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11 シュート

本日も宜しくお願いします

胸くそな父親です



 精神的苦痛を金銭的に取り返すために、武器、防具、金目の物から書籍に至るまで何でも持ち出そうとか、今までそんな図太く、図々しい事を考えたことがなかったから、僕は頭に『雷撃』を受けたかのような衝撃を感じたよ。自分だけなら「持ち出し禁止」と言われたら、そのまま素直に従っていたと思う。

 そっか、僕はシャルパンティエ家の資産に権利を主張しても良いんだ。巨万の富を渡せって言う訳じゃない。僕が当面必要な分をちょこっと融通してもらうだけだ。何も後ろめたいことなどないんだ。


 僕は『収納』に必要な物を次々に放り込んだ。兵士の為の数打ち品の剣を3本、同じく部分鎧を3組、薬類(傷薬、解熱剤、下痢止めなど)、書籍(魔術書、魔道具書、薬草・毒草図鑑、ダルベート大陸の地図)、換金できそうな物(シーツやタオルなどのリネン品、僕の貴族服)。脩人はもっと持っていけって言いそうだけど、魔獣の素材がたくさんあるし、この位で良いと思う。


 脩人は一足先に働き始めている。勉学を続けながら、働くなんて凄いと思う。商店の売り子をしていて、嫌な客が来る事もあるけど、下手(したて)に出てやり過ごしている。僕にはあんなの無理だよ。

 お店は商品がすんごく沢山あって、店内は綺麗だし、お金のやり取りを自動でやってくれる機械とか、食料品を冷やしている棚とかがあって、何が何だか分からないけど、カガクギジュツってやっぱり凄い。

 もっとよく分からないのが、脩人の勉学の内容だ。授業は聞いていても正直ちんぷんかんぷんで殆ど聞き流している。何か必要な事があれば、脩人が易しく噛み砕いて教えてくれるから良いよね。



 出立の時が10日後に迫ったある日の夕方、父上に呼び出された。執事のウォルターに連れられて、父上の書斎に入った僕は父の執務机の前に立った。父は僕を丸っきり無視したまま書類に何やら書き付けている。

 父の書斎は質実剛健を表した様な部屋だ。調度品は武骨で重厚な物で統一されていて、向かって右の壁は一面本棚になっていて、分厚い書籍がぎっちりと納められている。空いた壁には剣と盾、飛竜の頭部の剥製などが飾られており、部屋の隅には全身鎧が立っている。鎧は丁寧に磨かれているが、所々に傷痕があり、激戦を潜り抜けてきたであろう歴史が感じられる一品だ。

 暖炉には火が入っており、時折、薪が()ぜる音を鳴らしている。脩人が最近よく通っているカフェの暖炉と同じ物の筈なのに、あちらで感じた様な安らぎがこちらでは感じられないのは、一体どういう訳だろう。父上と僕との間にある冷たい関係が原因かも知れない。

 カリカリカリ・・・パサリ、カリカリカリ・・・パサリ、パサリ・・・暫く父が書類に書き付けるペンの音と書類を(めく)る音だけが続いた。僕は辛抱強く待った。

 永遠にも感じる時間が過ぎて、突然、父が顔を上げてこちらを睨んできた。仕事に一段落付いたのか、書類を綺麗に纏めて机の端に置いた。そして机に肘を付いて、組んだ両手の上に顎を乗せて、問いかけてきた。


「お前はもう少しで成人だ。身の振り方はもう考えてあるのか?成人までは面倒を見てやったが、今後は役立たずを無条件で家に置いてやるつもりは無いぞ」


 分かってはいたが、愛情の欠片も感じないその物言いに胸はギュっと締め付けられて、胃はキリキリと痛んだ。でも僕は、以前の様に俯いたりせずに、真っ直ぐに父上の目を見つめた。その様子に父上は片眉をピクリと上げる。


「はい。家を出て王都方面を目指そうかと。何か(わたくし)にでもできる仕事を探そうと思っています」

「ふんっ。好きにするが良い。ただし、くれぐれもシャルパンティエ家に迷惑をかける様な事がないようにな。これからは家名を名乗ることは許さん。万が一、ワシや兄達に出会う事があっても、他人同士だ。馴れ馴れしく声をかけてくるなよ」

 

 そう言って、ウォルターに目配せする。するとウォルターが布袋を僕に渡してきた。ずっしりと重い。手触りと重量でお金だと分かる。


「餞別だ。成人の祝いとして受け取っておけ。また、これは手切れ金でもある。今後、お前がどれほど困窮しようともシャルパンティエ家から援助は一切しない。分かったならさっさと部屋に戻れ」

「あ、あの、ひとつだけ、宜しいでしょうか?」

「・・・何だ」

(わたくし)はこの町を出る積もりなので、町の出入りに必要な身分証が欲しいのですが」

「ちっ。ウォルター、準備してやれ。家名は入れるな。ただのシュートだ」

「畏まりました。数日中にはお渡しできるでしょう」

「ありがとうございます、父上。ウォルター宜しく」


 父上に丁寧に頭を下げて、僕は部屋を辞した。

 廊下に出て歩き始めた僕を、ウォルターが呼び止めてきた。


「お坊っちゃん、このお屋敷を出た後、家名を名乗らないようにと旦那様は仰いました。ですから、家名・家紋の入った物は一切持ち出してはいけません。剣や防具、ハンカチ、カフス・・・あらゆるものが対象になります。荷造りなさる際にはお気をつけ下さいませ」


 ウォルターは、冷たく探るような視線を投げ掛けてきた。


「・・・分かった。気をつけるよ」


 言いたいことをぐっと飲み込んで、今度こそ自室に向けて歩き始めた。

 自室に戻って直ぐに、父上から渡された布袋を開けてみる。金貨が1枚、小金貨が3枚、大銀貨が20枚入っていた。これが貴族の息子の手切れ金として高いのか安いのか分からないけど、纏まった現金が手に入ったのには助かった。

 最後まで僕の心を傷付けてくる父上からのお金なんて要らない!って気持ちも正直あったけど、「貰える物は貰っておけ」って脩人が言うから、僕にはお金を受けとる権利があるのだから、しっかり受け取る事にした。

 家名・家紋の付いている物は持ち出し禁止となると、父上から贈られた剣もその対象になる。使い馴染んだこの剣は持って行きたい。幸い、家紋は剣の柄頭の金具に付いているだけだ。これなら『鉱物加工』で消すことができそうだ。これ以外で家名・家紋の付いた物で必要な物は無いと思う。


 後日、僕の身分証を持ってきたウォルターが剣を取り上げようとしてきたけど、柄頭の家紋を消したことを確認させて、頑として手放さなかった。これは僕が父上から頂いた僕の剣だ。誰にも渡さないぞ!


お金の価値は、ざっくりですが、白金貨 1000万円 、大金貨 100万円 、金貨 50万円 、小金貨 10万円 、大銀貨 1万円 、銀貨 5000円 、小銀貨 1000円 、大銅貨 100円 銅貨 50円 、小銅貨 10円の設定です

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― 新着の感想 ―
[良い点] 奪われたり要らないと放り出すのではなく、自分の意志を通して剣を持ち出すシュートいいですね〜強くなってる!
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