NO.1 幸せ
僕が記念すべき一人目だね。じゃあ、手短に。
僕には、目に入れても痛くないほど愛おしい”君”がいる。
今、僕の腕の中にいる。
可愛いでしょう?
”君”は笑っている。
笑っているが乾いた笑い。
無理やり口角が上がっていて、口を広げている。
そして、生気のない目で僕を見つめている。
僕はそんな”君”と毎日キスをし、抱き合い、一緒にお風呂に入って髪を乾かしてあげるんだ。
僕、優しいでしょ。
”君”は一人で動けないから。
なんでこんな事になってるのかって?
...あの日、”君”が僕にあんな事言わなかったらよかったのに。
そう、"君"は僕に、
「「愛してる、幸せすぎておかしくなっちゃいそう」」
って言ったから。
せっかく今回は抑えようと思っていたのに...
"君"が僕の理性を壊したんだよ。
僕だって"君"が大好きだよ。
愛してたよ。
でもね、言ってはいけない言葉があるんだよ。
幸せって言葉。
僕はその言葉を聞くと...理性が抑えられないんだよ。
あぁ、殺したい...軽々しく幸せという言葉を使うんじゃない。
その言葉は僕のママ以外使っちゃだめなんだ。
絶対に絶対に僕のママ以外が使うことはあってはならない。
ママは僕の女神なんだ。
3年前に死んじゃったけど。
癌だった。もって一ヶ月。
だから僕は毎日病院に行って寝泊まりしてたんだ。
それでね、二ヶ月そんな生活が続いて、僕が家に帰ろうとしたら珍しくママの方から今日は泊まって欲しいって言われたんだ。
もちろん、泊まったよ。
それでね、次の日の朝起きて隣を見るとママが泣いてた。
慌ててママを抱きしめてなんで泣いてるの、ってママに聞いたの。
そしたらね、ずっと泣きながらこう言ってた。
「幸せだった。私は最高の人生を送ってきた。
でも、叶うなら私達の息子の成人式、結婚式見たかった。そして孫をこの手で抱きたかったな。
ありがとう。私の短い人生。今日で終わりだね。今までお世話になりました。
もうちょっと一緒にいたかった。まだ大学生の息子と夫がいるのに。
一人残して逝くのはとても残酷なことよ。せめてあと一年、待ってくれたら成人式が見れたのに。
あぁ、私は幸せだった。愛する夫と私の息子に会えて。
最後にこれだけ言わせて。幸せだったよ。
私は世界一、否、宇宙一幸せものだ」
ママは容態が急変してあっさりと逝ってしまった。
ママとの思い出話は終わり。
......”君”、ごめんね。痛かったよね。
急に頭を殴られて。
気づいたら"君"は僕の腕の中で動かずに笑っていた。
でもね、"君"が悪いんだよ? 僕のママ専用の言葉を使うから。
あぁ、そろそろ”君"を処理しようかな。
髪の艶も、肌の状態も悪くなってきたし...
じゃあね、新しい"君"を探しに行ってくるよ。
ん? なんで"君"って呼んでるのかって?
名前が必要ないからだよ。"君"で十分だ。
そろそろいいかい?
新しい"君"を探しに行かないといけないんだ。
もう来ないでね。