2 シュート①
本日も宜しくお願いします
シュートは頑張ります
“夢の中の自分”が他人には無い、自分だけの現象だと気づいてしばらくは、これは完全に僕の空想の世界なんだと思っていた。だから、動く絵本でも読んでるつもりで楽しんでいた。起きてから、思い出し笑いとかしていたら、気味悪がられてしまったんだけどね。
でも今では本当にある別な世界の“現実”だと理解してる。ホントに不思議なのだが、“夢の中の自分”の知識(魔術)や経験がこちらで活かせるし、また反対も然別なのだ。どちらも現実なのだと思うしかない。
それと、こっちの僕が眠りにつくと向こうの僕が目を覚ます。向こうの僕が眠りにつくとこっちの僕が目を覚ますのだ。
不思議なことに、昼寝しても夢は見ない。また、一方が夜更かししたり早起きしたりしても、もう一方の時間が短くなったりはしない。
それから夢の中では、僕は脩人の中に居るのだけど、脩人の視界を通して眺めているだけで、思考は別なんだよね。脩人とお喋べりなんてできないし、体を動かしたりもできないよ。喋べる事はできないけど、脩人が頭の中で考えている事は、聞こえているんだ。だから、僕は脩人の世界の言葉は読めないし、聞き取れないけど、脩人が理解した内容を同時に理解しているんだ。まぁカガクギジュツの話になると、難しくて理解が追い付かないって時はあるけどね。
面白いのは、脩人の視界の範囲内だったら、脩人と違う物を見る事ができる。例えば、脩人が正面に居る人を見てる時に、僕は背景の壁の模様を眺めているとか、そんな事ができる。だから、脩人がコウコウって学院で勉強している時は、難し過ぎてよく分からないからボーッと考え事をしたりしてるよ。
僕は最近、脩人の世界の知識と僕の世界の魔術や錬金術などを利用すれば凄い魔道具が発明が出来るのでは無いかと気がついた。だから僕は魔道具技師になろうと思う。
魔道具を作るのにはまず、魔術をしっかり身につける必要がある。そして何より、魔道具に組み込む円環術式の勉強が必要だ。これは難しいので本腰を入れて頑張らなきゃいけない。
他に、魔道具作りには必須の『付与』や『付着』『鉱物加工』『解析』『鑑定』『索敵』などの特殊な魔術も覚える必要がある。
魔道具を作るに当たって、世間に必要とされる物とは何か?需要を調べる必要がある。
手始めに、魔道具がどこで使用されていて、どんな物があるのか調べるために、館内を歩いてみる事にした。
それから、みんなが普段、何に困っているか聞いてみるのも良いかも。困り事を僕の魔道具で解決してあげたら、皆、僕の事を見直すかもしれないしね!
部屋を出て廊下を歩いていると、向こうから執事のウォルターがやってきた。
「ウォルター、何か困り事はない?」
「お坊っちゃま、私は有能ですから、何の問題も抱えておりません。仮に私に困り事があったとして、お坊っちゃまに解決できる筈もないではないですか。そのような無駄な事をお考えになっている暇があるのでしたら、兄上様方を見習って剣の鍛錬でもなさいませ」
質問の仕方と相手を間違えたらしい。
キビキビと歩き去っていくウォルターを見送って、僕は階段を降りた。
1階に降りていくと、玄関ホールを掃除する下働き達が見えた。
その傍らに彼女らの仕事を監督している侍女のターニャがいる。
「ターニャ、何か「こんなのあったら良いな」って魔道具、思い付かない?」
「お坊っちゃま、お坊っちゃまが私に面倒をかけないようにする道具があれば欲しいですわ」
また質問の仕方と相手を間違えたらしい。
ぷいっと顔を背けたターニャの横を通りすぎて、厨房の方へ向かってみた。
昼食が終わってしばらく経っているせいか、今は下働きのもの達が数人、掃除や洗い物をしているだけで料理人の姿は見えなかった。
厨房にはいくつかの魔道具がある。
室内に明かりを灯す魔道具、調理をするための炎を出す竈の魔道具、水を出す樽の魔道具だ。
厨房に入って、魔道具をひとつひとつ観察してみることにした。
壁に取り付けられている灯りの魔道具は魔石を入れると明かりが灯る。照らすことのできる範囲が狭いのか、たくさん設置されている。だいたい5歩位の間隔で付いている。僕の部屋や家族が食事をする食堂も同じ様な感じだ。脩人の世界の灯りはもっと明るかったし、一部屋にこんなにたくさん付いていなかった筈。何が違うのだろう?
次に竈を見てみる。上部に炎を出す穴が開いていて、ここに鍋を乗せて調理するようだ。燃料は魔石だ。火力はどれくらいだろう?火加減を調節するのはどうやるんだろう?
最後に水を出す魔道具を見てみる。樽の様な物に蛇口が付いている。水を生成する魔道具が常に樽に水を満たしている。蛇口を捻ると樽に溜まった水が出てくると言う仕組みの様だ。これも魔石の力で働いている。魔石は高価だ。そのため、洗い物に使う水は井戸から汲んでくる物を使っている様だ。
そうやって色々と観察していると、厨房に料理人がやってきた。夕食の下拵えをやりに来たらしい、下っぱの若い料理人だ。
彼は僕の存在に気づいて一瞬ビクッとなったあと、恐る恐る近づいてきた。
「お坊っちゃま、あの、何かありやしたかい?」
彼はまだ僕が味噌っかす扱いされているのを知らない様だ。
「ちょっと質問して良い?」
「へ、へい。何でがしょう?」
「魔道具の事を聞きたいんだ」
「魔道具っすか?あっしは、あまり詳しい事は分からんのですが、それで良ければ」
「うん、あのね、まず炎を出す魔道具の事なんだけど、火の威力ってどれくらい?それと火力の調節ってできるの?」
「へい、火力は料理するのに十分な威力がありますぜ。薪の火で料理するのと変わりやせん。火力の調節は薪の火と同じでがす。鍋を火から遠ざけたり近づけたりするんでがす」
「調理に薪も使うの?」
「へい、魔石は高価っすから、辺境伯ご一家の食事の準備には使いやすが、あっしら勤め人の食事の準備には使用を禁じられているんでがす」
「じゃあ、水を出す魔道具も?」
「へい、そうでがす。あれは辺境伯ご一家の食事やお飲み物にだけしか使いやせん」
「じゃあ、平民のお家でも当然、薪で火をおこして、水は井戸から汲んでくるの?」
「へい、そうでがす」
「ありがとう。よく分かったよ」
「へぇ、それはよござんした。では、あっしは仕事がありやすんで」
軽く頭を下げてから自分の仕事に取りかかる若い料理人に背を向けて厨房から出た。
次に、井戸へ向かってみた。
井戸をじっくりと観察するのは僕自身は初めてだけど、脩人の時によく見て知っている。上部に取り付けた滑車に通した綱と、綱の両端に付いている桶と言う構造だ。これで水を汲み上げるのは重労働だった筈だ。試しに綱を引いてみたが、水のたっぷり入った桶と言うものは非常に重く、手が痛くなって途中で綱を放してしまった。掌が真っ赤になった。
魔術の訓練に『身体強化』を加えなきゃな。
それと、脩人の知識を使えば、もっと楽に水汲みができるんじゃないかな?
次に館を出て、町へ行ってみる。
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長くなったので、ふたつに分けました




