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異世界人と竜の姫  作者: アデュスタム
第1章 フェンリル
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06 国王との会食

 06 国王との会食



 部屋に戻る途中、廊下の向こうからこちらに歩いてくる一団があった。二人の男が横に並び腰の前で一本の棒を握り歩いてくる。その無鉤には椅子に腰掛けたあのフログス伯爵が座っていた。

 ようするに人力車のようなものにフログス伯爵が載って近づいてきている。 それを重そうに二人の車夫が引っ張っているのだ。そしてその車夫はフログス伯爵のどれいだとミュゼリアは小さな声で功助に教える。

 もう一度車夫を見た功助は二人の男の目がどんよりとしているのが気になった。ミュゼリアによるとフログス伯爵は特に奴隷の扱が酷いのだと言う。それよりこの世界には奴隷制度があるのだとプチショックを受ける功助。

 そしてその周りには屈強な男たちが数人伯爵を囲みのそのそと歩いてくる。よく見るとフログス伯爵はずぶ濡れだった。

「くそっ。誰だこのワシに水をぶっかけて逃げおった奴は。捜しだして目をくりぬいて耳をそぎ落としてやるわ」

 ぶつぶつと文句を言いながらどんどん近づいてくる。正面にいるのにフログス伯爵は二人に気付いてないようだ。これは大丈夫かとすれ違おうとしたとき。

「ん?グワハハ。なんだ、誰かと思えばまんまと城に入り込んだドブネズミではないか。まだ城内におったのか。早々に立ち去ればよいものを。命は惜しくないようだなお前」

 ミミズのような目の奥には鈍い光が功助を貫く。が、あまりに目が細くてわかりにくいのだが。功助とミュゼリアはさっきあの水球をかぶったのはこいつだったのかと笑いをこらえるのに必死だった。

 ミュゼリアの方は口の端がヒクヒクしていた。彼女も笑いをこらえるのに必死なようだ。

 しかし伯爵は二人が黙っているのが恐怖からだと思っているようだ。

「ぐはははは。フログスの力を見てるがよいわ。お前のような輩はひとたまりもないであろう。ぐわっはははは。へっくしょい」

 鼻水が垂れた。非常に醜いものを見てしまった。しかし功助も必死に笑いをこらえている。ここで笑ってはいけないと思うと少し肩が震えてしまう。ミュゼリアは俯いて両手で顔を覆っている。フログス伯爵にはまるで恐怖を隠しているようにみえたのだろう。

「ぐわははははは。恐怖すればよい。ぐわははは」

 といって去っていった。フログス伯爵が笑った時に腹の死亡がグラングランと揺れていたのを二人は笑いをこらえて見ていた。

「わははははは。いーっひひひ」

「うふふふふ。あはははははは」

 フログス伯爵が見えなくなると二人は腹をかかえて爆笑した。それはもうミュゼリアは涙を流し、功助はぜぇぜぇと呼吸困難になるほど爆笑した。

 二人が廊下を笑いながら歩いているとすれ違う侍女や兵士が奇異な視線を向けてくるが二人たちの笑いはとまらなかった。

「ミュゼリア。はしたないですよ。自重しなさい」

 突然後ろから聞こえた声に振り向くと、そこにはブルーの瞳、銀髪に赤いカチューシャをつけた侍女が腰に手をあてて立っていた。

 功助はどこかで見かけた気がするけど、誰だったかと考えていると。

「あっ、侍女長」

 ミュゼが口に手をあてながら半歩後退った。

 そうだ侍女長だと思い出す功助。あの部屋にお茶を運んできた熱い侍女だと思い出したのだが、名前はなんて言ったのか。そう思っていると功助の方に向き直り腰に当てていた手もおろした。

「コースケ様。白竜城にご滞在されるとのこと。しばらくの間よろしくお願いいたします」

 といって深々と一礼した。

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」

 と返礼したがそんなことはしなくてもかまいませんと苦笑する侍女長。

「ところでミュゼリア。大きな声で笑うとはほんとはしたないですよ。侍女たるものいつも沈着冷静で主にお仕えしお支えするのが務めです。それを忘れてはいけません」

「も、申し訳ございませんミーシェスカ侍女長。少しはしたなかったです」

「わかればよろしい。ところでミュゼリア、このようなところで何をしているのですか?」

「はい。コースケ様とともに姫様に拝謁させていただいた帰りです。コースケ様の自室へ会食の準備をしに戻るところです」

「そうでしたか。コースケ様、お引止めしてしまい申し訳ございませんでした。ミュゼリア、そそうのないようにお仕えしなさい。ではコースケ様失礼いたします」

 といって立ち去っていった。

 そして功助とミュゼリアは部屋に戻り会食に出席する準備をした。


 それほど広くないテーブルの端には白竜城国王トパークス・ティー・アスタットが、その横の角には王妃ルルサ・ティー・アスタットが座りたわいのない雑談をしている。

 そして王妃の向かいには功助が座っているのだ。それとなぜか功助の右側と王妃の左側にも食事の準備はしてあるがまだそこに座る人物はきていない。王族の誰かがくるのだろうと推測するも国王夫婦には一人娘のシオンがいるだけだ。それならば貴族だろうかと思うがそうではないらしい。

「そのうちおわかりになりますよ」

 と微笑する王妃。

 食堂の中には三人の他に数人の侍女と護衛の騎士がいる。国王の後ろの壁にはあの金色の鎧を身に着けた騎士が二人立っており、王妃の後ろの方の壁にも銀色の鎧をつけた騎士が立っている。

 功助の後ろには給仕係なのだろう緑のカチューシャをつけた侍女が、国王夫婦の後ろには赤いカチューシャの侍女がたっている。

 このカチューシャとエプロンドレスの色によって役職が決まっている。

 濃紺のエプロンドレスと赤いカチューシャは侍女長と副侍女長、黒いエプロンドレスと赤いカチューシャは各班班長、黒いエプロンドレスと緑のカチューシャはそれ以外の侍女となる。

 功助の後ろの侍女は一般の侍女で国王夫婦の後ろの侍女は黒いエプロンドレスなので班長なのだとわかる。

 テーブルの右の方は不自然なスペースがある。そのスペースは3メートル四方ほどあり壁にはカーテンが下がっている。

 キョロキョロしている功助の右側に「失礼いたします」と椅子をひいて誰かが座った。それと同時に王妃の左側にも誰かが座り頭を下げている。なので二人とも顔は見えない。王妃の隣はどうやら男性のようだ。功助の横は声からして女性だということはわかった。

 功助はなんかジロジロ見るのは失礼にあたりそうで見たいけど見れない。まったくもどかしい。そう思っていると横から声がかけられた。

「コースケ様。どうですかこれ。おしゃれしてきたんですよ」

 と。

「えっ?」

 その声に右を見ると薄紫の瞳と視線がぶつかった。

「ど、どこかで見たような…。あ、あの、どちらさまで…」

 と聞くと

「え…?!わ、わ、わからないんですか!?私ですよ私」

 といって自分を指差し功助の顔を覗き込む。

「私と言われて…も……。も、もしかして…ミュゼ?」

「そうですよ。コースケ様専属侍女のミュゼリア・デルフレックですよ。よかった。わかってもらえました?わかってもらえなければどうしようかと思いましたよ」

 と口に手を当てて笑っている。が、少し目が怖かったりする。少しあせる功助。

 そしてもう一度よく見る。薄紫の瞳は少し垂れ気味、肩までの水色の髪は今は結い上げられ白い項が少しまぶしい。

「でも、なんで侍女のミュゼがここに座っているんだ?」

「それは俺から話そうか」

 と国王陛下。

「いえ、わたくしに説明させてください。ね」

 と横から王妃が国王に願いでた。

「ん? あ、ああまあいいが」

「はい。それではわたくしが説明しますねコースケ様」

「えっ、は、はい。お願いします。で、でも俺ごときに敬称は…」

「あら、そう。んじゃコーちゃんで」

「コ、コーちゃんって…」

 か、軽い、軽い王妃様だ。なんか汗でてきた。と、功助は心の中で苦笑する。

「いいじゃない。ねえコーちゃん」

「は、はあ、まあいいですけど。コーちゃんなんて呼ばれたの子供の時以来で…」

 頭をかく功助に王妃は口に手を当ててクスクス笑っている。

「はい。コーちゃん。なぜ侍女があたしたちの食事に同席してるかってことよね。それが聞きたいのね」

「はい」

 王妃の一人称が’わたくし’から’あたし’に変わった。

「あたしたちの子供って娘のシオンだけというのは知ってるわね。今は竜になって少し幼くなってしまっているけど元来は人見知りするおとなしい娘なのよ。あまりに人見知りするからこれじゃいけないと旦那と話してさ」

「旦那…?」

「あら、変かしら?あたしの主人のことよ」

「おいおいルー、旦那ってのはなあ。その呼び方は…」

「何ですのあなた。旦那がダメなら’お父さん’って呼びましょうか」

 あ、いや、旦那でいいです」

 どこでも奥さんってのは強いんだなと改めて感じる功助。

「でねコーちゃん」

「は、はい」

「旦那とね、どうにかしてシオンの人見知りを治せないかと考えたのよね。いろいろ考えてみたんだけど食事の時に誰かを呼んでみたらどうかと思ってね。それで始めたんだけど。確か一番最初に頼んだのは家令のバスティーアさん。でも彼ってさ堅物なのよねえ。私が陛下ご一家と同席することはできかねますの一点張り。何度か説得したけど結局断られてしまったのよ」

 当時を思い出したのだろう王妃は少し肩をすくめた。

 「なんかわかります。バスティーアさんってそんな気がします」

 そうでしょうと王妃。

「それで次に頼んだのは副侍女長のライラさん。その前に侍女長のミーシェスカさんにしようと思ったんだけど彼女もバスティーアさんと同じ堅物でしょ。だからライラさんにどうですかって聞いたんだけどライラさんからも断られたのよ。まあ、ライラさんはシオンの専属侍女なので代わり映えしないしね。で、次に少しでもシオンと歳が近い人はいないかと思ったらいたのよね。ね、ポーラさん」

「は、はい」

 食事の準備をしているポーラは急に王妃に声をかけられ少し驚いていた。どうやら彼女は猫の亜人のようだった。その頭からは三角の耳がピョコンと出ていた。黒いエプロンドレスに赤いカチューシャをつけた班長だ。

「ね、ポーラさん」

「は、はい。とても楽しいひと時を過ごさせていただきました。私にとって最高で一番の思い出の食事となりました」

 ポーラは微笑むと王妃に侍女の礼をした。

「うふっ。うれしいこと言ってくれるじゃないポーラさん。ありがとう。でね、ポーラさんと一緒に食べ始めたらさ、シオンったらよくしゃべるのよ。うれしくなってさあたしたち。まあ、しゃべると言ってもあたしみたいなんじゃないけれどね。それからよ使用人に食事を一緒に採ってもらうようになったのは」

「そうだったんですか。理解しました」

「でもね、使用人以外だとダメだったのよ。侯爵とか伯爵とかの貴族を呼んだ時にはまったく話ができなかったの。それどころか食事の途中で退席したのよ。これにはもうびっくりしたわ。まあその時の参加があのガマガエ…っじゃなかったグァマ・フログス伯爵だったけどね。それ以来使用人だけに来てもらってるの。一人か二人、多くても三人の使用人と一緒に食事を採るようになったのよ、わかったかしら?」

「いろいろ大変だったんですね。ご苦労を察します。それで今日はミュゼと、えーとそちらの方は?」

「えっ、自分のこと忘れてしまわれたんですかコースケ殿」

「えっ、えーとえーと。あっ、確か青い竜の、えーとえーと名前はえーと…」

「ハンスです。ハンス・デルフレック」

「あっ、そうそう。ハンスさんだハンスさん…?あれ?デルフレック…?」

「ははは、そうです。ミュゼリア・デルフレックは自分の妹です」

「妹…さん」

「はい、そうですよコースケ様。兄妹そろってこの白竜城でお世話になってます」

「へえ。兄妹なんだ。そういえば二人とも薄紫の瞳だ」

「コースケ殿の専属侍女として我が妹ミュゼリアが選ばれたと聞かされた時は大丈夫かと思いましたが、なんとかやれているようですね。さきほどコースケ殿の人となりをミュゼリアからお聞きいたしましたがなかなか良きお方のようだ。よかったなミュゼリア、真摯にお仕えするのだぞ」

「はい兄上」

 ハンスは、なんでも妹におおせつけくださいと頭を下げたがどうしていいかよくわからない功助。

「あっ、は、はい。よろしくお願いします」

 と頭を下げた。ミュゼから頭なんか下げなくてもいいんですよとまた注意されてしまう。慣れるのかと少し心配になったようだ。

「さて、自己紹介も済んだことだしそろそろ食事にしようか。ポーラ、初めてくれ」

「はい。かしこまりました」


 ポーラは他の侍女を支持し次々とテーブルの上に料理の皿を並べていった。

 食事はなごやかに進んでいった。朝からほとんど何も食べてなかった功助は出されたものをうまいうまいとすべて胃の中に収めていった。とにかくうまい飯だ、元の世界の有名レストランのように。しかし有名レストランで食べたことはないのを思い出して心の中で一人ツッコミをしていた。

 そして国王が王妃に「そろそろいいか」と言って不自然なスペースの右側奥のカーテンを開けるように侍女に言った。

 カーテンが開くと透明な窓が現れた。窓の向こうにはそれに顔を押し付け変な顔になっている黄金の竜シオンベールの顔があった。

 国王と王妃は腹をかかえ爆笑している。ミュゼも大笑いをしているがさすがにハンスは無表情をしていたが口の端や瞼がヒクヒクしていた。そして功助もひしゃげた顔のシオンを見て爆笑していた、

「シ、シオン。…窓に顔を押し付けて間抜けな顔になってるぞ」

 功助が笑いながら教えるがシオンの顔はつぶれたままだった。

 周りを見ると使用人たちも口に手を当てていたり俯いて肩を震わせていたりとなかなかのパフォーマンスをシオンベールは披露してくれている。しかしとうのシオンベールは早く開けろと下で窓をペシペシ叩いていた。

「だ、だ、誰か窓を開けてやってくれ」

 笑いながらも国王は支持をだし窓は大きく開けられた。

 にゅうっと入ってくる大きな顔。その顔はテーブルを飛び越し功助の前までくるとその長い舌で顔を舐めた。

「ははははは。くすぐったいぞシオン。わ、わかったわかった。笑ってすまなかったって。なあ。ははは」

 功助とシオンベールのやり取りを見ていた部屋の中にいた人全員が楽しそうに笑った。

 そのあと会食は和気藹々に進んでいった。

 そしてゆったりとしたお茶の時間となり紅茶らしきものが運ばれてきた。そして国王がおもむろに口を開いた。

「さてコースケ殿」

「は、はい」

「コースケ殿はこの世界の人族ではないと思っているのだが真か?」

 アイスブルーの瞳が功助を見る。それを見返す功助。

「は、はい。そうだと思います」

「して、コースケ殿はどこから来たのだ?」

 功助はこれまでのことを話した。

 仕事から帰宅し突然あの草原にいたこと、そしてシオンベールに出会って追いかけられたこと。そして傷を癒したことを話しした。功助を心配し首を伸ばし頬を舐めるシオンベール。その鼻先をやさしく功助が撫でるとまた頬を舐めるシオンベール。

「そうであったか。さぞ狼狽したのであろうな。異国の地で、というより異なる世界で知人もなく単身で放り出され」

 と国王。

「はい。でもいろいろと考える時間もなくシオンに追いかけられましたから。そのおかげでこうやってみなさんに会えて幸運だったと思います」

「ピギャッ」

 といってシオンベールがまた功助の顔を舐めた。

「それで国王陛下にお願いがあります。先ほど謁見の間でした二つめのお願いなんですが」

「うむ。あそこでは話せぬことのようだったな。で、なんだ?」

「はい。謁見の間に行く前に案内された部屋で掃除の…、じゃなく清掃の男性とお会いしたんですが、その方から常法をいただいたんです」

 と言うと国王の目が泳いだように見えた。周りを見るとみんななぜか口に手を当てたり天井の方を見たり。

 変に思い、「どうしたんですか?」と尋ねた。

「そのまま続けて」

 と王妃。

「は、はい。その方が言うにはかつてこの世界にも異世界の人間が来たらしいと、それについての文献がこの城の図書塔にあるらしいんですが。国王陛下に聞いてみたら見せてもらえるんじゃないかと言われまして」

「そ、そうか。掃除の者がそんなことを言ったのか。うむ」

「あるんでしょうかこの城の図書塔に。あればぜひ見せてください。元の世界に帰れる手がかりがあるかもしれないので」

「わかった。しかし閲覧には少し時間がかかる。国王といえどそのような書物の閲覧は手続きがかかるのでな。またそのような文献が存在しているかどうかもわからぬが調べさせよう」

「そうですか、ありがとうございます。わかりました。よろしくお願いします」

 深々と頭を下げる功助。

「それともうひとつお聞きしたいことがあるんですがよろしいでしょうか?」

「なんだ言ってみろ」

「はい。これもまた清掃の方に聞いたんですが、俺の魔力でシオンを助けることができるらしいんですがどうすれば助けられるのかと。それも国王陛下に聞いてみればと言われまして。なんか俺の魔力は大きいからどうにかなるかもと言われました」

 すると王妃が勢いよく国王陛下の方を見た。

「あなた、まさかあの方法を使おうとしているんじゃありません!」

 怒気をはらんだ王妃の言葉が国王に向けられた。

「ああ、できるかもしれんのでな」

「あなたはコーちゃんをっ!」

 二人のやり取りを見ていた功助は少しおろおろしている。

「あ、あの。どうしたんですか?なあミュゼ」

「い、いえ。私にもわからないです。すみません」

 ハンスの方を見ると彼もすまなさそうに小さく頭を振る。どうやらあの二人にしかわからないことのようだ。

「コースケ殿。その話はまた後日ということにしてもらえぬか」

「は、はい」

 そういうと国王は食堂から退室した。残された功助たちはなぜかわからずうろたえるだけだった。

 退室する国王の背中を見送った王妃は、功助と目を合わせた。

「コーちゃん。詳しくは陛下からあるでしょうからあたしからは何も言わないわ。でも、コーちゃんあなたはこの世界の人じゃない、元の世界に戻れるように努力して。あたしたちも共力は惜しまないわ。シオンだって我慢してくれると信じてる。だからあなたの魔力はあなたのもの、元の世界に戻るためのもの。わかった?」

「え、はい。でもなんで俺の魔力の…」

「何も言わないで。そして何も考えないで。元の世界に戻ることだけを考えて。ね、コーちゃんお願い」

 王妃はわざわざ席を離れ功助の横まで来るとその手を強く握って自分のことだけを考えてと何度も言った。功助はただただ頷くしかなかった。

 食堂でのことを不可解に思いながらもミュゼリアに案内され自室に戻り風呂に入る。元の世界とあまり変わらない入浴法だったがミュゼリアが「お背中をお流しします」と言って入ってきたのに驚く功助。’さすがは異世界’と納得はしたが丁重に断った。少しミュゼリアが寂しそうにしてたのは見なかったことにした。しかし、ちょっと惜しかったかなと思うのだった。


「コースケ様どうぞ。冷たいお水です」

 風呂から上がるとミュゼリアがキンキンに冷えた水を差し出した。

「うわっ冷たい。もしかして冷蔵庫とかあるの?」

「レエゾオコ?なんですかそれ?」

「あ、いや、気にしないで。それよりこの水とても冷たいけどどこで冷やしたの?」

「はい?あっ、お水ですか?これは私の風魔法で冷やしたんです」

「へえ、すごいな異世界」

 と驚く功助。

 功助は冷たい水を飲ながら窓に近寄った。

「ガラスなんだ」

 ほぼ透明のガラスに少し驚くがそれよりも夜の空に浮かぶ大きな月に驚いた。

「でっかい月だなあ。元の世界の倍はあるかも」

「今日は何年かに一度の極めて珍しい満月なんですよ」

「そうなんだ」

 功助は異世界の夜空に輝く巨大な満月を見上げ残った水を一気に飲み干した。

 そして異世界最初の日は終わり、ふかふかのベッドで眠りについた。いろいろなことはまた明日にしようと考えながら。


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