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50 シュート

本日もよろしくお願いします


旅に危険は付き物です

ちょっと長くなりました


 レチノルトへの旅は北での旅と同じく、2~3日の行程の乗合馬車を乗り継いでいくんだよ。

 クロピドから出発した乗合馬車は2泊3日の行程で、2泊とも町に立ち寄っての宿泊だったけど、その次の乗合馬車は1泊目が小さな村での宿泊、2泊目は改街道沿いで野営だった。そしてその次の乗合馬車は1泊2日で町で宿泊した。

 そしていま乗っている乗合馬車が2泊3日の行程で、終着地が今回の目的地であるレチノルトだ。そして2泊とも野営だそうだ。

 乗合馬車は長閑な田舎道を走っている。チアミルを出発した時はまだ初春で肌寒かったんだけど、南に行くにつれて気温は穏やかになっていって、今日など麗かな春の陽気だ。規則正しい馬車の揺れが眠気を誘う。 

 同乗の客は男性の商人ばかりでシュート以外に8人。昼食後と言う事で半数以上の乗客は居眠りしている。御者の頭が不自然に揺れている。シュートも欠伸をひとつ。

 馬車の周りを固めている護衛の冒険者達6人は小走りだ。凄い体力だな。

 王都に近い場所では魔獣も盗賊も出遭わなかった。ひとつ前に乗った乗合馬車でフォレストウルフが、この乗合馬車に乗ってから一度ゴブリンが襲って来たくらいで大した危機もなく済んでいる。この後も何事もなく野営地に着いた。

 夜中に戦闘の音を聞いて目を覚ましたが、『索敵』で確認したらゴブリンが10匹程だったので、そのまま寝なおした。護衛の冒険者が対処して問題なかった様だ。



 穏やかな馬車旅は翌日も続く。今回の旅では一度も雨に遭っていない。僕たち旅人にとっては幸運だね。農家にしたら偶には降ってほしいと思っているかもだけど。

 しかし午後からは空に雲がかかり始めて、この旅最後の野営に到着する頃には空の雲が厚くなり、昨夜よりも早い時間に薄闇が差してきた。急いで野営の準備を行って、早々に眠りに着く。

 夜半、騒ぎに目を覚ます。護衛の冒険者達が危険を知らせる声を上げている様だ。『索敵』を展開すると、襲って来ているのは人間。つまり、盗賊だ。数は20人程だが魔術攻撃を放ってきている。

 

《これだけごっつー魔法が使えるのに、盗賊に身を落とすとかあるんやな?》


「珍しいよね。盗賊だと、多少魔術が使えても魔力量が少なくて、こんなに大々的には使えないって場合が多いよね」


 脩人と話しながら戦闘態勢を整えて、天幕から出た。空を厚い雲が覆っている様で月明かりも星明りもない暗闇に覆われていた。


《シュート、盗賊の連中を見て来たけど、紙の魔道具を使って攻撃してきとるわ。何十枚も束にして持ってるで》


 僕から離れて盗賊を確認してきてくれた脩人が教えてくれた。『索敵』では分からない事を教えてくれるって便利!


「なるほど。紙の魔道具なら、使用者はそれほど魔力は使わないから連続で攻撃できるんだ」


 冒険者達も魔術が使えるのか魔道具を持っているのか、必死に魔術で反撃をしているが盗賊からの魔術攻撃の数に押されて、攻めあぐねている様子だ。

 乗客たちは野営地の中心部の焚火の近くに集合している。シュートは乗客達の元に行って、収納から取り出した“結界魔道具”を渡した。


「僕は魔道具技師です。この“結界の魔道具”は物理も中級程度の魔術も防ぎますから、発動してこの中でじっとしていて下さい」


「おお!助かります。私も魔道具を持っていますが、あまり強い攻撃は防げないのですよ」


 自分には既に『障壁』と『身体強化』をかけてある。

 次に、初級魔術『水弾』を高威力にしたものを10個、『誘導』も付けて放つと、周囲の至る所「ぎゃっ!」とか「うぐっ・・」とかの悲鳴や苦悶の声があがる。

 放った『水弾』は8個が命中した。命を奪うところまではないが、意識を失ったり痛みに悶絶したりして動けなくなっている。

 紙の魔道具を使用していた盗賊も意識を失ったので、相手からの魔術攻撃が止む。

 

「いまだ!」


 冒険者達が盗賊に襲い掛かり、間もなく制圧が完了した・・・かに見えていたが。


《シュート》


(うん。2人、逃げようとしてるね)


《体の大きい方がボスっぽい。ひょろっこい方は足を怪我しててあんま早く歩かれへんみたいや》


 僕は高威力『水弾』を2つ『誘導』付きで射出して、盗賊の長の両足を潰しておいて、護衛の冒険者に声をかける。


「あそこの草むらに長らしき男が倒れています。それからもう1人、逃げようとしている奴がいるのですが、僕はそいつを尾行して盗賊のねぐらを見つけに行こうと思います」


「やあ、君の魔術は凄いな!助かったぜ。だけど、1人で盗賊を尾行するなんて危険だぜ?明日の昼にはレチノルトに到着するし、そこで報告すれば討伐隊が派遣される筈だし、任せてしまった方が良いぞ?」


「盗賊たちは紙の魔道具を使って攻撃魔術を放ってきていました。しかも何十枚も束で持っている様子でした。あの枚数を買ったとは思えないので、ねぐらに魔道具技師が拉致されている可能性があると考えています。僕は同じ魔道具技師として放置でき「おい、ちょっと待て!」


「魔道具技師って嘘だろ?あんな簡単に盗賊を倒しておいて何言ってんだ?完全に戦闘系じゃねぇか」


《はい!頂きましたぁ!魔道具技師なのに戦闘力高すぎ発言、あざーっす》


「いえ、ちゃんと登録された魔道具技師ですよ」


「・・・さっきの、同時に何人も殺った攻撃は魔道具を使ったのか?」


「いえ、あれは僕の魔術です」


「やっぱ、戦闘系じゃねぇか」


「いえ、本職は魔道具技師です。素材は自分で入手する主義なので、ある程度戦闘能力を磨いてはいますが」


「ある程度って感じじゃねぇけど・・・まぁあまり深くは追及すまい」


「で、ねぐらを探しに行きますので、明日の朝までに僕が野営地に戻れない場合は、僕を置いて出発しちゃって下さい」


「う~む・・・決意は固そうだな。分かった。こちらとしては乗客の途中下車を止める権利はない。しかし、少しくらいなら待っててやるから、何とか頑張って戻ってこい」


「はい。もし、盗賊の数が多い様子なら無理はしないで、場所だけ確認して戻って来るようにしますので」


「そうか。気を付けて行けよ!」


 


▲▽▲▽▲▽


 片足を引きずりながらひとり逃げていく盗賊は、少し回り道をしたり休憩したりして、明け方にねぐらに到着した。盗賊のねぐらは岩壁の窪みを利用して木材と布を組み立てた“掘っ立て小屋”であった。盗賊が入口の布を捲って中に入って行く。

 シュートは近くの茂みに隠れて様子を窺う。『索敵』で窺うと、小屋の中には逃げて来た盗賊以外に3人いる様だ。3人とも小柄な人間だ。

 3人のうちの1人が、座り込んだ盗賊に近づいて何やら世話をしている。傷の手当だろう。もう1人は少し離れた場所でただ立っている。最後の1人はずっと奥の方にいて地面に座り込んで何か作業をしている。“紙に円環術式を書きこんでいる”様にも見える。


《中に居るんは、女性ばっかりやで。戦闘能力は低そうや》


 シュートは手元に高威力『水弾』を4つ作って維持しながら、小屋の中に入って行った。


「っ!てめぇは!」


 盗賊が慌てて立ち上がって戦斧を構えるが、すかさず『水弾』を頭部にぶつけて意識を刈る。部屋にいた女性たちは2人とも呆然とするばかりで戦闘の意思は感じられない。


「君たちは盗賊の仲間ですか?」


「・・・・・」


「仲間なら容赦はしません」


「っ!あ、あ、あ・・いあいあう、いあいあう・・」


「???」


 盗賊の手当をしていた女性が必死に何事か訴えているが、言葉が出てこないみたいで何を言っているのか分からない。


「何を言っているのか分かりません。少し落ち着いて、ゆっくり話して下さい」


 彼女は悲しそうに眉を下げて、近くにあった紙に文字を書いて見せて来た。


“舌を切り取られていて上手く話せません”


 次に口を大きく開けて、こちらが中が覗き込みやすいように頭を少し後ろ向きに傾けた。

 彼女の口の中には申し訳程度の長さの舌があるだけであった。


《えーっぐ!えっぐい事しよんなぁ!》


「!?酷い!!君たちは奴隷にされているのですか?」


 うんうんと首を縦に振る彼女たち。

 2人とも同じ状況の様子だ。


《可哀想すぎんやろ!》


「奥の部屋に居る人は?」


 奥に続くのだろう扉の近くにいた女性が扉を開いて灯りを持って入っていくのに続いてシュートも次の間に入ってみると、広くもないその部屋の奥半分が牢屋になっており、中に女性が一人。

 屈みこんで、地面に紙を置いて一心不乱に何かを書きつけている。何かって、“円環術式”だ。彼女の横には大量の紙の魔道具が積みあがっている。


《ビンゴ!やっぱり()ったな。魔道具技師。彼女も奴隷なんやろな。

 てか、女性・・・と言うより、少女やな》


「ねぇ、君!助けに来たよ。ここから出してあげるよ」


 シュートが声をかけると、その一瞬肩をビクッとさせてから、ノロノロを顔を上げた。


「あーうえう?」


《こいつも舌やられてるんや》


「そうだよ。助けに来たんだ。安心して?盗賊はみんなやっつけたよ。ここから出よう」


 シュートは『移動』で牢屋の中に行き、少女の傍に腰を落として目線の高さを合わせた。


「さあ、僕と一緒に行こう。君の手に触って良い?」


 少女が戸惑いながらも小さく頷いたのを確認してから、シュートはゆっくりとした動きで少女の手を握った。


「『移動』魔術で出るんだよ。ちょっと眩暈みたいな感じがするけど、大丈夫だからね」


 牢屋の外に『移動』して、少女の顔色を窺う。


「どぉ?大丈夫だった?」


 少女は周囲を見渡して、自分が牢屋の外にいる事を確認して、目をキラキラさせてシュートを見上げてきた。


「うおい!うおい!あいめて!」


「ふふっ。褒めてくれてありがとう。でも凄くはないよ」


 それからシュートは3人の女性を連れて、野営地への帰路についた。流石に3人も連れて『移動』はできないので頑張って歩いて貰う。女性たちの体力に不安があったけど、野営地まではそれほどの距離は無かったし、『索敵』を使ってできるだけ楽で最短な道のりを選んで歩いたから、途中で1度休憩しただけで野営地に辿りついた。


 野営地では乗合馬車は待っていてくれた。

 助かった!

 彼女達を連れてレチノルトまでの徒歩は大変だったと思う。

 乗客も護衛達も女性たちを連れて帰ってきたシュートを見て喜んでくれた。


 彼女たちも乗合馬車に乗り、一路レチノルトを目指した。彼女たちの乗車賃は無料で良いと言って貰えた。

 昼過ぎに予定通りレチノルトに到着した。入街審査の衛兵に事の顛末を報告し、奴らのねぐらの場所を伝えた。

 保護した女性たちは聴取があるとかで衛兵に託して、シュートは宿を探しに行く事にした。

 別れ際、魔道具作りをさせられていた少女が「行かないで」と言う風にシュートの服の袖の端を掴んで来た。


「大丈夫。衛兵の人とのお話が終わるころにまた会いに来るよ」

 

 そういって頭を優しく撫でたら、しぶしぶながら手を放してくれたけど、少女の瞳は不安に揺れていた。


「大丈夫」


 もう一度告げてから街に足を向けた。



じわじわ更新中


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