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異世界人と竜の姫  作者: アデュスタム
第3章 婚姻承諾の儀
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05 久しぶりの再会

 05 久しぶりの再会



 食堂を出た功助とミュゼリアは雑談をしながら自室へと向かっていたが、その途中で意外な人物と出会った。

「あっ、おっちゃん!」

「ん?おお、兄ちゃんやないか。久しぶりやなあ。元気にしとったか?」

 ボサボサの金髪にはグレーの帽子、ヨレヨレの作業服と黒長靴。両手には箒と塵取り、雑巾の入ったバケツを持っている。しかしその姿には似合わない綺麗なアイスブルーの目をした男がニコニコと立っていた。

 そう、目の前にあの掃除のおっちゃんが現れた。

「うわぁ、久しぶりですねおっちゃん。でもなんでこんな時間に掃除を?」

 久しぶりの再会に功助は片手を上げて挨拶した。

「ははは、それはそうなんやけどな。おっちゃんは今から食堂の掃除すんねん」

「そうだったんですか。ありがとうございます」

 と軽く頭を下げる。

 功助がふと横を見ると頭を下げる自分の横でミュゼリアはなぜかあわあわとなっていた。

「へ、へ、へ、……」

 口ごもるミュゼリア。

「おう、ミュゼリア。わかってると思うけど変な声だしたらあかんでぇ。時間も時間やしなぁ」

 とミュゼリアを見るおっちゃん。

「ひゃっ、ひゃい。たたたた確か、えーと、えーと、オ、オ、オ、オーシャン…でしたよね、ね、ね」

「そやでワシの名前はオーシャンや。忘れてもろたら嫌やなあミュゼリア」

「あは、あはははは。す、すみませんオーシャン…様」

「ミュゼリア。様はあかんやろ様は」

 とミュゼリアをじっと見るおっちゃんことオーシャン。

「どうしたんだミュゼ?おっちゃんミュゼとなんかあったんですか?」

 うんにゃ。なーんもあらへんで、なあミュゼリア」

「は、ははは、はいっ。な、なにもございませんです。はい」

 となぜかうろたえるミュゼリア。

 不思議におもってるとオーシャンが言った。

「なあ兄ちゃん、久しぶりに()うたんやさかい掃除手伝(てつど)うてくれはるか?暇やろ?」

「いいいいけませんオーシャン。コースケ様は姫様をはじめこの城竜城をお救いくださったお方です。掃除などと…。それにもう時間も遅いので…」

 とミュゼリアがあわててオーシャンの頼みを断ろうとしている。

「えーっ!ミュゼリア。かまへんやんか。あかんのん?久しぶりに会うたのになあ。あかへんか兄ちゃん」

 と寂しそうな顔で功助を見るオーシャン。

「あ、いえ。俺はかまいませんよ。いいだろミュゼ」

「し、しかし……。コースケ様がそうおっしゃるなら…ですが…」

「ほな、そういうことで。行こか兄ちゃん。ミュゼリア兄ちゃんの部屋で待ってたげてや。ええな」

「は、はい…。お、お気をつけてコースケ様…」

 功助はミュゼリアに片手をあげるとオーシャンの後に続いて食堂に戻った。


 当然食堂にはもう誰もいない。テーブルの上も白いクロスがかけられきれいになっていた。

「ワシらは床と窓とかを拭いたらええだけやさかいな。ほな兄ちゃんまずは高いとこからしよか。この前はつい間違うて低いとこから掃除してしもたさかいな」

 はははと人懐っこい笑顔を向けてくる掃除のおっちゃんことオーシャン。

「そうですね。じゃ俺はカーテンと壁の埃を掃います」

「ほんならワシはこっちの壁から埃を掃てくわ」

 最初二人は黙々と掃除をしていたが五分くらいたった時、オーシャンが話かけてきた。

「なあ兄ちゃん」

「はい」

「兄ちゃんのおかげで姫さんが元に戻ったんや。ワシからも礼言わせてもらうわ。おーきに姫さんを救ってもろて」

 というとオーシャンは功助の方を向いて頭を下げた。

「ちょっとおっちゃん。おっちゃんが頭下げなくてもいいんじゃ…」

「いや、下げさせてぇな。みんな姫さんのファンなんやさかいな。ワシらほんまに兄ちゃんに感謝してんねんで。ほんま抱き付いて頬ずりしたいほど感謝してるんやから」

「い、いや、頬ずりは辞退させてもらいます。でも、そう言ってもらえると俺もうれしいです」

 功助はオーシャンに微笑むとハタキから箒に持ち替えて今度は床を掃きはじめた。

「おーきに、兄ちゃん」

 オーシャンも箒を持って床を掃きはじめた。

「ほんで兄ちゃんはこれからどうすんねん」

「はい?どうすんねんとは?」

「兄ちゃんは異世界から来たんやろ?もう元の世界に帰るんとちゃうん?」

「えっ、は、はあ、はい。でも…」

「でも、なんや?」

 オーシャンは小首を傾げて功助を見る。

「まだ帰れません」

「まだ帰れません?それは今は帰れへんけどいつかは帰るっちゅうことか?それとも帰る方法がまだわからへんっちゅうことか?」

 と箒持ったままオーシャンが功助を見る。

「いえ。帰る方法はわかってます。でもまだ帰れません」

「なんでや?帰る方法がわかってるんやったら早よ帰ったらええのに。元の世界には兄ちゃんの家族もいはるんやろ・心配してはんのんとちゃう?」

「は、はあ。たぶん心配してるとは思います。でもまだ帰れないんですよ」

「なあ兄ちゃん。もしや、もしやけど、もしよかったらなんで帰れへんのんか聞かせてくれへんか?ワシはこれでも口は堅いねんで。安心して話してくれたらええで」

 とオーシャンはやさしい目で功助を見つめた。

「でも…」

「何遠慮してんねんや兄ちゃん。ワシのこと信じてみいひんか?これでもワシはけっこうすごいねんで!」

 と両手を腰に当てて胸を張っている。

 カラン

 持っていた箒が倒れた。

「あはは。箒から手ェ話したら倒れるわなあ」

 と言ってあははと笑うオーシャン。功助もつられて笑った。


「シオンのことが心配で…」

「ん?姫さんのことが心配やて?なんでや?」

 床を掃きながらオーシャンがチラッと功助を見る。

「元の世界への帰還方法って知ってます?」

「いや知らん。王さんに教えてもろたんとちゃうんか?」

「はい。それが酷い方法で」

 と床を掃きながら顔を顰める。

「酷いってどんなんや?」

「俺がこの世界に着いた場所に一番最初に触れたドラゴンの牙を突き立てて魔力を注ぎ込むんです。そうです、シオンの牙です。しかもその牙は力任せに引き抜いた血が滴っている牙でないとダメみたいなんです」

「それは酷いっちゅうかえぐいっちゅうか。スパッと切っただけやったら元にもどるねんけどな。無理やり引っこ抜いたら二度と竜化でけへんで。そんな方法とちゃうと戻れへんのんか?」

 と眉間を寄せる。

「はい。今のところはその方法しかないようです」

「今のところは…?ちゅうことは他にも方法があるかもしれんっちゅうことなんか?」

 オーシャンは椅子を引いてテーブルの下に箒を入れる。

「それを今魔法師隊のシャリーナ隊長にセントラル・マギシティーに調べに行ってもらってるんです」

「シャリーナ隊長に。ふーん。そうなんか。あの乳デカ姉ちゃんに調べになあ。で、もし見つからへんかったらどうすんねんな兄ちゃん」

 功助も反対側の椅子を引いてテーブルの下を掃く。

「……。わかりません…」

「わからんのか……。困ったもんやな」

「は、はあ」

 次々と椅子を引いてテーブルの下を掃く二人。

「あっ、そうや!今日偶然に姫さんを見かけたんやけどすごいな姫さん。髪の毛から魔力が染み出てたで。ワシは思う、あれは王さんの魔力を超えたんちゃうかなと」

 オーシャンはうんうんと頷きながら床を掃いている。

「はい。陛下を超えたかどうかはわかりませんけど、凄い魔力量だとは思います。シオンの髪、キラキラととても綺麗になってました」

「そやろそやろ。魔力量が大きくなってんねんやったら牙引っこ抜いても大丈夫とちゃうか? 人竜球治った時に引っこ抜いたら死んでしもたやろけど、今やったら死なへんで姫さん」

「はあ。俺もそう思います。けど…、けど、二度とドラゴンにはなれない。それって竜族にとって苦痛じゃないかなと思うんですよ俺」

「へえ。異世界の、それも人族の兄ちゃんがそれをわかるのはすごいな。ほんますごいな兄ちゃん」

 と功助の顔を凝視するオーシャン。

「そうや。竜族にとって竜化、ドラゴン形体になれへんちゅうことはほとんど死んでるんと同じや。歳とって自分で竜化せえへんようになるのはようあるけど、牙抜かれて竜化でけへんのはわけが違うさかいな」

「やはりそうですか」

 と功助は床を見つめる。

「ワシら竜族の寿命は二百五十年ほどあるけど姫さんの歳で牙が無くなったら五十年あるかないかやろな。その間はおそらくベッドから降りられへんやろたぶん」

 と功助を見るオーシャン。

「……」

 功助もオーシャンを見る。

「やっぱり……、シオンが心配です…」

 功助は俯いた。

「そやけど、どうすんねんな兄ちゃん。元の世界戻るんは姫さんの牙がいるし、牙無くなったら姫さんは竜化でけへんし、そやけど牙使わんと元の世界に戻れへんし。うーん。難しい問題やな」

「はい……」

 箒を持ったまま突っ立っている功助。

「兄ちゃん。手ェ止まってるで。掃除終わらへんで」

「あっ、はい」

 功助は箒で集めたゴミをオーシャンが持ってるちり取りにゴミを掃き入れる。それをゴミ袋に捨てるオーシャン。

「さあ、今度はモップかけや」

 そういうとオーシャンはバケツの仲に水魔法でそれを満杯にする。

「お。おっちゃんも魔法使えるんですか?」

「ん?そうやで。この水魔法は掃除するときにめっちゃ使える魔法やさかいな。使えててよかったと思てるでワシは」

「そうですね。でもこんなにきれいな水にモップを入れるのがためらわれますね」

 と微笑する。

「あははは。そやな。でも水はなんぼでも出せるさかい気にせんでええで。さあ、モップ絞って床拭くで」

「はい」

 そう言ってバケツにモップを浸す。

「なあ兄ちゃん」

「はい」

 床をゴシゴシとモップかけしながらオーシャンを見る。

「姫さんはなんちゅうてんねん?」

「シオンですか。…牙を抜かれても大丈夫なように魔力と体力を最高にまで持っていくって言って…。今、ほとんど最高の状帯だそうです」

「そっか。で、姫さんは兄ちゃんに元の世界に戻って欲しいっちゅうてんねんな」

「そうなんです。でも俺…」

「そっか…」

 ゴシゴシとモップをかけるオーシャン。

「ほんなら、そのことを決めるんは乳デカ姉ちゃんが戻ってからっちゅうことになるんか?」

「はい。そうなります」

「でもな兄ちゃん」

「はい?」

「ちゃんと自分の気持ちは堅めといた方がええで。考え方がフラフラしてるとつらいしな。優柔不断は情けないさかいな兄ちゃん。元の世界に帰るんもこの世界に残るんもはっきり決めといた方がええで」

「…おっちゃん…」

 功助はモップを持ったままオーシャンを見る。

「さあ兄ちゃん。掃除はこのへんで終わろか。掃除道具片づけるで」

「はい」

 カーテンやテーブルの椅子や調度品を綺麗に整頓するとオーシャンは伸びをした。

「ふう。今日も手伝うてくれておおきに。ほんま助かったで兄ちゃん」

「いえ。俺もいろいろと話をさせてもらってよかったです」

「そうか。ほんなら帰るとするか。行くで兄ちゃん」

 二人が部屋を出ると廊下の先にミュゼリアが立っていた。

「あれ?ミュゼ。待っててくれたのか、ありがとう」

「コースケ様。お疲れ様でした。それと…、えーと、オーシャンもお疲れ様でした」

 と一礼する。

「おう。ほんならワシはこっちやさかい。ほなおおきに兄ちゃん」

 オーシャンは後ろ手で手を振ると二人とは反対の方に歩いて行った。

「さあ、戻ろうかミュゼ」

「はい、コースケ様」


 自室に戻る途中功助はシオンベールの言葉を思い出していた。

『一ヶ月後には私の牙を使い元の世界にお戻りになることをお約束ください』

『あ、……あ、…ああ……」

 それにはあいまいに返事をした。

 そして、一ヶ月後とは今日から三十日後のことですよねとシオンベールに念を押され功助は頷くのだった。



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