30 シュート②
「真下からだ!」
僕の『索敵』が真下から急速に迫ってくる巨大な魔獣を感知したのと『索敵』能力持ちの他の冒険者が叫んだのは同時だった。
次の瞬間、ドッバァーン!!という轟音とともに海が盛り上がり、僕たちの船は散り散りに吹き飛ばされたのだった!
僕は振り落とされないように、必死で船の柵にしがみついた。
揺れが落ち着いてきたので周囲を確認すると、1艘が転覆して冒険者と漁師が海に投げ出されている。彼らを助けるために急いで船を回すが、しかし魔海獣に飲み込まれてしまった者もいる様だ。
今までこんな突撃を仕掛けてきたことなんて無いのに何で!?
救出作業の間、僕は『索敵』で魔海獣の動向に注視する。奴は今、少し深い位置を潜りながら僕たちの船の周囲を旋回している。ちらりと確認できた姿からシーサーペントだと推察する。
シーサーペントは細長く巨大な体を持つ魔海獣だ。水上から体を高くもたげさせると頭が一般的な帆船のメイントップの上までのびるほどだ。長い首を持ち、するどく長い牙は口の中に納まりきっていない。鰭はとても幅広い。体は鱗で覆われる。全長は帆船よりも長い。
攻撃は海水の噴射、長い体で巻き付き締め付けることによる物理攻撃、噛みつき攻撃などだ。体表を覆う鱗は魔術耐性が非常に高く、また物理攻撃にも強い。討伐方法は物理で少しずつ鱗を剥がしておいて、できた隙間から魔術を叩き込む。
以前調べておいたシーサーペントの情報を素早く思い出した僕は、ミスリル製の銛を『収納』から取り出した。このシーサーペントの攻撃の様子では、ちまちま鱗を剥がす攻撃をしている余裕は無さそうだ。鱗に覆われていない眼を狙うか、噛みつき行動の瞬間に口の中を狙うか、絶好の機会を逃さないようにしっかりと構える。
僕たちの船が一か所に集まるのを待っていたかの様に、シーサーペントが再び向かって来るのを『索敵』が感知した。
「来るぞ!」
「いつも通りにやれ!」
「おう!」
『索敵』持ちの冒険者は無事だった様だ。また注意喚起の声を上げる。トニンも指示を出し、冒険者たちが呼応する。シーサーペントが僕たちの船団に突っ込んでくる直前、水系統の魔術の得意な冒険者達が連携して、海水を操作して船を左右に散らした。すると、船と船の間にできた空間をシーサーペントが口を開けながら物凄い速さで通り過ぎた。
(あれ、噛みつき攻撃か!怖っ!)
ジワリと冷たい汗が、僕の背中を流れた。
あれ、殺れるのか?
気が付くと、僕の手足は震えていた。
指先が冷たい。
思考力も低下した様で頭が鈍い。
通り過ぎて行ったシーサーペントは少し潜ってまた僕たちの船の周りを周回し始めた。
そして繰り返し突撃と噛みつき攻撃で襲って来る。時々、噛みつくと見せかけて、海水を噴射してくる事もある。
その度に、『索敵』持ちの冒険者と水系統の魔術師が連携して攻撃を躱す。
僕は船から落ちないように柵にしがみ付いてる事しかできない。他の冒険者はシーサーペントが通り過ぎる瞬間に銛を打ち込んで攻撃している。1回の攻撃では奴の鱗は剥がれない。皆で息を合わせて、同じ場所を狙うようにしている様だ。
(流石、海の冒険者達だ。全然心が折れてないし、全員が自分のやるべき事を理解して動いている)
彼らを見ているうちに、だんだん冷静さを取り戻してきた僕は、僕のできることを考える。
あの速度で通り過ぎられると、銛で眼を狙うなんて不可能に近い。口の中を攻撃をするには、奴の真正面に立たないといけないが、そんなのは無理だ。
なら、どうしたら良いのか?
シーサーペントと冒険者の攻防を観察しながら考える。こう言う時に頼りになるのは脩人だ。
脩人の生活を思い出す。
鉄の塊に乗って移動する脩人。
野営。
釣り、餌を付けた仕掛けを魚に食わせて吊り上げていた。
バドミ何とか言う遊び、羽の付いた球を打ち合っていた。
テーレビとか言う箱の動く絵、ボールを投げあったり、棒で打ったり、蹴ったり、色んな競技があると感心した。
よし、これだ!
僕は『収納』から攻撃魔術の円環術式を仕込んだ紙製の魔道具を出した。この使い切りの魔道具はたくさん持っているが、その中でも火系統の攻撃魔術を仕込んだ物だけを選んだ。次に、「指定した時間が経ったら、1枚目の紙に魔力を供給する」と言う円環術式を仕込んだ紙製の魔道具も出す。
10枚の『魔力供給』の紙を芯にして、これに巻き付けるように攻撃魔術の紙を丸めて固めていく。『付着』の魔術で剥がれないようにくっつけた。攻撃魔術の魔道具は50枚ほどあった。
揺れ乱れる船上で、魔道具を1枚も落とさないように、慎重に作業した。
そうして固めた物は、乳児の頭位の大きさの球になった。『魔力供給』の設定時間は20秒になっている。これを奴の口の中に放り込むんだ。
シーサーペントは突進からの噛みつき攻撃や海水の噴射攻撃を何度も躱されて熱り立ったのか、海面から鎌首を持ち上げて、上から噛みつく攻撃に変えてきた。長い尾を振り回しての攻撃も加わる。
僕はシーサーペントの攻撃をよく観察する。
「うわぁっ~!!!!」
「大丈夫かー!?」
また1艘がシーサーペントにやられて沈められた。
もうこれ以上待てない!
次の攻撃で行く!
シーサーペントがまた上から噛みつき攻撃をしかけてきた。真直ぐに僕の乗る船を狙って突っ込んでくる。
僕は『魔力供給』の魔道具に魔力を流した。
水魔術の使い手がシーサーペントの攻撃が届く直前に船を移動させる。
僕はさっきまで僕たちの船がいた場所に魔道具を投げ入れた。
シーサーペンは僕たちのいなくなった空間に噛みついて、魔道具もろとも空気と海水を飲み込んだ。
噛みついた勢いのまま一旦海に潜り込んだシーサーペントが直ぐに浮き上がって来て、また鎌首を海面から持ち上げた。
その瞬間、「ドゥオンッ!」とくぐもった様な破裂音と同時にシーサーペント喉が一瞬膨らんで萎んだ後、シーサーペントの動きが止まった。
一瞬後、シーサーペントの巨体がゆっくりと海に沈みこんで行く。
僕は慌てて銛にロープが付いた物をシーサーペントの眼に向かって投げた。ミスリルの銛には僕の魔力が馴染ませてある。的を外れそうになった銛を『引寄』を使って操作して眼に命中させた。
それを見て他の冒険者達も次々にロープ付の銛を打ち込んだ。眼や何度も攻撃したことで傷ついていた鱗の隙間とかに命中させていく。3艘の船で何とかシーサーペントを沈めることなく保持する事ができた。
「何か分からんが死んでるなぁ。何でだ?」
「シュート坊が何かをシーサーペントに食わせてたなぁ」
「シーサーペントの中で破裂してたな。シュート坊、あれ何だったんだ?」
「僕が作った魔道具です。使い捨ての攻撃魔術道具の紙をたくさん丸めたんですよ」
「食ってから発動するまでの時間がおかしくなかったか?あんな時間差で発動するやつなんてあったっけ?」
「秘密です」
「なんだよぉケチくせぇーなぁ」
「無登録の僕が作った魔道具なので、明かすことができないんですよ」
「ちっ。そう言う事か。なら、仕方がねぇな。おしっ救助活動をやって、港に戻るぞ!」
「おう!」
結局、1人の漁師と2人の冒険者が犠牲になった。僕が魔海獣の素材を欲しがったから出た犠牲だ。少なくない犠牲に僕が暗い顔をしていたら、トニンが気にするなと言う。
「海の男達は常に覚悟を決めてんだ。何なら、最期は布団の上じゃなく海が良いとすら考えていやがんだよ」
「そうだぜ!それにシーサーペントの巨体の解体は大変な作業だ。落ち込んでる間なんて無いぜ!」
「久々のシーサーペントの水揚げだ。他所の町からも素材を狙って商人が沢山押し寄せるしよぉ。これから1週間、港はお祭り騒ぎになるぜ!」
気休めを言っているだけかも知れないけど、僕の知らない港の冒険者達の人生に興味をひかれた事で暗い気持ちが持ち上がったのも事実だった。




