26 シュート
本日も宜しくお願いします
スルホンさんと商談
目が覚めたら、ずいぶん日が高い。
もう昼頃かな?よく寝たー!
ここ数日、大量討伐と大量解体作業が続いたから疲れていたみたい。今日は特に用事もないのでのんびり過ごせるよ。日課の鍛練はやるけどね。
ああ、明日の商談の為に、“乾燥携帯食”の整理と、値段表も準備しておかないと。まぁ、直ぐに終わるけどね。
脩人の方は遅くまで、作戦会議していたね。ベンゴシさんて、文官なのかな?犯罪の専門家なんだね。でも、一筋縄では行かない様子。何とか相手にギャフンと言わせなきゃ。
頑張れ!脩人!
1日のんびり過ごした僕だけど、明日に備えて、日が暮れて直ぐに休んだ。
▲▽▲▽▲▽
おはよう!さて、今日はスルホンさんと商業ギルドで会う約束の日だ。昨日早く寝た分、今朝は早起きしたよ。
日課の鍛練をやって、お風呂と朝食を済ませた後、商談に適したちゃんとした服装を纏った。
「よしっ」
久しぶりに髪の毛も整えた。鏡でおかしなところが無いか最終確認をして、家を出た。汗をかきたくないから、『移動』を連続発動して中心街近くまで行った。町の人達をびっくりさせない様に、建物の屋根の上を移動して、最後は路地裏に降りた。そこから商業ギルドはもう目と鼻の先だ。服の乱れが無いか確認してから路地を出て、商業ギルドへ向かった。
「いらっしゃいませ、シュート様。お待ちしておりました」
「こんにちは。今日はお世話になります」
「こちらこそ、宜しくお願いいたします。スルホン様は既におみえになっていまして、会議室にてお待ちです」
「あ、そうですか。お待たせしてしまいましたか?」
「いえ、5分ほど前にお見えになったばかりですし、お約束の時間もまだですから、大丈夫ですよ。では、会議室にご案内させて頂きますね。こちらへどうぞ」
「はい。ありがとうございます」
会議室に入ると、スルホンさんともう1人、僕よりも少し年上と思われる若い男性が、ソファーから立ち上がって僕を出迎えてくれた。
「お久しぶりです。スルホンさん!」
「シュートさん、ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです。これは私の息子です。お見知りおきを」
「初めまして。フィル スルホンと申します。私はここアテロールで雑貨店を営んでおります」
「初めまして。シュートと申します。宜しくお願いいたします。アテロールでお店をされていらっしゃるんですね」
「ええ、これの上にもう一人息子がおりましてな。それにはカルボに店を構えさせております。それで私はカルボとアテロールを年に4往復しているんですよ」
「息子さんがお2人もいらっしゃって、心強いですね」
「いやいや、甘やかして育ててしまいましてな。まだまだ私が目を光らせておかないと、とんでもない失敗をやらかしそうでハラハラしておりますよ」
「親父、そんな内輪の話はよせよ。商談をしにきたんだろ?時間制限もあるんだぜ」
「ああ!そうだね。まずは座りましょう。フィン、シュート君にお茶を」
「はい」
お茶は部屋の隅に準備されてある茶器で自分達で入れる様になっている様だ。
「あ、恐れ入ります。ありがとうございます」
お茶で口を湿らせたら、早速、“乾燥携帯食”の話になった。
スルホン曰く、どこで出しても直ぐに売れて、前回僕が売った分も既に完売しているので、追加購入したいとのことだった。
そして、最近、似たような商品を売り出した者がおり、僕の“乾燥携帯食”を真似て作った様だとの事。
「しかし、味や風味が全く異なります。シュートさんの物は作りたての様な風味もありますし、味付けも非常に良い。片や、類似品は数段も落ちますし、少し重い。水分が抜ききれていないのか、長期保存しますと腐る様です。製法に秘訣があるのでしょうな?」
「ええ、僕の独自製法です。ところで、最初にお売りした分は商品を知って頂くためにお安くしましたが、次からは2倍の値段にしたいのですが、いかがですか?」
「ふむ・・・2倍ですか。確かに、あの“乾燥携帯食”にはそれだけの価値があります。冒険者の方々は荷物をできるだけ軽くしたい。荷物の重量は行動する速さと時間に直結しますからな。なので、味や量を犠牲にして、日持ちと軽量を優先して携帯する食料を選んでいました。しかし、シュートさんの“乾燥携帯食”なら沢山持って行けます。そして美味しい食事は活力源になります。あれは軽くて美味しいですからね。しかし値段が高くなると、稼ぎの良い冒険者にしか買えなくなりそうですなぁ」
「値段を上げることを否定しないんですね?」
「開発にはずいぶんと時間と労力がかかったでしょう?それに見合った価格をつけるのは当然ですよ」
「ありがとうございます。そんなに評価して下さって嬉しいです」
(うん、誠実に僕を評価してくれる感じ。信用して大丈夫そうだね)
「ところで、今日は相談があります。僕は以前お話しした通り、魔道具技師になる事を目指しています。ですから、“乾燥携帯食”作りにばかりかまけていられません。そこで製造を委託したいと考えています。スルホンさんは興味おありですか?」
「え!? 製法を公開すると?」
「誰にでも公開する訳ではありません。委託先にも製法の秘匿は厳重にお願いしたいです。例えば、“共同経営”みたいな形にするとか、あるいは10年間、この製法で作った“乾燥携帯食”の利益の何割かを“製法使用料”と言う形で僕にお支払頂くとか、色々な方法があるかと思いますが、いかがですか?」
「なるほど。“共同経営”にすれば、利益の取り分は半分になりますが、素晴らしい発想力をお持ちのシュートさんの事です。また次々に新商品を開発して下さりそうですから、息長く儲けさせて頂けそうです。また、“製法使用料”をシュートさんに支払う方法の場合は、こちらの得る利益が多くなるでしょうし、支払い期間が終われば製法は自分の物にできる訳ですな。10年にするかどうかは交渉次第でしょうが。但し、新しい開発商品に携われるかどうかは保証がない」
「まぁ、そう言う事ですね。僕はこの後、魔道具技師になるために王都に向かう事になります。魔道具技師の登録ができた後は、王都かその周辺で腰を据える事になると思いますので、“製法使用料”の方法にした方が、多少取り分が減るとしても、僕もアテロールに縛られる事なく自由にできる利点があります」
「もしくは、“共同経営”の形で私共が王都方面にも支店を出してシュートさんを逃がさない様にするかですね」
「そんな賭けに出ても良いのですか?」
「商売人には勝負に打って出なきゃいけない時があるのですよ。それに勝機は十分ありますからね」
「ちょっと買い被りな気もしますが・・・でも、今まで独りでしたから、経営面を支えてくれる仲間ができるのは嬉しいです。特に僕は商売に関しては素人ですから、騙されない様に気を配る必要がなくなるのは嬉しいですね」
「我々がシュートさんを騙すとは考えないのですか?」
「実は、先ほど価格を2倍にと言ったのは、スルホンさんの反応を見るためだったのです。スルホンさんは、安く買い叩く為に説得にかかるのではなく、価値に見合った価格をつけるのは当然だと仰って下さいました。信頼できる方だと思います。試すような事をして申し訳ありません」
「そうでしたか、信頼していただけて商人冥利につきます。ただ、私にも下心あっての事ですよ?シュートさんの魔道具には非常に興味がありましてな。何とか商人として関われないかとの狙いがあって、おべっかを言ってるに過ぎないのですよ」
「商人として正しい姿だと思いますよ。技術を掠め取ろうとするのではなく、商売で利益を得ようとしてらっしゃる」
「ははは。そこまで言われては裏切れませんな。シュートさん、この件は私も具体化するには少々時間が必要です。契約形態や利益予測、支店を出すとしてその時期など、資料や計画を準備して参ります。1週間後にもう一度お話しさせて下さい」
「分かりました。契約の時は、商業ギルドの公証人を立てる事と、契約書に魔術契約書を使用する事を考えていますが、宜しいですか?」
「勿論でございます。是非にそうなさって下さい。次回もここの会議室で宜しいですか?」
「はい。この後、予約して帰りましょう。スルホンさんのお店の場所を教えてください。僕はこの町で借家を借りているのですが、ここに住所を書いておきました」
僕はスルホンさんと連絡先交換をした。
そして、先日から作り溜めていた“乾燥携帯食”をスルホンさんに前回と同じ価格で販売して、今日の商談は終了した。
さて、1週間を何して過ごそうかな。
新しい魔道具の開発案を




