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33 シュート

本日もよろしくお願いします

 何もない、空間だった。

 僕はぼんやりと辺りを見渡す。

 何もない。

 本当に、何もない。

 ただの、真っ黒な空間。


 真っ黒。そう真っ暗じゃない。

 ちゃんと空間が広がってるのは見えているんだ。

 上空はかなり高い位置まで天井が無いと言う事も分かる。

 真っ黒だから、よく分からないけど。


「すいませーーーん!」


 叫んでみたけど、応えは無い。

 真っ黒な空間に僕の声は吸い込まれて行き、反響することもなかった。


「脩ーー人ーーーっ!!」


 もう一度叫んでみる。

 相変わらず、応えは無い。

 でも、この空間のどこかに脩人がいる筈だ。

 だって、僕はさっき眠りについたんだもの。

 と言う事は、ここは僕の夢の中、脩人の世界の筈。


 脩人を探さなきゃ!

 僕は適当に歩き始めた。

 行けども、行けども、真っ黒な空間が続く。

 

「脩人ーーー!」


 時々、脩人を呼びながら歩く。


 体感で1時間くらいは歩いただろか?

 相変わらず、真っ黒な空間に僕はいる。

 脩人が見つからない事に、だんだん焦ってくる。

 焦る気持ちが、歩く速さを速めていく。

 いつしか僕は走り始めていた。


「脩人ーーー!」


 真っ黒の世界を、僕は必死になって叫びながら走り続けた。


「脩人ーーー!」

「脩人ーーー!」

「脩人ーーー!」

「脩人ーーー!」

「脩人ーーー!」

「脩人ーーー!」


 死に物狂いで走る。

 半狂乱になって、叫ぶ。

 それでも、あるのは真っ黒な空間だけで、脩人は見つからない。

 脩人。

 君はどこにいるの?




▲▽▲▽▲▽


 「脩人ーーー!」


 僕はまたしても、自分の叫び声で目を覚ました。

 宿のベッドの上だった。


「はぁ~」


 結局、夢の中で脩人は見つからなかった。

 脩人は死んでしまったのだろうか?

 それとも、意識が戻らないだけなんだろうか?


 分からない。

 分からない事が口惜しい。

 確かめる術がないのが口惜しい。


 僕は魔術が使える事で最近、自惚れていた。

 何でもできる気になっていた。

 思い上がりも甚だしい。

 こんな脩人の危機に何も手助けができないなんて!


 僕にできるのは、日々を確かに過ごして行く事だけ。

 魔道具技師になる道を弛まず歩き続ける事だけ。


 はぁ。

 辛い。


 観光する気など起こるはずもなく、今日も乗合馬車に乗って移動する。

 馬車の車窓の外を見つめる僕の眼には、景色は映っていない。

 ひたすら、あの瞬間の映像が繰り返されている。

 目が覚める直前の映像。

 脩人の後ろから迫る音と影。

 空中に投げ出される。

 回転する周囲の景色。

 そして、地面に叩きつけられた。

 顔面の出血が右目に入って、瞑っていた。

 左目で見た、走り去る黒い箱の乗り物と脩人の乗り物。

 そして暗転。

 

 脩人、君は生きているの?

 無事な姿を確かめたい。

 夜が待ち遠しい。


 



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