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36 シュートの中の脩人

本日もよろしくお願いします



 真っ黒世界ではやっぱり落ち合えんままで、翌日僕らは町を徒歩で出て、街道を外れて草原の中に来た。どっち周りに曲がってまうかの実験や。

 歩き始めの場所に、目印に大きめの石を設置した。で、ゴールを50m位向こうに見えてる木にした。次に、シュートの『索敵』で安全確認をしてから目隠しをして、ゴールに向けて真直ぐに歩いてもらうんや。


《真直ぐ、真直ぐ歩くんやで?》


「うん、真直ぐ歩けてると思うんだけど」


 暫く歩かせてたら、シュートは少しずつコースから外れて右へ曲がってった。明らかにゴールの木とは違う方向に向きだした所でストップをかけた。


《よし、もう()えで。止まって、目隠し外してみ?》


 目隠しを外して周囲を見渡したシュートは驚きの声を上げた。


「えぇ!? 何で?何で?目標の木が左の方に見えてる。あの木に向かって真っすぐ歩いてたのに!」


《せやろ?これが人体の不思議っちゅうやつや。真っ黒世界でもシュートは右向きに回ってて、たぶん、(おんな)じ場所をグールグール周回してたんやと思うで。骨折り損な事やってた筈や》


「えぇー!それはちょっと衝撃なんだけど。って言うか、僕は無駄な事をしていたんだって、知りたくなかった気もする」


《僕も意識して右回りとか左回りとかやってみててんけど、たぶん真直ぐ歩けてないわ。僕もシュートと同じ右回りなんかなぁ?“幽体”ではどうも実験でけへんねんなぁ残念な事に》


「分かった。じゃあ、今夜はこれを生かして探索すれば良いね。だいたい、50歩くらい歩いた所で、20歩くらい右にずれてる感じだね」


《じゃあ、僕は今夜は移動せんと座ってようかな。ふたりで移動したらあかん気がする。目ぇ覚めたら(おんな)じところにおって、大声だけ出しとくわ。シュートの声は僕には聞こえんかも知れへんし》


「僕は逆に声は出さずに、脩人の声を聞き逃さないようにするね!」


 今夜の方針が決まったところで、馬車乗り場へ向かった。今日もチアミルに向けて移動するんや。昨日乗ってた乗合馬車はホンマは明日まで乗ってる筈やってんけど、昨日アウルベアに襲われて客車が壊されたから、急遽引き返す事になってもーてん。で、乗客たちは、別な場所から来てチアミルに向かってる他の乗合馬車に分散して乗る事になってんねん。

 宛がわれた馬車に乗り込むと、座席はまだ半分くらいしか埋まってへんかった。


《シュート、この馬車の終着駅の町で連泊してちょっと休めへんか?今夜は野営になんねやろ?けっこう体は疲れるぅ思うねん。それに、ここんとこシュート気ぃ張り詰めてたやろ?》


(うん、そうだねぇ。僕は大丈夫だけど、元々、あちこち観光しながらチアミルに向かおうと思ってたから良いよ。脩人の事があって、そんな気になれなくて移動しかしてなかったからね)


《おっしー。異世界旅、堪能しようぜ!》


(僕には異世界じゃないけどね)


《まぁ、細かい事言うなって》


 程なくして馬車が出発した。乗合馬車が3台連なって走ってる。今回の同乗者は、男ばっかりやな。成人したてっぽい若い男子2人組みと、中年のおっさんが11人。満車や。おっさんらは商人なんかな?荒事には向いて無さそうな風貌や。若者2人は夢で胸を膨らませてキラキラしてる雰囲気や。ちょっと気になって、2人の目の前の床に座って会話を盗み聞きしてみたら、出身の農村を旅立って冒険者になるために、登録の出来るギルドのある町を目指してるらしい。2人ともちゃんとした装備は身に着けてへんし、武器も小さなナイフを腰につけてる程度や。靴は履いてなくて裸足やし、大丈夫か?こいつらクラン制度の事とか知ってるんかいな?騙されたりせーへんか、心配になるなぁ。


 僕はシュートの所に戻って、声をかける。


《シュート、あの若者2人組なんやけど、冒険者になるために出身の村を出て、大きい町目指してるらしいわ。騙されたりせーへんか心配やし、この馬車旅の間にそれとのー声かけて、ちょっと面倒みたってくれへんか?》


(脩人?静かにしていると思ったら、何やってるの!? 会話を盗み聞きとか駄目でしょ?)


《硬い事言うなよー。()えやん。異世界住人の人生の悲喜こもごもをより堪能したいねん!それにな、シュートには僕が()るやろ?ほんで、アテロールへの旅路でスルホンさんに声かけて(もろ)て、色々教え(もろ)て助かったやん?「旅は道づれ、余は情け」「親切は人の為ならず」って言う格言があるんやで?今度はシュートが若者を助けたろーや!》


(はぁ~、分かったよ。様子を窺いながら、必要があれば声をかける。これで良いね?)


《せや、せや。シュートは冒険者の先輩って自覚せーよ?》


 商人のおっさんに声をかけられて会話を始めたシュートから離れて、僕は幌の上に出た。馬車からの景色を堪能する。今は草原の中を貫く街道を走ってる。時々小さな林を抜けてはまた草原になっての繰り返しや。天気は快晴。小鳥の囀りが聞こえてて、めっちゃ長閑やなぁ。

 馬車の周囲を並走してる今回の護衛の冒険者達は、長身、細マッチョな人らばっかりや。背ぇは180cmはありそうや。剣士が2人、槍士、弓士、魔法使いの全部で5人。全員男や。


《今日は魔女っ娘は()らへんのかぁ、つまらんなぁ》


 仰向けになって、空を眺める。快晴の空に所々小さな雲が浮いてて、ゆっくり流れていく。時々、飛んでる鳥とか、街道沿いに植わってる木の梢とかが視界に入っては通り過ぎて行く。植生は日本の物とは明らかに(ちゃ)うくて、異世界情緒堪能や。

 そんな風にのんびりと今夜の野営地まで過ごした。時々、トイレ休憩で止まる以外は馬車は走りっぱなしで、「昼食は各自で馬車の中でどうぞ」ってスタイルやった。冒険者らも走りながら干し肉齧ってはった。

 

 広い野営地に到着した3台の乗合馬車が野営の準備を始めた。荷馬車は周囲を囲む様に配置されて、馬は内側に繋がれた。中心部では大きめの焚火が焚かれて、僕が《キャンプファイヤーやー!》ってはしゃいでたら、シュートに呆れられた。乗客たちはそれぞれにテントを張った。

 未来の冒険者の若者2人はテントを持ってないらしく、乗合馬車の座席に横になって毛布を被って寝るつもりらしい。夕食も、中央のキャンプファイヤーの傍でパンを1つ齧ってるだけや。


《シュート、彼らにフリーズドライのシチューか何か、御馳走しようぜ!》


(うん、分かったよ。ちょっとお湯を沸かすから待ってて)


シュートは手際よくお湯を沸かし、フリーズドライのシチューを準備して若者2人に近づいて行った。


「君たち、夜は冷えるから温かい物をお腹に入れておいた方が良いよ。良ければ、こちらをどうぞ」

「え!? 良いんっすか?」

「すんげぇ旨そうな匂い!でも、僕達お金ないよ!」

「お金は要らないよ。旅は道づれって言葉があるからね」

「あざーっす!じゃあ、遠慮なく」

「ありがとー!」

「火傷しないように、気を付けて食べてね。食べ終わったら食器を返してね」


 若者2人は、ハフハフしながら、時々「うまっ」とか「うめぇ」とか言いながらシチューを平らげてた。良い食べっぷりに感動したのか、シュートは干し肉も追加でお裾分けしてた。

 食事の後、若者2人とシュートは冒険者の話題で盛り上がり、シュートは先輩風を吹かせて、ギルドやクランの制度の事とか魔獣情報とか色んな知識を披露した。ほんで若者2人に「兄貴!」とか「ベテラン冒険者!」とか煽てられてて、満更でもない顔してた。後で揶揄(からか)ったろー。

 

 夜の帳が下りて、乗客たちはそれぞれのテントに入った。


《シュート、じゃあ打ち合わせ通り、僕は動かんとシュートの名前呼んどくから、僕の事探してくれ。あ、でも見つからんでも落ち込むなよ?こっちでこうやって喋れるだけでも十分助かってるんやし》


「うん、分かった。僕は耳を澄ませながら、軌道修正しながら真直ぐに歩く様にするよ」


 その夜、打ち合わせ通りに僕は目覚めた場所で座って、時々シュートの名を叫ぶようにした。

 せやけど、シュートが僕の所に辿り着く事はなかった。



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