03 山肌 そして子爵
03 山肌 そして子爵
・・・59日目・・・
「コースケ様大変です!」
ノックもそこそこにミュゼリアが功助の部屋に駈け込んできた。
「ど、どうしたんだミュゼ、そんなにあわてて」
「はあはあはあ、これがあわてずにいられますかっ!」
あまりの迫力にちょっとビビる功助。
「な、なんだなんだ」
「あっ、すみません」
ミュゼリアは背筋を伸ばすと今度は落ち着いて話をする。
「あの、フログス伯爵様の裁決が下されるそうです」
「えっ!フログス伯爵の…。そうか、とうとう処分が決まったんだな。んで」
話の続きを促す。
「はい。本日十四時に陛下から直接言い渡されるそうです。とバスティーア様がおっしゃってました」
「そうか…。処分内容はわかってるのかな?」
「い、いえ。そこまではわかりませんが…。どうされますかコースケ様。コースケ様も出席されますか?」
「へ?俺が?」
「はい。バスティーア様がおっしゃっておられたのですがご希望されるならコースケ様も出席が可能とのことです。どうしますコースケ様」
ミュゼリアがじっと功助を見つめる。
腕を組み少し考える功助。
「……。出席するよ。やっぱり気になる。バスティーアさんに伝えてくれるかミュゼ」
「わかりました。バスティーア様にお伝えしてきます。では少しお待ちください」
ミュゼリアは一礼すると退室した。
「どんな処分が下されるんだろう。ベルクリットさんが言ってたとおりなんだろうか」
功助は窓辺に向かい外を眺めた。窓の向こうには小高いマピツ山が見える。
「あそこで魔族と戦ってフログス伯爵を保護したんだな。もう一月半ほどになるのか」
窓枠に手をかけてマピツ山を見る。
「あれ?なんだろう」
マピツ山の岩肌に何かがあるような気がして少し集中しようとしたが。
ボゴッ!
「うぐっ!」
その時功助の顔面に何かが当たった。
二歩三歩窓から離れると顔を押さえる功助。
「痛ぇ」
鼻を押さえたまま足下を見ると直径二十センチほどのボールが床を転がり机の脚に当たったのが目に入った。ちょうどドッジボールほどの大きさのボールでこれが顔に当たったのだなと鼻を摩りながらその白いボールを見つめた。
「うわっ、おいお前どうすんだよ。窓から顔を出してた人に当たったじゃないか!」
「い、いや俺のせいじゃないし。お前が俺にぶつけようとしたから弾き返しただけだからな」
「何言ってんのよ。あんたらが悪いんでしょうが。どうすんのよ顔に当たったわよ。あたし見てたんだから」
「俺は悪くない」
「俺も」
「あたしも」
「でもちゃんと謝らないといけないよぉ」
「そうよそうよ」
何人もの子供の声が窓の外から聞こえてきた。どうやらボール遊びをしていてはずみで功助の部屋の窓まで飛んできたようだ。そして偶然ボーッと外を眺めていた功助の顔面にクリーンヒットしたのだった。
「ふう、痛かった」
とボールを拾い鼻を摩り窓から顔をそっと出す功助。窓の下には五人の子供たちがお前が悪い、いやお前だ、謝れ、などと子供なりに話し合いをしているようだ。
その中の有翼人の少女が自分たちを見ている功助に気が付いた。
「あっ…!」
と功助を見上げ固まった。その声につられ他の子供たちも功助の方を見る。
じっと見つめて何も言わない功助。
「あ、……、あの……」
「 ボールを弾き返しただろう少年が功助を見上げおずおずと口を開いた。
「ご、ごめんなさい」
その言葉を聞いて微笑む功助。そして赤い花を擦りながら口を開いた。
「怒ってないよ。そうやって正直に誤ってくれたからね」
功助がそう言うとホッとする子供たち。
「あ、ああ!」
その時一人の少女が功助を指差して叫び声をあげた。
「ちょ、ちょっと、人を指さしてはいけません」
功助が苦笑しながらそう言うも少女には聞こえてないようだ。
「うわっうわっ!見て見て見てあそこにいるのは英雄よ!知ってるのあんたたち。英雄がいるのよ。白竜城を護った黒髪の英雄よ!漆黒の騎士とか黒い稲妻とか暗黒の疾風とか黒鉄の戦士とか言われてるお方よ!知らないの!」
と興奮している。
「く、黒鉄の戦士って…。中二か…」
と少女が口を開く旅に精神力がガリガリ削られていく功助だった。
「ええっ!」
少女の話を聞いて驚く子供たち。
「マジ?ねえねえそれマジ?」
「知ってる、俺知ってる。父ちゃんがよく言ってる。確かシオンベール姫様の彼氏だって」
「えっ!そうなの?でもあたしが聞いたのは魔法師隊のおっぱい隊長の彼氏だって」
ガヤガヤと功助をチラチラ見ながら井戸端会議のオバさんたちのように話をする子供たち。
「お、おい!」
ちょっと、ほんのちょっとだけ大きな声を出すと子供たちはビクッとなって功助を見上げた。
「あっ!ご、ごめんなさいごめんなさい」
一斉に頭を下げる子供たち。どうしたもんかと頬をかく功助。
「ま、まあ、そんなに畏まらなくてもいいんだけど」
とぼそっと言うが階下の子供たちに聞こえるはずもなく何度も頭を下げている。
「なんか収集付かないな…」
頬をかく功助。
「仕方ない。よいしょっと」
功助は窓枠に片手をつくとボールを持ったまま窓の外にピョンと跳びだした。そして地上にシュタッッと降りると子供たちを見る。
「うわっ、すごい。羽根も無いのに飛び降りた!」
「人族なのにすごい!」
これを発したのはおそらく人族の子供だ。亜人の子供や有翼の子供はあまり驚いていない。ちなみに功助の部屋は地上十メートルほどにある。普通の建物ならば四回建てのビルほどになるが城としては二階だったりする。
「はい、これ」
功助は一番近くにいた少年に顔面にヒットしたボールを手渡す。
「あ、ありがとうございます」
ボールを受け取った少年は目の前にいるのが白竜城で有名な黒髪の英雄なのだということがじわじわとわかってきたのだろう、功助を見る目が有名なスポーツ選手に会った子供と同じようにキラキラし始めた。
「あ、ああ、あ、あの!」
テンパっていてなかなか言葉が出てこないようだ。
「ん?なんだ?」
功助が少年を苦笑して見るといきなり大声で叫んだ。
「握手してください!」
そう言うと右手を功助の目の前にサッと突き出した。
「うおっ!」
目の前に突き出された手に一瞬のけぞるが苦笑しながらもその手に自分の手を伸ばし握手をした。
「やったぁ!あ、ありがとうございます!」
握手のあと少年は友達たちにやったやったとうれしそうに自分の右手を見せびらかしているようだ。
「ははは。そんなに喜ばなくても…」
また功助はぼそっとつぶやく。が、子供たちにはまったく聞こえてない。
「俺も!」「あたしも!」「私も私も!」「俺にも握手してください!」
次々とこどもたちに握手をせがまれる功助。当然全員と握手をしてついでに全員の頭を撫でていた。
子供たちは大はしゃぎで「握手してもらった!」「頭撫でてもらっちゃった!」ととてもうれしそうだった。
「あれ?何をしておられるのです、コースケ様?」
上の方から子供たちとスキンシップをしている功助に声をかけたのはミュゼリアだった。
「ん?あ、ミュゼ。ちょっとね。うん。今戻る」
功助はもう一度全員の頭を撫でるとミュゼリアが覗き込んでいる窓に向かいジャンプした。
「よっと」
部屋に着地するとすぐに窓から顔を出し子供たちに声をかける。
「気を付けて遊ぶんだよ」
と手を振る。子供たちも元気よく「はーい!」と返事をした。
「そうだったのですか。うふふ。そっかぁ、黒鉄の戦士かぁ、うふふふ、黒の騎士とか黒い稲妻ですかぁ」
両手を口に当ててくすくす笑うミュゼリア。
「ミュゼぇ、言わないでくれ。俺の精神力がガリガリ削られるぅ」
功助は頭を抱えると上目遣いでミュゼリアを見上げた。
「うふふ。そうですね。この変にしておきますねコースケ様」
「うん。できれば忘れて欲しいけど」
「うふふふ。たぶん忘れません」
「ガーン」
またも精神力が削られる功助だった。
「な、なあ、ミュゼ」
「はい?」
「ところで伯爵のことはどうなったんだ?」
「あ、あああああ!」
「うわっ、びっくりした」
急に大きな声を出したミュゼリアに驚く功助。
「す、すみません。子供たちの話ですっかり忘れていました。申し訳ございません」
ミュゼリアは深々と何度も頭を下げた。
「ははは。いいよいいよ。それでどうなった?」
「はい。コースケ様の出席を許可いたしますとのことです」
「そうか、わかった。ありがとうミュゼ」
「いえ。侍女として当然のことなので…、ってコースケ様、私に対してですね…」
「あ、ああ、ごめんごめん。まだまだ主人と侍女の関係が身に着かなくて」
「ふう。こちらの世界では当たり前なんですけどねえ」
と人差指を顎に当てて首を傾げるミュゼリア。
「まあ、いいです。そのうち慣れるでしょうし。それより魔法師隊の訓練の時間です。そろそろお迎えが…」
ミュゼリアが壁の時計を見てドアの方を見るとタイミングよくコンコンコンとノックの音が聞こえてきた。
「来たようですよ」
とミュゼリアが微笑む。
「「コースケ隊長!お迎えに参りました!」」
元気な見習い魔法師の声がした。
「グァマ・フログス伯爵」
「はっ」
金髪の国王トパークス・ティー・アスタッドが壇上から判決文を読み上げたあと被告グァマ・フログスに最終の判決を言い渡す。
「百八十日の幽閉、その後に九十日の労役とする。加えて使用人、奴隷を含むすべての財産没収。ならびに伯爵位より子爵に降格。以上だ」
「ははっ。寛大なお心感謝いたします。このグァマ・フログス刑が開けた後には時領に戻り町の再建、発展、に従事したいと考えております」
「そうか。フログス領が以前のような繁栄を取戻し、民が笑顔になるような政を願う」
「ははっ!」
フログス伯爵、基い、フログス子爵は深々と叩頭すると銀の騎士に連れられ退室した。
国王はフログスが退室するのを見届けるとバスティーアに口を開く。
「バスティーアよ。フログスの処分判決を民に知らせよ」
「はい」
バスティーアは一礼し、国王はそのまま颯爽と退室した。
「コースケ様。このようになりましたな」
「は、はい。そうですね。でも伯爵から子爵へ降格するなんて思いませんでした。俺はてっきり伯爵位を剥奪し平民になるんじゃないかと思ってました」
「実は私もそう考えておりました。陛下の温情なのでしょう。そしてフログス領の先代のあーま様の願いをぐぁま様に継がせたいと思われたのではないでしょうか。そして、先代国王陛下の愚決に対しての詫びもあるのやもしれません」
「そうかもしれませんね」
功助とバスティーアは国王の去った豪華なドアを見つめていた。
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