18 シュート
本日も宜しくお願いします
引っ越しして、新しい生活の始まりってわくわくしますよね
新しい僕の家での、初めての目覚めは最高だった。
昨日は寝室に置いてあった古い寝台に、買ってきた新しい寝具を設置して、更に夜営でも使ってた毛皮を敷き詰めて、寝心地の良い寝床を用意したよ。調理場兼食堂に暖炉があるので、薪を手に入れてきて、火を入れた。浴室で汗を流してさっぱりした後、暖炉の火を眺めながら『収納』にたっぷり入っている食事を食べて、さっさと寝床に入って寝たんだ。気持ち良くぐっすり眠れたよ。
脩人の生活の中で、不思議に思う事があった。脩人が盗賊を捕まえた件で、感謝状を貰っていた。でも、お金は貰えないみたい。あの立派な紙に何の意味があるんだろう?仕事に有利になるのかな?報奨金が出ないなんて、脩人の町の領主はケチ臭いね。
優人君には、次の戦闘時の共闘を申し込まれてたね。仲間って良いな。憧れちゃうよ。僕にも信頼して背中を預けられる仲間ができるかな?基本的に独りで活動しているから、難しいかもね。クランに入れば、もちろん仲間はできるだろうけど、僕は冒険者をずっとやっていく訳じゃないからね。魔道具技師になるためには王都に行かなくてはならない。短期間だけクランに入るなんて無責任な事できないよ。
美人の玲子さんとも仲良くなってたね。脩人は玲子さんにちょっと気があるみたい。玲子さんをめぐっては、優人君は敵だね。脩人、頑張れ!僕は応援しかできないけど、見守ってるからね。
それから、脩人が魔道具の提案を色々出してくれた。馬で移動する人や、馬車の御者とか、1日中風に当たる仕事をしている人に、『加温』を付与した服、ズボン、帽子、襟巻き、靴の中敷きとかが喜ばれるんじゃないかって。同感だね。僕も『加温』を付与した外套にとっても助けられているもの。また、逆の夏用の付与品も考えたいね。
取り敢えず、今日は昼過ぎまでのんびり過ごした後、生活に必要な物の買い出しと、ご近所への挨拶がてら、町の探検をしようかと思っている。
時間があれば、冒険者ギルドに行って、こちらで狩れるソルジャーアント、マンティス、ハニービーなどの昆虫系魔獣とリザードマンとかの素材について、何が採れるのか、何に利用されてるのか、推奨されている討伐方法とかの情報を集めようと思う。
商業ギルドに行くのは明日以降かな。“乾燥携帯食”についての相談と、それから、スルホンさんがアテロールに到着したら、たぶん商業ギルドに寄る筈だから、連絡くれるようにって伝言をしておかないとね。
今日の行動の予定が決まったところで、寝床から出て着替えた。暖炉に薪をくべて火を大きくしておいて、浴室で顔を洗った。
朝食の後、まずご近所巡りを開始した。この辺りは古くからの住人が多い様だ。静かな住宅街を歩いて行くと庭先に置いた椅子に座って日向ぼっこをしているお爺さんがいたので、近づいて行って挨拶をした。
「こんにちはー!」
「おや、こんにちは。見ない顔じゃなぁ」
「はい、この先の資材置き場だった場所に昨日から住むことになりました。シュートと申します。よろしくお願いします」
「あぁ、ほうかい。あすこにねぇ。あすこは暫くは空き家じゃったねぇ」
「そうなんですね」
「お若いのぉ。独り身かい?」
「はい、成人してからまだ一月も経ってないです。冒険者をしています」
「ほお、ほうかい、ほうかい。若いのに偉いんじゃねぇ」
「作業場で魔獣の解体作業とかすることになりますが、ご近所迷惑にならないでしょうか?」
「うん、まぁ大丈夫じゃないかねぇ。この道をあっちへ進んで、ひとつめの角を左へ曲がると井戸があるんじゃ。この時間なら女衆が集まって、喋くりまわしとる筈じゃ。そこでも聞いてみたらええよ」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます。行ってみます。それじゃあ」
お爺さんに手を振って、教えられた井戸の方へ行ってみた。
教えられた角を曲がると、7~8人は居るだろうか?女性たちが集まって作業しながらお喋りしているのが見えてきた。井戸の周りで洗濯物をしている様だ。その賑やかな一団に近づいていって、声をかけた。
「こんにちはー!」
「こんにちは。あれ、可愛い坊やじゃないか。どこの子だい?」
「お綺麗な顔だね。お貴族様かい?王子様かい?」
「服装は簡素だね。お忍びかい?あれ、見初められてお城に連れていかれちゃうのかい?」
「あんたの事を見初めるくらいなら、驢馬の方が数倍可愛いさね!」
「失礼だね!あたしゃーこの豊満な胸で勝負してんだよ!」
「それなら、あたしの方がでかいよ!うちの旦那はこの胸に吸い寄せられたんだからね!」
「何言ってるんだい、あんた達!そう言うの団栗の背比べってんだよ!この中で一番胸がでかいのはあたしだろ!?」
「分かってないねぇ、あんた達。でかけりゃ良いってもんじゃないんだよ。大事なのは張りと弾力さ。うちの旦那は、この手に吸い付くような胸の揉み心地が最高だって、毎晩誉めてくれるんだよ!」
「揉み心地なら、私も負けてないわよ!」
あ、あれ、ぼ、僕、完全に置いてけぼりなんだけど、この話聞いてて良いのかな?でも、挨拶したいし、割り込みごめん!
「あ、あの!すみません!」
「あ、あらあらあら。まぁ、おほほほほ」
「いやぁねぇ、ごめんなさい。変な話を聞かせてしまったわねぇ」
「それで、どうかしたの?迷子かしら?」
「あ、いえ、僕はもう成人です!まだ成人して一月もたってないけど。それで、向こうの元資材置き場だった小屋に住むことになりまして、ご挨拶に上がったんです!」
「あら、あら、ご丁寧に。お一人?」
「きゃあー可愛い!こんな可愛い顔して成人してるの?可ぁ愛ぃいー♪」
「何であんな資材置き場に住んじゃうの?寂しくない?」
「僕は冒険者をしているんです。それで、作業場で討伐した魔獣の解体作業とかするのですが、ご近所迷惑にならないかお伺いしたくて」
「えぇ!? こんな可愛い顔して、冒険者なの?しかも魔獣の解体とかしちゃうの?」
「嫌だぁ、怖~いぃ!怖いけど、格好良いぃ~!惚れちゃ~う♪」
「怪我したらお姉さんが癒してあげるわねぇ♪」
「こんな婆ぁじゃなくて、私が癒してあげるわよ♪」
「誰が婆ぁよ!婆ぁはあんたじゃない!」
「あたしは、あんたよりも1歳年下ですぅ~!」
「この中で一番若いのは私よ!」
「青臭い餓鬼は黙ってな!匂い立つ熟女の魅力に男は籠絡されるんだよ!」
「臭い立つ婆ぁの間違いでしょ?」
「はぁあ!? 良い気になるんじゃないよっ!」
「何だってぇ!? やんのかい?」
また、僕の事そっちのけで盛り上がる女性達にまた声をかける。
「あ、あの!すみません!」
「あ、あらあらあら。まぁ、おほほほほ」
「いやぁねぇ、ごめんなさい。変な話を聞かせてしまったわねぇ」
「ええーっと何だったかしら」
「あの、解体作業をしてもご迷惑じゃないかどうかと」
「ああ、そうそう。解体ね。大丈夫よ。気にしないで」
「あそこは広いし、廃棄物の処理をしっかりやってもらって、悪臭を撒き散らすとかしなければ大丈夫よ」
「この婆ぁ自体が悪臭だから、それより臭くなければ大丈夫よ」
「はぁ!? 喧嘩売ってるのかい?」
「喧嘩だなんてぇ、嫌ぁーねぇ。事実をありのままに話しただけじゃない」
「今日と言う今日は許さないよ!」
「やっちゃえ、やっちゃえ!」
またまた、僕そっちのけで盛り上がり始めた。聞きたい事は聞いたし、挨拶も一応(?)はできたので、次に行こうかな。
「おじゃましましたー」
もう誰も僕の言葉を聞いてなかったけど、暇の挨拶を小さく口にして、その場を離れた。
その後も暫くはご近所を探検して、出会った住人に挨拶をしていった。どの人も大抵、明るくて人懐っこくて、優しい人たちだった。
その足でそのまま市場の多い方へ歩いて行く。カーテンとかインクとか暖炉の前に敷く絨毯とか、昨日は買わなかった足りない物を色々と買い漁ったよ。それから、服や靴なども新しく買ったんだ。旅に出てからこの短い間にも僕の体は成長しているみたいで、ちょっときつくなってきたんだよね。この先の成長分も見越して少し大きめにしたよ。
買い物が終わった頃には日が落ち始めて夕暮れ空だった。冒険者ギルドへ情報集めに行くのは明日にしよう。はぁ、ご近所には姦しい女性が多かったせいか、話の相手をするのに無駄に疲れてしまったよ。今日も家に帰ったら、さっさと寝てしまおう。
次回は脩人が恋を…




