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異世界転生ショウ  作者: かざみみかぜ。
3/4

ワンダリング異世界転生者があらわれた! コマンド?

 赤い波打ち際の空中に穴が空いた。

 あたかも海があって近づけないのをいい事に、壁に描かれた空の絵をくり抜いておき、それをずらしたみたいに現実感が無かった。

 びっくりしながらも真っ黒な穴を凝視すると、手と足がにょっと出て穴の縁を掴んだ。

「うぇ?! なにあれこうなるの」

 アネミちゃんもびっくりしていた。

 彼女にとっても想定外の状況な事が気付くと、自分の毛が逆立つのが分かった。

 自分の体が警戒態勢になっているんだ。

 さっきアネミちゃんは世界に穴が空いて敵が出てくると言った。

 これがそうであるなら、護らなければならないのは自分だけじゃない。

 彼女の前に立ちながらも、一歩後ずさる。

 そうしている間にも、伸びた手が空いた穴の縁を掴んで広げていく。

 警戒しながら可能な限りの距離を取っていくと、遂に小窓ぐらいの大きさになって遂にそこから人が出てきた。

 ひょろながい黒ずくめの男は海辺に降り立って周囲を見渡す。

「つ、遂に来た、か異世界カミナ・カザト。相当に縮小されているとはい、えまだ良質のリソースは残っている筈だからな。こいつを吸い尽、くせばこちらの世界も元の力を維持……維持出来るに違いない……ない」

 アネミちゃんから施された言語の変換が完璧でないからか、こちらも喋り方がちょっとおかしい様に聞こえる。

 まるで見かけだけで選ばれたモデルか何かが急遽役者をやっているかの様なたどたどしさにも見えた。

 そして周囲を見渡し……隠れる暇も無いこちらに気づかれてしまった。

「さっ……早速いたな貴重なリ、リソースが」

 僕の後ろに隠れていた彼女を見つけて捕食動物の様に笑う。

「前に居るのは……リソー、スゼロか。捕食の邪魔だからどけ」

 ちょいちょいと手を振る。

 当たり前みたいに。

 自分が言っている事が相手に否定される事なんてただの1ミリも想像していない、田端駅を超えたら上中里駅に着くぐらい当然の物の言い方だった。

 やんちゃな上級生に身勝手な命令された時みたいに、つい言いなりになりそうなって後ずさる。

 だが背中に何かが当たった。

 アネミちゃんの手が僕の背中を掴んでいた。

 それと同時に逃げた方がいいという打算に、知性と理性と本能の全部が抵抗を始めた。

 抵抗したら次にどうなるのかなんて上中里駅を乗り越したら王子に着くぐらい分かりきっていた。

 だけど背が高いのに僕より小さく縮こまった彼女を見て、言われる通りにする事なんて出来なかった。

 そして押し返す波の様に一歩前に出ると、言った。

「……いやだ」

「は?」

 先に封じ手として書いておいても100%当てられるレベルの想像道理の口調と表情の変化だった。

「状況は分からないけど、彼女が嫌がっているのが間違いない状況で言う通りには出来ない」

 ゼロから100へ。

「そうか、な、ならこうなるか!」

 瞬間湯沸かし器みたいに顔を赤くして男は両手を前にばちんと合わせ、続ける。

「『パウンダル(内側にある力)

 それと同時に風圧が襲う。

 そしてその手をわずかに広げると、両手の間にばちばちと火花が散り始めた。

「?!」

 あれはあの男の体内から錬成された物なのか。

 まるで昔テレビで見たアーク放電みたいだった。

 こんな事は見えない所で送風機を作動させ、同時に両手に配線を仕込んで先端につなげたそれぞれの炭素をぎりぎりまで近づけでもしない限り起こらないだろう。

「さっさとどかない、とお、お前もこうなあっつ!」

 弾ける火花を持った両手をまるで熱さに耐えかねたかのように開くと、抑え込まれていた火花が解き放たれた様に飛んでゆき、そばに生えていた近くの木にぶつかると爆ぜた。

「! これが異世界の魔法の力なのか!?」

 冷や汗がどっと出る。

 超常現象なんて起きない上中里の住人から見たら、アーク放電のアースとなる場所を予め木に仕込んでおき、タイミングよく爆薬を作動させた様にしか見えない。

「こう、こう、こう痛てて……なりたいか!」

 両手を振り、手のひらを確認しながら言う。

 ここが本当に異世界だとするのなら、魔法は高度に発達した技術と遜色が無いのかもしれない。

 そんな状況に再び後付ずさりかけるが、それは再び背中にしがみついている手で止まる。

 炭で黒ずんだ男の手を見る限り、使う側にもそれなりにリスクがあり、連発は出来ないかもしれない。

 だとしたら彼女を逃がすなら今だ。

「逃げて!」

 後ろを振り向かずに叫ぶ。

 だけど背中越しの手は震えるばかりで離れてくれなかった。

 くそっ、ここでなんとかするしか無いのか。

 間違いでは無い筈だが、同時にその先が容易に想像出来てしまう選択肢。

 でももう片方を選んだら、例え助かったとしても生涯後悔しそうなルート。

 これは時間遡行してやり直し出来るタイプのゲームなんかじゃない。

 2度と戻れない選択をした以上、この展開ルートで自分の生涯が終わってしまわない様に出来る事をするしかない。

 先程吹き飛んでしまった木と同じ目に合わない様にする為、何か武器が無いか、それとも別の方向に逃げて囮になれないか……逡巡する余裕も与えてくれず、男は再度手を前で叩く。

「2人固まった、ままか。あまり正確なコン……コントロールは得意ではないが、後ろのリソースまで、は削り取らないようにしてみるか」

「!」

 ぶわっとした勢いの、これから始まる悪夢の前兆みたいな風圧と火花の音に僕自身も目をつむりながら思わす左手をかざす。

 そんな事でさっきみたいな攻撃を防げる筈も無いのに。

「………」

 だが数瞬経っても先程の様な衝撃はこない。

 さっきまで前から襲ってきていた風圧が、僕と相手との間で空気が中和している様にも感じる。

 代わりにばちばちと火花が散る音と焦げた匂いがする。

「……?」

 おそるおそる方を開けると、相手の方も驚愕していた。

「止め……ただと、おれの『パウンダル(内側にある力)』を」

 こちらに飛んでくると思った2人の間で火花が地面に落ちていた。

「何が起きた?!」

 と考えながら視線を地面から手の方に移すと、気づいた。

 僕の左手にいつのまにかなにか紋様の物が浮かび上がっていて、それがぼんやり光っていた。

 まるで遠くからテクスチャマッピングで自分の手に光を当てているみたいだった。

 そしてほのかに熱い。

 まるで遠くから遠赤外線をピンポイントで当てられているみたいだった。

 それにしてもなんでこんな物が。

 もしかして僕がやったのかこれ。

「それがあたなのめひられたちらかです」

 背中から声が聞こえた。

 背中に添える手もちょっと熱い。

 まるで後ろから伝熱グローブを付けたアネミちゃんに手のひらを当てられているみたいだった。

「?!」

 それに伴って頭髪がぶわりと総毛立つのが分かった。

 昔科学館で見た、人体に静電気を通す実験みたいだった。

 そんな事は見えない背中に立っている彼女が静電気の溜まっている金属でも押し付けていない限り不可能だろう。

 という事はやはり僕は違う世界に来て、危機が迫って、彼女の言う通り秘められた力が開放されたとしかありえない。

 様々な状況証拠が『異世界』で、『魔法を使った男』の攻撃を、僕の『秘められた力』によって凌いでいる事を示していた。

「いらまなあれをはじくとこがでるきではずす!」

 本当なのか、と思って手を振りかざす。

 すると地面に落ちていた筈の火花は明後日の方向に飛んで、ぼん、と男の斜めの後ろの木が爆ぜた。

 まるで僕が手を振りかざすのに合わせてその位置に放電が飛ぶ為のアースを用意したみたいだった。

 もしかして今のは僕が弾いたのか?!

 それにしても手に感触が無さ過ぎてまるで現実感が無い。

「おいここまでやるって聞いてないぞ!」

 相手の男も予想外だった様で、振り返りながら叫ぶ。

 誰に離しているのか分からないが、もしかして自分には見えない、この能力を使う為の協力者みたいな者がいるんだろうか。

 でもあんな魔法を使う男があそこまで驚くという事は、僕の『秘められた力』が予想外だったのだろう。

 だとしたら助かる見込みはあるかもしれない。

 だが男は冷や汗を流しながらも、向こうを向いたままぶつぶつ喋り出す。

 「いは……たえ……これ……しご……」

 遠くて小さいので上手く聞き取れないが、深呼吸しながら喋るそれは、何か自分を律する為の呪文なのかもしれない。

 しばらく待ってこちらを振り向いた頃には、先程の冷静さが戻ってきていた。

「お、お前……『パウンダル(内側にある力)』が無いと思っ……思っていたが『エプシロン(五番目の脳波)』の使い手か、それ、それで後ろの小娘のリソースを変換している訳か……なのか」

 台本を喋り慣れてない役者みたいにたどたどしく聞こえるのも相まって、言っている意味が分かりにくいが、多分彼女の持っているなんらかの力を、僕が変換しているという事でいいんだろうか。

「……が、が全く使いこなせ、ていないな。今のは偶然上手く弾けたかもしれん、……だがその幸運が何度も続くかな……もし……もし……」

 喋っている途中で急に止まる。

「……?」

 おかしな間が空いて止まるが、逡巡した後、続ける。

「そうだ……そうそう、もし『精霊ジン』の封じられた篭手でも使って、こちらに跳ね返す事が出来る、なら話は別だが……な!」

 まるで一瞬忘れた台詞を思い出したようにまくし立て、再び精神的な優位に立ち始めたのか舌なめずりを始める。

 確かに今のはなんとかなったが、それは無我夢中でやったらたまたま助かったに近い。

 次に同じ事をされてもう一度同じ事が出来る自信は無い。

 後ろの彼女を護りながら相手を撃退する方法は無いのか。男が言うなんとかの篭手みたいな物があればそれが叶うらしいけど……

「『精霊ジン』の篭手ナらあるワここに!」

 斜め後ろから声が飛んで、振り返ると金色に輝く何かがこちらに飛んできていた。

 びっくりしながらも思わず手を伸ばして反射的に掴む。

 龍の紋様が入った篭手だった。

「それをツけてさっきと同じ事をすれば、今度はあンたの力をより上手くコントロールでキる筈よ」

 投げた相手は崖の上に立っていて逆光でよく見えなかったが、今ここでそれをやる以外の選択肢はなさそうだった。

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