11 脩人
本日も宜しくお願いします
脩人の世界も少しずつ広がっていきます
シュートよ、いよいよ旅立ちの時が来たな。
剣術、魔術、魔道具作り、そして魔獣討伐。この半年の頑張りを見守ってきた僕も、感慨深いわ。シュートって同い年やのに、なんや弟っぽいねんな。「あんな幼かった子が、立派になったなぁ・・涙」みたいな気分や。
シュートはこんな僕に感謝してくれるけど、感謝してるんは僕もや。異世界物語を楽しませて貰てるし、毎日の生活を頑張ろう思えるし、新しい世界に一歩踏み出す勇気を貰てる。お互い様って事やな。
装備とか食料とか揃ったし、準備は万端かな?薬は持ったか?
剣と防具は消耗品やから、家の数打ち品も予備にちょろっと持って行けよ。脳筋親父はケチ臭いから、家の物持ち出すなやとか言いそうやから、こっそりと確保するんやで。
出来れば換金できそうな金目の物もな。あんま高価やったり希少やったりしすぎると足つくから気ぃつけや。
書籍は目録とか作って管理されてるんかな?魔術や魔道具の本なんて、あの脳筋家族は誰も読めへんやろ。餞別代わりに、その辺も貰てったらどうや?
家族から向けられるべき愛情を貰えんかったんや。代わりに金品で補って貰おうぜ。金で換算できる事や無いけどな。奪われっぱなしは悔しいやろ?
王都方面の交通は調べとかなあかんで。歩くんか?乗り合い馬車があるんか?馬買うて騎乗で旅するんか?身分証は持ってるんか?
家出た後なにするつもりなんか、親父には何て言う気や?冒険者と魔道具技師になるって正直に言うんか?それとも、取り敢えず適当な事言うとくんか?
残りの時間も魔獣討伐するんか?
僕もこの半年、色々頑張ったで。工業高校の授業は、一般教養の他に専門教科があって、工業技術基礎(工業の意義、技術者倫理、知的財産権など、工業全般に関わる基礎的な内容、工業の各分野の基礎的な加工技術)、機械製図、情報技術基礎(情報モラルと新しい機器、プログラミングの画面例やコンピュータネットワークの図、プログラミング言語学習)、機械工作(機械の製造に必要な加工技術、変形加工と除去加工、材料の特性に応じた加工法の使い分け)、機械設計とかや。結構、難いけど、まぁ何とかついてってるわ。
放課後は道場通いで元々忙しかってんけど、さらに11月頃からアルバイトも始めてん。近所のコンビニや。取り敢えず、道場は週1に減らしてもろてる。実は16歳になったら、免許取って原チャ買いたいねん。その資金稼ぎや。
夏のソロキャンで仲良うなった薬袋さんとこに、時々遊びに行ってて、今は電車乗り継いで行ってるねんけど、交通の便がごっつー不便やねん。だから足が欲しいなぁ思て。それから薬袋さんのバイクに感化されたって言うのもあるし、来年のカリキュラムに自動車工学があるから、今からバイク弄って慣れとこ思てるのもあってな。
コンビニバイトは慣れへん接客業で、最初はけっこうキツかった。今もあんま得意ってわけやないねんけど、まぁ何とかやってる。店長は良え人やねんけど、バイト仲間で1人ヤンキーがおんねん。目付き悪うて、ちょっと怖い。別に絡まれたりした訳やないねんけど、喋り方がぶっきらぼうで、いっつも怒ってるみたいに見えんねん。あんま関わりとーないねんけど、けっこうな頻度でシフト被ってんねんなぁ。
シュート、「ギルドで先輩冒険者に絡まれへんかった、残念」言うてごめんやで。
あと同年代の女子には、僕、ぜんぜん免疫あらへんから、よー喋らんねん。業務連絡だけ。同じ女子でも、おばちゃんらには可愛いがって貰てる。
ほんで、たまに変な客来よんねん。横柄なおっさんとか、話し通じひんおばはんとか、デブっちょで口臭が滅茶苦茶臭くて毎回エロ本買っていくやつとかな。デブはたぶん毎日風呂入ってないと思う。
でも、このバイトは目標金額になるまでは頑張るで。
今年は高校生になったせいか、お年玉の入りが良かったから助かった。思ったよりも早うバイクライフが始められそうやで。
まずは原チャに乗るつもりやけど、そのうちちゃんとしたバイクにも乗りたいから、自動二輪の免許を取ってまおうかなと思ってる。実は免許取得に必要な費用はもう貯まってて、来週から教習所通うねん。丁度、誕生日になるのに合わせて免許取れれば最速でバイクに乗れるからな。
薬袋さんとこの喫茶店って、所謂古民家カフェ言うやつで、めっちゃ雰囲気良えねん。紅茶やコーヒーに拘ってはるし、ちょこっとやけど薬膳料理も出してて、そういうの教えてくれはるし、カレーが絶品や。
お客さんにゆったりした時間を過ごして貰う為に、店の宣伝とか全然してなくて、いっつもお客さんは少ない。知る人ぞ知るって隠れ家的なお店や。
ここで半日くらい滞在して、まったりしたり、宿題やったり、常連さんと話したりして過ごしてる。他人と関わるんが苦手やった僕が、えらい変化や。薬袋さんのウェルカムな雰囲気が良えっちゅうのもあるし、シュートの頑張りに感化されたちゅうのもあると思う。
週末の今日はその薬袋さんとこの喫茶店『栗の木』に来た。
「こんにちはー!」
カラ~ンコロ~ンっと涼やかな音をたてるドアを開けて、元気に挨拶をした。
「まぁ、脩くん、いらっしゃい。外寒かったやろー?暖炉の近くに座り」
今日はお客さんはおらへんみたいや。
「これ、お土産です!」
家で採れた野菜を詰めてきた袋を渡す。袋の中身は春菊と水菜、壬生菜、蕪、ユリ根や。
「あら、あら、いっつも美味しい野菜をありがとう。最近、野菜が高いから助かるわー」
「形の悪い出荷でけへんやつやけど、良かったら使ーて」
「ふふっ。ありがとう。今日の紅茶は何にする?シンガポールの高級な紅茶入荷したんよ。お勧めはナポレオンティー。キャラメルとバニラの香りがほんのりするんやけど、味はあっさりとしてて飲みやすいんよ」
「じゃあ、それお願いします」
「マスターは今ちょっと買い出しに出てるんやけど、もうちょっとしたら戻ると思うわ。ほら、暖炉の真ん前の、そのソファーに座り」
「はぁー、どっこいしょ。温けー!手ぇ悴んだぁ」
暖炉の火って良えなぁ。体の芯から温められるし、なんぼ眺めてても飽きひん。
暖炉に凍えた手をかざして温めながら待ってると、程なくして紅茶の良い香りが漂ってきた。確かに紅茶の香りに混じってキャラメルとバニラの香りもする。
「はい、どうぞ。ナポレオンティーと、これ今朝焼いたコケモモクッキー。こないだ、高原にハイキングしに行った時にコケモモ見つけてねぇ。摘んできたんよ。上手いこと焼けたから食べてみて?」
「へぇーコケモモって僕、初めて食べるわぁ。いっただっきまーっす・・・うん、旨し!あ、ホンマこの紅茶あっさりしてて飲みやすいし、クッキーにも良ー合うわ」
「気に入って貰えて良かったわ。ごゆっくり」
僕は持ってきた小説を開いて読み始めた。異世界から異世界へ転移するやつで、主人公がハードボイルドで格好良いねん。冒険者になって、魔獣を退治したり、迷宮に潜ってお宝ゲットしたり、か思えば、薬師に弟子入りしてみたり。波乱万丈やけど、めっちゃ強いから読んでて安心感ある。めっちゃ嵌まってもーてるねん。
一冊読み終わって顔をあげたら、マスターが帰ってきてた。常連さんのお爺さんと喋ってはる。ずいぶん小説に集中してたみたいや。マスターや常連さんが来たんも気づいてなかった。
「マスター、おじさん、こんにちはー」
(この常連のお爺さん、“おじさん”って呼ばな、ごっつー機嫌悪なんねん)
「やぁ、脩くん、いらっしゃい。小説か?真剣に読んでたなぁ」
「脩、久しぶりやな。頑張って勉強してるか?ワシの小さい頃は戦中・戦後で貧しくてなぁ。勉強したくても出来ひんかったんや。今の子ーらが羨ましいわ。ちゃんと勉強せな罰当たるで」
「ちゃんとやってるって。おじさんそれ毎回言うなぁ。でも、まぁ今日は小説読んどったんやけどな」
「脩くん、今日も野菜持ってきてくれたんやな?ありがとうな。脩くんとこの野菜、美味しいから嬉しいわ」
「『栗の木』の料理好きやから、それに使うて貰たら、僕も嬉しいです。今日ももうちょっとしたら、何か食べたいです」
「薬膳料理、食べてくか?」
薬膳料理とは、陰陽、五行(木・火・土・金・水)、五臓(肝・心・碑・肺・腎)、五味(酸・苦・甘・辛・鹹(塩味))、季節(春・夏・梅雨・秋・冬)六腑(胆・小腸・胃・大腸・膀胱)、五性(温性、熱性、涼性、寒性、平性)を意識しながら極端に傾かんように食材を選んで作ったり、体調の悪い人にはバランスの狂った体を整える様に材料を変えたりするねん。奥が深すぎて僕もまだ十分に理解できてないねんけどな。
マスターは僕とお爺さんにそれぞれ違う薬膳料理を出してくれはった。僕には、ストレスフルな生活を送ってる体を整える材料やって。
はぁ。明日からまた全力で頑張れる気がしてきた。




