覇の国のリュウ
コクウは訓練場に着くや否やいきなりリュウに殴りかかった。余りにも唐突に殴りかかってきたため、リュウは一瞬体を竦ませたが、すぐにコクウの動きを見切った。しかし避けることはせず拳を正面から受け止めたのだった。
“ドンッ”
リュウは思いっきり吹っ飛ばされ尻餅をついた。のあまりにも激しい音に周囲が一瞬で凍りついた。
「弱いくせにイキってんじゃねーぞゴラァ!」
コクウのとんでもない罵声と殴り飛ばされたリュウを見て周囲はすぐさま状況を理解した。
(あいつ、コクウは歯向かったんだ…。)
リュウは殴られた頬を手のひらで押さえながらゆっくりと立ち上がりコクウを睨みつけた。
「何だよその目は!まだまだしつけが足りねーってか?」
そう言うとコクウは再びリュウに近づき鳩尾を蹴り上げた。そして周囲を見渡し、叫んだ。
「お前らも分かってんだろーけどよ、ここで一番強い俺が多いここを支配するのは当たり前のことなんだ。歯向かったからこいつみたいにいたぶってやるからよく見とけよ!」
そしてもう一発、今度はリュウのこめかみを殴りつけた。周囲の人間はあまりの恐怖に身体がすくみ声を発することも出来なかった。
その後も何度も何度も蹴り上げられ、殴られた。しかしリュウはいくら血塗れになろくとあざだらけになろうとただコクウを睨むだけで避けることも歯向かう事もしなかった。リュウのそんな態度はますますコクウの怒りに火をつけた。
「お前…この訓練場から出てけよ!弱い上に聞き分けの悪い奴なんかいらねーんだよ!」
そう言ってうつ伏せになったリュウに唾を吐いた。
「ーを…」
その時リュウが何かを言う声が聞こえた。
「あぁ?何だよ聞こえねぇよ!もっと大きな声で謝れや!」
リュウは立て膝になりながらコクウを睨みつけた。
「俺はお前みてーな胸糞悪い奴沢山見てきたんだよ!今更てめーなんかにビビるわけあるか!」
コクウは目を血走らせ、リュウな太腿を蹴り上げたらリュウは再び体勢を崩し、無様に崩れ落ちた。周囲の人間はもうやめてくれと言わんばかりに目や耳を塞いだ。
しかし、リュウはそれてまも足に己の全ての力を振り絞り立ち上がった。
「俺の父ちゃんも母ちゃんもよお…戦争中だったからみんな必死でよぉ…おめぇみてぇな奴に食い物全部奪われて殺されたんだ。
「許せねーってか?そんなことする様な奴に正義の鉄槌を下すってか?」
「…俺はそんな薄っぺらいこと思っちゃいねーよ。俺自身、他人から沢山のもの奪ってきた…生きるためだ…そいつも、俺も仕方なかったんだよ…」
「お前さっきから訳わかんねー事言ってんじゃねーぞ!」
そう言ってコクウがリュウにつかみかかろうとしたときリュウはひらりとコクウをかわした。コクウはリュウの予想外の動きについていけずつまづきそうになった。
「人の話は最後まで聞けよ…」
リュウは攻撃するコクウをかわしながら話を続けた。
「でもよ…別に俺だって好きでそんな事してるんじゃねーんだ…本当は…本当は…」
リュウはそう言うと、コクウの攻撃を数ミリでかわしカウンターをかました。その瞬間凍りついたその場の空気が一気に変化した。コクウは凄まじい勢いで跳ね飛ばされ地面に伸びた。
リュウはコクウにまたがり見下ろした。
「こんな世界、まっぴらごめんなんだよ!こんな世界終わらせて本当の平和を手にしてやるんだ、俺は!」
そう言ってコクウに殴りかかるフリをした。コクウは咄嗟に顔を逸らしゆっくりと目を開くと拳は顔の目の前で止まっていた。
「力のある奴がこの世界支配すんのは悪くねーよ。だがな、支配する人間は平和っていうでっかい責任負って生きてく義務があんだよ。てめーみたいな奴には務まらねぇ立場なんだよ、分かったか、あ!?」
コクウは舐めやがってと思いリュウの顔を殴り飛ばそうと顔を覗き込んだ瞬間、はっとした。
リュウは大粒の涙を流し苦しそうにコクウを見つめていたのだ。コクウは腕に力を込めるのをやめ、歯を食いしばった。
「ライギ様は…戦争に勝ってこの世界を本当の意味で平和にしようとして下さっている。俺はライギ様のやっている事が間違ってるとは思わねぇ…けどよ…どうしても…綺麗事言ってるだけに聞こえちまうんだよ…あの人みたいな人間に俺達みてねぇな人間の苦しみや悲しみが本当の意味でわかるってどうしても思えねぇんだよ!」
リュウは息を切らしながら必死に言葉を繋いだ。
「俺が…お前らの不安全部背負って一緒に戦ってやるよ…必ず…必ずこの世界を変えてやる!」
リュウのその言葉にははったりとは言わせない様な重みがあった。その時、周囲の人間が一斉にリュウに駆け寄った。
「リュウ…お前みたいなやつをずっと…ずっと俺達は待っていたんだ!お前となら全てをかけて戦える!」
「すげぇなお前、コクウの攻撃をかわす上にカウンターまで喰らわせるなんて!」
「僕、傷の手当てをするよ!ちょっと待ってて!」
リュウは多くの人間に認められることが気恥ずかしく、思わず笑みが溢れそうになるのを必死で噛み殺しながらコクウを起き上がらせた。
この一件はすぐにライギの元に伝わり、ライギはリュウを仕事部屋に呼んだ。リュウは怒られるかもしれないと内心ヒヤヒヤしながら部屋に入った。リュウが入るや否やライギはにこやかな笑みを浮かべた。
「やぁ、よく来てくれたね。待っていたよ、先日の一件報告はもう受けた。怪我の様子はどうだい?」
そう言ってライギは少し不安そうにリュウの体の節々を見た。
「…大丈夫です。治りが早いし傷もそんな深くないんで。ところで一体何のようですか?」
リュウは恐る恐る聞いた。
「うん。単刀直入に言うと君に僕に代わって統治者になってもらいたい。」
リュウはあまりにも予想外の発言に返す言葉を失った。
「俺が…?え…?何で」
「君は高い戦争能力を持っている。それに、この間の一件を聞いて君はこの国の人間を率いるに十分な素質があると僕は思った。もうすぐ国力をかけた戦いを仕掛ける。その時なは是非君が先導となってこの国を率いて欲しいんだ。」
「…ライギ様では何故駄目なのですか?あなたの腕は一流だと聞きます。それに、政治をした経験もおありでしょう。俺なんかよりもよっぽど適任だと思うのですが。」
「…いや、私では駄目なんだ。私は君達のような人々の生き方を変えたくてここまでやってきた。その為にいずれはこの国を支配して国のあり方を根本から変えていきたいと思っている。けど、それは僕には務まらないとずっと思ってたんだ。僕は生まれた時から何不自由ない生活をして努力はしても苦労なんてした事はないし、ましてや生きるか死ぬかなんて状況に追い詰められたことはない。だから、君達を哀れんでも共感することはない。そんな人間じゃ民衆の心を掴み率いて行くなんて出来ないんだよ。」
リュウはぐっと唇を噛んだ。
「…俺は、自分の国の戦争に関係のない国まで巻き込む様な奴らなんてろくでもないと思ってた。」
ライギははっと顔を上げた。
「…けど、この国の奴らは俺と大して変わらない様な生き方のやつばかりだった。それに俺はあなたの言うような国のあり方に賛成だし、協力したいと思っている。…つまり、目指したい先は一緒だから、頼みの一つや二つ聞いてやるってことだ!」
ライギは申し訳なさそうな嬉しそうな表情を浮かべた。
「そう言ってくれて嬉しいよ。だかま今すぐにって訳にもいかない。君には更に鍛錬を積んでもらって訓練場の卒業試験に合格してもらう必要がある。やってくれるかい?」
「あぁ、やってやるよ。必ず平和にしてみせる。」
第11話更新しました!
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