前編
「わぁ…… 雪だ……」
転生前で大晦日にあたる日の夜、談話室に思い思いの飲み物やお菓子を持ち込んで会話を楽しんでいると雪が降り始めた。
アンクレット魔術学院では長期休暇中でも希望すれば学園に残ることができる。
「人生一度の学園生活なのだから一回くらいみんなで残らない?」という私の誘いにみんな即決で乗ったがクロノは皇子なので許可を取るのに苦労したようだ。
げっそりしながらも許可がもらえたようで「後が怖いが今はみんなとの学園生活を楽しもう」と笑顔を見せていた。
「この国って基本的に温暖だけど雪、降るんだね」
「エル、その……雪とは?」
「え? 雪を知らないの?」
クロノの発言に驚いて振り返ると三人とも何それ?という目でこっちを見ている。温暖だったから雪が降ったことがないのかな?
念のため二人にも雪を知ってるか聞いてみた。
「私も聞いたことがないですね~。今降っているこれのことですか~?」
「これが……雪? きれいだけど手の上で溶けるのが少し寂しいね」
うん、この世界で雪は異常気象みたい。寒いのは苦手だけど雪は好きだからもう見れないかもと思うとちょっと残念だ。
そんなことを思いながら雪の説明をするとみんな納得できたようでなるほどと頷いていた。
「雪の結晶を見るのも面白いけどもう暗いから雲を作ってみようか。これなら暖かい室内でもできそうだし」
「え!? 雲って作れるのか!?」
「まぁ疑似的な、っていうただし書きが付くけどね」
やり方は簡単。大鍋でお湯を沸かして出てきた湯気を集めて急激に冷やしていく。すると本来空気に吸収されるはずの湯気は冷やされたことで周囲の塵を取り込み雲になり、雨を降らせる。
もちろん実際にはそんな簡単にはできないがさすが魔法。イメージをそのまま再現してくれた。
「魔法って組あわせればこんなこともできるんだね。一人でできるのはエル限定だろうけど……」
「当たり前だろう。同じ属性でも二種類使える奴は少ない。二種類の属性の魔法を同時行使できる奴は歴史上に一人もいないどころか人間の脳では処理できないとさえ言われていることだ」
え、これってそんなに高等技術だったの? 精霊の力を借りることができればそんなに難しくないんだけどなぁ。
「つまり~、エルちゃんは人間じゃないんですね~?」
「お姉ちゃん……わかってて言ってるよね?」
「え~? 何のことでしょ~♪」
「しらばっくれるならお姉ちゃんの飲み物も全部雲にしちゃうよ?」
「それより先に飲み干してしまえばいいんですね~」
「やれるものなら!」
こんな感じで楽しく過ごしていたのだが寮長に寝るように言われてしまったのでみんな自室に戻って行った。
私も最低限の後片付けをして眠りについたがまさか次の日一日中バタバタと王都「ウリエーナ」を駆け回るとは私たちは思いもしなかった。
次の日、外が騒がしくていつもより早めに起きてしまった私は外を見て驚いた。予想より多くの雪が積もり、腰くらいの高さまで達していたのだ。
――なんだこれ!? 冷てぇ!?
――下半身が埋まって動きづらいね、ってアイタッ!! ころんじゃった……
――おいおい、大丈夫か?
――痛っ、誰よこれ投げてきたの!
――私だよ~ってちょ、ちょっと待って!? 風魔法使うのは反則~!!
初めての雪に戸惑いながらも大はしゃぎな生徒たちだったがそこにすごいスピードで雪をかき分けながら突っ込もうとしている茶色い何かが見えた。
なにあれ!? とりあえず止めないと!
「フライ! ウォーターバインド!」
窓から外に飛び出しながらウォーターバインドで動きを止めようとしたが急だったこともあり完璧とはいかず謎の物体は前へ進めなくなったものの、雪をかき分け続けている。
「さて、と。近くまで来てみたけど……モグラ? 私よりちょっと小さいくらいの高さがあるけど……」
そう、謎の物体の正体はどう見てもモグラだ。けれど私の記憶の中のモグラは陸上で高速移動なんてしないしここまで大きくない。
なんでこの奇妙なモグラがこんなところに? と頭をひねっていると校舎の中からアンリたち三人と一人の先生が出てきた。
「キミ! スイエイモグラモドキを捕まえてくれてありがとう! 私は魔法生物管理人のイスマだ」
「私は一年生のエルミリー・コレットです。それで何頭脱走しているのですか?」
「話が早くて助かるよ。このモグラモドキがあと3頭、隠れるのが得意なエダガクレが1頭、最後に強者と戦うのが好きなトウソウシンが3頭だ」
「どれも安直な名前で助かるな。特徴がわかりやすい」
「けど僕達じゃエダガクレは無理だね。探知系の魔法を使えないから」
「ならこうしましょうか〜。エルちゃんはエダガクレに、私たちはトウソウシンをまず捕まえましょ〜」
「え、ちょっと待ってください。モグラモドキはともかくトウソウシンはAランクの危険な魔物なんです。一年生の君たちでは……」
「いや、ここは皇子たちに任せよう」
「学園長!?」
学園長、こんなところでなにを…… 偶然耳にしたことだけど今は今後の方針を決める会議中のはず……
「学園長、会議は終わったのですか?」
「外で魔法の気配がすると思ったら魔法生物が脱走しているようだから少し抜けてきた。イスマ、皇子たちは既に大抵の教師より強くなっている。今回の騒動を収めるのに役に立つだろう」
学園長に言われても少し悩んでいたイスマ先生だが、無理をしないことを条件にしぶしぶ了承してくれた。
後ほど調べてみましたが雲を作ること自体は簡単にできるようで、ペットボトルを使って雲を造り出す実験がありました。
自然に雲ができる条件である気圧の急激な変化をペットボトルを押すことによって再現したもので、なかなか面白かったです。
長くなりそうだったのでいったん区切りました。お正月中に後編も投稿します♪




