マオとエイカの修行
エイカとマオは部屋で話し合いを行っていた。
「エイカ、まず君に心構えを伝える。私の様な存在になるにあたって忘れてはいけない大事な心構えだ。」
「…心構え…。」
「人間にらそれぞれ核が存在する。人間の最も深いところに眠る欲望の塊の様な者だ。君は一人一人の人間の核を探し出しその核に自分の存在を認めさせるんだ。」
「認めさせるって…どう…?」
「核を優しくつつみこんでやる感覚だが、こればかりは感覚でしか伝えられない。それが出来るかどうかは正直才能にかかっていると言ってもいい。だがいきなりそう言われてもピンとこないだろうし私の言動を観察することで習得してもらおうと思う。要するに、見て習えだ。」
「…頑張ります。」
エイカは、 マオの雲を掴む様な説明に些か不安を覚えたがとにかく見て習うしかないと気持ちを改めた。
「あ、それから剣術も並行して教える。剣術と言っても、君に教えるのは少し変わった者だ。」
「何ですか?」
「人の心を操る事で相手の隙をつく剣術だ。フィジカルな面があまり勝敗に関係しない剣術だから君にとっては有利だろう。」
「なるほど…でもなんで、剣術を習う必要が?」
「麗の国は武力ではなく人心掌握によって他国を支配することを望んでいる。しかし、覇の国は他の二大国を戦争によって支配しようと企んでいる。近々国力をかけた大戦を持ちかけてくるだろう。そうなれば嫌が応でも戦わなければならない。その時には君にも戦争に参加して欲しいからね。」
「…分かりました。」
マオとエイカはその日から、剣術と掌握術の二つの習得のための修業を開始した。掌握術に関してはマオを観察し続けることがメインであり、エイカは一日中マオの後ろを追う事になった。
剣術は、いわば掌握術の応用版であり、人の心を操り勝利へと導くには掌握術の完成が必要不可欠となった。そんな修業を約一年続けた頃、エイカには分かってきたことがいくつかあった。一つ目は、マオは人と話し始める時完全に自己を持たない目に切り替わること。二つ目は人と話す時、マオはその人と同じ目をして話すこと。三つ目は、話終えるとまたいつもの薄暗い座った目に戻ること。彼はこの一連の動作を誰と話す時も繰り返していた。それはまるでマオの魂が幽体離脱し他者の魂がマオの体に乗り移ったかの様であった。これが人間の核を見つけるということなのだろうかとエイカは思わず感心した。しかしまだエイカはマオの行動を理解したままであって実践には移せなかった。そのせいもあり、剣術の腕そのものは上達しても決定打を放てずにいた。
そんなある日、マオはエイカを部屋に呼んだ。
「エイカ、君はよく私の修業についてきた。君の実力は十分に備わっている。あとはその成果を上手く活かすだけだ。」
「それがなかなか上手くいかないのですが…。」
そういうとマオはにこりと笑った。
「人間、土壇場にならないとなかなか本領。発揮できない者だよ。」
「…それは…」
エイカは嫌な予感がした。
「もうすぐ大戦が始まる。君には戦争前の演説を全国民の前でしてもらうよ。」
エイカは唖然とした。この国の人間はマオを信仰しているというのに、戦争前の激励を自分がやれば国民がどう思うか、考えずともよく分かった。
「それを失敗すれば戦争の流れを掴めなくなり、最悪負けになりますよ。そんな博打の様な事を私に任せるなど…。」
「いや、だからこそなんだ。君の才能を引き出すのにこの上ないくらいいい機会だ。それに君が上手くやってくれれば私の後継者のして国民も認めざるを得ない。」
エイカは押し黙った。
「…もし君がそれでも断るというのなら君は僕の見込み違いだったと言うことになる。」
「……わかりました。やってみせます。」
こうして、エイカは絶対絶命の演説を行うこととなった。
第10話更新しました!
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