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17 シュート

本日も宜しくお願いします

 僕が盗賊と戦った日の夜、今度は脩人が盗賊を捕まえたね。相手は1人だったし、得物も小さなナイフ1本だけだったから、余裕だったね!脩人の国は強盗は殺さないでちゃんと衛兵に引き渡すんだね。恐ろしい魔獣もいないし、脩人の国って平和だよね。


 僕の方は、エリスロの街で冒険者になってから、更に乗り合い馬車を幾度も乗り継いだ。殆どが1泊や2泊の行程であったけれど、4泊5日の時もあった。そして今、車窓から顔を出している僕の目前に海を背景に色とりどりの町並みが広がっている。


「港町アテロールに辿り着いた!」


 海辺特有の磯の香りがする。僕自身は初めて嗅ぐ匂いだけど、脩人の住んでいるのが海辺の街だから、夏はよく海水浴に行くので知ってる臭いだよ。

 泳ぎは・・・どうかな?脩人がプウルって四角い池で何度も泳いでいたし、海でも夏の海水浴で泳いだり潜ったりしていたから、泳ぎ方は知っている。泳げそうな気はするけど、実際に泳いだことはないから分かんないや。でも泳げないと、魔海獣を狩る事が出来ないよね?


 乗り合い馬車の停車場は、各地から到着した乗り合い馬車や乗客達でごった返していた。停車場の周囲には露店がたくさん並んでいる。海鮮を焼く刺激的な香りが鼻腔を侵食し、食欲を刺激する。ちょうど昼時だ。誘惑に抗うことなく、魚や海老の串焼きや貝のつぼ焼きなど、目についた順に買っていった。


 買い食いした物はどれも絶品だった。素朴な味付けが素材の新鮮さを引き立てていて、やみつきになり、ついつい食べすぎてしまったよ。

 人生初の海鮮焼きを堪能した後、町の散策に出たよ。住民も商売人も漁師も皆、明るく世話好きで人懐っこい。町は入り組んでいて迷いやすかったけど、道行く人に尋ねれば丁寧に教えてくれるし、何なら目的地まで着いてきてくれて案内してくれたりもする。『図化』を発動するなんて無粋な事はしない。僕は純粋に町の人たちとの交流を楽しんだよ。


(僕、一瞬でこの町が好きになったよ)


 アテロールの冒険者ギルドは海の見える高台にあった。やはりここでも、“石造りの重厚な外観”は変わらない。

 冒険者ギルドの建物に入る前に海の方角を眺めて見た。一面に青い海が広がっていて、陽の光を受けて水面(みなも)がキラキラと輝いている。緩慢(なだらか)な斜面の丘が海に迫るように延びていて、平らな地面は町の1/3位しかない様だ。町の建物は平地とそれに続く丘の斜面にへばりつくように建っている。建物の壁は白色で統一されているけど、屋根は色とりどりで、高台から望むアテロールの町並みは、眺めているだけで楽しい。


 冒険者ギルドでは、また『収納』内の素材を買い取りしてもらったよ。素材はここに来るまでの街でも買い取りに出していたんだけど、沢山あったからね。不自然に見られない程度に小出ししていたから(さば)ききれていなかったんだ。ここの買い取り価格は、大きな街で売った時よりも少し安い様だ。まぁ仕方がないね。

 ついでにアテロールの町を拠点にしているクランの情報を聞いてみた。この町にクランは4つあるだけだった。海に出て魔海獣を専門的に相手するクランが2つ、それ以外の依頼を受けているクランが2つだって。

 それから、魔獣の出没情報も聞いたよ。町の周囲の林や草原によく出没するのは、ホーンラビット、ナインテールフォックス、ゴブリンなどの定番と、ソルジャーアント、マンティス、ハニービーなどの昆虫系魔獣とリザードマンなどの水辺を好む魔獣がいるらしい。


(リザードマン!!素材が欲しかったんだよね。狙って見ようかな)


 リザードマンの出没情報も確認しておいた。が、実際に狩りに行くのは後日になると思う。暫くアテロールに滞在するので、まずは安価な長期宿泊先を探さないといけない。宿が良いか、貸し家が良いか、下宿って手もあるのか、今から商業ギルドへ行って聞いてみるつもり。

 ついでに商業ギルド登録についても聞いてみたい。僕に対する対応の様子を見て、信頼できそうなら、さらに“乾燥携帯食”の扱いについても相談したい。この旅の間、行商人や冒険者に少しずつ売ったけど、冒険者にはかなり喜ばれたし、商人は技術を知りたがっていた。

 そこで、脩人があっちの世界の特許制度や、脩人が働いている商店の組織体系に付いて教えてくれた。こっちでも同じような事ができないかと思ってる。

 提案としては、“乾燥携帯食”の技術を教えて、売り上げの何割かを僕に支払ってもらうって方法。もしくは委託販売。これって「信頼・信用」が物凄く大切。それが望めないなら、この話は無かったことにするつもり。


 商業ギルドは港に近い場所にあった。周囲は倉庫街で、ひっきりなしに商人に雇われた人夫が荷物を運んでいる。ギルドは石と木を組み合わせた3階建ての建物だった。中に入ると、1階の窓口には美人の受付けが数人並んでいる。僕はちょっと緊張しながら話しかけた。


「あの、すみません。お聞きしたいことがあるのですが」

「アテロールの商業ギルドにようこそお越しくださいました。(わたくし)、受付けのドーランがご用件を承ります」

「僕、この町に長期滞在する予定なんですが、宿とか貸し家とか下宿とか、一番安く上がる方法を紹介して貰いたいのです」

「畏まりました。失礼ですが、お名前を頂戴しても宜しいでしょうか?」

「あ、はい、すみません。シュートと申します」

「ありがとうございます。では、シュート様、具体的な期間と、条件や予算などをお伺いしても宜しいでしょうか?」

「えと、取り敢えずは1ヶ月。場合によっては延長もありえます。条件ですが、僕は冒険者をやっていて、狩った魔獣の解体をしたり、料理をして携帯食を作って販売したりしています。なので、寝る場所以外に作業場が欲しいのですが。値段はできるだけ安価な方が良いです。作業場以外の部分は狭くても、多少ボロくても大丈夫ですけど、治安は良い方が良いです」

「なるほど。その条件で安価な物件となりますと、町の中心部から多少離れる事になり、交通の便が悪くなりますが、馬か馬車をお持ちですか?」

「いえ、どちらも持っていませんが、大丈夫です」

「畏まりました。・・・お待たせいたしました。シュート様にご紹介できる物件が3件ございますが、内覧はいかがなさいますか?」

「ぜひ、お願いしたいです。今からでも大丈夫ですか?」

「勿論でございます。担当の者が準備して参りますまで、今暫くお待ち下さいませ」

「ありがとうございます。じゃあ、待っている間に少しお伺いしても良いですか?」

「はい、何なりとお申し付け下さい」

「それじゃあ、⎯⎯⎯⎯ 」


 僕は、“乾燥携帯食”の名前は出さずに、販売形態について色々と質問してみた。結論から言うと、特許制度みたいな物は無かった。委託販売に関しては、信頼できる商人を見つける事ができれば、何とかなりそうだった。商業ギルドに登録すれば、お金の管理をギルドに委託できるし、口座を作れば、国内の他の街でもお金の出し入れができるそうだ。ただし、商業ギルドの登録料や会計管理の委託料など、それなりの費用がかかるみたい。

 ここまで話しを聞いた時点で、物件の内覧を担当してくれる人が来た。なので具体的な相談は後日に行うと約束して、僕は内覧に出掛けた。


 内覧させてもらった物件は3件。ギルドが出してくれた馬車で移動した。

 1件目は商業ギルドの近くで、倉庫兼事務所の様な所。寝室と小さな調理場があったけど、元々事務所の仮眠室として使われていた様子の粗末な感じだった。調理場もお湯を沸かす事ができる程度の物だったが、倉庫が広いので作業はしやすそうだ。一月の家賃は小金貨2枚。

 2件目は貸し家で、冒険者ギルドの近くにあり眺めが良い。寝室が3部屋と食堂、調理場、浴室がある。庭があるので解体作業はそこで出来そうだ。雨が降ると作業は中断になるが。家賃は小金貨1枚と大銀貨2枚。

 3件目は町を囲っている外壁のそばだった。商業ギルドからも冒険者ギルドからもかなり遠い。昔、資材置き場として使われていたらしく敷地が広い。そこに小屋、屋根付きの作業場と資材を積んでいただろう空き地がある。小屋の中は寝室が1つと調理場兼食堂、浴室があった。家賃は小金貨1枚。

 僕は迷うことなく最後に見た物件に決めた。距離は問題にならない。『身体強化』して走っても良いし『移動』を使えばもっと楽に素早く移動できる。居住空間もこれくらいで十分だ。何より安いのが良い。

 一旦、商業ギルドに戻って、書類の手続きと前払いの家賃の支払いを済ませて、鍵を受け取った。

 うん、僕の初めての家だ!僕だけの城だ!

 生活に必要そうな細々とした物を買いながら、僕の新しい家に歩いていった。


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