01 イリスとモーザ
第4章開始です。
01 イリスとモーザ
・・・四十七日目・・・
「あのコースケ様」
「ん?」
朝食後、ミュゼリアが何か申し訳なさそうに功助に声をかけてきた。
「あの、急で申し訳ないのですが」
「うん」
「本日の午前中だけでいいのですが、えと今から、あの、少しお休みをいただきたいのですが」
「今から?」
「はい。午後には戻ってきますので申し訳ないのですが」
「うん。いいよ。午前中は魔法師隊の訓練があるから気にしないでいいけど。何か用事?」
「はい。兄上と両親の墓前に婚姻承諾の儀式の報告をしに行きたいのですが」
「それはいい!午前だけと言わず昼からもゆっくりしてきてもいいんだぞミュゼ」
「い、いえ。午前だけで充分です。ありがとうございます」
と頭を下げる。
「そうか。でも俺のことは気にしないでいいんだけどな」
苦笑する功助。
「はい。ありがとうございます。でもやっぱり午前で戻ってきますね」
「ははは。わかったよ。ご両親もハンスさんとミュゼが一緒に行けばきっと喜んでくれるよ。それと俺のこともよろしく言っておいて」
功助は冗談ぽく言い微笑んだ。
「はい。わかりました。両親にコースケ様のことよく言っておきますね。黒髪の英雄って」
ミュゼリアはうふふと笑い功助はおいおいと突っ込みを入れた。そして功助は喜んでミュゼリアを送り出した。
ミュゼリアを送り出してすぐに魔法師隊の隊員が二人で功助を迎えにきた…。
「おー、おーっ、おっはようございましゅ隊長っ!おおおお迎えに参りまちたぁ!」
「ちょっとイリス、噛みまくりっ、失礼よっ」
とイリスと呼ばれた少女を肘で突っつくもう一人の少女。
「だ、だって緊張してるんでしゅもにょ私。モーザもでしょ」
「そうだけどさぁ。また噛んだ。って隊長の前よ今」
「あ、ああ。もも申し訳ありません!さ、さあ隊長、訓練に参りまちょ……」
なんか初々しい二人だと苦笑する功助。そしてほんのちょっといじわる心が。
「ところで、二人は誰?迎えに来たって。それに訓練?どこの誰かもわからない人に着いて行こうとは考えないかなあ」
そう言ったとたん二人の顔色が変わった。
「す、すすすみましぇん。わたわたわた私、私、私えとえとえと」
右側の少女。確か左の少女がイリスと呼んでた少女が顔面蒼白だ。
「ああああああのあのあの。わわわ私たちは、えと、あの、先日魔法師隊に配属になった見習いの、えと、あの、私がモーザと申します。それと、こっちがあの。ちょっと、わたわたしてないで自己紹介しなさいよ!」
「えっ、私、私」
と自分を指さしている。
「そうよ。あんたよあんた」
「え、は、はい。あの、私は、魔法師隊にこの前配属になった、あの、みらないの、って噛んだ。えと見習いのイリスと申しまちゅ。ってまた噛んだ」
なんか初々しくて笑ってしまいそうになるのを我慢する功助。我慢しすぎて険しい顔になっていたようで二人の顔がだんだんと強張って今にも泣きだしそうだ。
でもなんとかしようと左側のモーザと呼ばれた少女が必死に話かけてきた。
「あ、あの。ラナーシア副隊長が私たちにコースケ隊長を及びして来いとの命令で、あの、えと、二人でお迎えにやってきた次第でありまして、な、なのであの、ぜひご一緒に訓練に、あの」
口をパクパクし続く言葉が出ないようだ。ちょっといじわるしすぎたかと口を開こうとした時。右側のイリスが頑張った。そう頑張った。
「コ、コ、コースケ隊長。くくくく訓練に、に、に、に、行くでござる」
「うっ、うくく。あはは、あはははは」
功助はついに笑い出してしまった。
「「へ?」」
目を真ん丸にして驚き、そしてみるみる蒼白になる魔法師隊の少女二人。
「あわあわあわあわ」
「どどどどどうしよどうしよ」
少女二人は互いの手を取り合ってブルブル震えていた。
功助の方を見てどうやら震えてるようだ。これはまずい。もしかして怖がられてるのかと二人を見る功助。
「え、えと、迎に来てくれてありがとう。さあ一緒に訓練に行こうか。えーとイリスとモーザ、だったかな」
功助はなるべくさわやかに、明るく、笑顔でそう言った。
「は…」
「へ…」
「……えと、あのさ。ご、ごめん。怖がらせるつもりじゃなかったんだけど。大丈夫二人とも」
と二人の顔を覗き込むとへなへなと床に座り込んでしまう。
二人は互いに目を合わせると小声で何か話している。
「イリス、やさしそうな人じゃないの隊長は。誰よとても怖い人だって言ったの。あんた?」
「ち、違う違うよぉ。副隊長よラナーシア副隊長。無礼なことをしたら消されるぞって。で、それにさっき顔を顰めてたよ隊長」
「そ、そう言えばそうよね。で、でも今は笑ってるわよ」
「そ、そうらね。ほんとは優しい人なんだよきっと。で、でもあの魔族を倒したんだよね。微笑みながら楽しそうに倒したって聞いたよ私」
「そ、そうなの?でも私は高笑いをしてたって聞いたけど…」
「そ、そうなの。で、でもでもでも。ど、どうしよう。私たち不敬罪で首が飛ぶかも。ど、どうしようモーザ。私死にたくないよぉ」
ラナーシア副隊長が何やら吹き込んだようだ。困ったもんだと功助は眉をへの字に下げた。
「な、なあ二人とも。小声で話してるつもりだろうけど、こんなに近いんだから丸聞こえだぞ」
功助は苦笑しながら突っ込んだが、二人は聞かれてるとは思わなかったのだろう。ビクッと跳ねると二人は抱き合って功助の方を見た。
「「す、すみませんすみませんすみませんすみません、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!お許しをお許しをお許しをお許しを!!」」
ブルブルと震えだした。
「あちゃあ。どないしよ」
功助は頭をかくと天を仰いだ。
それから二人をなだめるのがちょっと大変だった。でも、ドアを開けてたのが幸いしたようだ。
なんとシオンベールが偶然にも功助の部屋の前を通った。
すみませんすみませんと連呼している黒ローブを着た少女が功助に頭を下げているのが不思議だったようだ。それに功助も困ったような顔をしていたのがわかったのだろう。声をかけてきた。
「どうしたのですかコースケ様?」
「あっ、シオン。いいとこに来てくれた」
功助はホッとした声を出した。
「はい?」
と小首を傾げるシオンベール。
「「へ?」」
魔法師隊の見習い二人は、急に後ろから聞こえた声に思わず振り向きそして見上げた。その先には、ほんのりと輝くプラチナブロンドの髪の高貴なオーラを放つ美少女がいた。魔法師隊見習いの二人は声もなくその美少女に見とれた。
「き、綺麗…」
「う、うん。綺麗…。で誰?」
するとシオンベールの後ろから副侍女長のライラが鋭いまなざしで二人の見習い魔法師を見た。
「あなたたち無礼ですよ。シオンベール王女様の御膳です。控えなさい」
「「へ…?!おおおお王女様ぁぁぁぁぁ!!」」
二人はあわててシオンベールから少し離れると膝立ちをして両手を胸の前で組み頭を下げた。
「すすすすみましぇん。わたわたわた私、わたち、あのれすね…」
「申し訳ございませんシオンベール王女様。どどどうかぶぶぶ無礼をお許しください」
二人は深く深く頭を下げる。もう床に付きそうなくらいに。
「そんなに頭を下げなくてもよいのですよ。それでコースケ様これはいったい?」
「あ、ああ。実は…」
功助はどうしてこうなったかのいきさつを話した。
「ふう。コースケ様。いたずらが過ぎます」
とあきれるシオンベール。
「いや、面目ない」
「それからあなたたち」
いまだに臣下の礼をとっている二人に声をかける。
「「は、はいっ!」」
二人の前まで歩いてくると見上げている少女二人にやさしく微笑んだ。そして二人と目線を合わせるためにしゃがむシオンベール。
「姫様。そのようなことせずとも良いのでは」
とライラが言うがシオンベールはいいのですよと微笑む。
「お二人に行っておきますが、コースケ様はとても素敵なお方です。恐ろしいだなんてことは決してありません。とてもお優しく、強く、とても立派なお方です。この白竜城の皆がお慕いしているお方なのです。そのようなお方が危害を与えるだなんてことは絶対にありません。よろしいですか?」
「「は、はいっ!申し訳ございません」」
と頭を下げる見習い魔法師。
「わかっていただければそれでよいのです」
と微笑んだ。
「それでコースケ様。これから訓練ですか?」
「あ、ああ。もともとこの二人が魔法師隊の訓練に俺を迎えにきてくれたんだ。あの、二人とも、申し訳ない」
功助が軽く頭を下げて謝罪すると、やはり二人ともあたふたしていた。
「い、行こうか。な」
功助は二人に声をかける。
「「はい!」」
と元気よく、でもちょっとぎこちない返事をした。
「ところでシオン。どこかに行く途中だったんじゃないのか?」
「はい。ちょっと図書室へ。返却する本がありまして。それと借りたい本も」
「そうか。助けてくれてありがとう。気をつけて行っといで」
「はい。コースケ様もご無理なさらないよう」
シオンベールは功助の目を見て微笑んだ。
「う、うん。それじゃ二人とも、行こうか」
功助はシオンベールとライラに見送られ魔法師隊見習いの二人のあとに着いていった。
「ほんともう大変でしたよラナーシア副隊長」
「ふふふ。そうでしたか。それは災難でしたねコースケ隊長」
魔法師隊控室で功助はラナーシア副隊長にさっきの出来事を話した。
「俺に無礼をすると消されるってラナーシア副隊長が言ってたってあの二人言ってましたけど。変なこと吹き込まないでくださいよぉ」
「うふふふ。申し訳ない。しかしあの二人、コースケ隊長の噂も知らないとは。ちょっと常法収集が無さすぎですね。それに人を見る目もまだまだで」
そしてあとで締めないととつぶやくラナーシア副隊長。微かに笑っていた。
午前の訓練を終えラナーシア副隊長といくつかのことを話し合い功助は自室に戻ろうと控室を出た。
「午後は十四時からです。よろしくお願いいたします」
後ろからラナーシア副隊長の声をききながら外に出ると見習いたちがいた。
「ラナーシア副隊長は見習いを十人ほど採ったって言ってたな」
午後からはこの魔法師隊見習いたちの訓練をするということだったが見習いたちは自主的に訓練をしているようだった。
さっきのイリスとモーザも隅の方で赤髪と茶髪の少女四人とで魔法の練習をしている。その他にも魔法の練習や体術の訓練をしている少女たちを見て微笑む。
「なかなか自主的でいいな」
功助がそんなことを思いながら見ているとやはりというかイリスとモーザがいち早く功助がいることに気付いたようだ。
とてとてと走ってきた。そうタタッとかザザッという効果音ではなく’とてとて’という効果音がピッタリな足音だと功助は苦笑する。
「お疲れ様です。コースケ隊長」
モーザがぎこちないが笑顔だ。
「おちゅかれ様です。コーシュケ隊長」
やはりイリスはイリスだ。
「ちょっとイリス。隊長の名前噛んでどうするの!」
「あっ、すみません。あの、コースケ隊長」
「あ、ああ。お疲れ。自主訓練してたの?」
「「はい」」
と今度は元気よく返事した。
ふと視線を感じ周りを見ると功助がこの二人と話しているのが不思議だったのかみんなちらちらと見ていた。
「そうか。まずは練習あるのみだから」
「「はいっ!」」
周りからはなんとも言えない視線を感じる。功助はわざと周囲を大きく見渡す。
「見習いの隊員たち。昼食を採ったら十四時からみんなの訓練があるから。お昼をちゃんと食べて訓練に備えるように」
「はいっ!」
全員が気お付けをして一斉に返事をした。
功助は大きく頷く。
「では午後に。お疲れ」
「お疲れ様でした」
また一斉に返事が返ってきた。
功助はそれじゃと手を振り自室に戻った。
自室に戻りシャワーを浴びてからタオルを首にかけたままソファーに座った。
コンコンコン。
ドアを叩く音がした。
「ミュゼリアです。只今もどりました」
「あ、お帰り。開いてるよ」
「はい。失礼します」
ミュゼリアがドアを開けて入ってきた。
「コースケ様。午前中はありがとうございました。兄上と両親の墓前に婚約承諾の儀式の報告ができました」
ペコッと頭を下げてとてもうれしそうだ。
「そうか。それはよかった。俺のことも伝えといてくれた?」
功助が微笑みながら言うとミュゼリアもうれしそうに微笑む。
「はい。とても素敵なお方の専属侍女として仕えられて幸せだと報告してきました」
「そっか。ありがとう。ははは」
「えへへ」
二人で笑い合った。
「あっ、そうそうコースケ様。お昼まだですよね。申し訳ございません。すぐに用意いたしますのでほんの少しお待ちください」
そう言うとあわてて部屋から出て行った。
バタバタバタ
ドスン!
あいたっ!
「あっ、もしかして」
功助はあわててドアを開けて廊下を見ると、やはりミュゼリアがお尻をさすっていた。
「あっ!」
後ろを振り向くミュゼリア。
「あはっ。あははは。ちょっと待っててくださいねぇ!あはは」
あわてて立つとまたバタバタ走って行った。
「ほんと、あわてんぼだな。あははは」
「ごちそうさま」
「はい。では食後のお茶をどうぞ」
テーブルの上の食器をかたづけると慣れた動作で香りのいい紅茶を淹れるミュゼリア。
功助はカップを持ち香りを楽しむと一口飲む。そしてふうと息をついた。
「ふう。ミュゼの入れてくれるお茶はいつもおいしいな」
「ありがとうございます」
とうれしそうなミュゼリア。
「さあミュゼ。今度はミュゼがお昼ご飯食べといで」
「はい。それでは失礼いたします」
ミュゼリアはそういうと控室に下がった。壁の時計を見ると十二時四十五分だった。
功助は紅茶を飲みながらボーっと窓の外に広がる青空を見ていた。
「三十四日たったのか」
窓の外を見ていた目を壁のカレンダーに移すとため息をつく功助。
「まだ見つからないのかなシャリーナさん」
そう呟いてると控室からミュゼが出てきた。
「えっ、もう食べたのかミュゼ」
「え、はい。そうですが」
「早くないか?」
「そうですか。でももう十五分くらいは立ってますが」
と不思議そうにミュゼリア。
「えっ、そうなの?」
功助は壁のカレンダーの上にある時計を見た。
「あれ?もう十三時過ぎ?どれだけボーッとしてたんだ俺は。ダメだなこりゃ」
と頭をかく。
「どうしたんですかコースケ様?」
「あ、いや何、ついボーッとしてただけっていう話」
功助は苦笑すると気にしないでくれと言う。
「はあ、はい。わかりました。では食器を片付けてきます」
ミュゼリアはそう言うとワゴンを押して部屋を出て行った。




