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異世界人と竜の姫  作者: アデュスタム
第1章 フェンリル
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05 専属侍女

 05 専属侍女



 バスティーアに連れられ謁見の間を出た功助は先ほどとは違う部屋にいた。

 今日からここが功助の部屋になるらしい。

 最初に通された部屋よりかなり広く、大きな窓からは遠くの山々がよく見える。空は淡い紺色となっていてもうすぐ星が輝く時間になりそうだ。

「もうこんな時間になっていたのか」

  呟く声にバスティーアがうやうやしく一礼する。

「お疲れ様でしたコースケ様。少しの間ソファーに掛けてお待ちください。侍女を連れてまいります」

 と部屋を出て行こうとした。

「あっ、ちょっと待ってください」

「はい、なんでしょうか?」

「あの、黄金の竜…じゃなかった姫様はどうしているんですか?さっきの謁見の間でしたっけ、そこにもいなかったし」

「姫様でございますか?姫様は今は自室におられます。といっても人化時の部屋ではなく竜化時の大きな部屋におられます」

「そうですか。あのぅ、会えますか?」

「はい。今からでもお会いになることは可能です。お会いになられますか?」

「はい。できればお願いします」

「わかりました。それでは少しお待ちください」

 バスティーアはそう言って一礼すると部屋を出て行った。

 待つことしばし、ドアをノックする音がした。

「はい」

「失礼いたします」

 そう言って入ってきたのは侍女を連れたバスティーアだった。

「コースケ様。紹介いたします。ここにいるのがコースケ様専属の侍女です。さ、自己紹介しなさい」

「はい」

 といって侍女は一歩前に出た。

 水色の髪には緑色のカチューシャをつけ、薄紫の瞳は少し垂れ気味のその侍女はスカートを少し摘み一礼し笑顔を向けた。

「はじめましてコースケ・アンドー様。コースケ様の専属侍女を拝命いたしましたミュゼリア・デルフレックと申します。全身全霊を持ってコースケ様にお仕えさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます」

 そう言うとまた一礼した。

「は、はい。あ、あの…安藤…じゃない、コースケ・アンドーです。こちらこそよろしくお願いします」

 一礼を返す功助。しかしバスティーアがそのようなことはしなくてもかまいませんよと少し苦笑気味だった。

「それではミュゼリア。コースケ様はシオンベール王女様にお会いになられたいとのこと。案内さしあげてください」

「はい、わかりましたバスティーア様。さ、コースケ様おいでください。私がシオンベール王女様のところまでご案内させていただきます」

「あ、お願いします」

 そうして功助は専属侍女のミュゼリアについて部屋を出た。

 しばらく無言で歩いてたが、いくつかの角を曲がったとこでミュゼリアが話かけてきた。

「コースケ様」

「は、はい、何ですかミュ、ミュゼリアさん」

「私のことはミュゼリアもしくはミュゼとお呼びください」

 功助の方を見て少し苦笑するミュゼリア。

「あ、はい。ミュゼリアさん」

「敬称もいりませんよコースケ様」

 そう言って口に手を当ててクスクス笑っている。

「あ、ああ。でもなんか言いにくいな」

「なぜですかぁ?」

「少し首を傾けて目を見る。

「俺の故郷では会ったばかりの人を呼び捨てにすることはあまりないんで」

「へえ、そうなんですか。でも私のことは気にせずにミュゼリアもしくはミュゼとお呼びください。できればミュゼで」

 最後は小さな声になったが聞き取れた。

「ああ、えーと、コホン。で、なんですかミュ、ミュ、…ミュゼ」

「へ?」

「いや、さっき俺のこと呼んだでしょ」

「あ、ああ。そうそう。いいですか少しお聞きしたいことがありまして」

「あ、はい。いいですよ。なんでも聞いてください」

「はい、ありがとうございます。その前に私に敬語などは必要ありませんので普通にお話ください」

「あ、はい。わかりました。じゃなくわかったよ」

「はい。ありがとうございます」

 少し会釈するミュゼリア。なんとなくうれしそうだ。

「それでですねコースケ様。コースケ様はどのような魔法をお使いになられるんですか?」

「へ?魔法?いや、それがその…。さっきも俺の魔力…だったかな、それが強いらしいことを言われたんだけど、俺には実感がなくて。俺の魔力ってそんなに強いのかなあ」

「う、嘘でしょ。そんなに大きな魔力なのに実感がないなんて。うわあ」

 口に手を当てて功助の方を大きな目で見るミュゼリア。

「なんだその’うわあ’ってのは’うわあ’ってのは」

 苦笑する功助。

 そして功助はまたミュゼリアの先導でシオンベールの部屋に向かうため歩き始めた。

「ははは、いえ。気、気にしないでください。ははは」

「まあいいけど」

「あの、バスティーア様がおっしゃられてたのですが、コースケ様ってここの世界の人族じゃなぃって本当ですか?こことは違う世界からこられたって…」

「えっ?そ、そんなことをバスティーアさんが…」

「はい。なので魔力も桁違いに強いのだともおっしゃられてました。私もそう思いますよ」

「うーん……(まったく自分ではわからないのにみんなよくわかるよな。バスティーアさんにミュゼ、そうそう掃除のおっちゃんも。わからないのは俺くらいか。いや、あのガマガエルもわからなかったみたいだけど)」

 魔力があるとしてどうするのか。掃除のおっちゃんは功助の魔力で王女を助けられると言っていたのを思い出すが、どうすればいいのか。

 腕を組み眉間に皺を寄せて考える功助。

「も、申し訳ございません。お聞きすることではなかったようです。本当にすみません」

 立ち止まり功助に向かい深々と頭を下げるミュゼリア。それを見た功助はやっぱりオロオロしてしまった。

「い、いやミュゼは悪くないよほんと。少し考え事してただけだからそんなに謝らないで」

「しかし…」

「ほんとだって、な、だから頭を上げて」

「そ、そうですか。すみません」

 といって一礼した。

「掃除のおっちゃんにさ」

「はい?」

「二度目に待ってた部屋に掃除のおっちゃんが入ってきてさ、掃除手伝わされたんだけどね」

「えっ?も、もしかしてその方って金髪ではなかったですか…」

「ああそうだったよ。それにくたびれた帽子と服で、確かブルーの目でボサボサの金髪のおっちゃんだったよ」

「……」

 口に手を当ててなんか目が泳いでるように見えるミュゼリア。

「どうしたんだミュゼ?」

 ミュゼリアの顔を覗き込むとはっとなって半歩後ろに下がった。

「す、すみません。そそそそそれでその掃除の方は…」

「うん。そのおっちゃんが俺の魔力なら姫様を助けられるかもって言ってたんだけど、どうしたら助けられるのかなって考えてたんだ」

「そそそそそそうですか…」

「どうしたんだ? 掃除のおっちゃんがどうかしたのか?」

「い、いえ、だだ大丈夫ですよ。はい。はは早く行きましょう。姫様がお待ちだと思いますので」

 といって前を向いて歩き出した。ただ右足と右手が同時に前に出てたが。

 そしていくつもの長い廊下を通りいくつもの角を曲がりいくつもの階段を昇降しようやく大きな扉の前に着いた。

 その扉の両側には青色の鎧を身に着けた兵士が微動だにせず立っていた。まるで置物のようだと思った瞬間ギロッと睨まれ背中に一筋汗が流れた。

「コースケ・アンドー様をお連れいたしました。シオンベール王女様に拝謁ご希望でございます」

 深々と一礼するミュゼ。

「うむ。ハイデス殿から連絡がきておりシオンベール王女様の許可もいただいておる。中へ入られよ」

 そして閉じた扉に向かって「コースケ・アンドー様ご入室」と叫びその大きな扉を両側へ静かに開いた。


 扉が大きく開き二人は中に入った。入ったとたん目の前には大きな口があった。

「わっ!」

「キャッ!」

 同時に一歩後ろに下がる功助とミュゼリア。

「び、びっくりした」

 目の前にはあの黄の竜の顔があった。

「ひさしぶり。まだ数時間しかたってないけどな」

 功助が苦笑しながらそういうと竜もピギャピギャとうれしそうだ。そしてその大きな口から長い舌を出して頬をペロペロ舐めだした。

「わっわっ、おいこらそんなに舐めるなよ」

 はははと笑う功助、ピギャピギャと笑う黄金の竜。横を見るとミュゼも口に手を当てて笑っている。

 そして唐突に思い出した。この黄の竜はこの国の王女様だということを。王女様相手にこの態度はないんじゃないかと直立不動になる功助。

「あ、あの…。す、すみません。お前、じゃないあなたはこの国の王女様だったんですね。ここここれまでの無礼お許しください。え、えーと…、そうそう、シオンベール王女様」

 といって頭を下げようとするとその鼻先が功助の顎を持ち上げた。そして目をじっと見るとピギャと一声泣いた。

 続けてピギャパーギャピピーギャと竜語でしゃべっている。

 竜の言葉がわからない功助は隣で両膝をついて頭を下げているミュゼに尋ねた。

「はい。姫様はこうおおせです。姫様はコースケ様だけには頭を下げて欲しくないとのことです。これまでどおり接して欲しい、普通に話してほしい。それと姫様はシオンと呼んで欲しいとおっしゃられてます」

「い、いや、でも…」

 竜をじっと見る。竜も目をじっと見かえす。

「わかったよ。これまで通りでいいんだなシオン」

「パギャーーーッ!!」

 といって功助にその大きな口を近づけると…パクッ……口の中におさめられてしまった。

「わぁーーーっ!!ココココココースケ様ぁぁああ!!ちょちょちょちょっと姫様ぁぁああ、コースケ様を食べちゃダメですよぉぉ!早く吐き出してくださぁぁぁい!」

 おろおろしてシオンベールの口を叩くミュゼ。本来なら一国の王女を叩くなどと無礼千万、不敬罪で手討ちにされても文句は言えないだろうがそんなことは今は関係ないと必死に叩いて功助を助けようとしている。

「ピギャ?」

 と鳴いて……目を見開いてガバッと口を開けた。その口の中からヘニャヘニャとずり落ちる功助。

「コースケ様ぁ!大丈夫ですかっ!!」

 あわてて功助の下に駈け寄るミュゼリア。全身唾液まみれでびしょ濡れの功助は咳き込みながらも大丈夫だと言うのがやっとだった。

「ピギャピギャピギャ」

「えっ、そ、それは…、姫様お待ちくだ…」

 全部言い終わる前に二人の頭の上に大量の水が降り注いだ。

「キャアアア!!」

「うわっ!」

 一瞬のうちに二人は水浸し。唾液はほとんど洗い流されたけど、…全身ずぶ濡れだ。

「あーんもう姫様ぁ。酷いですよぉこれは。びしょびしょになっちゃったじゃないですかぁ。ほんとにもう、待ってくださいって言おうとしたのにぃ」

 ミュゼリアはぶつぶつ文句を言っているがシオンベールはまったく悪びれた素振りもなく羽根と足をバタバタさせている。おまけに長い首も左右に振って楽しそうだ。

 ミュゼリアの方を見ると、ぐっしょり濡れた侍女服がピッタリと身体に貼りつき、なんとも扇情的な姿態になってしまっている。

 思わず目が釘付けになってしまう功助。服の上からだとわからなかったが濡れたことでボディラインがはっきりでてしまっている。出るとこはひかえめだが引っ込むとこは引っ込んでとなかなかのナイスバディだ。

「ん?もう!コースケ様どこ見てるんですかっ!」

 両手で自分を抱くようにして睨んでいるが上目遣いなので迫力はない。

「あっ、いや、ご、ごめん」

 と言って後ろを向き頭をかく。後ろからほんとにもうとため息が聞こえた。

「いいですよもうこっちを向いて」

 はいとミュゼリアの方に向くとさっきのまま自分を抱くようにして少し顔を赤らめていた。

「な、なあミュゼ。どうするこれ」

「このままだと風邪ひいちゃいますよ。乾かしましょうか。一時しのぎなので後でちゃんと着替えないとですが」

 そう言ってミュゼリアが手を振ると二人の周りに風の渦が現れた。二人を包むその風は暖かく見てる間に服や髪が乾いていった。

 乾くといっても少し変だと感じる。着ている服からどんどんと水分が抜けていっているようだ。霧吹きのような細かい水滴がそこら中に浮いている。それが少し離れたところで一つになり大きな水の球になった。

「すごいなこれは。ミュゼの魔法なのか?」

「はいそうです。生活魔法なんですが便利な魔法でしょ。といってる間にほらほとんど乾きましたよ」

 少しドヤ顔のミュゼリア。魔法って便利だなと感心する功助。

「で、あれはどうするんだ」

 空中には水の球がプカプカ浮いている。けっこうな大きさで部屋の光を反射してきれいに輝いている。まるでミラーボールのようだが汚水には違いない。

「あっ、えーとえーと」

 何も考えてなかったようだ。

「す、捨てましょう」

 といって開いている窓を指差した。それに従うように水球は窓の外に飛んでいった。

「ギャーー!」

 誰かの叫び声が聞こえた。

「「あっ」」

 顔を見合わせる二人。運悪く外には誰かがいたようだ。

「誰だ無礼者、出てこい!手討ちにしてやる」

 ギャーギャーと男の声が聞こえたが、聞こえなかったふりをする二人。

 コホンとわざとらしく咳をしてシオンベールの方に顔を向けた。

「なあシオン」

「パギャ?」

 目の前でお座りをして少し頭を傾けるシオン。

「しばらくの間この城で世話になることになったよ。よろしくな」

「パギャーーー!」

 翼をひろげて喜んでいるシオンベール。そして顔を近づけてくるとその鼻先をこすりつけてきた。

 功助はその鼻先を撫でるともう一度よろしくなと言ってポンポンと叩いた。

「コースケ様。もうそろそろお時間となります。陛下をはじめ王妃様たちとの会食が予定されています。服も着替えないといけませんので自室へお戻りください」

 とミュゼリア。

「えっ、そうなの。会食が。知らなかった。けど、そんなとこに行ってもいいのかな俺」

「何をおっしゃいます。コースケ様は主賓なんですよ。そんなことお考えにならなくても大丈夫です」

「そ、そうなのか。うーむ、でもシオンは参加できるのか?」

 シオンベールの方を見ると

「パギャピギャ」

 と言っている。

 わからないのでミュゼリアに尋ねた。

「ご列席されるそうですが一緒に食事はとれないだろうとおおせです」

「そうか。でもこられるんなら俺もちょっとは気が楽だな」

「それじゃシオン。あとでな」

 といって二人はシオンベールの部屋を後にした。


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