【短編】聖女様の裏アカと秘密の活動を知ってるのは、プロカメラマンの俺だけです。
連載版執筆しました。
そちらもよろしくお願いします!
「という訳で皆さん、SNSでの被害が増えた昨今、扱いにはくれぐれも気を付けてくださいね」
ホームルームの最後がそう締め括られ、今日の授業は全て終了。
あとは帰るだけとなった。
っと、帰る前にSNSの確認だけしておくか。
スマホを開き、【MANA】の名義で活動しているアカウントを開く。
俺、久堂真日はSNSでは有名なカメラマンとして活動している。
主にコスプレイヤーさんや企業からの依頼をDMかフリーメールから受け、受領する。値段は応相談だ。
「真日、帰ろう?」
今日のDMを確認していると、誠実そうなイケメンが近付いてきた。
夜野咲也。小学生の頃からの親友だ。
「あー、悪い。今日依頼入っててさ」
「あ、そうなんだ。でもあんまり大規模にやらない方がいいよ。うちの学校、アルバイト禁止されてるんだからさ」
「わかってるさ」
一応進学校だしな。
「因みに今日は誰?」
「ああ。コスプレイヤー、【トワノセイ】さんだ」
「へぇっ、新進気鋭のコスプレイヤーじゃないか……!」
咲也が目を輝かせて俺のスマホを覗く。
何を隠そう、こいつは隠れオタク。アニメ、ゲーム、漫画、ラノベ、コスプレと、幅広く愛するガチ勢だ。
そんな咲也の言う通り、セイさんは最近現れた『美しすぎるコスプレイヤー』として、業界に名を轟かせている。
かく言う俺も彼女のファンで、今回依頼が来た時は飛び跳ねて喜んだものだ。
約束の時間は17時から3時間。今から家に帰って準備しないと。
「ねえ真日、お願いがあるんだけどぉ……」
「いつも通りサインだろ。いいけど、断られたら貰えないからな」
「わかってる、わかってる。へへ、ありがとう真日」
咲也は嬉しそうに人懐っこい笑みを浮かべた。
ホント、どんな顔でもイケメンだな、こいつは。
DMの返信を終え、帰りの支度をする。
と、教室の前の方が騒がしくなった。
「えーっ、十和田さん、遊びに行けないの?」
「ごめんなさい。今日はちょっと用事がありまして。また誘ってくださいね」
1人の美少女を囲い、残念がるクラスメイト。
本当に申し訳なさそうにしているあたり、十和田の性格の良さがよくわかる。
「相変わらずの人気だね、我が校の聖女様は」
「だな」
十和田聖。
我が校きっての才女であり、生徒からも先生からも人望を集めている。
性格は温厚。名前のこともあり、みんなから陰ながら聖女と呼ばれている。
俺は交流はないけど、そんな俺にも挨拶をしてくれるいい人だ。
そんな十和田さんから顔を逸らし、鞄を背負う。
「じゃ、行くか」
「おけー」
咲也と教室を出ようとすると、背後から「あ、久堂くん、夜野くん」と声が聞こえてくる。
2人揃って振り返ると、十和田さんが優しい笑みで手を振っていた。
「また明日ね」
「……ああ」
「うん。またね」
いい子すぎだろ、十和田さん。
軽く挨拶をし、俺と咲也は教室を出ていった。
◆
「っし。準備はこんなもんかな」
俺は自分で持っているスタジオで、撮影の準備を進めていた。
撮影スタジオ、控え室、風呂場も付いている建物で、住もうと思ったら住めるほどの設備が整っていた。
隣に倉庫はあるけど、そこには小道具がしまわれている。
部屋の広さは30畳。俺もカメラマンとして稼げてきたから、親に無理を言って撮影部屋を作ってもらったのだ。
俺の撮影は基本的にこの部屋を使う。
ここならどんなに汚しても問題ないし、小道具や設備でレイヤーさんの無茶ぶりにも応えられる。
今日担当するセイさんの要望は廃墟っぽくだ。
人気絶頂中ダークファンタジーアニメの敵キャラ、サキュバニーのコスプレをするらしい。
かなり際どい衣装だけど……男の前でこんな衣装を着れるなんて、こういうことに慣れてるのか。さすがセイさん。
準備を終えて待っていると、スマホが震えた。
セイさんからのDMだ。
『住所の場所まで来ました!』
『わかりました。今お出迎えにあがります』
さあ、セイさんとご対面だ。
どんな人なんだろう。メイクしていない姿は初めて見るけど、やっぱり綺麗なんだろうか。
逸る気持ちを抑えて、玄関の扉を開けた。
「お待たせしました、【MANA】で……す……?」
「と、【トワノセイ】です! よろしくお願……い……?」
……え、と……?
夕日に反射して煌びやかに光る黒髪。
整いすぎている容姿に、清楚な服装。
顔見知り、どころの話ではない。この人は……。
「と、十和田、さん……?」
「え、久堂くん……? な、なんで……?」
硬直する俺と十和田さん。
そう。勘のいい人も悪い人ももうお分かりだろう。
今をときめく人気コスプレイヤー、【トワノセイ】。その正体とは……十和田聖だったのだ。
お互い唖然とし、思考が固まる。
「え、と……とりあえず、上がる?」
「お、お邪魔します……?」
十和田さんを部屋に上げて、扉を閉める。
部屋にみんなの憧れである十和田さんがいる。その非日常感に、頭がついて行かない。
なんだこれ、どういうことだ?
とりあえず十和田さんをソファーに誘導し、用意していたオレンジジュースを差し出す。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
対面に座り、オレンジジュースで唇を濡らす。
ふぅ……。
…………。
「確認してもいいか?」
「は、はい」
「本当に【トワノセイ】さん?」
「そっ、そうですっ。【トワノセイ】です」
……マジかぁ。
「逆にお尋ねしますが、本当に【MANA】さんですか……?」
「ああ。俺が【MANA】だ」
「え、でも女性なんじゃ……!?」
「SNSのプロフィールにも男って書いてあるぞ」
十和田は急いでSNSを確認すると、愕然とした顔をした。
「……見逃してました……」
「やっぱりか。男のカメラマン相手にサキュバニーを要求するから、おかしいとは思ったんだ」
こりゃ、今日の撮影は無理だな。
「悪い十和田さん。今日のことはお互い見なかったことにしよう。俺もこのことを学校にバレたくないし、お前もバレたくないだろ?」
「え、でも……」
十和田さんは物珍しそうな顔で撮影部屋を見渡す。
まあ、教会の廃墟っぽくしてるからな、ここ。準備は大変だったけど、仕方ないか。
「……いえ、やらせてください」
「え? でも……」
「大丈夫です。せっかくここまで来たんです。私、やります」
真剣な顔で俺を見つめる十和田さん。
その目は、ベテランコスプレイヤーと同じ、プロの目をしていた。
こんな目をされたら、断るのは野暮か。
「……わかった。そこの扉の向こうが控え室だ。そこで着替えてくれ」
「わかりました」
十和田さんは礼儀正しく頭を下げ、控え室へ向かった。
あんなに真剣な顔で取り組むんだ。俺が下心を出してどうする。
自分を律しろ。被写体を美しく撮るパーツになれ。
目を閉じて集中する。
待つことしばし。扉が開き、十和田が戻ってきた。
「お、お待たせしました、です……」
「いや、待ってな……い……ぞ……」
──天使がいた。
サキュバニーは、サキュバスとバニーガールを掛け合わせたような衣装だ。
魅惑の生足。
胸が大胆に開いた紫のバニースーツ。
頭には黒いうさ耳。
腰から生えているコウモリの翼。
天女の羽衣のようなシルク生地。
赤いカラコンを入れ、歯にも牙が生えている。
見た目は完全にサキュバニーそのもの。
けど、扉を盾に恥ずかしがっている姿は、天使そのものだった。
律した心が揺らぐ。
学園の聖女と呼ばれる十和田さんが、俺の前でこんな際どいコスプレをする、て……。
思わず後ずさってしまった。
けど、ここで怯んじゃダメだ。
俺はカメラマン。被写体を美しく撮るパーツにすぎない。
再度目を閉じ、集中する。
「……じゃあ、撮影を始める。サキュバニーに合いそうな小道具も用意してるから、好きに使ってくれ」
「え? ……は、はいっ。よろしくお願いします……!」
撮影機材を準備する。
十和田さんも気を引き締めた顔をし、準備を始めた。
◆
17時から20時までのたっぷり3時間。
休憩を挟みつつ、撮影を終えた。
今はシャワーを浴びて着替えた十和田さんと一緒に、パソコンで写真の確認をしている。
真剣な眼差しで写真を見つめる十和田さん。
いつもの聖女らしい今の彼女と、さっきまでの蠱惑の微笑みを浮かべていた写真の中の彼女。
どっちも同じ十和田さんだが、そのギャップは凄まじい。
正に【トワノセイ】そのものだった。
「っと、これで全部だな。どうだった?」
パソコンから顔を上げる。
と、十和田さんはまだ写真を見つめていた。
「……十和田さん?」
「……です……」
「え?」
「……すっっっっっごいです!!!!」
「おわっ!?」
ちょ、何!? 顔近っ、えっ!?
「こ、こんな風に私を撮ってくれた方は、初めてです!」
「そ、そうなのか……?」
「はい! 男性視点の確かな下心を感じさせつつ、それでいて一線を引いて肝心の所には踏み込んでこない腕前! 【MANA】さんの写真は色々見ていましたが、ここまで素晴らしいとは思いませんでした!」
お、おぉぅ……凄い褒めるじゃん、この子。
確かに今まで撮ってきた女性レイヤーさんも同じことを言っていた。
でもここまで直接的に褒められたのは初めてだ。
「久堂くん、お願いがあります!」
「は、はいっ?」
十和田さんは俺の手を握り、キラキラ輝く顔で。
「是非、私を久堂くん専属モデルにして欲しいんです!」
……はい?
「専属、て……え?」
「私、今までは自室で自撮りをするか、ファン箱を通じて得たお金でプロのカメラマンさんにお願いしていました。ですがそれもいつでも撮れる訳ではありません。ですので……」
「つまり、この場所を無償で貸してほしいってことか?」
「む、無償だなんてそんな! ちゃんとお金はお支払いします!」
ん、んー……そうだなぁ……。
……ん? あ、そうだ、いいこと考えた。
「わかった。いいぞ」
「本当ですか!?」
「ただし条件がある」
「え……まさか、エッチな条件じゃ……!?」
「ちゃうわい」
だから脅えた目をしないでくれ。
「で、ですが……そうですよね。これだけの素晴らしい腕を持っているのです。こ、こ、ここは、私も覚悟を決めて……!」
「決めんでいい、決めんでいい」
そんなことしたら、俺捕まっちゃうから。社会的信用も失墜しちゃうから。
「金はいらん。その代わり、今後俺が撮ったコスプレ写真には、【MANA】の名前とアカウントIDを載せて欲しい」
「……それは、売名として利用するって意味ですか?」
「端的に言えばそうなる。俺もカメラマンとしてはそれなりに有名になったが、十和田さん……【トワノセイ】に比べたらそうでもないからな」
「…………」
十和田さんは腕を組み、悩んでいる。
たっぷり1分ほど悩み、深々と頷いた。
「わかりました。それで構いません。いえ、むしろそれだけでいいのなら、こちらからお願いしたいくらいです」
「決まりだな」
俺は立ち上がり、十和田さんに向けて手を出す。
「ここではお互い、被写体とカメラマンだ。だから名前で呼ぶことはない。……よろしくな、セイさん」
「では私も、マナさんとお呼びします。よろしくお願いします、マナさん」
聖女の微笑みを浮かべる十和田さんと握手をする。
こうして、俺と十和田さんの歪な関係はスタートしたのだった。
◆聖side◆
久堂くん……マナさんと専属モデル契約を結び、数週間が経ちました。
マナさんのおかげで、今までにないほどコスプレが楽しいです。
同級生の男の子にコスプレを見られるのは恥ずかしいですが……それでもマナさんは、燃えるような情熱的な目で私を撮ってくれます。
まるでガラス玉……いえ、水晶のように輝き、ダイヤモンドのように力強い。
カメラを通じ、燃えるような目が私を射抜きます。
その目を向けられると……何故か私の中で暖かな気持ちが膨らんできました。
この気持ちは、いったいなんなのでしょうか……?
◆真日side◆
十和田さんと俺の関係が始まり、はや2ヶ月が経った。
撮影は決まって金曜の夜から土曜日に掛けて。
どうやら十和田さんはこの近くに一人で住んでいるらしく、夜遅くに帰っても問題ないんだとか。
それ以外の曜日は俺に仕事が入っているけど、その日は何故か俺のアシスタントをしてくれる。
正直助かる。1人だと中々厳しいこともあったからな。
「マナさん、マナさんっ。この小道具必要ですか?」
「ああ。横に置いといてくれ」
「はーい♪」
……なんか、テンション高い?
「セイさん、何かいい事でもあった?」
「ふぇ!? な、なんのことですかー?」
「思い切り目ぇ逸らしてんじゃねーか」
モジモジしてるし……やっぱり何かあったに違いない。
「そ、それは、その……」
チラチラ、モジモジ、チラチラ。
……なんで俺をチラチラ見てくるのかわからん。なぜだ。
「は、早く金曜日にならないかなーと思ってるだけですっ。新しい衣装もできたので」
「ああ、なるほど。そういうことか」
それで落ち着かなかったんだな。
その気持ちはわかるぞ。俺も新しいカメラを買った日はソワソワするからな。
「と、ところで、今日のモデルさんはどなたなんですか?」
「ああ。それは──」
ピンポーン。ピンポーン。ピポピポピポピポピポピポピポピポピーーーーーンポーン。
お、噂をすれば。
つかチャイム鳴らしすぎだ馬鹿たれ。
「悪いセイさん。出てくれないか? 多分依頼主だから」
「は、はいっ」
セイさんが玄関に向かってる間に、俺はスタジオの最終調整を行う。
「お、お待たせしましたー。キャッ!?」
「マナビ、来たわよ! ……ん? マナビ、おっぱい太った? なんかとても柔らかな感触が」
「ひゃんっ!? あんっ……や、やめ……!」
ん? なんだ、どうした?
「セイさん? ……って!?」
せ、セイさんが押し倒されておっぱい揉みしだかれてる!?
「んん? あ、マナビ! え、じゃあこっち誰?」
「ひゃあぁ……!」
「誰って言いながら揉んでんじゃねぇ!!」
急いで性犯罪者を引き剥がすと、今度は満面の笑みで俺に抱きついて来た。
相変わらず距離感というか、パーソナルエリア絶無か。おっぱいでけーし。こちとら思春期だぞコラ。
「マナビ! 来たわよ!」
「知っとる。まず彼女に謝れ」
「ごめん!」
「え、ええ。だ、大丈夫、です……」
とても大丈夫には見えんが。
にしても、相変わらずテンション高いな、こいつ。
「で、マナビ。この美少女誰?」
「あー……セイさん、紹介していいか? こいつ、同い年のレイヤーなんだ。口は硬い。俺が保証する」
「は、はい。では、私から自己紹介させて頂きます」
セイさんは立ち上がると、ポケットから名刺を取り出して差し出してきた。
「初めまして。トワノセイと申します。今はマナさんの元で、専属モデルとして活動しています」
「……え、トワノセイって……あのトワノセイ!?」
ガバッ! セイさんの手を取り、目を輝かせて迫る。
「わ、私、あなたの大ファンなの! あの儚さとエロスが融合した最高の体! あ、握手してください!!」
「ど、どうも……?」
「してんじゃねーか。落ち着け」
襟首を掴んで再度セイさんから引き剥がした。
全く。もう少し落ち着いて欲しいもんだ。
「セイさん、紹介する。こいつは【呉レノア】。俺の従姉妹で、さっきも言ったがレイヤーだ」
「え。く、呉レノア、て……あのレノアさんですか!? 去年の『今来ているコスプレイヤー』ナンバーワンの!?」
「アタシを知ってるの!? うわ光栄! マジ光栄!」
「こ、コスプレ業界でレノアさんを知らない人なんていませんよ!」
セイさんとレノアがキラキラした顔で手を取り合う。
まあ確かに、レノアは見てくれは最高だ。
その上露出度の高いコスプレをするから、その人気は不動のものと言ってもいい。
「って、専属モデル? セイさん、マナビの専属モデルなの?」
「はいっ! マナさんの腕前に惚れ込んでしまいまして……!」
「え、何それ聞いてない」
ギロッ。ひえ、睨まれた……俺が何をしたってのさ。
「で、でも専属だと、他の人に撮って貰えないでしょ? それでもいいの?」
「はい! 私はマナさんがいいです!」
うっ……そ、そんなキラキラした目で見られると、恥ずかしいんだけど。
けどレノアはムスッとしている。なんで?
「ふーん……よし、決めた」
「何を」
「アタシも、アンタ専属モデルになる」
「はあぁ!?」
い、一体何言ってんだこいつ!?
「お前、今女性カメラマンとコンビ組んでるだろ! あの人はどうなんだ!」
「解消するわ。で、アンタの専属モデルになる」
「いやいや、そんな簡単に言うけどね!? あの人マジで怖いんだよ!?」
「知ってるわよ。だから見て。脚ガクガクよ」
だったらそんなこと言わないでくれます!? 俺だって何言われるかわかんないんだけど!
「まあまあ、いいではありませんか、マナさん。賑やかになりますよ」
「そーよそーよ! もし必要なら、アタシもアンタの仕事手伝うからさ!」
それは大変ありがたいが。
んー……まあ、専属モデルが増えることはカメラマンとしても嬉しい限りだし……。
「はぁ……わかったよ」
「いえーい! さっすがマナビ!」
「はいはい」
一々抱きつかんでいい。
レノアは俺に抱きついたまま、セイさんの方をチラッと向いた。
「ふふん。……負けないわよ」
「! ……私だって、負けません」
……え、何この空気。なんでバチバチなの、怖。
俺を挟み、笑顔で睨み合うセイさんとレノア。
意味が……意味がわかりません。
この先が気になる!
という方は、【評価】と【ブクマ】をお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます!
【追記】
現在連載版を執筆中です!