44 シュート
本日もよろしくお願いします
蜘蛛糸で織られたシーツは肌触りが良い。そこに『冷却』が『付与』された“冷感ベッドカバー”は貴族の間で爆発的に売れた。王族からの発注もあったらしい。通常、御用商人からしか買い物をしない王族なので、御用商人を通じてタークミィ商会に発注してきたのだ。
庶民用の首に巻く“冷感襟巻”の売れ行きもボチボチと言った所。小さくても蜘蛛糸を使った布製品はそれなりの値段がするからね。
そんな折、ある貴族の御令嬢から、日傘に『冷却』を『付与』できないか?と問い合わせがあったとスルホンさんから聞かされた。
《なるほど!冷えた空気は低い位置に落ちていく性質があるから、頭上の日傘に『冷却』機能があれば、その下におる人に涼しい空気が降り注ぐ訳や》
「スルホンさん、貴族の御令嬢にも喜ばれる上品な日傘を取り扱う工房を探して頂かないとですね」
「ええ、既に当たりをつけて発注も済ませてありますよ。依頼主様には商品化する許可も得ておりますので、纏まった数を注文しております」
「流石です!スルホンさんお仕事が早い」
《シュート!これ、団扇とか扇風機とか色々作れるやん!》
(おお!なるほど)
「スルホンさん、団扇にも『付与』しましょう!それから、冷却した風を起こす魔道具を作りたいです!」
「シュートさん・・・いえ、タークミィ商会の工房の拡大と工員の増員も進めておきます」
早速、これらを商品として売り出したら、これまた爆発的に売れた。
“冷風機”は脩人の世界のしーりんぐふぁんってやつの構造をそのまま利用した。魔道具としては羽を回転させるだけだから、“野菜みじん切り機”や“草刈り機”の応用だし、羽の部分に『冷却』を『付与』するだけだから簡単に作れたよ。
あ、そうそう夏の雑草繁茂に合わせて“草刈り機”と“刈り草掃除機”も売り出して、こちらもジワジワ売れてる。
タークミィ商会は貴族社会に急速に認知されていっている。当然、裏社会にも。
そしてとうとうある日、店舗に賊が入った。幸い店に置いてあったその日の売り上げが盗まれた程度で人的被害は無かった。お金も店舗での1日分の売り上げ金だから、そこまでの損失じゃない。貴族向けの高額商品は商会の口座に直接振り込まれるから、店舗での売上金は庶民向けの商品の売り上げ金だけだからね。
今まで昼間に冒険者ギルドで警備の依頼を受けた冒険者が1人来ていたんだけど、夜間は警備を置いていなかった。今後も窃盗被害が続くのは困るから、専属の警備を10人雇った。これからは彼らに昼夜問わず警備を任せる事になった。
タークミィ商会も大所帯になってきたね。
店舗の警備が厳しくなったからか、今度は僕の屋敷が狙われ始めた。僕の事は徐々に情報が洩れてきたらしい。
ここ数日は毎日のように賊が侵入を試みているんだけど、『障壁』のお陰でずっと侵入を許していない。
脩人に言われて、屋敷の塀に施した『障壁』に何かが干渉したら 感知したその場所を魔燈で照らすのと同時に、僕の寝室に設置した小さな魔燈が点滅し「カチカチカチ」と音で知らせてくれるような魔道具も設置したんだ。
この魔道具は、屋敷の邸内に玄関以外から侵入した者がいた場合には、点滅と「ブブブブブッ」と言う音で知らせてくれるんだ。つまり音の違いでどこに侵入者がいるのか知れるって訳。
毎晩、魔燈の点滅とカチカチ音で夜中に起こされて、僕はすっかり寝不足だよ!安眠妨害だ!いい加減にして欲しい。
ところがある日、ついに邸内への侵入に成功した者が現れた。
夜中にその侵入者は現れた。塀の『障壁』を越えた時に発動する警報は作動しなかった。つまり完全に潜り抜けて来たと言う事だ。
「ブブブブブッ」と言う音と魔燈の点滅で目覚めた僕は最初、いつもの塀の『障壁』への干渉だと思って、ぼーっとしていた。
《シュート!音が違ったで!邸内に侵入者や!》
(っ!)
脩人の指摘に一気に覚醒した僕は、『索敵』で侵入者の位置を探る。僕の『索敵』は習熟度が上がって、屋敷の敷地内の広さなら余裕で感知できる。
侵入者は1階の廊下を玄関ホールに向かって進んできて、次に階段を登り始めた。
僕は寝室を出て廊下を階段に向けて静かに移動し、廊下の中ほどで立ち止まって『隠密』を発動した。ここで待ち伏せするのだ。
間抜けな侵入者は僕に気づかずに廊下を進んで来る。奴が5歩の距離に近づいたとき『雷痺』を発動した。
「ぐふぅ・・」とくぐもった呻き声を上げながら倒れた侵入者。僕は急いで、縄で縛り上げて尋問をしようとしたんだけど、口内に毒を仕込んでいたらしく、「うぅ・・」と苦し気に呻いて口端から血を吐き出した後、力なくその場に倒れた。自害されてしまったのだ。
「え!? 」
《し、死んだんか!? 》
「そうみたい。息が無いよ」
《服毒自殺するとか、ただの盗賊やないな?権力か金持った奴から依頼されたプロやな》
「こ、怖いね。どうやって塀の『障壁』を突破したんだろう?」
《夜が明けるのを待ってから確認に行こうぜ。で、その前にシュート。その遺体を隠してくれ。現代日本人にはキツイねん》
シュートは侵入者の遺体を『収納』に入れた。
夜が明けてから塀を確認してみたら、塀の下を潜るように穴が掘られていた。
僕は思わず「ああ!」と、迂闊だったというように唸った。
《下からかぁ!盲点やったな。土系統の魔法でも使ったんかな?》
「やられたね。地面の中までは『障壁』を作用させてなかったよ」
《まぁ、上空かて完全に覆ってる訳やないから、『移動』とかの魔法使われたら、なんぼでも侵入できるんやけどな》
「庭とか屋敷にも、何か守りの魔道具を設置しなきゃだね」
《お!迎撃システム入れる気になったか?楽しーなってきたわ!》
「だからぁ~、あまり物騒なのは駄目だって!」
《ええやん!こう言うのは徹底的にやった方が良えんやって!》
「・・・今夜、案を出してよ。そこから取捨選択するよ」
《おっしー!覚悟せーよ。科学技術とファンタジーの両面から多彩な提案するで!》
街が動き始める時間を待ってから、僕は侵入者の遺体を衛兵の詰め所に持って行き、引き渡した。
その後、タークミィ商会の店舗に顔を出してスルホンさんに事の顛末を伝えて、店舗の方も気を付ける様に伝えた。




