて並べて一枚を選んでもらう。
「そしたら、しっかり、マークと数字を覚えてください」
相手が、マークと数字を記憶する間に二十枚のトランプを束ね、おじいちゃんが、選んだカードを一番上に置いた。
「それでは、これをようく切ります」
さおりは、おじいちゃんに教えられた通り、束ねた時の一番上とおじいちゃんが選んだカードが離れないように注意しながら切った。そう、このマジックは、一番上のカードを覚えておき、選んでもらったカードをその上におく。そうして、二枚のカードが、離れないように切ることがポイントなのだ。そうすれば、覚えたおいたカードの隣に選んでもらったカードが隣に来るわけで言い当てることが出来るというわけなのだ。
「それでは、お客様の選んだカードがどれかあてたいと思います。どれかな、どれかな」
二十枚のカードをテーブルの上に広げ、覚えておいた右隣のカードハートの3をお客さんであるおじいちゃんに見せた。
「あたりです。何で、分かったんですかあ?びっくりです」
おじいちゃんの余りにオーバーな演技にさおりは笑ってしまった。
「あと、どんなの教えたっけ?」
「トランプのエレベーター。クラブとスペードの黒の二枚のカードを真ん中に入れて一番上に持って行くやつ。目の錯覚」
「ああ、あれも教えたか。だけど、場所はどこかとかお客さんとの距離はどれ位とかいろいろ考えた方がいいんだけど。一組から三組の全員がいるわけだろう」
「そう、百二十人位」
「後ろの方、ちゃんと見えるかな。ここらあたりも考えた方がいいな」
「そうだよね」
「久しぶりにさおりの前でマジックショーをするか。天才マジシャンの相島を待ちわびている人もいるんで、絶えず腕を磨いておく必要があるしな」
おじいちゃんは、少し笑いながら言った。