誤算・3
早く早く!
早く毒を解毒しないと!
情報がほとんど無い状態での以前の記憶の蘇り。
颯爽とお茶会から抜け出したは良いが、どうやって帰れば良いのか分からずひたすらウロウロとしていた。
そこを休憩中のウチの御者が発見してくれ、無事に我が家に帰り着く事が出来た。
だが、大幅に時間をロスしてしまった。
今の所身体に変化はないが、後どの位の時間が残っているのだろう。
そしてそもそも、解毒薬って何処にあるのよ!
えーと確か、毒薬自体は侍女に手配させていた筈。
だったらその侍女を探して――
「駄目だ!顔が分からない!」
毒薬を受け取った時のスチルはあったけど、凶悪な笑みを浮かべる”私”ラーネが画面を向いている為、侍女は背中しか描かれていなかったのだ。
「金髪、確か金髪じゃなかったかなー……」
「お嬢様」
「きゃぁぁっ!?」
背後からいきなり声をかけられ、驚いた私は大声で悲鳴をあげた。
顔を顰めながら立っていたのは、さっきの御者。
青髪で背が高くて、なかなか格好良い顔立ちをしている事に気付いた。
こんなキャラ居たっけ?モブでも見た事ないかも。
――が、今はどうでも良い。
「何!?」
「アルカス様が、いらしてますが」
「アルカス!?何で!?」
「さぁ。俺はわかんないっす」
まさか、毒の事がバレた!?
あぁでも、会って言い訳する時間すら惜しい!
「私、今めっちゃ急いでんの。何か伝言あったら聞いといてくれる?」
「……お嬢様」
「何よ!」
「どうしたんすか?その喋り方。お嬢様らしくないっすよ?」
「うるっさいなぁ!今それどころじゃないのよ!解毒薬探さないといけないんだから!」
「解毒薬?何に使うんすか?」
「解毒に決まってんでしょ!?」
「誰用に?」
「私用に!」
ったく何なのよこの御者は!急いでるっつってるのに!
とにかく、金髪メイドを探すのが先決だわ!
御者を押し退け先に進もうとすると、何故か腕をガシリと掴まれた。
「ちょっと、何!」
「……お嬢様の体内には毒入ってないっすけど?」
「……え?」
「いや、俺も魔術師の端くれなんで。勉強嫌いだから御者とかやってるけど、毒の探知位は出来るっす。で、お嬢様は健康そのものっすけど」
――どうして?
まさか、まだ毒を盛る直前だったの?
いいえ、ゲームでは「ナッツが入ってる」発言の直前に毒を盛っていた筈よ?
ええと、ともかくじゃあ私は。
「……私、死なないの?」
「現状、毒では死なないっすね」
「あ、そう……」
「はい。で、アルカス様はどうするんすか?」
そうだ、アルカスが来てるんだっけ。
毒のタイムリミットが無いのであれば、奴の来訪の意味を探っておいた方が良いかもしれない。
「じゃあアルカス様の所に行くわ私。……何処にいらっしゃるの?」
「中庭っす」
「うん、ありがと」
今一つ状況が理解出来ないけど、直ぐに死なないのであればアルカス対策もゆっくり出来るだろう。
とにかく、中庭に向かおう。
私は一先ず、アルカスの待つ中庭に急いで行く事にした。