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異世界人と竜の姫  作者: アデュスタム
第3章 婚姻承諾の儀
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06 婚姻承諾の儀

 06 婚姻承諾の儀


 ・・・四六日目・・・



「ベルク。とうとうこの日が来たな」

「ああ。なんか緊張するな」

 ミュゼリアへのベルクリットのプロポーズが成功して七日目。

 ここは白竜城とマピツ山のちょうど真ん中くらいのところにある草原。大きな湖のような池のユーリ池と小高い丘のあるピクニックにはうってつけの場所だ。

 だが今日はピクニックに来たわけではない。

 ベルクリットとミュゼリアが互いの両親に婚姻を認めてもらうための儀式を行うためだ。つまり婚約式ということになる。

 ミュゼリアの両親はすでに他界しており兄のハンスが親代わりとして参加する。

 ベルクリットの両親は今まで話にも出なかったが城下に住んでおり今日はそろって参加する。

「いい天気でよかったですねベルクリットさん」

 空は快晴。ところどころ真っ白な雲がそこに置いたようにポッカリと浮かんでいる。

「そうだな。気分がいい」

 と深呼吸をするベルクリット。

「よかったなミュゼ」

「はい。ありがとうございますコースケ様」

 ミュゼリアもうれしそうにポッカリ浮かぶ雲を見ている。

「ミュゼリア。何をしているのですかこんなところで」

「あっ、おはようございますミーシェスカ侍女長」

「’おはようございます’ではありません。現在のあなたの立場はわかっているのですか?」

 無表情にミュゼリアを見ると功助たちに視線を向ける侍女長。

「コースケ様、みなさま、おはようございます」

「お、おはようございます」

 どもる功助。

「おはようございます侍女長殿」

 平然のハンス。

「今日は世話になります侍女長」

 緊張の笑顔で侍女長を見るベルクリット。

「はい。お任せください。さあミュゼリア。向こうに行って準備なさい」

「は、はい!」

 と侍女長の指差す方に走り出すミュゼ。

「走ってはいけません。はしたない!」

「わっ!っと。は、は、はいっ!すみません」

 侍女長の声で急に泊まってしまいつんのめるミュゼリア。

「それでは皆様、失礼いたします」

 完璧な侍女の礼をするとミュゼリアの後を追う侍女長。

「しなやかに移動しなさいミュゼリア。いつも言っているではありませんか。侍女たるものいつも冷静沈着でーーー」

 とミュゼリアのあとを追いながら小言を言っているようだ。それにミュゼリアはペコペコと頭を下げている。

「ははは。ミュゼリアも大変だな。なあベルク」

「あ、ああ。でも堅いよなミーシェスカ侍女長って」

 と苦笑する。

「さあ。俺たちも行きましょう」

 と功助たちはミュゼリアたちが向かったのとは違う方に移動した。


「さあ、あと十分くらいだなベルク」

「ああ。少し緊張してきたぞ。ははは」

「お前が緊張するわけなかろう。天下の青の騎士団団長だぞお前」

「ははは」

「なんだ?お前、顔が引き攣ってるぞ。もっと気楽にしろよ。単なる形式的なもんだぞ今日の儀式は」

 と苦笑するハンス。

「そうですよベルクリットさん。なんせミュゼとの婚約を認めてもらうのは目の前にいるハンスさんなんですから。ねえハンスさん」

「そうだぞベルク。今から言っておくがお前とミュゼリアの結婚は認めてるんだからな。せいぜいミュゼに振り落とされないようにしがみついてりゃいいんだ」

「よく言うぜ。認める認めないというよりお前楽しんでるだろ?」

「ははは。わかるかベルク。緊張してるヤツって見てておもしろいんだぞ。ベルク、お前気付いてなかったろうけどさっきここのテントまで来る時、右手と右足が同時に出てたぞ。俺はもう笑いをこらえるのが大変だったんだぞ」

「ハンス、お前なあ」

 と顔を顰めるベルクリット。

「そうそう、今日のミュゼリアもそうだった。今朝、コースケの朝食後に俺の部屋に来たんだが、手を洗おうと俺の部屋の洗面所のドアを開けようとしたんだが、なぜかクローゼットをガラガラ開けたんだ。すぐにわかりそうなもんなんだが思考が緊張してたんだろうな。『兄上、なぜ洗面所に服を入れてるのですか?』だと。お前どこ開けてんだと突っ込んだら真っ赤になってさ。大笑いしたら『兄上のいけず』って」

「ミュ、ミュゼリアがか…」

「そうだぞ」

「ま、まあ少しおっちょこちょいだとは思ってたが。そうかぁ。なんかいいなそれ」

「へ?……ははは。お前なあ。はははは」

 ハンスにつられて功助も一緒に笑った。


 ミュゼリアとベルクリットは、二人並んで池を背にして立っている。

 この池は’ユーリ池’と呼ばれている。’池’と名はついているがかなり広くそして水深もかなり深い。

 ミュゼリアの服装はいつものメイド服ではなくこの儀式専用に作られたグレーのドレスだ。白でも無い黒でもない灰色のドレス。ミーシェスカ侍女長が言うには、女の心の中には黒い闇の部分と白く純粋な心が混ざり合っているという。このグレーのドレスはその心を男に受け止められるかを問うていると言う。

 それに対しベルクリットは真っ白な鎧だ。この儀式専用の鎧で女を愛するのは純粋な心だということを表しているらしい。

 そして二人の目の前十数メートル先にはミュゼリアの兄ハンスが、そしてベルクリットの両親が二人をじっと見ている。

 その後方には青の騎士団の団員たちが散開し警戒をしているが警戒そっちのけで今や遅しと池の前の二人を見ている。

 功助はラナーシア副隊長とともに魔法師隊としてハンスとラウディー夫妻から少し離れ二人を見守っている。

 魔法師隊の隊員たちも周囲に散開して二人を見ているが、さすがは女性ばかりの隊だ。キラキラとした目でこれから行われる儀式をキャッキャ言いながら見ている。

 またミーシェスカ侍女長が言うには、本来なら当事者とその両親、ほんの少しの親戚や友人で行う儀式なのだが、ファンの多い青の騎士団団長と、これもまたファンの多いミュゼリアの儀式だということでここから離れたところにもかなりのギャラリーがいるのだという。

 功助はチラッとハンスの方を見ると、なんとその顔色が優れないのが見てわかった。大丈夫かと心配をしているとハンスと目がバッチリ合った。

 功助と目が合ったのがわかると悲しそうな寂しそうなそんな顔で功助にすまなさそうに手招きをした。

 その顔は少しこわばっていた。功助はどうしたものかとラナーシア副隊長の方を見るとラナーシア副隊長も見ていたようだ。功助はどうしたらいいか目で尋ねるとラナーシア副隊長は大きく頷いてハンスの方を見た。

「どうしたんですか?」

 ゆっくりとハンスに近づくといきなり腕を掴まれる功助。

「へ?」

 いきなりで驚きハンスを見た

「コ…、コースケ。頼む一緒にいてくれ。横にいるだけでいいから。頼む」

 と今にも泣きだしそうな顔だった。

 不安なのだろうなと功助はハンスを見る。ミュゼリアが小さな頃に両親を亡くし親の代わりに大事に育ててきたたった一人の妹だ。その妹が結婚するとなると兄として、親代わりとして心配になるだろう。

 いくら嫁ぎ先が心許した親友だとしてもやはり心配はつきないだろう。さっきまでニコニコ笑ってベルクリットやミュゼリアの話をしていたが大事な妹の将来がかかっているのだ、心配するのは当然だ。そう功助は思った。

 功助はこの人もこんな顔するんだと思ったがそれを声にすることはなかった。ただ大きく頷いて微笑した。

「わかりました。横にいるだけでいいんですね」

「あ、ああ。悪いなコースケ。この借りは必ず返すから。感謝する」

 功助はいいですよといいながらハンスの横に立ち池の前の二人を見た。

 ミュゼリアは少し驚いたようだったがベルクリットは少し目を細めていた。

 ベルクリットは大きく深呼吸するとミュゼリアの方に身体を向けた。一呼吸おいてミュゼもベルクリットの方に身体を向けた。

 いよいよ儀式の始まりだ。


 ベルクリットは無言のままミュゼリアの前に片膝をつくと右拳を左胸に当て騎士の礼をする。

 それを見たミュゼリアは十歩下がると胸の前で両手を組み天を見上げる。

 再びベルクリットを見る。するとミュゼリアの身体が徐々に白く輝きだした。そしてゆっくりとその輝きは大きくなる。やがて輝きが消えるとそこには、薄紫色の竜が立っていた。

 功助ははじめてミュゼリアの竜化した姿を見た。頭までは八メートルほどとハンスの竜化時より一回りほど小さい。身体全体は薄紫に輝き、背中には薄い皮膜の翼が太陽の光を受けて輝いているように見えた。

 長い首の先にはトカゲのようだがどこか愛嬌のある顔、そして頭には五本の角が生えていた。

「あいつちょっと見ないうちにまた魔力が強くなったみたいだな。ツノが一本増えてる」

「ツノが増えたんですか?」

「ああ。ミュゼリアの魔力量は俺より多くて以前は四本だったんだが眉間の上にツノが増えてる。あまり大きくはないがな」

「へえ。そんなことがあるんですね」

「まだ成長してるということなんだろうな。ほんとうらやましいぞ」

 はははと苦笑すると二人に視線を戻した。


 ミュゼリアの竜化が終わったのを感じたのだろうベルクリットは顔を上げると竜となったミュゼリアの目を見つめた。そして足に力を入れるとミュゼリアの頭めがけジャンプした。そして頭頂部に立ったベルクリットはその頭に生えたツノをしっかりと持った。

 ベルクリットが自分のツノを持ったのを確認するとミュゼリアは少しずつ頭を左右に揺らす。徐々にそのスピードは速くなる。だがベルクリットは微動だにせず二本のツノをしっかりと持ち立っている。

「第一の試練だ。首を左右に振るのは時計の振子だ。長い年月を一緒に過ごせるかと男に問う意味がある。約一分ほど振り続ける」

 第一の試練をベルクリットはなんなく絶えた。

 次にミュゼリアは近くにあった手ごろな岩に向けて頭をぶつけ出した。おそらくベルクリットの身体は天池が逆さまになるほどに激しく前後に揺さぶられているだろう。テーマパークのアトラクションなどまったく問題にならないような動きだ。しかし、ベルクリットはカッと目を見開いたまま耐えていた。

「第二の試練だ。今ベルクをぶつけているのは岩だが壁や地面でもいい。どんな困難にも立ち向かえる頑強な信念があるのかと問うている。これは二十回ほど行う」

 これもベルクリットはなんなく絶えた。互いに相思相愛だ、ミュゼリアの動きもあまり激しくはない。しかしベルクリット以外の男に耐えられるだろうかと功助は感じていた。

 それにしてもハンスは儀式までとは違いかなり落ち着いて功助に儀式の説明をしている。

 そして第三の試練。

 ミュゼリアはベルクリットを頭に乗せたまま池の中に入っていった。ここの池はかなり広く、そして深い。竜化したミュゼリアが激しく泳いでも問題ないくらいには深いらしい。

 頭だけを水面から出していたミュゼリアは口を大きく開けると池の中に潜っていった。

「第三の試練だ。どんなに苦しくても決して離さない自信があるかを問うている」

 一度潜ると約五分。それを三回行なう。水面から頭を出して呼吸をするベルクリットの顔は少し蒼い。だがその眼光は衰えることなくしっかりとしておりミュゼリアの二本のツノをたくましい腕で握っている。

 そして三度目の潜水を終えると水柱とともにミュゼリアは空中に飛び出た。背中の翼を一気にはばたかせるとそのまま空高く上昇していった。

「第四の試練が始まった。これはちときついぞ。水に潜ったことで体力がかなり削られているからな。それに気温が暖かいとはいえ濡れた身体に当たる風は容赦なく体温を奪っていく。そら始まった」

 上空に飛んだミュゼリアは’8’の字にグルグルと周りだした。

「あれはきつそうですね。それも縦に周ってるから重力がモロに身体にのしかかってるだろうし」

「ジューリョク?なんだそれは」

「えっ、あ、あの、この星からというか、地面からというか、引っ張られる力というか…」

「なんかよくわからんが」

 と頭をひねるハンス。

「ははは。まあ、忘れてください。ともかくかなりきつそうだってことですよね」

「ああ、そうだ。そして八回周るんだ」

「で、これにはどんな意味があるんですか」

 大空を’8’の字に周るミュゼリアを見上げ聞いてみた。

「あの飛んでいる軌跡には’永遠’の意味がある。私と永遠に一緒にいられるのかと問うているんだ」

「へえ。あの軌跡ですけど、俺の元の世界でも似たような意味があるんですよ。ただ元の世界じゃ縦じゃなく横にして描くんですが、’無限大’という意味があるんです」

「ほお。それは興味深いな。さあそろそろ降りてくるぞ」

 最後にミュゼリアは真っ逆さまに降下し地上すれすれで急反転。そしてもとの場所にきちんと着陸した。

 ミュゼリアは着地のあとそのまま深く頭を下げ伏せ状帯になった。そしてベルクリットを頭に乗せたままハンスとベルクリットの両親の前にそっと顔を寄せた。

 ベルクリットの顔色はあまりすぐれないがまだ眼光は鋭くしっかりと二本のツノを持ちハンスと自分の両親を見つめている。

「ベルクリット・ラウディー。自分はミュゼリア・デルフレックを永遠の伴侶として全身全霊をもって護りいかなる困難にも立ち向かい愛することを誓う!」

 その誓いの言葉を聞きベルクリットの父親が口を開いた。

「その心、真なるか」

「はっ!」

 互いの強いまなざしが交差する。そしてベルクリットの父親の表情がふっとゆるんだ。

 次いで母親が竜化しているミュゼリアの目を見た。

「あなたはこのベルクリットに着いて行きますか?」

 ミュゼリアは母親の目を真っ直ぐに見る。すると母親は柔らかな微笑みを浮かべ大きく頷いた。

 そして次はハンスが二人に口を開いた。

「ベルクリット・ラウディー。そなたを我が妹ミュゼリア・デルフレックの伴侶とすることを認許する。妹を頼む」

「はっ!」

 ベルクリットはミュゼリアの角を離すと地面に着地し、ミュゼリアも白い光を放ちもとの人の姿に戻った。そして二人は跪き頭を深く下げた。ベルクリットは片膝を着き右拳を左胸に、ミュゼリアは膝立ちになり胸の前で手を組み頭を下げた。

 するとミュゼリアのグレーだったドレスが淡く光ったかと思ったらそれは純白のドレスに変わっていた。

 ミュゼリアは立ち上がると目の前で寂しそうな悲しそうな、それでもなんとなくうれしそうなたった一人の兄ハンスの前まで行くと頭をペコッと下げた。

「兄上。いえ、お兄ちゃん。私幸せになります。父さんと母さんが亡くなって、いままで私を育ててくれてありがとう」

 そう言うとハンスに抱き付くミュゼリア。

「お、おいミュゼリア」

 とハンスはうれしいような恥ずかしいような表情となったが優しくミュゼリアの頭を撫でていた。

 二人のその目から大粒の涙が頬を伝っていったのを見て功助はもらい泣きしそうになった。

「ミュゼおめでとう。ハンスさんお疲れ様でした」

 功助は兄妹に声をかける。

「ありがとうございますコースケ様」

「ありがとうコースケ」

 ミュゼリアはハンスから離れるとハンスとともに功助に頭を下げた。

「ベルクリット」

 それを見ていたベルクリットの肩を父がポンと叩いた。

「はい。父上」

「ミュゼリアの父君にはとても世話になった。私たちは全力でミュゼリアを幸せにせんとな。そうでないとデルフレックに申し訳立たん。頼むぞベルクリット」

「はい。わかっておりますよ父上」

「そうね。幸せにしてあげるのよベルクリット」

「はい。母上」


 その時。突然地鳴りかというような大音声が聞こえた。

 この儀式を遠くから見ていた二人のファンが一斉に歓喜の声を上げたようだ。

「おめでとう!」「やったなベルクリット!」「ミュゼリアさん僕のことを忘れないで!」「あーん、私のベルクリット様がぁ!」「次はあたしよぉ!」「俺のベルクリットがぁ!」「地獄に落ちろベルクリット!」「幸せになりやがれ!」「ヘラオイサワラアサユイマポ!」

 中には罵声もあり最後のは何を言っているのかわからないがみんな二人のことを喜んでいるようだ。


「お疲れ様でしたみなさま。これで儀式は完了しました。さああちらにお出でください。お茶を用意させております」

 ミーシェスカ侍女長がなんと笑顔で声をかけてきた。

「おっ、あの人でも笑うんだな」

「あ、ああ。はじめて見たような気がするぞ」

 ハンスとベルクリットが小声でぼそぼそ話してるのが聞こえた。

「ちょっ、ちょっと二人とも」

 と功助は小さな声で注意した。が、

「俺もそう思いますよ」

 と付け足した。

 この三人の会話が聞こえてたかどうかはわからないがミーシェスカ侍女長がチラッと視線を向けていたのが三人は少し、いや、かなり怖かったようだ。


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