39 シュートの中の脩人
本日もよろしくお願いします
魔道具技師への道のりは順調や。
審査が通って、シュートは晴れて魔道具技師になれてん。
早速、魔道具の登録をした。
魔道具は、『冷却』の外套と『加温』の外套(リザードマン製とシーサーペント製の2種類)、髪乾燥機、魔燈、携帯魔燈、魔竈、携帯魔竈、野菜みじん切り機、空間乾燥機を登録した。
ほんで付与品は、傷当て(治癒が付与された蜘蛛布製のパッド)、乾燥機能の靴中敷き、靴滑り止めを登録した。
勿論、タークミィ商会で販売を開始した。店舗で販売するだけやのーて、スルホンさんは屋台も含めた飲食店に魔竈の訪問販売に回ってくれてはったし、『冷却』の外套と『加温』の外套とか傷当て、靴中敷き、靴滑り止め、“乾燥携帯食”は冒険者ギルドとか冒険者向けのお店に営業に行ってくれてはった。
勿論、全ての魔道具と“乾燥携帯食”は商業ギルドにも持ち込んで、営業してくれてはった。
そしたら何と、販売開始後たった1週間で爆発的に売れ始めてん。他の商会からも次々に商談が舞い込んで来て、1ヶ月経った今でも販売数は右肩上がりを続けてる。
魔道具技師登録許可を待ってる間に作りためてた魔道具はほぼ売り切ってもーて、いま必死のパッチで作ってんねんけど、製造が受注に追いついていかへん状況でシュートとスルホンさんは嬉しい悲鳴を挙げてはるわ。
「シュートさん、急いで制作工房を建てましょう。この1ヶ月間の売り上げだけでもじゅうぶん建設費用の頭金に足ります。工房を建てる場所はすでに選定済です。チアミルの工房街に閉鎖した家具工房がありまして、そこを仮押さえしてあるのです。中を少し改装するだけで使える様になると思います」
「りょ、了解です。その辺はスルホンさんにお任せします。工房が稼働するまでは、何とか頑張って作ります」
「お体に留意して励んで下さい。夜はちゃんと寝てくださいね?寝不足で魔道具製作は危険ですよ?」
「大丈夫です。睡眠は僕にとってとっても大切なので欠かせません」
「そうですか?睡眠を大切にする事は良い事ですね」
「ほんとにそう思います」
《大切にする目的がスルホンさんとシュートでは違うけどな》
(脩人は黙ってて)
「では、店舗の方は従業員に任せて私は工房立ち上げの為に動きますので、暫く連絡が付きにくくなると思います。できるだけ数日おきには店舗の方に顔を出すようにしますので、何かありましたら店舗の方に伝言を残して下さいませ」
チアミルのタークミィ商会の店舗には現在、10名のスタッフが雇われてるねん。シュートは“共同経営者”として既に全員と面識があるんやけど、シュートが魔道具技師やってのは、店長であるスルホンさんの他には副店長だけが知ってる。シュートの身の安全のためと、制作活動に集中できるようにや。
この対策は正解やった。「魔道具技師の超新星現る!」って騒ぎになり始めてて、誰もが素性を知りたがってるらしい。ある人は勝ち馬に乗りたいがためやし、ある人は魔道具の技術を盗むのが目的やろうし、ある人はシュートと“親友”や“家族”になりたがってたり、それぞれ理由は様々やろうけど、そいつら全員ハゲタカである事には違いないわ。
シュートの存在がバレるんも時間の問題やろうな。
▲▽▲▽▲▽
斯くしてタークミィ工房は出来上がり、半分のスペースに“乾燥携帯食”製造ラインが、もう半分に魔道具工房が稼働を始めた。
“乾燥携帯食”は工房に制作魔道具を設置したから、完全にシュートの手を離れた。
魔道具の方は工房では形だけ作って、それをシュートの屋敷に搬入して貰ってる。で、『付与』とか魔法陣の書き込みをシュートが一手に引き受けてるんや。
『付与』と魔法陣の書き込みしかせんで良ーなったにも関わらず、シュートの忙しさは寧ろ悪化してると言う不思議。屋敷の魔改造なんか、とてもやないけど手ぇ付けられてへんわ。
シュートの魔道具はどれも満遍のー売れてんねんけど、携帯魔燈と携帯魔竈、靴の中敷は国の騎士団と冒険者クランから大口注文が入って、それが大変さを押し上げてんねんなぁ。
『加温』と『冷却』の外套もそれなりの纏まった注文が入る。それ以外のんは売れてるけど、1つ1つ単発の注文やから何とかなってる感じや。
今日も1日中『付与』と魔法陣の書き込みを只管やり続けてて、疲れ果てたシュートはそのまま制作デスクに突っ伏して寝落ちてこっちに来たわ。
「シュートぉ、デスクで寝たら、次の日体がバキバキなってんぞ。せめて横になれや」
「うん、分かってるんだけどね。「あとちょっと」ってやってるうちに、寝室まで移動するのが面倒になっちゃうんだよ」
「屋敷が無駄に広いからな。制作デスクの横に仮眠スペース作って、簡易ベッドみたいなん置けば?」
「そんな事したら、寝室を一切使わなくなりそうだね」
「今でも殆どの部屋は開かずの間になってるけどな。嫁さん貰うしかないな」
「いまの生活の中のどこに、女性と知り合う時間があるのさ?無理だよ」
「それなwww」
「それに、いまこの状況で出会う女性なんて、僕の財産狙いの人しかいないよ?つつもたせって言ったっけ?玲子みたいなやつさ」
「それなっ!www」
「・・・それにしても、脩人が意識を失ってから、もう3ヶ月以上経っちゃったね。もう戻れないのかなぁ?」
「僕んとこの世界では、交通事故で意識不明状態が数ヶ月ってよく聞く話やし、数年って話も聞いた事あるから、まだ諦めるには早いやろ」
「相変わらず、楽観的だねぇ」
「本来の僕はもうちょっと悩み多き青年やった筈やねんけどな。やっぱ幽体では悩みを感じ難いみたいや。それにシュートの存在がデカいんやと思うで」
「そう言って貰えて光栄だよ」
「ちょっと提案なんやけど」
「なに?」
「こうやって座ってただ駄弁ってるだけって言うのにも飽きてきたし、ちょっと歩かへん?実はどっかに真っ黒世界の出口があるかも知れへんし」
「確かに。じゃあ、脩人の目覚めた場所から、真後方向に歩いてみる?」
「シュートの後ろ方向が正解やったからか?」
「うん」
「よし、じゃあシュートが先導してくれ。僕の“真直ぐ歩く為の修正基準”が分からんから」
「分かった。じゃあ、行こう!」
▲▽▲▽▲▽
「あったな」
「あったね」
「盲点やったわ」
「もうちょっと早く気づけば良かったね」
いま、僕らの目の前の床にマンホール位の大きさの白く輝く球体?穴?があるねん。
「これ、飛び込んだら良えんかな?」
「それしか方法は無いんじゃない?」
「じゃあ、ふたり同時に飛び込もうか」
「うん。はぐれない様に手を繋いで行こう」
「よっしゃ。“いち、にの、さん”の、さんのタイミングで飛ぶで。良えか?いーち、にぃーの、さんっ!」




