しあわせ日和
期末テストが近づき、部活の前に若菜ちゃんと勉強をしていると、
「二人とも、何してるですか?」
という声が聞こえて顔を上げると、心春ちゃんが不思議そうな顔で見ていました。
「テスト勉強だよ」
「期末テスト、再来週だろ?」
「そういえばそうですね」
そう答えた心春ちゃん。言外に、私は勉強するつもりはないですが、という意味が込められているような気がします。
「そうだ! 今週の日曜日、若菜ちゃんの家で勉強会するんだけど、心春ちゃんもどう?」
「ええ……」
予想通り、明らかに嫌そうな反応を示しました。
「そういえば、今回の数学のテスト、成績悪かったら補習って言ってたな。心春たちのクラスも担当の先生一緒だろ?」
「うっ……」
若菜ちゃんの言葉に、心春ちゃんの動きが固まりました。
「そうなると放課後居残りだから、練習出来なくなっちゃうね」
「ぐぬぬ……仕方ないですね。私も勉強会に参加させてもらうです」
「やったあ!」
勉強会とはいえ人数が多い方が楽しいし、苦手なところを教え合えるよね。楽しみだなぁ。
そして約束した日曜日。若菜ちゃんの家に着いてチャイムを鳴らしました。
「やっぱり和音が先か。入っていいよ」
「お邪魔しますー」
若菜ちゃんに案内されたのは、若菜ちゃんの部屋ではなくリビングでした。
「若菜ちゃんの部屋じゃないんだね」
「ああ、3人で勉強できる大きさのテーブルはここにしかないからな」
「そっか」
荷物を置くと、チャイムの音が聞こえました。玄関に行く若菜ちゃんを見送ると、程なくして心春ちゃんと一緒に戻って来ました。
「それじゃあ、みんな揃ったことだし勉強会始めるか」
「うん!」
「よろしくお願いするです」
こうして私たちは勉強を始めたのですが……
「飽きたです」
「早過ぎるだろ。まだ30分も経ってないぞ」
ごろりと寝転んだ心春ちゃんに、若菜ちゃんが声をかけました。
「そんなこと言われても知らないです」
二人が話していると男の子が通りかかって、
「何これ、ウーパールーパー?」
心春ちゃんのバッグに付いているキーホルダーを指差してそう言いました。
「これに目をつけるとは、若菜さんと違って見る目があるですね。これは『まほマギ』のキャラクターで、ウーパールーパーではないです。無害そうに見えるですが、物語の黒幕とも言える存在で――」
元気を取り戻した心春ちゃんが少し早口で説明を始めましたが、
「ふうん、変なの。姉ちゃん、出かけてくるね」
興味を示さずに立ち去ってしまいました。
「ああ、気をつけてな」
「……前言撤回です。やはり蛙の弟は蛙ですね」
「どういう意味だ?」
心春ちゃんと若菜ちゃんはにらみ合い、今にも喧嘩に発展しそうです。
「お、落ち着いて! 心春ちゃん、ここ教えて欲しいんだけど!」
慌てて二人の間に入り、問題集を広げます。
「英語ですか……これは、この構文を使うです。あとは、ここの単語の順番は注意が必要です」
「わかりやすい……! ありがとう、心春ちゃん!」
「こういう応用問題は間違いが多いので、多分テストにも出るですよ。先生のいやらしい魂胆がよく見えるです」
「それは流石に邪推だろ……」
二人とも落ち着いたみたい……良かった……。
「心春ちゃんって、英語が得意なの?」
「まあ、英語に限らず文系はできる方かと。理系はそれなりですね。文系は文章の中に答えがあることが多いので、比較的解きやすいですね」
「私は文系も理系も中途半端って感じだなぁ。若菜ちゃんは?」
「理系は割とできる方だけど、文系は苦手だな。数学って、基本的に答えが一つだろ? それが性に合ってるって感じがするんだよ」
「そうなんだ。みんなそれぞれ違うんだね」
ふと、テストも合唱みたいに、それぞれの得意な分野だけできればいいのに、なんて思ったりして。
「それにしても、やっぱりみんなで勉強すると楽しいね」
「そうですか? 一人でやるより効率は良いとは思いますが、勉強は楽しくないですね」
「私は弟たちのおかげで賑やかなのに慣れてるから、逆に静かだと落ち着かないし、良いと思うな」
知ってる人がいない高校に入って、こうやって休みの日に集まれる友だちができたのが、私は凄く嬉しいな……。
この縁がいつまでも続きますように……。