35 シュートの中の脩人
本日もよろしくお願いします
ちょっと長くなりました
シュートに届け!脩人の声
相変わらず、僕は真っ黒空間から抜け出せてへんし、シュートと落ち合えへんまま、1週間が経った。
そっちはそっちで頑張るとして、僕はシュートの方でシュートとコミュニケーション取れへんかなぁって頑張ってる。何度も、何度も呼びかけてるんやけどな。一向に通じる気配はないねんなぁ。あ、僕が変な状況になってるせいか、シュートの中に居る僕の状況にもちょっとした変化が起こってんねん。今まではシュートの中に居る僕はシュートとピッタリ重なってて、シュートの視野の範囲でしか物を見る事はでけへんかってんけど、今の僕はシュートから5m位やったら離れる事ができるし、勿論360度好きな方向を見ることができるんや。何や“幽体離脱”してるみたいな状況や。
今日もシュートは乗合馬車で移動してる。
軽く“隠密”かけくさって、誰ともコミュニケーション取らんと、只管思いつめた顔つきで車窓を眺めてんねん。
《怖い、怖い、シュート、顔が怖いぞぉ》
つっこみ入れても、届かへんねんなぁ。
つまらんから、シュートから離れて馬車の幌の上に出てみた。“幽体”やから、幌をすり抜けれるねんで!幌の上に胡坐かいて座る。座ってるポーズとってるけど、実際には幌の上に浮いてるんやけどな。
ガタゴトと馬車は山道を走ってる。今日は薄曇りや。“幽体”みたいな状況やからか、暑さ寒さは感じひん。馬車の周囲は護衛の冒険者たちが小走りで並走してる。あんな装備身に着けて1日中よー走れんなぁ。
リーダーは髭ずらのおっさん。獲物はバトルアックスって言うんかな。刃の厚みは想像してたんよりも薄めで、柄は木製でおっさんの体格に合わせて長めや。あの長さやったら、ポールアックスって言うた方が良えんかな?おっさんは縦にも横にもでかくて、頼もしい限りや。
他は、剣の人と、弓の人と、槍の人と、女性の魔法使い、魔女っ娘やな。
魔女っ子は金髪碧眼で小柄やけど凄い美人で目の保養になるわ。こっちの魔法使いはトンガリ帽子は被らんのやな。
進行方向をぼけーっと眺めてたら、先の山道が右へカーブしてて、先の見通しが悪くなってる所に差し掛かった。右側は切り立った岩の壁、左側は崖になってて、10m位下に川が流れてる。
その時、リーダーのおっさんが何か見つけたみたいで、スピードを落とすように馬車の御者に合図した。
おっさんは馬車よりも先行して偵察に向かって行った。
《何やろ?何も見えへんけどなぁ》
リーダーのおっさんと馬車の距離が20mくらい離れたかなぁ言う時やった。突然右の岩壁の上からおっさん目掛けて茶色っぽい塊が落ちてきた!おっさんは、その巨体に見合わん素早さで避けた。さっきまでおっさんが居った場所に爪を立てて着地したんは、体長2m以上はあろうかと言う熊っぽい魔獣やった。
《何や、頭に鳥の羽が生えてて顔が猛禽類やな。あ、アウルベア違うか!?》
剣士の人が加勢に走った。弓の人は馬車の前に出て弓に矢をつがえて、待機らしい。魔女っ娘は魔法を発動して氷の礫をアウルベアに向けて放ち始めた。でも、あれ、初級魔法やなぁ。あれじゃあアウルベアにはあんま効果ないみたいや。中級がでけへんのか、MP温存してるんかかなぁ?
剣士の人とリーダーのおっさんは連携を取ってアウルベアに攻撃し始めた。お、あのふたりやるなぁ。着実にアウルベアにダメージ入れてってるやん。
意外にも魔女っ娘の氷礫も、傷はつけられへんくても目の前の敵に集中させへんって効果はあるみたいで、冒険者有利の戦闘が続いてる。勝ちが見えてきたな。
そう思ってたのに、突然、馬車の車体が大きく揺れた。
後ろを振り返ると、アウルベアがもう1頭、馬車の後ろから攻撃を仕掛けてきてた。
《番か!?》
車体の後ろの扉が大きく裂けて、そこからアウルベアは馬車の客車内に入ろうとしてる。車内に降りてみると、乗客達は大パニックや。まぁ、当然やな。
ほんで、一番後ろに座ってた行商人風の男がアウルベアに噛みつかれて、車外に引きずり出されて行った。
「ぎゃあーーー!!た、助けてぇー!」
それを見て、シュートが車外に走り出た。
《よし、行け!シュート。やってまえ!》
僕もシュートの後を追って、車外に出た。
シュートは高威力『土槍』を形成して、アウルベアに放った。見事に命中して、アウルベアが苦悶の叫び声を上げる。
「ギュアワァ~~~!!」
せやけど皮の耐性が強いんか、浅い傷が付いただけやった。でもお陰で、噛みつかれてた男を放させる事ができた。シュートは急いで『引寄』で男を救出する事に成功した。男を抱えて『移動』で馬車まで戻って車内にいる人達に託し、また車外に出る。怒り狂ったアウルベアを相手にする為や。
《シュート!気ぃ付けろよ!アウルベアはたぶん、人の心を読むぞ!》
シュートは剣を抜いて構えておいて、高威力『土槍』を5つ同時発動をした。時間差をつけて次々発射する。その『土槍』に紛れるように、アウルベア向けて吶喊する。剣にはシュートの魔力を纏わせて、斬撃力を上げてる。
「はぁーーーっ!」
《行ったれぇーーー!!シューーートォーーー!!》
アウルベアは『土槍』に翻弄されながらも、シュートの接近に気づいて、シュートを引き裂いてやろうとばかりに鋭い爪を振り下ろしてきた!けど、その場にシュートはおれへんかった。『移動で』アウルベアの真上2m位の場所にワープしたシュートは、剣を真下のアウルベアに向けて、位置エネルギーを利用した刺突をかました!
「はっあ!」
《やった!》
と思ってんけど、ちょっと狙いが外れてシュートの剣はアウルベアの右肩に吸い込まれる。根本まで刺さった剣は、アウルベアの筋肉に捕らえられて抜けへんくなってもーた。アウルベアの肩に足を掛けて剣を必死で抜こうとしているシュートにアウルベアの左手の爪が襲い掛かる!
シュートが危ない!と思った瞬間、僕は思いっきり叫んでた。
《シュートォ!!危ない!避けろぉ!!》
寸での所で、シュートは『移動』でアウルベアから離れた。剣はアウルベアの肩に刺さったままや。
《ふぅ~、危ないとこやった!》
まだまだ戦闘は続いててアウルベアに集中せなあかん場面やのに、シュートは周囲を見渡して何かを探すようなそぶりをしてる。
《シュート、何してんねん。目の前の敵に集中せな!》
シュートは「はっ」として、『収納』の中から出した予備の剣を構えた。
そこへ、最初のアウルベアを討伐し終わった冒険者達が加勢にきてくれて、何とか2頭目のアウルベアの討伐も終える事ができた。
《シュート、討伐成功!おめでとうさん!》
「脩人?君、そこにいるの?」
《え!? シュート、僕の声が聞こえるんか?》
「聞こえるよ!脩人!聞こえる!」
《あ、シュート。黙った方が良えわ。一人で空中に向かって喋ってるおかしな人になってるで》
「あ!あはは、何でもありません。アウルベアを倒せて、僕ちょっと興奮したみたいです」
シュートは不思議そうに自分を見ていた冒険者達に気づいて、慌てて笑いながらごまかす。ごまかされてくれたかな?
《シュート、心の中で思うだけで僕と喋れるかやってみてくれ》
(脩人、聞こえる?)
《おお!聞こえるわ。やった!僕何回も話しかけててんで!ずーっと全然通じんかったのに、何で今になって急に通じたんやろ?いつから聞こえてた?》
(アウルベアの右肩に刺さった剣を抜こうとしてた時に、「危ない!避けろ」ってところから)
《危ないっ思て、必死で叫んだんや。必死さが足りひんかったんかぁ》
まだまだ聞きたい事とか話したい事とか仰山あってんけど、シュートが冒険者達に話しかけられたから、中断した。
アウルベアからシュートの剣を回収して返してくれてん。で、冒険者なんか?とかどこかのクランに所属してるんか?とか色々聞かれてた。
2頭のアウルベアは冒険者の持ってる無限収納袋に回収して、馬車は出発した。馬車は後ろの壁は壊されたけど、車輪には影響なかったみたいで問題なく走れた。
戦闘でシュートの『隠密』は解けてたみたいで、車内でも他の乗客にひっきりなしに労いの言葉や、感謝の言葉をかけられて、その後も質問攻めにあって、目的地に到着するまで会話が途切れる事はなかった。
アウルベアに噛まれた男は深い傷を負ってたんやけど、冒険者達の持ってたポーションで応急処置を施されて、命の別状がない位になってる。意識もちゃんとしてて、シュートは何度も感謝の言葉をかけられた。町に着いたらちゃんとした医者に治療して貰うみたいや。
到着した町は村?って言うても良え位の小さな町やった。え?ここちゃんとした医者居おるんかいな?商人のおっちゃん、大丈夫か?
シュートが馬車を降りると、護衛の冒険者たちが声をかけてきた。アウルベアの買い取り金の分け前をシュートにもくれるって。この町には冒険者ギルドが無いから、町長にアウルベアを買い取りに出すんやって連れて行かれた。町長に言うても直接やのーて、町役場みたな所の職員に交渉するんやけどな。ほんで2頭目のアウルベアだけを売って、貰ったお金の一部をシュートにも渡してくれたんや。律義な冒険者やなぁ。止め刺したんは2頭とも冒険者達やねんから、「俺らのもん」や言うてもおかしいぃない状況やったのにな。1頭目の方は、自分らで解体して素材にしてから、冒険者ギルドのある町で買い取りに出すんやって。
お金は大銀貨2枚も貰えた。アウルベアって高いんやな。で、町に1軒しかない宿に部屋を取って、漸く僕らは落ち着いて話をする時間を持てたんや。
《シュート、心配かけたな。真っ黒世界でびっくりしたやろ?》
「ほんとに、心配したよ。脩人は死んでいないって信じて探し続けたけど、正直、心の片隅ではダメなんじゃないかって、ちょっと挫けそうにもなってたんだ」
《僕も何であないな変な事になってるんか良ぉ分からんのやけど、たぶん脳挫傷で意識が戻らん状況なんやと思うで》
「意識が戻らないって、そんな軽く言わないでよ!大変な事じゃないか!玲子の一味にやられたんでしょ!? あいつら、許せない!」
《たぶん、そうやな。あないな暴挙に出るとは思わんかったわ。車のナンバープレートの文字、覚えてるか?あれがあれば、意識戻った時に警察に通報できるんやけど?僕、事故の前後の記憶が飛んでもーて思い出されへんねん》
「あ、これだね。紙に書いておいたんだけど、読める?」
“木口 呆 300 ∋ 08‐93”
《う~ん、象形文字みたいになってるなぁ・・・和泉300の・・∋ってなんやろな?あと08‐93か。まぁ、これだけでもかなり助かるわ》
「脩人の意識は戻りそう?」
《こればっかりは分からんわ。僕も真っ黒空間に居って、ひたすら彷徨い歩いてんねん》
「僕も脩人の事、探してるんだよ!」
《ああ!それ、それ。
それな、たぶんやけど、僕ら同じ場所をグルグル回ってるだけで先に進めてないと思うで》
「え?何、それ?何で?」
《人間って、目標物が無いと真直ぐに歩かれへんくなるねん。
せや!明日、広い場所に出て、目ぇ瞑って真直ぐ歩く実験しようぜ。どっち周りになりやすいんか分かれば、修正する方法が分かるし。ほしたら、真っ黒世界でも落ち合えるかも知れへん》
「うん!分かった。じゃあ、今夜は無駄に歩かずにいる方が良いかな?」
《まぁ好きにせーや。歩いても疲れるって事ないんやろ?疲れるんやったら無理せん方が良えけど》
「夢の中で歩いても疲れないね。じゃあ、座ってても暇なだけだし、一応探してみるよ」
その後シュートは僕と心の中で会話しながら宿の食堂で夕食を取って、剣の整備と体の清拭をして眠りについた。
真っ黒世界で、僕もシュートも歩き回ったけど、やっぱり落ち合う事はでけへんかった。




