48 シュート
本日もよろしくお願いします
「止めてって何度も言ったのに!」
《言ぅてたな》
僕は販売用の魔道具製作の合間を縫って、脩人から指示された検証作業を進めている。
「「聞き流してくれ~」なんて言われてもさぁ、あんな魅力的な話をされたら無視なんてできるわけないじゃん!それで、結局こう言う事になるんだよ!」
《律義に提案に乗って来てくれるシュートが僕は好っきゃで?》
今日の作業予定を終わらせてから検証をやり始めたので、もうすっかり夜も更けた。まだ夕食を食べていないからお腹空いたよ。
「しかも、「やりたいかやりたくないかじゃなくて、やらなければいけない!」なんて偉そうな事言ってたけど、脩人は「面白いか面白くないか」で選んでるよね?」
《ふはっ》
「笑いごとじゃないよ!」
検証は1日1つだけにしている。だって忙しいんだよ、僕は。
季節は冬、1年で一番寒さの厳しい頃を迎えて、『加温』関連の魔道具と“湯供給魔道具”の注文が引っ切り無しなんだよね。それに、スルホンさんに提案されて“冷風機”の冬版“温風機”も開発して売り出したから、もう大変。
文句を言いながらも、その後も日々こつこつと、ひとつひとつ検証していって、得た答えから更に追加で検証課題が出されてを繰り返し・・・20日ほどかけて答えが出た。
まず結論から言うと、魔石に魔力を充填するのは可能だった。そして魔石に属性は無かった。
魔石は魔力を使い切ると脆くなる。1回使い切りの、紙に円環術式を書いた魔道具が魔術発動後に崩壊して散ってしまうのと同じ原理なんだと思う。その脆い魔石に魔力を注入しようとすると一瞬で魔石が割れて粉々になってしまうんだ。
1割程度で良いので魔力を使い切らずにおけば、そしてゆっくりとした速度で魔力を注入すれば、問題なく魔力を充填できたんだ!でも、注入限界は9割程だった。それ以上注入を続けると・・・大爆発!ってな事にはならなかったけど、魔石に皹が入ってしまって、その皹から魔力が抜けて空気中に散ってしまったんだ。
それと不思議なのが、魔力が半分以上残っている魔石では、魔力を注入しようとしても弾かれてしまって入らなかったんだよ!
それで、9割の魔力が充填された魔石を魔道具で1割残まで使用して、また魔力を充填すると2回目の使用前の9割までしか魔力を充填できなかった。つまり新品時の8割強しか充填できないと言う事だね。更に、3回目の使用後の再充填量は新品の7割半、4回目の使用後の再充填量は6割半、次が6割弱と言う風に少しずつ落ちてゆく事も分かった。
魔石は新品だと透明感のある淡い水色なんだけど、この“魔力再充填魔石”は、再充填を繰り返す度に色が茶色っぽく濃くなっていった。これはとても良い事だ。色合いでひと目で“魔力再充填魔石”だと分かるなら、そして何回目の再充填かが濃さで分かるなら、“魔力再充填魔石”は庶民にも手が出しやすい価格設定にして安く売れば良い。
貴族は今まで通りに新品の魔石を購入する筈。いや、貴族でも使用人の使う物には“魔力再充填魔石”を買う事もあるかも知れない。
《シュート、魔道具に「魔石の魔力残量が1割に到達したら知らせる機能」をつけなあかんやろ?その魔法陣は一般公開せなあかんで?無料で》
「確かに。みんなに知らせておかないと、僕の作った魔道具以外は魔石の魔力を使い切るまで使っちゃうから、“魔力再充填魔石”の元になる使用済み魔石が流通してこない事になるよね。でも、何で無料?」
《「損して得取れ」って言うてな、目先の損得に惑わされんと、将来の利益を確保するように長い目で見ろって事や。
魔石の充填はシュートの専売特許や。魔石のリサイクルが進んだらシュートは大儲けや。
それに、魔石が安価になって仰山出回るようになったら、庶民も「魔道具を使こてみようか?」ってなるやん?ほしたら魔道具がもっと売れるんやで?
魔力残量を感知する魔法陣の情報料分の利益なんか直ぐに回収できるわ》
「なるほどー」
《ほんで、魔力の充填方法なんやけど、魔力のある人がやるには充填速度とか充填を終了するタイミングとか色々訓練が必要やん?そこで魔道具の登場やねんけど、充填する魔力をどこから調達するのか?って考えてる?》
「魔石を使ったら本末転倒だよね。魔力のある人が魔道具に魔力を注入して貯蔵できる様にするとか・・・大気中に漂っている魔力を取り込むかだね」
《大気中に漂ってる魔力ってどれくらいの濃さなんやろ?薄いと時間かかるやろ?》
「数値で示せるほどは分かってないんだけど、僕が体内の魔力をほぼ使い切ったとして、1回の食事と6時間位睡眠を取れば回復してるんだから、そこそこあるんじゃないかな?」
《お、それは期待できるな。気体なだけに!》
「・・・」
《こほんっ。えぇーっと、大気中の魔力を取り込む魔道具は作れそうか?》
「それは問題ないと思う。空気中の水分を集めて水を生成する魔道具と同じことだからね。取り込むのが水か魔力かの違いなだけで」
《よっしゃ!物を作る前にスルホンさんに話に行こうか。検証結果をレポートに纏めて分かりやすくしてプレゼンしようぜ》
「スルホンさんとの相談は必要だね」
《うん。これは社会のシステムまで変えてまう大事業になるからな。僕らの一存ではどうにもならんやろ。更に言えば、タークミィ商会だけで動いてもどうにもならんよ。商業ギルドか、場合によっては国を巻き込むレベルやな》
「え!? まさか。国とか大げさじゃない?」
《国が出てきてもおかしくないんと違う?少なくとも、商業ギルド単位で動く事にはなるやろ?》
「商業ギルドに協力して貰わないといけないのは確かだね」
《明日、早速スルホンさんに会いに行ってみる?》
「明日は魔道具製作の予定が一杯で・・・ううぅ~、3日後なら、なんとか」
《じゃあ、3日後な!スルホンさん、腰抜かすんやない?》
「開いた口が塞がらない位はありそうだね」
▲▽▲▽▲▽
「シュートさん、これは確かですか?いえ、シュートさんが言うのならば間違いはないのでしょうね。ただ、俄かには信じられないと言う気持ちです。魔力を魔石に注入する事は今まで不可能だと言われてきましたからね」
僕の説明を聞き終わってたっぷり30秒くらいは動きを止めた後、スルホンさんは未だ放心状態で話始めた。
「魔力を注入できる条件が揃っていないと駄目だったんです」
「それを簡単に見つけてしまえるシュートさんは真実、魔道具の申し子ですね」
「簡単だった訳では無いのですけど・・・それに僕だけの力じゃないし」
「え?」
後半の言葉は口の中で小さく呟いただけだから、スルホンさんには聞こえなかった様だ。
「いえ、何でもありません。それよりも、“使用済魔石魔力充填機”を運用するには、魔石の流通改革が必要になります。一朝一夕にはできない事なので、商業ギルドの協力も必要だと思うんです」
「仰る通りです。これは魔道具界の大革命になりますよ!早速商業ギルドに相談に行ってきます」
「いつも面倒な事をお任せして申し訳ありません。苦労をおかけします」
「いえいえ!お陰様で、その苦労さえも楽しませて頂いております」
「あ、“位置情報発信受信装置”の方はどうなりましたか?」
「そちらは、まだ・・・どうも、国の方でも扱いをどうすべきか議論が紛糾している様で。恐らく、製造法の全てを国が買い取るのではないでしょうか?・・・これは他言無用でお願いしたいのですが、国はこの魔道具を存在自体秘匿して、“影”が使用する様にするのではないでしょうか?」
スルホンさんは僕に顔を近づけて、声を落として話してくれた。
《確かにスパイ活動には有用やろな。使うなら、こういう魔道具がある事自体秘密にした方がアドバンテージがあるしな》
「そんな事の為に作ったんじゃないんですけどね・・・まぁ仕方がないですね」
この時、僕はこれからも“いち魔道具技師”として静かに生きていくのだと思っていた。それがこの後、大事に巻き込まれて行く事になるとは予想だにしていなかった。
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