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異世界人と竜の姫  作者: アデュスタム
第8章 嵐の竜帝国
65/73

02 嵐の前に

 本年最後の投稿です。


 02 嵐の前に


 ・・・89日目・・・



 それから瞬く間に十日と一日が過ぎた。

 朝からどんよりとした曇り空。鉛色の低く分厚い雲が空を覆っている。今にも雨がふりだしそうな、そんな日。生暖かい風が身体に巻き付きとても不快なそんな日だった。

 相変わらずシオンベールは功助を避け続けていた。功助の姿を見かけただけで行き先を変えるほどに。

 だが功助も徐々に自分の心がわからなくなってきていた。シオンベールが自分を見つけ道をかえたりしてもあまり動揺しなくなってきていたのだ。


 午前の訓練を初めて間もなく、どんよりとした空から雨が落ちてきた。

「雨だから今日はここまで。あとは自主練ね」

 とシャリーナの雨嫌いだけで今日の訓練は自主訓練となり功助とミュゼリアは部屋に戻った。

 ザーザーという雨音を聞きながら自室のソファーに深くもたれてボーッとしている功助。

 ミュゼリアも珍しく功助から離れ壁の前の椅子に座り同じようにボーッとしている。

 その時窓をコツコツと叩く音に身体をビクッとさせる二人。

「…なんだ?」

「あっ、あれはユリアル様……」

 ミュゼリアが窓を開くとピョンと部屋の中に入ってくる白竜神ユリアル。

「ただいま!」

 と言って元気に入ってきたユリアル。

「うわぁもう嫌な雨だよ。びしょびしょになっちゃった」

 といってプルプル身体を震わせた。

「おいおい。ミュゼ」

「はい。ユリアル様お身体をふきましょう」

 ミュゼリアが大きめのタオルを持ってきてユリアルの身体を拭いた。

「ありがとうミュゼ」

 身体を拭いてもらったユリアルはうれしそうだ。

「それにしてもユリアル、久しぶりだな。どこ行ってたんだ?」

「竜界だよ。それよりねえミュゼ」

「はい、なんでしょうかユリアル様」

「いつもの飲みたいの。お願い」

「うふふ。はい、わかりました今ご用意いたします」


「ユリアル様、どうぞ」

 笑顔でユリアルの目の前にたっぷりと甘いミルクの入ったマグカップを置くミュゼリア。

「いっただきまーす!」

 ユリアルは小さな両手でマグカップを持つとゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。

「ふう、おいしかったぁ」

 満足そうにコトンとマグカップを置いたユリアル。

「ふふふ、口の周りが真っ白ですよユリアルさま。失礼しますね」

 それをミュゼリアがきれいに拭う。

「ありがとミュゼ」

 口を拭いてもらったユリアルはまた満足そうだ。

「ユリアル、お前なぁ、ミルクぐらい上手く飲めよな」

 と苦笑する功助。

「ふん、いいんだもーん。ミュゼが吹いてくれるんだもーん」

 とそっぽを向く。

「ほんとにもう……。ところでユリアル」

「なあに?」

「竜界に行ってたって?なにしに行ってたんだ?」

「ん?あれだよあれ、コースケが元の世界に戻る方法をもっかい聞いてきたんだよ大神竜様に」

「へ?でも方法ってお前が書いた古文書のとおりなんだろ?」

「うん。そうなんだけどね。あの古文書みたでしょ?虫喰いがあったでしょ?」

「あ、ああ。そうだったな。虫喰ってて読めなかったよな、なあミュゼ」

「はい。確か魔族の骸を使って還る方法について××月の中……なんとかってありました。なんて書いてあったのでしょう?」

「うん。それね’神満月の中夜この法成就せり’って書いてあったんだよ」

「どういうことなんだ?」

 と首を捻る功助。

「うん。四大魔族の骸とコースケの魔力と気を使ってコースケの元の世界との門を開くことができる日を示したんだ。つまり神満月の二十四時にしてねって」

「そうだったのか」

 と功助。

 だがミュゼリアはうかない顔でユリアルに尋ねた。

「あのユリアル様。神満月ってもしかしてあの大きな満月のことですよね?」

「うん、そうだよ。いつもの満月よりも大きくてとってもきれいでキラキラ光る特別な満月」

 となぜかドヤ顔のユリアル。

「あの、確か神満月って数十年に一度の……?」

「うん。そうだよ」

「でも、その神満月ですけど、こないだありました」

 とミュゼリア。

「うん。知ってるよ」

 とユリアル。

「なあ、その神満月って?」

「あ、はい。えーと、確かコースケ様がこちらの世界に召喚された日、えと、この白竜城で初めての日、その夜にとても大きくて綺麗な満月だったのを覚えていらっしゃいますか?」

「最初の日……?ああ、確かでっかい満月だったよな。覚えてるよ。元の世界の倍くらいでかかったから」

 とうんうん頷いた。

「その日が神満月だったんだよ」

 とユリアル。

「で、?」

 と功助が少し不安そうに尋ねた。

「そしてその神満月は約五十年に一度の特別な満月なんだ。魔力も強くなるからその日にコースケをこっちの世界に召喚したんだよ」

 とまたまたドヤ顔のユリアル。

「な、なあユリアル」

 と功助。

「もしかして魔族の骸を使って元の世界に戻ることができるのは、その神満月の夜ってことなのか?」

「そうだよ」

「「……」」

 無言で胸を張るユリアルを見る二人。

「そっかぁ……」

 と言うとソファーに力なくもたれる功助。

「コースケ様……」

 ミュゼリアも肩を落とし功助を見つめた。

「ん?そうそう、シオンから聞いたよ」

 とユリアル。

「……」

 ジロッとユリアルを見る功助。

「ボクたち神竜には五十年なんて瞬く間なんだけど、この世界の人たちにはとーっても長いんだってね。ごめんごめん」

 とニコニコ笑うユリアル。

「お前なあ……」

 ため息をつきどうしたものかと腕組みをする功助。

「だからね、竜界に行って他に方法はないのか調べてたんだ」

 竜界に戻ったユリアルは功助の帰還法をどうにかできないかと大神竜に聴いたのだ。すると大神竜は「できるぞ」と即答。

 神満月の後の二回の通常の満月の二十四時に四大魔族の骸と功助の魔力と気を注げば同じことができると聞かされた。ただし神満月の次の満月では異界の門が開く時間は一五秒、その後の一階は五秒だけ異界への門が開くのだと。だがその後は五十年後の神満月の日まで異界への門は閉ざされると聞かされた。

「それじゃ神満月の次の満月とその次の満月に異界への門が開くんだな」

「そうだよ。で、一回目の満月はこないだすんだから二回目の満月に儀式をすることができるよ」

 たった五秒だけだけどねとユリアル。

「そっか。ミュゼ」

「はい。えーと、次の満月は……」

 机の上の卓上カレンダーを手に取ると人差し指でトントンと日付を数える。

「コースケ様!明日です!神満月から二回目の普通の満月!」

「あ、明日……。き、急だな……」

「ですよね。でも明日儀式を行わないと五十年後ですよ帰還できるのは」

 すこし悲しそうなミュゼリア。

「あ、うん。仕方ない……か」

 功助はユリアルに儀式の方法を聞くとミュゼリアにバスティーアを呼んでもらい国王に拝謁を頼んだ。

「はい、わかりました。すぐにバスティーア様に知らせてきます!」

「うん、頼む。俺はシャリーナさんたちに知らせてくる」

 ミュゼリアが退室してすぐに功助も部屋を出た。

「あっ!ちょっと待ってよコースケ!」

 とユリアルが呼び止めてるのも聞かずに二人は部屋を出て行ったのだった。

「あ~ぁ。二人ともボクの話聞かずに行っちゃった。どうしよう」

 閉じたドアを見つめてため息をつくユリアルだった。


「あれ?俺どうして走ってるんだ?こんなに急いで……。儀式は明日のあとは五十年後だからか……。そんなに元の世界に還りたいのか俺……。でも……」

 功助は魔法師隊控室に向かいながら自問自答した。だが、答えは出なかった……。


「そ、そう……。五十年後かぁ……。五十年後なら仕方ないわね。もうちょっとダーリンと一緒にいられると思ったのに」

「はい。本当に残念です」

 あとたった一日で元の世界に戻らざるを得なくなったことを功助から聞いたシャリーナとラナーシア。

「……ダーリン……」

 シャリーナは功助を見つめると力なく微笑んだ。

「すみませんシャリーナさん」

 功助は軽く頭を下げた。

「それでコースケ隊長。元の世界のご家族の方には連絡されたのですか?」

「あ、いや、まだですが……」

「ならば早くお知らせした方がよろしいのでは?」

「そうですね。それじゃ今しようかな」

 そういうと懐からスマホを取り出して元の世界の自宅に電話した。

『はい、もしもし。功助、どうしたの?』

「あ、母さん、急にで悪いんだけど……」

 と急に帰還することになった旨を母の友紀に説明した。

『そうなの……。それは急ねえ。まあ、こっちはいつ戻ってきてもいいけど、そちらの方々にきちんと挨拶しなさいよ。とってもお世話になったんだからね』

「うん。わかってるよ。還る時間とか詳細が決まったらまた連絡するよ」

『わかったわ。それじゃくれぐれもみなさんによろしくと伝えといてね。特にルーちゃんにね』

「うん。それじゃ」

「あっ、ちょっと待って功助」

「何?」

「功助、悔い、無い?」

「……」

「まあいいわ。連絡待ってるからね」

「う、うん。それじゃ」

 と言って電話を切った。

「……。それじゃシャリーナさん。今から陛下に拝謁してきます」

「わかったわ。それじゃ…またあとで…」

 寂しそうに微笑むシャリーナ。功助はまたあとでと言って部屋を出て行った。

 功助が出て行ったドアを見つめていたシャリーナはくるっと回ってラナーシアの方を向く。そしてゆっくりとラナーシアに近づくと赤い髪の親友に抱き着いた。

「……ラナーシア……、ダーリンが……、ダーリンが……、うぅ……」

「シャリーナ隊長……」

 シャリーナはラナーシアの胸に顔をうずめると身体を震わせて無言で号泣した。外の雨はしとしとと降り続いていた。


「そうか。それは急だな」

 話を聞いたトパークス国王は残念そうに隣に座る王妃ルルサを見た。

「そうですね。コーちゃんがいなくなるだなんて……。とっても寂しいわあたし。せっかくシオンにいい人ができたと思ったのに……」

 少し目を潤ませるルルサ王妃。

「はい。すみません…」

 となぜか頭を下げる功助。

「だが仕方ない。次に帰還できるのが五十年後ではな。それにしても明日とはな」

 雨が降り続く窓の外を見るトパークス。

「そうねシオンが悲しむわ。コーちゃん、シオンにはもう言ったの?」

「いえ、まだです。このあとシオンの部屋に行こうかと思ってます」

「そう……」

 ルルサはとても寂しそうに瞳を閉じた。

「それから俺の母がみなさんにくれぐれもありがとうございましたと伝えてくれと申しておりました。特に王妃様に」

「うむ」

 一言のトパークス。

「あらあら、ユキちゃんがですか。もっと話がしたかったけど、仕方ないわよね。ねえコーちゃん、あたしからもユキちゃんと旦那さんに感謝をと伝えてくれるかしら?」

 ゼドンを討伐して数日後にトパークスとルルサ夫妻と功助の両親はスマホで歓談した。友紀とルルサは馬が合ったのだろう互いにユキちゃんルーちゃんと呼び合う仲になっていた。

「はい、わかりました」

 功助はそう言うとミュゼリアとともにシオンの部屋に向かった。


 シオンの部屋の前に立つ衛兵に入室の許可を取ると衛兵の一人が部屋の中に声をかけた。

「コースケ・アンドー様がお越しになられています」

「少しお待ちください」

 とライラの声。そして扉を開けるとそのライラが出てきたのだった。

「あ、あのライラ副侍女長……」

「姫様はただいまお取込み中です。御用がおありでしたらわたくしが代わりにお聞きいたします」

 と言ったライラの目は悲しそうだった。

「あの……」

「コースケ様、どのようなご用件でしょうか?」

 ライラが少し大きめの声を出した。

「……、仕方ないか。あの、ライラ副侍女長……」

 功助は明日の真夜中、元の世界に戻ることになってしまったことを説明した。

「……、あ、明日ですか……?」

 驚嘆を隠せないライラは胸の前で手を組むと深呼吸をし始めた。

「あのライラ副侍女長」

「あ、はい。申し訳ございませんコースケ様。姫様にはわたくしからきちんとお話させていただきます。ご安心ください」

 と一礼をする。

「あの……」

 功助が何かを言おうとしたがライラは功助の目をじっと見て言った。

「さあコースケ様、お引き取り願います」

「……」

 しばらく見つめ合っていた功助とライラだったが功助が小さくため息をついた。

「わかりました。ライラ副侍女長、シオンに、シオンによろしくお伝えください。さあ、ミュゼ、部屋に戻ろう」

「……はい……」

 二人は背を向けてシオンベールの部屋から離れて行った。

「……コースケ様……」

 功助を見送ったライラの目尻に一粒の涙が溜っていた。


 無言で廊下を進む功助とミュゼリア。相変わらず窓の外は雨が降っている。

「よく振るなあ雨」

「へ…?あ、はい。よく降りますね」

 立ち止まり窓の外を見る二人。遠くの方で稲妻が光り数秒後ゴロゴロという雷鳴が腹に響いた。


「あ、明日だと!」

「それはなんでも急すぎないかコースケ!」

 青の騎士団控室でベルクリットとハンスに帰還儀式のことを話すと二人とも椅子から立ち上がり驚いていた。

「すみません」

「あ、いや。お前が謝ることではないのだが……」

「ああ」

 功助の謝罪に苦笑する二人。

「そうか……。コースケ」

「はい」

「俺とミュゼリアの仲を取り持ってくれて感謝する。俺とミュゼリアの恩人だ」

「え、あはは。そんな感謝されるようなことは……」

 と功助。

「いや、改めて感謝する。コースケ、ありがとう」

 とベルクリットが頭を下げる。そしてその横まで行くとミュゼリアも頭をさげた。

「私からも感謝させていただきます。コースケ様ベルクリット様との仲を結んでいただきありがとうございました。それとゼドンからベルクリット様と兄上の命を助けていただき重ねて感謝いたします。ありがとうございました」

 うれしそうな、でもさびしそうなミュゼリアの笑顔に功助も微笑み返した。


「そうなんですかぁ、残念です。ほんと寂しくなります」

 と言って人差し指で目尻の涙を拭いたのは有翼人のフィリシアことフィルだ。

「ほんまにな。もっとコースケはんと男の話がしたかったで」

 とフィリシアの祖父、庭師のゼフも寂しそうだ。

「でもコースケはん。短い間だけやったけどいろいろ世話になったな。おおきにな」

「いえいえ、でもそんな風にいってもらえるとうれしいです」

 と笑う功助。

「コースケ様」

「ん?なんだフィル」

「私たちの事忘れないでくださいね」

「……。忘れるわけないぞ。大丈夫だ。それより俺のことも忘れないでくれよな」

「はい。当然忘れません!」

 と無理やり笑顔を作るフィリシア。


「訓練中失礼いたします」

 ミュゼリアがドアを開くと中では魔法師隊の隊員たちが自主練をしていた。

 ここは魔法師隊専用の室内訓練室だ。壁も床も天井もちょっとやそっとの魔法では傷一つつかないように頑丈に造られている部屋だ。

「お疲れさん」

 ミュゼリアの開けたドアを入った功助は全員に聞こえるよう大きな声をかけた。

「お疲れ様です!」

 隊員たちは大きな声で返礼する。

「みんな、訓練中悪いけどこっちに集まってくれるかな」

「はい」と元気な声を出すと全員功助の前に整列した。総勢五十人、シャリーナとラナーシア以外の魔法師全員が揃っていた。

「みんなに伝えなければならないことがある。俺は明日元の世界に還ることとなった」

「………え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 女性たちの絶叫が訓練室に木霊した。

「それは真なんですかコースケ隊長!」

 カレットが列から離れ功助の目の前まで行くと目を見開いて尋ねた。

「あ、ああ。本当だ」

 功助はその理由をわかりやすく説明した。

「そ、そんなぁ……。コーシュケ隊長とお別れしゅるなんてぇ。うぇーん」

 イリスがその場に女の子座りをするとポロポロと床に涙を落とした。

 イリスの号泣に他の隊員たちも感化され次々とその場に崩れるとおいおいと泣き始めた。

「……みんな……」

 目の前で泣いている魔法師たちを見渡し胸が熱くなる功助。ミュゼリアは功助の後ろでその光景を見て手の甲で目をこすっていた。

「みんな!泣いちゃダメ!コースケ隊長が一番お辛いんだから。だから、だから……、笑顔で元の世界に戻っていただきましょう」

 まっすぐにたちむせび泣く魔法師たちを叱咤激励したのはなんと真っ先に号泣したイリスだった。

 イリスは唇を噛みしめ流れる涙を無理やり止めると功助に向かい頭を下げた。

「コースケ隊長。短い間でしたがご指導ご鞭撻ありがとうございました!」

 と左胸に右拳を充てる敬礼をし次いで最敬礼するイリス。

「イリスに負けてられないわ!私もコースケ隊長に感謝してるんだから!ありがとうございましたコースケ隊長!」

「そ、そうじゃ!我も、我もコースケ隊長に感謝をせねば!」

「わたくしもコースケ隊長に」

「あたしも隊長に」「私も」「わたしも」「あたいも」「うちも」 と次々に魔法師たちが功助に敬礼をする。

「あ……、ありがとうみんな!俺は…、俺はいまとてもうれしい。みんなと別れるのは辛いけど、一人一人の笑顔は絶対に忘れないから。みんな、ありがとう!」

 功助も負けじと大きな声となり魔法師の隊員たちに感謝の言葉を叫んだ。


「魔法師の隊員さんたち、とても良い方ばかりでしたね」

「そうだな。みんないい娘ばかりだ。魔法師隊はこれからも安泰だぞミュゼ」

「はい。私もそう思います」

 訓練室から出た二人は次に向かったのは城下だった。

「こんちはマギーさん」

「ん?おお、コースケさんやないか。いらっしゃい」

「いらっしゃいませコースケ様」

 岬のかもめ亭のお上マギーと新人店員のコネットが二人を出迎えた。

 ちょうど昼時だが今日は朝からの強い雨のため店内は閑散としていた。

「はいよ」

 テーブルにお茶を置くマギー。

「ありがとうございます」

「で、今日はどないしたんや?こんな雨がよう降ってる日に来るやなんて」

 外はかなりの雨が降っていた。ほとんど本降りで時折雷まで光っていた。

「はい。実は俺……」

 マギーに明日の夜中に元の世界に戻ることを伝えた。

「……、そ、そうか……。寂しゅうなるなほんま。でもここはコースケさんの世界とちゃうもんな。ご両親もいはる元の世界に戻るんが正しいんやろな。よかったなコースケさん、自分の世界に戻れることになって」

 マギーの目は赤くなっている。が涙を流さないようマギーは目に力を入れる。

「もうちょっと時間あるか?」

 とマギー。

「あ、はい」

「そっか。そんなら最期に私のご飯食べてくれへんか。手によりをかけて作るさかい。頼むわコースケさん」

 とペコリと頭を下げるマギー。

「あっ、マギーさん、頭なんか下げないでください。ちょうど昼だし俺も最後にマギーさんの料理食べたいと思って来たんです。お昼、お願いします」

「そっか。よっしゃめっちゃおいしいの作るさかいな。コネット、手伝うてくれるか!」

「はい!喜んで!」

 二人は笑顔で厨房に入って行った。


「うまかったなやっぱり」

「はい。絶品という言葉がぴったりのお料理でした」

 岬のかもめ亭でマギーの料理を堪能した功助はミュゼリアとともに帰城の途中だ。

 相変わらず豪雨が降り続く道を、二人はレインコートと頭上に張った結界で雨をよけながら城へと戻る途中。

「あっ!あれ、あれを見てください!」

 ミュゼリアが指さした方を見ると増水した川の中を一人の男が流されていた。

 功助は飛翔の風魔法を使い激流で流されている男に近づくとその身体を持ち上げ岸まで運んだのだった。

「けほっけほっ!はあはあ、し、死ぬかと思った。げほげほっ。はあふうはあふう。ど、どなたか存じませんが助けていただきありがとうございました」

 男は感謝の言葉を功助に言うと大丈夫ですと言ってよろよろと帰っていった。

「コースケ様お疲れ様でした。助けられてよかったです」

 とうれしそうなミュゼリア。

「あ、うん。被害が増えなければいいけど」

 止むことなく降り続く大粒の雨を仰ぎ見て眉間を寄せる功助。


 帰城した功助とミュゼリアはこの白竜城で知り合った人たちに挨拶をしてまわった。

 侍女や侍従、第一第二のレストランからいつも食事を作ってくれた厨房、そしてなんと奴隷たち、おまけに城に住む子供たちにも挨拶をしてまわったのだった。

 そしてようやく自室に戻ったのは十八時ごろだった。

「雨、ましになったな」

「はい。でも暗いですね。時間的にはまだお日様が出てる時間なのに」

 二人で窓の外を見るとあれだけ強く振っていた雨も今はしとしとと降る程度となっていた。

「水害とか起こらないといいな」

 功助は心配そうに眼窩に拡がる城下を見下ろした。


 また来年、よろしくお願いいたします。投稿はいつもどおり土曜の17時を予定しています。

 よいお年をお迎えください。


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