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魔術士は夜明けを導く  作者: 寒月アキ
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第七章 過去を生きる者たち

 ディルクたちが王城に戻ると、なにやら騒然としていた。

「まるで戦支度だな」

 オスヴァルトが怪訝そうに言った。日が沈みかけている時刻に、兵士たちがせわしなく行き交っているのだ。尋常ではない。

 ローザリンデを探して兵舎へ行くと、従者を伴ったゴルトベルクがやってきた。

「やっとまともな杖を手に入れたか」

 一瞬きょとんとするが、母の遺品を見ての発言だと察する。

 ディルクはあの杖と長剣を持ちだしていた。

「以前の装備はやめて正解だ。見立てがおかしかったからな」

「でも、あれは見習い用ですよね?」

「そんなものはない。術者に最適な杖と術衣を選ぶのが、師匠の最初の務めだ」

 思わずヨハンを見ると、彼は首を縦に振ってゴルトベルクに同意を示した。

「そんな……」

 苦いものが込みあがってくるようだった。レオナは意図的に不適切な装備を与えたということか。

 ゴルトベルクはあきれを吐息に乗せるように言った。

「私に無断で逃げだしたくせに、その日のうちに戻ってくるとはな」

 ディルクはぎくりとした。

「それはその……申し訳ありませんでした」

「別に構わん。おまえの家へ行けばいいだけの話だ。場所は特定している」

 続ける言葉に詰まった。彼からは逃れられないと、本能的に感じる。

「それで? 意味もなく戻ってきたわけではなかろう」

 ゴルトベルクが続きを促した。ここは正直に打ち明けたほうが賢明だろう。

「父……ルドルフが遺した日記を見つけたんです。そこには、内通者は……レオナだと。彼女はヴィンクラー一族で……」

「なるほどな」

 ゴルトベルクは納得したようだった。

「現在発生している問題が二点ある。一点目はザイデルの侵攻だ」

「えっ?」

「よくある小競り合いではない。まとまった軍勢が北方国境城塞に迫っているとの報告を受けた。従ってただちに援軍を送る必要がある」

 オスヴァルトは天を仰いだ。

「なんてことだ……」

「そして二点目だが」

 頭巾に隠れたゴルトベルクの目がディルクのほうを向く。

「ローザリンデ姫が賊に捕らわれた」

「え……?」

 愕然とした。ヨハンが吐き捨てるように言う。

「どうせ師匠の仕業だろ。……全部計算のうちってか。胸糞悪い」

「陛下宛に書簡も届いた。『ローザリンデ姫を預かった。国王ひとりで指定の場所へ来い。さもなくば姫をザイデルに引き渡す』――だそうだ」

「なんてことだ……!」

 先程よりも色濃い苦渋を込めて、オスヴァルトが同じ言葉を繰り返す。

 ディルクはゴルトベルクに尋ねた。

「それで、国王は?」

「……陛下は賊に屈しない」

 ゴルトベルクは冷淡に答えた。ディルクは語調を荒らげる。

「見捨てるんですか! 国王は、自分の娘を!」

「陛下のお命は何物にも代えがたいのだ。賊の奸計にむざむざはまってやるわけにはいかん。たとえ実の娘が人質であろうとな」

「……国王はあんなに強いのに……」

「どれだけ強くても不死身ではない。先日の怪我もまだ癒えていないのだ。無理などさせられん」

 ゴルトベルクが言っていることは正論だった。それでも救いの道を探して、ディルクは懸命に頭を働かせる。

「だったら、ほかの人が助けに行けば……」

「当然、賊を野放しにはできん。急ぎ討伐軍を編成し、向かわせる。……だがこれは人質救出のための作戦ではない」

「どういう意味ですか?」

「賊が人質をとるのはなぜか? 交渉のためだ。しかし我々は奴らの要求に応じるつもりはない」

 要するにローザリンデの命は二の次ということだろう。

「そんなのあんまりだ……!」

 助け舟を求めてオスヴァルトとヨハンを見る。

 しかしふたりは口惜しそうにするばかりでなにも言わない。

 ディルクはこぶしを固めた。

 娘よりも国を優先する国王は正しいのかもしれない。ローザリンデでさえ、自身の命と国家安寧を天秤にかけた上で、国王を支持するのかもしれなかった。

 しかし本心からそれを望むとは思えない。一縷の希望を砕かれた時、彼女は悲嘆に暮れるだろう。そして敵国に引き渡され、苦痛の果てにその命を散らす。

 その様を想像すると、ぞっと背筋が凍った。

「……賊が指定した場所を教えてください」

「ディルク」

 オスヴァルトの制止を無視して一歩足を踏みだす。

「僕が助けに行きます。討伐軍にも利があることのはずです。人質を救出できれば動きやすくなりますから」

 その言葉を待っていたと言いたげに、ゴルトベルクは口の端に笑みを刻んだ。

「いいだろう。ただし条件がある。……私の門下に入って、その力を陛下にささげると誓え」

「え……?」

「門下の魔術士であれば、その行動の責任は私が持とう。だが、ただの雑種に目をかけてやる義理はない」

 ディルクは口をつぐんだ。明け透けな物言いに、ヨハンが不愉快そうな表情をする。

「ディルク……」

 オスヴァルトは心配そうに名前を呼んだが、彼もヨハンもディルクの決断を待つ姿勢を見せた。

 ディルクは瞑目した。

 自分が国王の家臣になったら、誰がローザリンデを守るのだろう。

 かつて彼女が語ったように、オスヴァルトたちの忠誠が国王にあって、その命令に従わざるをえないのだとしたら。例えば今この局面で、ローザリンデを見捨てろと命じられた時、承諾するしかないのであれば。

(……僕には無理だ)

 首飾りに触れ、その感触を確かめたあと、ディルクは決然と顔を上げた。

「わかりました。あなたの一族の末席に、どうか僕を加えてください」

「……本当にそれでいいのか?」

 オスヴァルトの声はいつも以上に真剣だった。

「待ち受けてるのは茨だ。前に進むにしても、道半ばで引き返すにしても、もう無傷ではいられない」

 彼の危惧はわかる。

 それでも彼が最も安心する道を選択することはできなかった。

「決めるのは僕だ」

 平穏を捨て、茨の道を選ぶ。その意味も覚悟も、今なら己の中に見出せる。

 オスヴァルトは苦笑した。

「だったら俺はもうなにも言わない。ただ応援するだけさ」

「……ありがとう」

 ディルクはふっと笑い、ゴルトベルクへ向き直った。

「……ですが、ひとつお願いがあります。僕は国王の家臣にはなりません」

「ほう?」

 ゴルトベルクが続きを促す。ディルクは言った。

「国王にはすでに強固な剣と盾があるでしょう。けれども彼女にはなにもありません。それなら、せめて僕くらいは彼女の力になりたい」

 強い決意が、言葉ひとつひとつに熱をともす。

「あなたが国王の盾なら、僕は彼女の盾になります」

「……それでもいいだろう、今は」

 いつかと同じように、ゴルトベルクは殊更に「今」を強調した。

「では、元師匠から首尾よく姫を奪還することを期待する。場所は……」

「ゴルトベルク卿、私もディルクと一緒に行かせてください」

 ゴルトベルクの話をオスヴァルトが遮った。ゴルトベルクは淡々と答える。

「オスヴァルト殿には北方国境城塞へ向かってもらう予定だが」

「……卿もお人が悪い。本気でディルクをひとりで行かせようと?」

 お見通しだと言わんばかりにオスヴァルトは口角を上げる。

 頭巾で表情を隠した男は、一瞬、口ごもった。

「……生きて帰ってもらわねば私の役に立たないからな」

 ゴルトベルクは咳払いをした。

「そうと決まれば、急げ。討伐作戦前に事を成さねば意味がなかろう」

 それから彼はディルクの杖に視線を止めた。

「ツェツィーリエの杖だな」

 少し驚きつつ、首肯する。一目で言い当てたということは、勘違いでもなんでもなく、母は真実彼の姉だったようだ。

「いい杖だ。おまえとの相性もよさそうだな」

 口調がわずかに柔らかくなった気がしたが、まるでそれが錯覚だったように、すぐさまもとの調子に戻った。

「防御は魔術を使え。くれぐれも盾代わりにするなよ」

「……前の杖は事故です」

 折れた杖のことを知っていたらしい。地獄耳か。

 そうして賊が指定した場所を説明したあと、ゴルトベルクは従者に目配せした。従者は抱えていた木箱を丁重に差しだす。ゴルトベルクは中身を取りだすと、ディルクに向かって無造作に放り投げた。

「餞別だ。吉報を待っている」

 そう言い置いて、ゴルトベルクは去っていった。

 渡されたのは濃紺の外套だった。触れた時に感じた微弱な波動から、魔力の糸で織られていることがわかる。

 今のディルクは術衣を着ていない。この装備で敵地へ赴くのは無謀ではあった。

「卿も素直じゃないな」

「……そうかもね」

 くくっと喉を鳴らすオスヴァルトに、ディルクは苦笑を返す。

 一方、ヨハンは物思いに沈んでいた。彼はディルクよりもレオナとの付き合いが長いのだ。割り切れない感情があるに違いない。

 ディルクの視線を感じ取ったのか、ヨハンが静かに口を開いた。

「もちろん俺も行くぜ」

「でも、勝手に決めて大丈夫かな。ヨハンだって貴重な魔術士なんだし」

「大丈夫だろ。さっきの口振りじゃ、こうなることは見越してそうだぜ、あの腹黒」

「腹黒って……」

 不遜な発言にあきれるディルクに構わず、ヨハンはやれやれと首を鳴らした。

「あんなんでも師匠だからな。最後まで面倒見るのが弟子の務めだろ。ったく、不肖の師匠を持ったのが運のツキだぜ」

 軽口をたたくような言い方だったが、内に秘めたものの激しさも感じられた。

 ディルクはふたりの顔を交互に見やった。

「それじゃあ、行こう!」

 濃紺の外套を羽織って、ディルクは歩きだした。


          ◇     ◇     ◇


 ローザリンデは薄く目を開けた。

 冷たい石の感触がする。体の節々が痛かった。起き上がろうとして、手足を縛られていることに気づく。腰の剣は外されたらしい。

 ローザリンデは無理やり上体を起こした。場所は移動していないようだ。レオナが中継地点と呼んだ場所が目前に広がっている。

「お目覚めのようですわね。接待には不向きな場所で恐縮ですが、お許しください」

 レオナだった。朱を塗った唇は弧を描くようにつり上がっているが、燠のごとき灰色の瞳に温かな情はない。

 これまで見たこともない表情がローザリンデを傷つけた。

(だけど私は信じたかった。彼女の『信じて』という言葉を)

 今でもまだ現実を受け入れられないでいる自分がいる。

「ヴィンクラー一族は刺青があるんじゃ……」

 否定できる要素を見つけたかった。嘘だと断じたかった。

 しかし期待はあえなく打ち砕かれる。

「我らが秘術は一子相伝。完全な魔術陣は嫡子だけに伝授するものなのです。……それでも、偉大なる秘術の一部は、一族の魔術士全員に施されます」

 彼女はおもむろに服の胸元を開いた。その滑らかな肌に刻まれた赤い紋様を目にして、ローザリンデは顔をゆがめる。そんなローザリンデを、レオナは嘲るように眺めた。

「もう何年も昔の話です。あたしは父の命令で王城に参りました。内情を探って故郷に情報を流すためですわ。……それなのに」

 彼女は苦痛に耐えるように唇をかむ。

「先の内戦で、一族は私を残して全滅。侯爵様ご一家も全員処刑。私は王城に潜伏したままなにもできず、のうのうと生き延びてしまいました」

 ローザリンデはうつむいた。彼女が抱えている思いを、今の今まで気づけなかったとは。

「いつか一族の無念を晴らしたい。そう願いながらも具体的な手を打てず、二年も無為に過ごしてしまいましたが」

 彼女は灰色の瞳を希望に輝かせた。

「兄様が生きていたのです。瀕死の重傷を負いながら、奇跡的に回復した私の兄様。散り散りになっていた同志にも再会して……私の心は愛しの故郷へ飛びました」

 感動に震える瞼をそっと閉じる。

「帰りたいのです、ダールベルクに。今のダールベルクではありませんわ。私が知っている故郷へ帰りたいのです。そして久々にシュネーバルを作って、母の味を再現して、兄様と食べるの。家族みんな一緒で幸せだった頃のように」

 それは不可能だ。彼女の故郷は、もはや彼女が望む形で迎えてくれはしないだろう。

 だが、それを承知で切望するのだという狂った意志が、彼女の瞳に宿っていた。

「兄様はあたしの全て。兄様のためならなんだってするわ。望まれれば人殺しだっていとわない。相手がルドルフ様でも……姫様でも」

 涙が出そうになるのを、ローザリンデはぐっとこらえた。

「私にとってあなたは、掛け替えのない仲間だったのよ」

「……あたしは違います。ローザリンデ姫に信頼される『レオナ』を演じただけ」

 レオナはふふっと笑う。

「こんなに懐いてもらえるとはね。孤独は判断力を鈍らせますわね」

「……そう。それがあなたの選択なのね」

 心を決めるには十分な答えだった。

 悲嘆に暮れている場合ではない。王族として、将として、果たすべき責任がある。

 ローザリンデはレオナをにらみすえた。

「私をどうするつもり?」

「とりあえずは国王を呼びだしておきましたわ。刻限までにひとりで来たら姫様をお返しします。できなければザイデルに引き渡しましょう、と」

 ローザリンデは鼻で笑いそうになった。

「そんな要求、のむわけないわ」

「そうでしょうね。先の内戦であなたのお母様を見殺しにした人間ですもの」

 ローザリンデは顔色を変えた。

 激しい戦闘の最中、母は命を落とした。

 しかし亡くなったのは母だけではない。国王だけの責任では決してないはずである。

 見殺しにしたわけではない。ただ助けられなかった。それだけだ。

 そう言い聞かせて、それでも納得しきれない気持ちを、レオナに見透かされていたらしい。彼女は的確にローザリンデの泣きどころをついてくる。

「あの国思いの王様は、実の娘にも国家のために死ねと命じるのでしょうか」

 ローザリンデの表情の変化を、レオナはいたずらっ子のように楽しんでいる。

「とはいえ、実のところ、国王が来なくても構わないのですわ」

「え?」

「わかりませんか? この抜け道は王城に通じているのですよ」

「……まさか」

「逆賊の放置は許されません。国王は必ず兵を差し向けるでしょう。……それが本当の狙いなのですわ」

 動揺するローザリンデの前で、レオナは指先で赤毛をくるくるといじる。

「ついでにザイデルにも軍を動かすよう仕向けましたから、そちらにも戦力を割かねばならないはずです。結果、王宮の守りは手薄になるでしょう。もろい牙城のできあがりですわ」

「そんな……!」

 ローザリンデは青ざめた。レオナはくすくすと笑う。

「この抜け道、骨を折って探した甲斐がありましたわ。狩猟場近くにも入口があったので事前に試せましたし。ついでに国王を殺せれば僥倖でしたが」

「……煙のように姿を消せたのは、そういうわけだったのね」

「さすが王家の抜け道といったところでしょうか。入口が巧妙に隠されていて、簡単には見破れないようになっているのです。おかげでゴルトベルク様やオスヴァルト様を欺けました」

 ああ、でも、と彼女は思い出したように付け加える。

「あたしたちの出入りに、ルドルフ様だけは薄々感づいていたようです。本当に厄介な男でしたわ。……唯一の弱みをつつこうとしたら、あっさり隙を見せてくれましたけど。まさかあんなに大慌てでフランツェンへ帰るなんて」

「……ルドルフ……!」

 温かく支えてくれた大きな背中が脳裏に浮かんだ。自分がもっと有能であれば、彼を失わずに済んだかもしれない。そんな後悔が押し寄せてくる。

 レオナは辺りを見回した。

「地下を通れば王城からここまでさほどかかりません。ですが地上ではそうもいきませんわ。建造物や自然の障害があるので迂回せねばならないのです。要するに地下から忍べるあたしたちのほうが断然有利」

 揺るがない決意が彼女の瞳に宿った。あるいは狂気かもしれない。

「今度こそ、国王の首を取る」

 ぞくりと背筋が凍った。

 国王が簡単に殺されるとは思わない。だがヴィンクラーの強さは先日思い知ったばかりである。ゴルトベルクだけは絶対に国王のそばを離れないにしても、手薄な警備で食いとめられるだろうか。

 レオナは外へ続く通路をちらりと見た。

「そろそろ指定した刻限ですわね。はたして国王は現れるでしょうか」

「くっ……!」

 ローザリンデは縄から逃れようと身をよじった。一刻も早く彼らの計画を知らせなければならない。

 そんなローザリンデに、レオナは冷めたまなざしを向ける。

「助けたいのですか? なぜ? あなたを救おうとしない父親なのに」

 ローザリンデはぴくりと動きを止めた。レオナは親しみやすそうな笑顔を作る。

「姫様、あたしたちの仲間になりません?」

「ばかなこと言わないで」

「そうでしょうか? 恨みを晴らす絶好の機会だと思うのですが」

「そんなこと……!」

 ローザリンデは反駁しようとし――結局言葉をのみこんだ。

 自分は恨んでいるのだろうか。母を救わず、おそらくは娘を助けに来ないだろう父を。

「国王に限りませんわ。正妃とか、異母兄弟とか……命を賭してまで守る価値があるのでしょうか?」

「……問題をすり替えないで。お母様が亡くなったのは先の内戦が原因よ。そんなことを言う資格、あなたにはない」

 必死に言い返して、ローザリンデは自分の身を守る。

 これ以上聞いてはならない。身の内に潜む暗い感情に引きずり落とされそうだ。

 耳を塞いでしまいたいが、腕を縛る縄はきつく、ほどけそうにない。

 レオナは容赦なく続ける。

「あたしは免罪符をさしあげたいだけですわ。大切なお母様をないがしろにした人々に相応の報いを与える……それは正当な権利ですもの。もしそのことで姫様を責める者がいたら、あたしが守ってさしあげます」

 耳の代わりに、固く目を閉じる。

 すると瞼裏に母の姿が映った。

(お母様!)

 母は恨んでいるのだろうか。救わなかった国王を。疎み続けた正妃たちを。

 だとしたら、娘として、母の無念を晴らすべきではないのか……?

 惑う心の振れ幅をさらに大きくするように、レオナは畳みかける。

「思い出してください。あなたのお母様の最期を」

「……あ……」

 ローザリンデは身震いした。

 敵国に捕まれば、どのような仕打ちが待っているかは想像にかたくない。

 母も、単に戦死したのではない。味方を助けようとして危険な任務に就き、ザイデルに捕捉されたのだ。

 戻ってきた遺体には会わせてもらえなかった。

 恐怖で身がすくんだ。

(怖い……!)

 血の気を失ったローザリンデの顎を、レオナは細い指ですくうように上向けさせた。

 蠱惑的な瞳が間近に迫る。

「壊れた剣は捨てられるだけ。ですが、あたしたちはそうはいたしません。本懐を遂げましょう。これまでと同じく、一緒に」

 だめだ。このままでは折れてしまう。

(お父様、助けて……)

 きっと国王は現れない。

(怖い、助けて、お父様……!)

 見殺しにされる。父親に。あなたのために、どんな恐怖にもあらがってきたのに。

(嫌だ、怖い、怖い、お父様……お母様!)

 その時、靴音が響いた。

 ばっと顔を上げると、現れたのはヴィンクラーであった。

 彼はゆっくりとかぶりを振り、再び姿を消す。レオナはため息をついた。

「時間のようですわ。残念ですが……国王は来なかった」

「……お父様……!」

 どこかで硝子細工が割れたような音が鳴った。

 レオナは嫣然とほほえんでいる。

「人質がマルガレーテ王女でも、国王は同じく見捨てたでしょうか?」

「それは……」

「さあ、どうしますか? ザイデルに殺されてみます? それとも……」

「……私は……」

 答えはひとつのように思えた。

 その時、にわかに通路が騒がしくなった。こちらに向かって駆ける足音が聞こえるのだ。それも複数の。

 レオナは柳眉をしかめた。

「まさか国王? でもひとりじゃないわね……」

 彼女が状況を確認しようと動くより早く、足音の持ち主たちが姿を見せた。

 剣を握り締めたオスヴァルトと、息を荒らげるヨハン。

 そして間違いなくディルクであった。

 ローザリンデは目を見張った。

「どうして……」

 オスヴァルトだけならまだわかる。だがヨハンとディルクはフランツェンへ旅立ったのではなかったのか。

 ローザリンデを見つけたディルクは、ほっとしたように言った。

「もう安心してください! 一緒に帰りましょう!」

 その声を聞いた瞬間、張りつめていた糸が緩んだ。

(助けに来てくれたの? 誰かを守るための剣でしかない、私を)

 傷つけたくなくて手放した。

 しかし本当はこれからもそばにいてほしかった。

 こんな身勝手さを、あなたは許してくれるだろうか。

 嬉しさのあまり、涙が出そうだ。


          ◇     ◇     ◇


 地下道の奥でローザリンデを発見して、ディルクはひとまず安堵した。

 レオナは冷めた目でディルクたちを一瞥する。

「こちらの要求に、国王はこたえる気がないようね」

 ローザリンデは傷ついたように沈黙する。ヨハンが舌打ちした。

「言うに事欠いてそれかよ。体よく追っ払ったつもりだろうが、お生憎様だぜ。バカ師匠の思いどおりに動いてたまるか」

「自意識過剰にも程があるわね。バカじゃないの」

「てめえこそ、常々バカな師匠だと思ってきたが、真正の大バカだったなんてな」

 ヨハンはそこで言葉を詰まらせた。沈痛な面持ちで眉根を寄せる。

「こんなことして、なんになるんだよ。バカなりに少しは頭使って考えたのか? 考えて出した答えなのか、これが?」

「……あんたに理解してもらおうなんて、端から期待してないから」

「はっ。もっともらしく言いやがって」

 冷たく突き放すレオナに、ヨハンはかみつくように言い返す。

 オスヴァルトは小声でディルクに話しかけた。

「レオナは俺とヨハンで引きつける。姫は任せたぞ。救出できたら即脱出だ」

 言うが早いか、オスヴァルトは床を蹴った。

 剣士が魔術士に勝つためには、詠唱する間を与えないことが肝要である。

 しかし、レオナに剣が届く前に、厚い空気の層が彼女を覆った。オスヴァルトは弾かれたように間合いを取り、その隙にレオナも距離を取る。

 先制攻撃は失敗に終わったが、レオナをローザリンデから引き離すことはできた。ディルクはローザリンデに駆け寄り、戒める縄を短剣で切り落とす。

「お怪我は?」

「大丈夫。……本当にありがとう」

 赤い跡を残す手首をさすりながらローザリンデは立ち上がった。ディルクは父が遺した剣を彼女に渡す。

「急場しのぎですが、これを。父の遺品です」

「ルドルフの……。それなら、すばらしい剣に違いないわ」

 温かいものに触れたように目を細めて、ローザリンデは剣を受け取る。

 だが、通路から第三者が現れた。

「騒がしいと思ったら、招かれざる客かよ」

 紛れもなくヴィンクラーであった。髪の色こそ異なるが、その造作や刺青は見間違いようがない。

 ディルクは愕然とした。

「なんで……!」

「兄様!」

 レオナはヴィンクラーに駆け寄った。彼の腕に自分の腕を絡ませる。

「我が一族は炎系の魔術が得意なの。仲間の遺体を身代わりに仕立てるなんて造作もないことよ」

 そういえば、あの場にいた賊の格好は皆似たようなものだった。つまり彼女はヴィンクラーを殺す振りして逃がしていたのか。

「……ルドルフの仇め、しぶとい野郎だ」

 オスヴァルトは射殺さんばかりにヴィンクラーをにらみつけた。

「陛下を殺して覇権を握りたいのか?」

「そんなものオレたちには不要だ。権力は侯爵様こそが持つべきものだからな!」

 ヴィンクラーの瞳が怒りで燃える。

「オレたちはただ証明するだけだ。侯爵様の正しさを、力を! それには勝つしかない!」

 ヴィンクラーは長衣の裾を翻した。

「レオナ。オレは先に行くぜ」

「待ちなさい!」

 歩きだしたヴィンクラーをローザリンデが追いかけようとする。その手をディルクは慌ててつかんだ。

「深追いは危険です。今は脱出を……」

「彼を行かせてはだめ! ここは王城にも通じてるの!」

「ええっ?」

「なんだって!」

 オスヴァルトも苦虫をかみつぶしたような顔をした。

「全ては敵の手の内ってわけか。仕方ない。行くぞ、ヨハン!」

「くそったれが!」

 ヴィンクラーを追ってふたりも通路の奥へ消える。

 ディルクたちも続こうとしたが、行く手にレオナが立ちはだかった。

「これ以上の邪魔は許さない!」

 レオナが杖を構えると、周囲を強風が取り巻いた。朗々と歌うように呪文が奏でられ、長い赤髪が舞い上がる。

 はためく術衣の下からのぞく白い大腿には赤い紋様――彼女がヴィンクラー一族であることを示す証が刻まれていた。

 やりきれない思いでディルクは叫ぶ。

「本当にこれでいいんですか!」

 レオナはぴくりと眉を動かした。詠唱は続いていたが、ディルクは勢いのままに感情をぶつける。

「生きていてこそだって言ったじゃないですか! 死者のためにできることはないって、そう言ったのはあなたです!」

 レオナの呪文が完成した。彼女は優雅な所作で杖を振るう。

 直後、彼女の周囲を囲うように十数頭の狼が出現した。炎のごとき赤い体毛で、まがまがしい雰囲気を放っている。

 狼たちの中心で、レオナは言った。

「そんなの単なる方便よ。……あなたはやっぱりこちら側の人間ではなかったのね」

 寂寥感を見え隠れさせながら、彼女は微笑を浮かべる。

「あたしの安っぽい正論でも、あなたは踏みとどまることができたわ。もちろん、あたしだけの力ではないけれど。……だけど止まれない人もいるの。どうしようもないのよ」

「待って……」

「無駄話はもう終わりよ。……奪い損ねた命、今度こそ摘み取ってあげるわ!」

 その声に呼応するように狼たちが咆哮した。

 ローザリンデは仕方なく剣を抜き、飛びかかってきた一頭をまず絶命させた。続けざまに別の狼にも切りかかるが致命傷を与えられず、三回目の攻撃で倒す。

 ディルクは後方で魔術を唱えた。編み上げられた空気の層が壁となってディルクとローザリンデを守る。

 鮮やかな魔術の展開に、自分でも驚いた。

「すごい……!」

 杖か、あるいは外套の効果かもしれない。これなら今まで以上に善戦できる。

 しかし狼の数は多く、ディルクは防御に徹せざるをえなかった。ローザリンデが保身を気にせず戦える利点はあるが、彼女の剣だけでは全滅させるまでに時間がかかる。

「忘れないでちょうだい。あたしもいるのよ!」

 レオナが魔術を唱え始めた。ディルクは反射的に防御の魔術を強化させる。

 直後、巨大な火の塊が飛んできた。防御魔術で軽減できたものの、ディルクは押されるように壁際へ吹き飛ぶ。

「がはっ……!」

 体を勢いよく壁に打ちつけ、肺が潰れたようなうめきが漏れた。

「ディルク!」

 ローザリンデはディルクに駆け寄ろうとしたが、狼たちがそれを許さない。ディルクの集中が途切れたせいで、防御魔術は消失していた。彼女は必死で応戦するが、一度に相手にできる数には限界があり、体のあちこちに傷が増えていく。

 ディルクは打った背中をかばいながら起き上がった。切れた唇を手の甲でぬぐう。

「すぐに防御を……」

「よそ見しちゃ嫌よ。姫様のお相手は狼で十分。あんたをかわいがるのはこのあたし」

 レオナはディルクに近づいた。彼女の射程圏内に入っていることを悟ったディルクはなにも手を打てずに立ち尽くす。

 彼女はディルクの装備を見ながら言った。

「言い付け、破ったわね。ほかの杖と術衣に手を出すなんて、いけない子」

「……合わない装備、わざと与えたくせに」

「ゴルトベルク様にでも聞いたの? 見かけと違っておしゃべりな男ね」

 彼女はディルクの前で足を止めた。

「さて、どんな殺され方をご所望かしら。例えば生きたまま焼かれてみるのはどう? ……ああ、少しずつ切り刻んでみるのもおもしろいかもね」

 レオナは短く呪文を唱えた。やにわに疾風が出現し、脇腹に熱い痛みが走る。悲鳴を押し殺しながら片手で傷口を押さえると、血がぬめる感触がした。

 レオナは愉悦に満ちた表情でくすくすと笑う。

「何度も邪魔されて、あたし、怒っているの。すぐに殺してはつまらないわ。たっぷり遊んであげるから感謝なさい」

 ディルクは唇をかんだ。ここで反撃しても彼女に阻まれるだろう。

(どうしよう。どうすれば勝てる?)

 じとりと汗ばむ手で杖を握ったその時、突然レオナが飛びのいた。

 ローザリンデが牽制するように剣を振るったのだ。

「ディルク、大丈夫?」

 狼たちを振り切って来たのだろう。追ってきた一頭を振り向きざまに切り伏せたあと、彼女はディルクを背後に押しやった。

「私が隙を作るから、あなたは脱出して!」

 ばかな、という文句が喉元まで出かかった。

「そんなことできません!」

「逃げてもらうわけじゃないわ。応援を呼んできてほしいの」

「どっちでも一緒です」

「……命令って言ったら聞いてくれる?」

 ローザリンデは傷だらけの姿でほほえんだ。

「助けに来てくれて、本当に嬉しかった。だから今度は私の番。気持ち、返させて」

 再び狼がやってきた。ローザリンデは応戦を始める。

 脇腹の傷の痛みを、ディルクは歯を食いしばってこらえた。

 こんな結末のために戻ってきたわけではないのだ。

 傷ついた彼女が、それでも剣を離さないのなら。

(僕だけは君の盾になる。そう決めたんだ)

「僕はもう逃げない。絶対に!」

 ディルクは翡翠の首飾りを外した。

 途端に心臓が大きく鳴った。狩猟の時と同じ、熱いものが全身を駆け巡る。

 力の奔流に押し流されるままではいけない。杖を強く握りしめると、膨れあがる魔力を整えてくれるような感覚がした。これなら暴走させずに済みそうだ。

(まずは狼)

 杖を構え、魔術を唱える。かまいたちを出現させ、狼たちにぶつける。

 断末魔の叫びがいくつも響いた。

 そうして狼たちを全滅させた直後、猛烈な虚脱感に襲われ膝をついた。ローザリンデが血相を変えてやってくる。

「ディルク、また無茶を!」

「平気です、これくらい。……今の僕には覚悟がありますから」

「……ディルク……」

 気丈に笑うディルクを、ローザリンデは見つめる。

 レオナは表情を険しくした。

「よくもあたしの狼を……!」

 呪文を唱えようとした彼女は、しかし寸前でやめた。不安そうに瞳を揺らし、ヴィンクラーが去ったほうへ体を向ける。

「兄様!」

 レオナは戦闘を放棄して駆けだす。ディルクはローザリンデと顔を見合わせた。

「いったいどうしたんでしょう?」

「わからない……」

 とりあえず追うしかないと、ディルクたちも走りだす。

 レオナが目指す方向から戦闘音が聞こえてくる。

 その音がより激しさを増した、と思ったら、オスヴァルトとヨハンが吹っ飛んできた。ヴィンクラーの攻撃をまともに受けてしまったらしい。

「オスヴァルト! ヨハン!」

「しっかりして!」

 慌ててふたりに駆け寄る。全身を強打した彼らは、意識こそあるものの、すぐには動けなさそうだ。

 地下道の奥では、ヴィンクラーが肩で息をしながら立っていた。彼もまた無傷ではない。それでも王城を目指そうと歩きだしたその腕を、レオナがつかんだ。

「兄様、これ以上はお体が……」

「……またか。二度と邪魔するなと言ったはずだ」

 ヴィンクラーは声を荒らげる。

「このままでは侯爵様に顔向けできない。これ以上、生き恥をさらしてたまるか!」

「……兄様……」

 レオナは苦痛に耐えるように唇をかんだ。だがその腕を離すことはなく、ますます強くしがみつく。

「でも、でも兄様、あたしは、本当は……」

「聞き分けろ、レオナ!」

 ヴィンクラーは妹を乱暴に振り払う。

「……奴はもうあとがない。代償を払いすぎたんだ……」

 背後から声が聞こえた。振り返ると、よろよろと顔を上げたオスヴァルトがいた。

「代償って……」

 ディルクはどこか血色の悪いヴィンクラーを見た。

 ヴィンクラー一族の秘術は、命を代償に魔術を強化するものだ。

『最悪、死ぬわね』――いつかレオナが言っていた言葉が思い出された。

「奴を城へ行かせるな。ここで倒すんだ、ディルク……!」

 ディルクはぐっと杖を握りしめた。短く瞑目し、覚悟を決めて前を向く。

 ローザリンデも剣を構えた。

「私も戦う!」

 ディルクがうなずくと、ローザリンデは一気に間合いを詰めた。ディルクも追随するように魔術を唱える。

 ヴィンクラーはディルクたちに気づき、舌打ちした。

「邪魔をするな!」

 彼は杖を掲げようとしたが、力なくたたらを踏んだ。直後に切りかかったローザリンデの剣は、防御魔術で辛うじて受け止める。

「畜生、こんなところで……!」

 ヴィンクラーは杖から炎を生みだし、ローザリンデに向かって放つ。ローザリンデはそれをかわし、反撃に転じる。

 ヴィンクラーの動きは明らかに精彩を欠いていた。国王やゴルトベルクと戦っていた時のような勢いはまるでない。

「待ちなさい!」

 レオナが横合いから援助射撃をしてきた。魔術の炎がローザリンデを襲う。

 それがローザリンデに届く前に、ディルクは氷塊を放って防いだ。

(本当はヴィンクラーに当てるつもりだったのに……)

 レオナとふたりがかりで来られると厄介だ。

 そんな心中を悟ったのか、ローザリンデは標的をレオナに変えた。魔術を唱える余裕を与える間もないほどの速さで攻撃を繰り返す。レオナは防戦一方になった。ディルクは再び魔術の詠唱を始める。

「このままでは……!」

 防御魔術で自らをかばいながら、レオナはヴィンクラーを見る。

 ディルクに攻撃しようとしたヴィンクラーは、死角から飛んできた氷の矢に動きを阻まれていた。威力は弱いが数の多い魔術だ。ヨハンである。

「ディルク、行け!」

「ディルク、お願い!」

 レオナを牽制しながら、ローザリンデも声をかける。

 ディルクの魔術の完成までもう間もなくだ。

 レオナは涙声で叫んだ。

「兄様!」

 彼女は唐突に防御魔術を解いた。不意をつかれて動揺したローザリンデの剣が、レオナの胸元を浅く裂く。切れた服の下から血がにじむが、致命傷ではない。

「……これくらい、大したことないわ……」

 レオナは片手で傷口を押さえ、痛みに顔をしかめながら、震える手でヴィンクラーに杖を向ける。――兄に防御魔術を施そうとしているのだ。

 しかしローザリンデが見逃せるわけがなかった。

「……ごめんなさい」

 ローザリンデはレオナを目がけて剣を振るう。

 状況を察したヴィンクラーは毒づいた。

「あのばか……!」

 彼はレオナのほうへ杖をかざす。

 次の瞬間、ディルクの詠唱が終わった。

 解き放たれた魔力は氷の刃となってヴィンクラーを狙う。

 なににも阻まれることなく、それはヴィンクラーの胸部に突き刺さった。

「やっ……た……」

 ディルクはよろめき、壁に身を預けた。激しく胸を上下させて呼吸を整える。

 一方、ローザリンデの剣は不可視の壁によって阻まれ、レオナを傷つけることはなかった。

「そんな、嘘よ……」

 くずおれるヴィンクラーを視界に入れながら、レオナは呆然とつぶやいた。

 魔術の効力が解け、ヴィンクラーの胸元から刃が消えた。出血は止まらず、床に血だまりを作る。

 ヴィンクラーの魔術はレオナを守った、だがレオナの魔術は間に合わなかった――その事実に思い至り、レオナは絶叫した。

「いやあああああっっっ!」

 慌ててヴィンクラーに駆け寄り、血にまみれた兄を抱き起こす。

 荒い呼吸の中で、彼は妹の名を呼んだ。

「レオナ……」

「しっかりしてください、兄様!」

「……急所は外れているようね」

 ローザリンデはヴィンクラーの怪我の具合を確かめながら言った。

「今ならまだ助かるかもしれない。だから大人しく投降して」

「……助かる……?」

 レオナはすがるようにローザリンデを見た。ためらいがちに薄く唇を開く。

 だがヴィンクラーはその手を制するようにつかんだ。ぎらぎらと光る灰色の瞳が、強い信念をレオナに訴える。

「忘れるな。オレたちの悲願を!」

「あ……」

 まるで時計の針を止められたかのごとく、レオナは硬直した。

 そこで意識を失ったヴィンクラーは、レオナにぐったりと体を預けた。レオナは兄の傷口にそっと触れる。真っ赤に染まった指で、今度は兄の頬をなでた。血と同色の紋様を愛撫するようになぞる。

「レオナ、早く!」

 ローザリンデが促すと、レオナは涙に濡れた顔を上げた。大切なものをあきらめることに決めた、そんな表情で。

「国王を討つのは兄様の夢。……あたしの夢ではないわ」

「……レオナ?」

「あたしは兄様と一緒にいたかった。ただそれだけだったのよ。それなのに、どうしていつもあたしだけが残るの? どうするのが正解だったの? ……あたしだってくさびになりたかったわ。そうできたら、どんなによかったか……!」

 耳をそばだてないと聞こえないくらい弱々しく、彼女は独白する。ローザリンデは複雑そうな面持ちで言った。

「それじゃあ今すぐ……」

「……だけど守らなくちゃ。一族の秘術だけは、絶対に。誇りまで奪われたら、あの世にさえ居場所を失うもの……」

 彼女は立ち上がった。杖をかざし、魔力の風が吹き上がらせる。はだけた術衣からのぞく刺青が赤く不気味に光った。

「兄様は、誰にも触れさせない!」

 高らかな詠唱とともに、彼女は全身に炎をまとった。それは高く立ち上り、ディルクたちを圧倒させる。

「もうやめて、レオナ!」

 ローザリンデの悲痛な叫びが地下道に響くが、レオナが止まる気配はない。

 すさまじい魔力の波動に肌があわだった。ディルクが打つ手に迷っていると、ヨハンが魔術を唱え始めた。その後方では、オスヴァルトが剣を構える。

「残念だが、休ませてはもらえないようだな」

 先程の戦闘で受けた損傷がこたえているのだろう。軽口をたたく彼の額には、脂汗が浮かんでいる。

 詠唱を終えたヨハンは複数の岩を出現させ、レオナに向けて放った。だがそれらはレオナを取り巻く風や炎に阻まれ、床に落ちる。

「なんだよ。こんなに強かったんならもっと俺に教えろよな、バカ師匠!」

 弟子の憎まれ口に、レオナはわずかに表情を和らげた。魔力の風の中心で、赤い巻き毛を乱しながら、彼女はいったん瞳を閉じ、開ける。悲愴な覚悟を秘めた表情で。

 ヨハンは舌打ちした。

「来るぞ!」

 ディルクたちは咄嗟に身を翻す。

 レオナの周囲を取り巻く炎が竜のように舞い、襲いかかってきた。ディルクとヨハンは魔術で氷の膜を出現させ、攻撃を打ち消す。だが炎の竜は瞬く間に復活した。

「これじゃ切りがねえ!」

 レオナから距離を取りながら、ヨハンはディルクに言った。

「ディルク、師匠に同等の魔力をぶつけて相殺させろ」

「ヨハン?」

「だから、できるのはおまえだけだっつってんの! 超絶不本意だけどな!」

 ヨハンは怒鳴るように言い、ディルクに小さな本を押しつけた。

「これは?」

「覚書。長い呪文は書きとめているんだ。で、本題はここ」

 ヨハンは中程の頁を指し示した。そこには水系の魔術の呪文が記されている。

「これ読め。どうせおまえ、どんな呪文唱えていいかわかんねえだろ」

「ヨハン……ありがとう!」

 感極まって礼を述べると、ヨハンはふんとそっぽを向いた。

「バカな師匠を止めるのは弟子の役目だからな。時間稼ぎは俺とオスヴァルトでやるから、急げよ!」

 彼はオスヴァルトと短く打ち合わせをすると、再びレオナに向かっていった。

 ディルクは少し離れた場所で杖を構えた。今はヨハンたちを信じて自分ができることをするしかない。

(父さん、母さん、力を貸してくれ!)

 詠唱を始めようとしたところで、横からすっと本を取り上げられた。

「私が持ってるわ。そのほうがやりやすいでしょう?」

 ローザリンデだった。取り返そうと手を伸ばすが、彼女は上手にかわしてみせる。

 彼女の言うとおりではあったが、厚意を受け取ることは立場が許さない。

「こんなことしている場合じゃありません。早く逃げてください!」

「わかりました……って言うと思う?」

 ローザリンデは冗談めかした口調で続ける。

「逃げろと言われても逃げられない気持ち、あなたにもわかるでしょう?」

「それは……でもそれとこれとは……」

 つい先程、ほぼ同じやりとりをしたディルクは言いよどむ。

 ローザリンデは心持ち胸を張った。

「傷つけたくなくて……いいえ、自分が傷つきたくなくて遠ざけようとしたけど……あなたに気づかせてもらったことがあるの。私ひとりじゃ、たぶんできないこと」

 ローザリンデの紫の瞳に、揺るぎない決意が宿る。

「選びたいの。誰かが助かる道じゃなくて、みんなが助かる道を」

 その真摯な言葉にディルクは感じ入った。

 本来なら、ローザリンデの命は自分たちと同等に扱ってはいけないものだ。しかし今の局面においては誰が欠けても勝率は下がるだろう。彼女ひとりを逃がした先に待つのは、望まない未来かもしれない。はたしてそこに意味はあるのだろうか。

 ローザリンデは改めてディルクと向き合った。

「だから、一緒に戦ってくれる?」

「当然です。……僕はローザリンデ姫のための魔術士ですから」

 照れながらも力強く顎を引くディルクに、彼女はくすぐったそうに微笑した。

「ありがとう。……それじゃあ、お願い!」

 ローザリンデはディルクが読みやすいように本を持ち直した。ディルクも姿勢を正して詠唱を始める。

 唱え始めてすぐ、力ある言の葉におののいた。実に強い呪文だ。ディルクの詠唱に唱和するように、魔力が途方もなく大きく増幅していく。両手で杖を支え、両足で踏ん張っても、気を緩めた瞬間に振り落とされそうだ。

「ディルク」

 ローザリンデも杖に手を添え、支えとなった。その行為に励まされながら、ディルクは詠唱を続ける。

程なくして呪文は完成した。杖の先端から具現化した水流はたちどころに膨れ上がり、やがて巨大な渦を巻いた。

「……すごい……!」

 魔力を持たないローザリンデにも伝わるほどの波動の強さだった。びりびりとした振動に、ローザリンデの肌があわだつ。

 術者の支配から逃れようと暴れる魔力を、ディルクは半ば無理やり解き放った。

「行け!」

 自由を得た水流は、その勢いのまま突き進む。そして今まさにヨハンやオスヴァルトにかみつこうとしていた炎の竜を消し去り、その先にいるレオナへ矛先を向けた。

 レオナは驚愕の声を上げた。

「ディルク、だからあんたは……!」

 彼女は杖を掲げようとし――途中でやめた。指導者の顔つきで、ふっと口元に笑みを刻む。

 その表情を目にして、ヨハンが怪訝そうにする。

「バカ師匠……?」

「残念。詰めが甘いわよ」

 はかない笑顔を残して。

 レオナは水流に飲まれた。無防備に、あらがうことなく。

 その姿を目にして、ディルクはうつむいた。それしか方法がなかったとはいえ、割り切れない思いで杖を下ろす。魔術の制御が解け、水流は霧消した。

 途端、緊張が途切れてがくりと膝をついた。激しく上下するその背を、ローザリンデが心配そうに支える。

「大丈夫?」

「ええ、ありがとうございます……。行きましょう」

 ディルクはよろよろと立ち上がった。ふたりでヨハンたちのほうへ歩く。

「……おまえ、俺とオスヴァルトも攻撃対象にしただろ」

 やってきたディルクに、ヨハンがぽつりと言った。ディルクは目を泳がせる。

「ごめん。うまくできてない自覚はあったけど、どうすればいいかわからず……」

 言い訳を口にしてみたものの、ヨハンは責めているわけではないようだった。うつむいた彼の表情は、長い前髪に隠れて見えない。ただ声にかすかな震えがあった。

「……バカ師匠、俺たちに防御魔術かけたんだ。自分よりも優先してな」

「え……?」

「提案したのは俺だぜ。対策くらいちゃんと考えてるよ。……なのに、なんで今更こんなこと……!」

 ディルクは言葉を失った。

 様々な感情で胸が押しつぶされそうになっていると、オスヴァルトに優しく肩をたたかれた。

「気に病むんじゃない。君は、君自身が選んだ道のために、十分よくやったよ」

 それからオスヴァルトは倒れたレオナに視線を移した。ディルクは重い体を動かして彼女のそばに寄る。

 束の間、彼女は失神していたが、間もなく意識を取り戻した。咳きこんだあと、ぼんやりとした目の焦点をディルクに合わせる。

 彼女は清々したように言った。

「そんな顔しないで喜びなさいよ。父親の仇を討ったんだもの。紛れもなく、あんた自身の手で」

 そう言われても、自分がどんな顔をしているのかわからない。ただ喜びという感情はどこを探しても出てこなかった。

「……たぶん僕は、生きて償う道を選んでほしかったんです。……甘いでしょうか?」

 曖昧模糊とした感情を、とりあえず言葉にしてみる。それさえ本心なのかどうか自分でもわからない。単なる偽善のような気もする。

 レオナはディルクを見返しただけで、答えを返さなかった。ふうと息をついて、自分の言いたいことだけを話し始める。

「あんたさえいなければ夢はかなったのかしら。……なんて考えても詮ないことね。……それに、ごめんなさい」

 虚空を見つめながら、誰にとなくつぶやく。

「あたし、後悔してないのよ。……もう一度シュネーバルを食べたかったってこと以外はね。……我ながら食い意地張ってるわねえ……」

 彼女はよろよろと体を起こした。目当ての人物を見つけ、歩み寄る。

「兄様、どうか許してください……。誇りしか守れなかったあたしを……」

 弱々しく手を伸ばし、兄の頬に触れる。その感触に気づいたのか、ヴィンクラーは薄く目を開けた。乾いた唇がかすかに動いたが、その喉が震えることはなく、彼は静かに視界を閉ざした。

 やがてその体は炎に包まれた。

 燃やしているのだ。彼の全身に刻まれた赤い紋様が。一族の秘術を冒されないために。

 レオナの灰色の瞳から大粒の涙がこぼれる。

「……それだけは聞けません。お願いです。ひとつだけわがままを言わせて」

 無力な幼子が大人を頼るように、彼女は兄にすがった。炎の触手が彼女に及んでも離れない。

「ともに参ります。もうひとりは嫌。そばにいさせてください。ずっと、ずっと……」

「レオナ……」

「姫!」

 手を伸ばそうとしたローザリンデを、オスヴァルトが押しとどめた。彼女は悔しそうに歯がみする。

 引きとめることはできないと、この場の誰もが悟っていた。仮にできたとしても、救えるのは彼女の抜け殻だけだろうと。

 ディルクはレオナを無力化した。だが致命傷は負わせてはいなかった。これだけなら彼女が死ぬことはないはずだった。――秘術による負荷さえなければ。あるいは、彼女自身に生きる意志があれば。

 ヴィンクラーを抱いたまま、レオナはぴくりとも動かなくなった。

 彼女の瞳が兄以外を映すことは、もう二度とない。

 薄暗かった地下道は、ふたつの大きなともしびを得て、妙に明るくなっていた。

(本当にこれでよかったのかな……)

 最善は尽くせただろう。この結末を選んだのはふたりで、第三者にはどうしようもないことでもあった。なにより擁護しようがない罪を犯したのである。許せる日は永遠に訪れない。

 しかしそれでも、異なる結末を迎える手段はどこかにあったのではないか――そう思わずにはいられなかった。ゴルトベルクのように優秀な魔術士なら、この哀れな兄妹を救えたのだろうか。一族の秘術を守るため、助けを乞うこともできず、ただ死ぬしかなかったこの兄妹を。

 炎はあたかも幻影のように立ちのぼる。

 そうしてこの世から跡形もなく消え去るのだ。ヴィンクラー一族が命より大切にしてきた秘術――彼らの誇りが。

 ヨハンが落ちていたレオナの杖を拾い上げた。

「……これくらいは持ち帰ってやる。感謝しろよ、バカ師匠」

 ぽつりと吐きだされた声からは、無力感がうかがえた。

 その時、不意にぴしりと不吉な音がした。何事かと音の出所を探すと、壁に大きな亀裂が走っている。ヨハンがうめいた。

「やべえ、さっきの魔術でやられちまったか?」

 亀裂はたちまち大きくなり、頭上からは地響きのような音が聞こえ始めた。

「このままでは崩落します。急いで脱出を!」

 オスヴァルトが注意を促した直後、ローザリンデに向かって瓦礫が落ちてきた。

「きゃあっ!」

「危ない!」

 咄嗟にディルクは杖をかざす。だが魔術を展開させる前に、瓦礫は光の矢に射られるようにして霧消した。

「遅い。これでは盾として失格だぞ」

 驚いて術者を確認すると、兵士や魔術士を率いたゴルトベルクが現れた。

「ローザリンデ姫、お急ぎください。退路は我々が確保します」

「ゴルトベルク卿……助かりました」

 後ろ髪を引かれる様子を見せながら、ローザリンデはレオナたちに背を向けた。

 そうして走りだしたローザリンデを追いながら、少し離れた場所でディルクは一瞬だけ振り返ってみた。

 すでに崩壊を始めた瓦礫のせいで、ふたりの姿は完全に見えなくなっていた。

「なにをもたもたしている。巻き添えを食うつもりか!」

「す、すみません!」

 ゴルトベルクの怒声を浴びて、ディルクは慌てて脱出を再開した。

 精根尽き果てていたディルクたちにとって、ゴルトベルクの救援は幸いだった。

 時折崩れ落ちてくる瓦礫の対処はゴルトベルクたちに任せ、ディルクたちは最後の気力を振り絞って外を目指す。

 そうして出口にたどり着くと、外では松明のともしびがちらついていた。討伐隊だ。

 全員が脱出できたのを確認してから、ゴルトベルクはディルクに視線を移した。

「大口たたいたわりには時間がかかったな。見限るところだったぞ」

「……すみません」

「これではゴルトベルクの名折れだ。精進するがいい」

「はい……」

 殊勝に頭を下げながら、ディルクはこっそり苦笑した。これも彼なりの激励のような気がする。

 そんなゴルトベルクに向かって、ローザリンデは柳眉を逆立てた。

「助けてくれたことは感謝します。ですが、なぜ卿がここに? 陛下の護衛は?」

 ルードヴィング王国最高峰の魔術士は、片時も国王から離れない。それがわかっているから安心できるのである。それなのに肝心の国王を差し置いて出陣するとは。もしヴィンクラーの計略がうまくいっていたら一大事であった。

 ゴルトベルクは心外そうに反論した。

「姫は勘違いをされておられる。私は決して陛下のおそばを離れませんよ」

「なにをぬけぬけと……」

 なおも叱責を続けようとしたローザリンデは、馬で近づいてくる人物に気づき、眼を大きく見開いた。

 ディルクもその人物に目を止め、驚く。

 その人物は馬から降り、ローザリンデに向かって両腕を広げた。

「ローザリンデ」

 紛れもない、ルードヴィング王国国王フェリクスは、穏やかに娘の名を呼んだ。

 ローザリンデの涙腺が緩んだ。最初こそ躊躇していたが、我慢できなくなったように駆けだす。

「お父様!」

 その胸に勢いよく飛びこんできたローザリンデを、国王はしっかりと抱きとめた。

 オスヴァルトがからかうようにディルクの隣に立つ。

「陛下の前では形なしだな」

「なにが?」

「君の決死の覚悟」

 確かに惜しい役目を取られて残念ではある。だが国王の代わりを担うことはできないと理解してもいた。

「いいんだよ、これで。彼女、嬉しそうだから」

 夜のバラ園で泣いていた少女が、少しでも癒されてほしいと願う。

 背後では、ヨハンがぼんやりと地下道の入り口を見ていた。その手に握っているのはレオナの杖だ。

 ディルクの視線に気づいたヨハンは、むっと唇を曲げた。

「なに見てんだよ」

「いや……その杖、これからはヨハンが使うのかなって」

「ばか言うな。趣味じゃねえよ。こんなちゃらちゃらしたの」

 彼は華やかな装飾の施された杖を軽く振った。

「ま、品質がいいのは確かだしな。もったいねえから、俺が預かっといてやるよ」

「……それでいいんじゃないか。彼女も喜ぶだろうし。……僕にはもうできないことだから」

 ディルクにとっては仇の遺品だから、気軽に手に取ることはできない。しかしせめてヨハンだけは変わらず彼女の弟子でいてほしいと、そういう気持ちはあった。

 ヨハンはふんとそっぽを向いた。

「バカ師匠を喜ばすためじゃねえよ。……ったく、ああ疲れた。早く帰ろうぜ」

 ぶっきらぼうに言い捨てると、彼は地下道に背を向け、歩きだした。

 それに続こうとしたところで、国王たちを見守るようにしていたゴルトベルクが、静かに口を開いた。

「主君の冥暗を晴らす、暁への導き手たれ。……それが、我が一族の理念だ」

 なるほど、と思う。誇り高そうな彼を表すにふさわしい言葉だ。

「おまえも、よくよく胸に刻んでおけ」

 ディルクはすぐには答えず、頭巾の奥にあるはずの、自分と同じ榛色の瞳を見つめた。

 背負うには重い言葉である。

 だが、自分もそうありたいと感じた。

「はい。僕も目指します」

 うなずくと、ゴルトベルクがかすかに口角を上げたような気がした。

 東の空は夜闇が薄らぎ始めている。

 夜明けは近いようだ。



 その後、国王は自ら軍を率いてザイデル軍との戦闘を開始、見事勝利を収めた。

 英雄の変わらぬ武勇に自軍は湧き、敵軍は士気を下げた。

 そうして、ダールベルク侯爵家に仕えた魔術士一族ヴィンクラーが起こした事件は、完全に幕を閉じたのだった。

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