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五時間目の授業が終わった時、村中先生が、「今日の連絡事項」と授業中よりも大きな声で言った。
さおりは、ランドセルを机の上に置きながら、今年四十歳になるわりかしかっこいいと思っている担任の次の言葉を軽い気持ちで待った。軽い気持ちで、というのは村中先生の連絡事項は、そう言わなくてもいいこともあるからだ。「今日の連絡事項、交通事故に気を付けて」みたいな。
けれど、今日のは、正真正銘、本物の連絡事項だった。
「卒業式の前の日の謝恩会なんだけどさ。職員会議で、子供達によい思い出を作ってもらおうってことで、秘密の特技大会をやったらどうかっていう提案があって、君達から特に反対が出なければやってみようということに決まった。各組五つ位ずつ、歌でも、落語でも、なんでもいい。こんな人がこんなこと出来たのかとかびっくりさせるのも楽しいと思う。もちろん、人を傷つけたり、危ない片手逆立ちジャンプとかは駄目だけどね」
村中先生は言ったが、つかさず、
「片手逆立ちジャンプ、六年生にそんなの出来る人いません」
立木陸が言う。何かと言うと、村中先生の言葉に突っ込みを入れたがるクラスで三番目に小柄な男子だ。一番前に座っている。さおりは、「まん丸おむすび」と心の中で呼んでいる。
「ただ、言ってみただけだ」
村中先生は、言葉を返す。連絡事項と同じ、これも、村中先生の口癖みたいなものである。
「確認、各組五つ位ですね?」
斜め後ろの芦原梓が聞いた。
「だいたい、そんな風になるのかな、って感じ。あくまで、だいたいだ。体育館の舞台で一組から三組のみんなの前で演じたりするのは、度胸がいるかも知れないが、誰々さんはこんなことも出来たんだ、と印象を残して卒業するのもいい思い出になると思う。私は、ぜひ、これをやってみたいなんていう人、いるかな?」
村中先生は、クラスの中をぐるりと見まわすが、誰も手をあげない。
「来週のホームルームの時までに考えといて。誰かを推薦の場合は、無理強いは、絶対しないということでお願いします。じゃあ」
村中先生は、クラス委員の岸野悠の方を見た。
「起立。さようなら」
岸野悠の声変りをした大人びた声にみんなの「さようなら」の声が続いて、本日の授業が終わった。。