17 脩人
本日も宜しくお願いします
僕はまた寝起きでトイレに駆け込む事になってもうた。ゲロンパや。
うわぁー、人殺してもうたー。剣で切った感触が手に残ってる気ぃする。実際には感覚を共有してる訳やないねんけど、シュートの頭で理解した事は共有してるから、間接的に感触を知る事になるねん。
暫くゲロゲロやってからトイレを出た。今日が土曜日で良かったわ。高校は休み。バイトはあるねんけど、今日は午後からのシフトやねん。
シュートは肝が座ってきたなぁ。盗賊相手に一歩も引かんかった。格好良かったわ。初めてゴブリン殺った時は一緒にゲロゲロやったのに、今回シュートは平気そうやった。なんやちょい悔しいな。
それにしても、盗賊のおっさんが落とし穴から飛び出してきた時はびびったなぁ。
ほんで、ついに初任給を手にしたなぁ。討伐報奨金とフリーズドライの販売と魔獣の素材買い取り。一気にきたなぁ。
やっとや、やっとこ、ここまで来た。魔道具作ろうって思い立ってから、ここまで辿り着くまでに色々あった。まだフリーズドライが売れただけで、魔道具が売れた訳やないねんけど。ひとつの節目になったな。
ところで、フリーズドライの技術は早々盗まれる事はないやろとは思うけど、シュートの世界には特許制度とかないんやろか?商標登録とかも?
それから、スルホンさんの反応を見ると、そこそこ売れそうやし、手広く展開しても良さそうやないかな?委託販売とかフランチャイズとか、そういう方法が無いか、調べてみても良えかもな。
それから、冒険者登録おめでとうさん!
次は魔道具技師登録目指して、また気合い入れて頑張ろうぜ!
さて、僕は午前中はだらだらしたり宿題したりして過ごして、午後からバイトや。今までチャリンコで通勤しててんけど、今日から原チャ通勤やねん。名義変更も問題なく終えて、名実ともに僕の物になったんや。まだちょっとぎこちないから「颯爽と」とは行かんけどな、問題なく乗れてるで。
コンビニに着いたら、妙に髪型が決まってる優人君が既に出てて、会計対応してた。
「おはようございまーす!」
「お疲れさん。あそこのん納品チェック終わってるから、補充やってんかー?」
ユニフォームに着替えてカウンターに出ていくと、会計を終わらせた優人君が商品の補充を指示してきた。
「了解っすー」
優人君ともかなり自然に話せる様になった。何だかんだ言うて、面倒見良えからなぁ。色々と世話になってるし、これで壁作ってたら失礼やろ?
特に問題が起こる事もなく、優人君と時々駄弁りながら働いてた。
夕方の混みだす頃に、もう1人バイトが加わった。最近入った芸能人バリに可愛い、あの女子や。立花さんって名前や。下の名前は面と向かってよー呼ばへんけど、玲子さんや。
学生さんの帰宅時間で混み合うから、立花さんに出て貰ってるねんけど、立花さんが居るから客が増えるっちゅう本末転倒な状況に何とか対応しつつ、ピークを乗り越えて、「もう少しで夜勤の人と交代やなぁ」なんて、まったりしている時間になった。レジは立花さん1人に任せて、先に小休憩を終えた優人君が商品の補充作業をしている。僕は事務所で小休憩を取ってた。
スマホを見ながらミックスジュースを飲んでたんやけど、レジの方から小さな悲鳴が聞こえた。「え!?」思て顔を上げたら、右手にナイフを持った男が左手で立花さんの腕を掴んでいる光景が目に飛び込んできた。男が強く腕を引いているせいで、立花さんはカウンターの上に前屈みになって左手をついてる。
「えっ!? 盗賊!あ、いや、強盗!」
僕は武器になりそうな物がないか周囲を見回したけど、何もない。取り敢えず濡れた雑巾を後ろ手に持ってカウンターへ出ていった。
(シュートに出来たんや、僕かて出来る筈や。相手はひとりや。怯むな、僕!)
僕の存在に気づいた強盗が叫んできた。
「おい!お前、金や!金出せ!変な真似すんなよ!美人の姉ねぇちゃんの顔に傷つけられたーなかったら、早よせー!」
「キャー!いやぁー!離してぇー!助けてぇー!」
「ははは、は、はい、はい」
立花さんが半泣きでパニクって叫んでる。
僕は冷静になろうとは敢えてしなかった。だから、ガチガチでオロオロしながらレジを操作しようとするので、もたついて中々レジが開かない。
「何やってんねん!さっさと出せや!ぶっ殺すぞ!」
「きゃーっ!止めてぇー!」
強盗はイライラして叫ぶ。
立花さんも叫ぶ。
強盗がさらにイライラする。
「はは、はい、いま、いま」
漸くレジが開いて、僕は万札をガバッと掴んで差し出した。良え感じに苛ついていた強盗が、さっさと金を奪おうと、迂闊にも立花さんを掴んでいた左手を離した。その瞬間に僕は、強盗の顔面に向かって濡れた雑巾を投げつけたった。
「ぶへぇっ!」
さらに僕はレジカウンターに跳び乗って、そのままの勢いで強盗に跳び蹴りをかましたった。
「ぐわぁっ」
僕と強盗は縺れ合う様に床に倒れ込んだ。けど、先に立ち上がったのは僕の方や。急いで強盗をうつ伏せにさせて右腕を後ろに捻り上げた。
「痛、いててててっ!」
強盗が叫びながら取り落としたナイフを蹴って遠ざける。
と、そこへ結束バンドを持った優人君登場。両足首と両手首それぞれを結束バンドで拘束。さらに手首の結束バンドと足首の結束バンドを繋げて、海老反り体勢にさせた。迷いのない手つきで。
(な、何か妙に手慣れてない?)
続いて優人君は、店長と警察に電話連絡を入れた。冷静に、強盗が襲ってきて取り押さえた旨を告げる。警察には住所を伝えることも忘れない。
(あれ、めちゃ頼もしいやんけ!)
優人君が強盗を抑えつけるのを代わってくれはったから、僕は漸く力を抜く事ができた。そのまま床に座り込んだ。一呼吸ついて、「よいしょっ」と立ち上がって、カウンター内に目を向けた。
「立花さん、大丈夫?怪我してへん?」
「うわぁーん!」
立花さんは、カウンター内から慌てて飛び出してきて、泣きながら僕に抱きついてきはった。僕より背の低い立花さんの頭頂部が目の前にある。シャンプーの香りなんか、フローラルな芳香がふわりと僕の鼻孔を擽る。僕のシャツの胸部分にしがみついて肩を震わせる立花さんを、その軟らかい体を、僕も抱き締め返すべきか否か迷って、手を上げたり下げたりワキワキさせて、結局止めた。
「意気地無し」とか言いたいなら言うて良えよ。でも、もしセクハラとか言われたら、僕、立ち直れへんくなるし。
「ちっ」
背後から不意に聞こえてきた舌打ち。恐る恐る振り返ると、優人君が冷気を纏った鋭い目で睨んできてた。
(こわっ!やっべぇー!こ○される。僕、優人君にこ○される!)
それほど待たされる事なく、店長と警察がたて続けに到着し、犯人を引き渡す事ができた。
まずは僕が最初に話した方が良えんちゃうかなと思う。
僕は「事情聴取があるので」と断って、立花さんを優人君に託した。立花さんは、今度は優人君の腕にしがみついてた。
警察と店長に続いて事務所に移動する僕に、優人君がサムズアップしてきた。めちゃ良え笑顔やった。
ちょっとイラっとした。
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警察の事情聴取が済んで、帰宅した時には22時を回ってた。家の玄関をくぐった途端、足に力が入らへんようになって、上り框に座り込んでしもた。
気が抜けたって言うか、今さらやけど偉い事やってもーたって実感したって言うか、逆に妙な興奮をしてる様な、自分でも訳分からへん。
強盗を取り押さえるやなんて、我ながら信じられへんわ。昨夜の夢で見たシュートの活躍した姿に触発されたんかもなぁ。「もう一回やれ」言われても多分無理な気がする。
その夜、僕は寝付きが悪くて、何度も寝返りをうったり、台所に水飲みに行ったり、明け方近くまでやってたわ。




