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12 シュート

本日も宜しくお願いします

とうとう出立です


 とうとう、誕生日の2日前になった。本当は明後日の出立で良い筈なんだけど、何か横やりが入っても嫌なのでと、脩人に勧められたから、今朝早くに屋敷を出たよ。朝一番の乗り合い馬車に乗るつもりだ。

 動きやすい冒険者風の服装にポイズンスパイダーの防具を付けて、上から『加温』の外套を羽織った。腰には愛用の剣を佩き、荷物袋を背負った。荷物袋は『収納』の魔術が使えることを知られないためだよ。中身は衣類などの軽い物ばかりを詰めている。本日、出立する旨を書いた手紙を自室の机の上に残した。


 フードを被って、軽く『隠密』を発動してから屋敷を出た。軽い『隠密』は、今そこに人が居ることは認識できるが、通り過ぎた後は、その印象は朧気で記憶に残らないと言う効果を示すんだ。まさかとは思うけど、追っ手を差し向けられて暗殺されるなんて事態を警戒した対応だよ。僕は考えもしなかったんだけど、脩人が「念のために」って言うから。父上はまだしも、執事のウォルターや兄上達ならひょっとしたらひょっとするかもって。確かに、特に下の兄上なら、僕に僅かにでも財産を分け与えるなんて許さないって考えていそうだよね。


 町から出ている乗り合い馬車は、王都方面(南西方向)、北方面、東方面、西方面と4本出ているよ。素直に王都方面には向かわず、まずは西方面の乗り合い馬車に乗ろうと思う。ダルベート大陸の西側の海辺に向かうつもりだ。追っ手対策と、海の魔獣素材を手に入れるのが目的だよ。


 ダルベート大陸は長く戦乱の歴史を歩んできたんだ。過去、何度も大陸統一は試みられているけれど、成されぬまま潰えたり、大陸が統一されても50年以内に反乱が起きたりして、戦乱の時代に逆戻り、小国に分断されてしまうと言うのを繰り返してきた。

 祖父が現役の頃はパミドロルが破竹の勢いで国土を広げていたけど、現王陛下の治世で平和・融和路線に国策を切り替えたんだって。戦争中の国とは停戦し、既に占領していた国をいくつか独立させた上で、パミドロルは周辺7ヵ国と和平条約を締結した。

 だからダルベート大陸はここ20年ほどは平和で安定している。

 大国パミドロルは現在、ダルベート大陸のうち6割程を占めていて、小国7ヵ国が大陸の東から北東と南側に点在している。うちの領地はパミドロルの東の辺境にあり、屋敷から馬車で半日も行けば東側の隣国だ。因みに東の隣国は占領していたのが独立した国で、祖父や父上は東の隣国の事を蔑む様な事ばっかり言っていた。

 と言うことで、国内で海辺の町を目指すなら北か西なんだけど、北は冬の寒さが厳しい所だから、西側を選んだって訳。そこで(しばら)く魔獣討伐をする積もり。脩人が海産物を食べてみたいって我が儘言ってるしね。まぁ、急ぐ旅でもなし、海辺に限らず国中を見て回るのも良いかもね。




▲▽▲▽▲▽


 乗り合い馬車の停車場にやって来た僕は、係りの人にお金を支払って乗車券を受けとる。乗車賃は大銀貨1枚。この乗り合い馬車は2日先の次の大きな街までしか行かない。着いた街でさらに先の街への乗り合い馬車に乗り継ぐんだ。

 僕の乗る馬車はもう停車場に来ていたので、早速乗り込んだ。馬車は2頭立てで、馬車の後部に乗り口があり、車内は真ん中が通路で左右に2席ずつ6列の座席があった。乗客はまだ一人しか乗っていない。僕で2人目だ。僕は一番前の左の窓際の席に身を落ち着かせた。

 発車の時刻までまだ少しある。僕は窓から町の様子を眺める。

 朝早い時間なので、活動している住民はまだ少ない。馬車の乗客を相手に食事や飲み物を売る露店が数軒あり、食欲を刺激する匂いと威勢の良い声を発している。その匂いに引き寄せられてか、数人の客が食事を買い求めている。

 僕はもしかしたら、もう一生この町には戻らないかもしれない。町にお世話になったのは短い時間だったけれど、冒険者や魔道具技師として旅立つ準備を支えてくれた、この穏やかな町の安寧がいつまでも続くようにと心の中で祈りをこめる。

 そうして眺めていると、不審な動きをする人物がいる事に気がついた。フードを被っているので顔は見えない。誰かを探している様で、キョロキョロと辺りを見渡したり、露店で買い物をしている客の顔を確認したりして、次に王都行きの馬車の中を覗き込もうとして、係りの人に制止されている。あ、係りの人が殴られた。衛兵を呼びに行ったのか、走って行く人がいた。係りの人と馬車の護衛達数人が、その不審人物を取り押さえようとしているけど、けっこう強いらしく、ぜんぜん抑えが効かない様だ。

 僕も手伝いに出た方が良いかな?と腰を浮かせようとして、ふと気になって座席に座り直した。窓からよく見てみると、あの不審人物が下の兄上ではないかと思えてきた。背格好がまさにそれだし、大の男5人を相手しても負けないあの強さ。何事かを怒鳴り散らしている。

 僕は強めに『隠密』を発動し直して、馬車から降りて男の元へ近づいて行った。


「放せこらぁあ!俺様を誰だと思っている!庶民ごときが俺様に触るなぁあ!叩っ切るぞ!俺様は家の金を持ち出した恥さらしの屑を探しているのだ!邪魔をするなぁあ!」


 やはり、下の兄上だった。相変わらずフードで顔ははっきり見えないけど、声で分かるよ。それに傲慢な物言いでね。

 騒ぐ兄上に後ろから近づいた僕は、一切迷わず『雷痺』を発動した。


「うがぁ!」


 男はぶっ倒れて、体の筋肉が硬直して身動きがとれなくなっている。倒れたときにフードがはだけて顔が露になった。やっぱり下の兄上だった。


「・・・ひ、ひひゃまらぁ、ほれに、ほんなほろして、ゆるひゃれるほ、ほもってひゅのひゃ!」


 顔の筋肉も硬直してるせいか、何を言っているのかよく分からないし、声も掠れて迫力はない。

 兄上の情けない姿に、僕はこんな人に長年、苛められて、蔑まれて、恐れてきたんだと思うと、忸怩たる思いがつのる。

 相手をするのも馬鹿馬鹿しい。兄上を放置して、自分の乗り合い馬車に戻った。

 町の衛兵が駆けつけて来た時に、僕の乗り合い馬車の出発時刻になり発車したので、その後兄上がどうなったかは分からない。領主の息子である事を明かせば連行される事はない筈だけど、まともに喋れないあの様子だと、酔っぱらいか何かと思われちゃうんじゃないかな?1時間もすれば硬直は解けるだろうから、直ぐに家に帰れるよ。多分。



次回から新章になります

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