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異世界人と竜の姫  作者: アデュスタム
第2章 それぞれの望み
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06 フログスの目覚め

 06 フログスの目覚め



 ・・・34日目・・・


 そしてまた一週間。

 午前の魔法師隊の訓練もを終え、詰所の隊長室で昼休憩時間をとっている時。

 バタンッ!

「コースケ隊長っ!」

 勢いよくドアを開けてラナーシア副隊長が入ってきた。

「な、なんだ、びっくりした。ラナーシア副隊長、どうしたんです?」

「コースケ隊長、伯爵が、フログス伯爵がようやく目覚めましたっ!」

「えっ、そうかようやく目覚めたか」

「はい。さきほどフログス伯爵についている治療師から連絡がありました。コースケ隊長、今から私とともにおいでください」

「わかりました。ミュゼ行くぞ」

「はい、コースケ様」

 功助はラナーシア副隊長に続きミュゼリアとともに詰所を後にした。


 フログス伯爵の病室前にはすでにバスティーアが廊下に立ち功助たちがくるのを待っていた。

「バスティーアさん」

「お待ちしておりましたコースケ様。さ、中へお入りください。すでにベルクリット団長とハンス副団長がお待ちでございます」

 バスティーアの開けたドアをくぐり功助たちは病室の仲に入った。入った病室の部屋の仲にはもうひとつ部屋があった。

 奥の部屋に続くドアの前にはベルクリットとハンスが立っていた。

「おう、来たかコースケ」

「はい。ベルクリットさん。それで、フログス伯爵が目覚めたんですか?」

「ああそうだ。ほんの二十分ほど前に目を開けた。しかしまだ半覚醒状態でな」

「そうですか。で、今は?」

 ドアの方をちらっと見てベルクリットを見る。

「まあ大丈夫だろ。入ってみるか?」

「はい。そうですね」

 功助たちはそのドアをそっと開けると病室内へ入った。

 窓のカーテンは開けられ午後の陽ざしがすりガラス越しに部屋の中に降り注いでいる。

 壁はほんのりと青くシミ一つない。床もピカピカと光とても清潔な病室だ。

 そしてその部屋の中心に真っ白な布団をかけられて横になっているフログス伯爵。顔色もいいが、以前よりかなりやせている。三週間も寝たきりなので仕方ないが。しかし以前がとても肥満していたので今がちょうどいい体系なのかもしれない。

 功助たちが近づくとフログス伯爵は少し身じろぎをしてこちらを向いた。

 まだ意識がはっきりしないようでうつろな目を開けて功助たちを見ている。

 ベルクリット、ハンス、ラナーシア、そしてその後ろにいるバスティーアとミュゼリアを順番に見ていく。そして、功助の顔を見ると目を見開き、次いで数度瞬きをした。

「……も、もしか…して…」

 フログス伯爵が動きにくい口を動かして話だした。

「もしか…して…、異世界の…青年か…。あの謁見の…間に…いた…」

 フログス伯爵はその細い目で功助を見ている。その目は以前のようないやらしさはなくなんとなくやさしい目をしているようだと功助は感じた。

「は、はい。覚えておられたのですかフログス伯爵」

「…あ、ああ。あの時はすまなかった…」

「えっ…?」

 まさかフログス伯爵から謝罪があるとは思わず功助は素っ頓狂な声を出した。

「ふふふ…。そなたを曲者呼ばわりしてしまい…」

「あ、いえ、気にしてませんフログス伯爵。それより体調はいかがですか?長い間意識が戻らなかったのですが大丈夫ですか?」

「あ、ああ。まだ頭がはっきりしないが大丈夫だ」

 そして視線をバスティーアに向けた。

「バスティーアどの」

「はっ、なんでございましょうかフログス伯爵」

 といって一礼をするバスティーア。

「…これまですまなかった。あのようなことがなければ私は魔族にそそのかされたりしなかったものを。すまなかった」

「伯爵…」

 そう言ってバスティーアは目頭を押さえた。

「…ベルクリット団長」

「はっ」

 とベルクリットも気を付けをした。

「…すまない、もう少し寝かせてもらえるか。そしてそのあとですべてを話する」

「はっ。承知いたしました。ゆっくりとお休みください」

 と言うとフログス伯爵は微笑し、

「すまない」

 と言ってその細い目を閉じた。


「フログス伯爵は魔族に操られている間の記憶もすべてあるようだな」

「俺もそう思うぞベルク。嫌な思いをさせられた記憶があるということはきっついよなあ」

 と頭の後ろで手を組み天井を見るハンス。

「さぞお辛い思いをされたのでしょう」

 と目を伏せるバスティーア。

 功助たちは今病室の近くの控室にいる。フログス伯爵が眠ったのを確認しこの部屋に一時場所を替えたのだ。

「バスティーアさん」

「はい、なんでしょうコースケ様」

「さっきフログス伯爵が’あのようなことがなければ’って言ってましたけど、あのようなことって?」

「はい。私が知っていることはあまり多くありませんがお話いたしましょう。その前に」

 そういうとバスティーアはみんなのカップに紅茶を淹れた。

「十年ほど前になりますか、フログス領にミノタウロスが現れました。コースケ様はこのことはご存じでございましたな」

「はい。一週間ほど前にフログス領からきた母子から聞きました」

 バスティーアは軽く頷くと話を続けた。

「そして、ミノタウロスを掃討し、白竜城に報告のため登城されました。そして一週間後に帰領される時には人が変わったように変貌されたのです」

「ということは、その一週間の間に伯爵に何かがあったと考えるのが自然だな」

 とベルクリット。

「その時のフログス伯爵の動向はわかっているんですか?」

 と功助が尋ねる。

「いえ。わかっているのは最初の三日間だけで後半の三日間はわかってなかったと記憶しています。最終の七日目は…朝から自室に籠っておられたと思います。まあ、私の記憶が正しければですが」

 と目を伏せた。

「当時の記録かなんかないのか?あると思うんだが…。たった十年前のことだろ。なあハンス」

「そうだな。あるだろう記録。バスティーア殿」

「はっ。了解いたしました」

 バスティーアは一礼すると部屋を出て行った。


 そして夜。国王の執務室に功助たちはいた。

 青の騎士団のベルクリット団長とハンス副団長。魔法師隊ラナーシア副隊長。テーブルの近くには家令のバスティーアが立ち部屋のドアの横には功助専属侍女のミュゼリアが立っていた。

「報告は聞いた。それで今フログスはどうしている」

 と国王。

「はっ。フログス伯爵は昼間われらが面会して後、また深い眠りにつき今現在も目覚めておりません」

 とベルクリット。

「そうか。では、バスティーア、十年前の記録の方はどうであった」

「はい。さきほどまで記録を捜しておりましたが見つかりませんでした。そうです、あのフログス伯爵がミノタウロス討伐後に登城した一週間の記録だけが紛失しておりました。人為的にその部分だけが切り取られたのではないかと推測いたします」

「人為的?」

「はい。破り取られた痕跡がはっきりと確認できました」

「そうか。わかった」

 と椅子に深く座る国王。目をつむり何かを考えているようだ。

 部屋の中にいる全員が国王陛下の口が動くのを待っていると、ふと目を開き話始めた。

「あれは先代の国王、つまり俺の父上の時の話だ。フログス領にミノタウロスが現れたのはグァマ・フログスの父、先代のフログス伯爵アーマが呼び寄せたという疑いがかかった」

「えっ…!」

 全員が声をあげた。まさか自領に魔獣を呼び寄せるなんてと。

「アーマはその時、自領をどうにか豊かにしたかったようだ。もともとフログス領は荒れた土地が多く肥えた土地はほんのわずかだったと聞く。それを愁い嘆いてたそうだ」

 ここまで聞くと悪い人には見えないのだがとみんな顔を見合わせていた。

「しかし…、なぜそのような者が魔獣を呼び寄せたのかはわからずじまいだ。フログス領の噂によると気が狂ったとか憂さ晴らしとかあげくの果てには夫婦ゲンカのとばっちりだという根も葉もないこともでてきた」

 それを聞いて全員苦笑している。

「あの国王陛下」

「なんだコースケ」

「その、ミノタウロスが現れた時にフログス伯爵はここに、白竜城にいたんですよね。なんでここにいたのですか?」

「うむ。その時はちょうどシオンの7歳の誕生日でな。フログスも祝いに訪れてくれていたのだ。その時だ緊急の報告だった。そのミノタウロス出現の報を聞きフログスには青の騎士団と魔法師隊を率いさせ帰領させた」

「青の騎士団と魔法師隊?じゃベルクリットさんたちが?」

「いや、俺たちはその時はまだ騎士見習いにもなってない時だ。ハンスもラナーシア副隊長もまだまだガキの頃の話だ」

「そうですか…。では、その時先代の伯爵、アーマ伯爵はどうしてたんですか?」

「アーマはミノタウロスが現れる一月前にすでに亡くなっている。だが、突然現れたミノタウロスは墓にあったアーマの遺体を真っ先に喰ったらしい。そう伝令が言っていたのを俺が覚えている」

「まあ、アーマ前伯爵が魔族にそそのかされたのはほぼ確定だな」

 とベルクリット。

「ああ、俺もそう思う」

 とハンス。

「何故ですか?」

 功助が不思議に思い尋ねた。今の話だけであーま前伯爵が魔族に操られミノタウロスを召喚したとするには首を捻る。

「それはだな、魔獣を召喚すると召喚したヤツが喰われるんだ。そして召喚したヤツは魔族の力をかりなければ魔獣を召喚できない。わかるか?」

「…はい、なんとか」

 と功助。

「あとはフログス伯爵がどのようにして魔族にあの契約の紋章をつけられたかですね」

 とラナーシア。

「そうだな」

 とベルクリット。

 そんな話をしているとドアを叩く音が聞こえ金の騎士が入ってきた。

「陛下、フログス伯爵が目覚めたと報がありました」

「そうか。では行ってみるか」

 と国王。

「はっ!」

 全員が返事をするとフログス伯爵の病室に向かった。


 金の騎士の先導の元功助たちはフログス伯爵の病室に着いた。

 病室のドアを開くとフログス伯爵はベッドを立てて座っていた。

「へ、陛下…」

 細い目を見開いてフログス伯爵は驚いていた。そして座ったままだが深々と頭を下げた。

「そのままでよい。フログス、気分はどうだ?」

「はっ。まだうまく身体は動きませぬが生まれ変わったような気がします」

「そうか。それは良い。今話はできるか?いろいろと聞きたいことがあるのだがな」

「はっ。なんなりとお聞きくだされ」

 そしてフログス伯爵は十年前のこと、そして今回のことを話だした。


 十年前。シオンベールの誕生日祝いに登城する二ヶ月くらい前から父アーマの動向は妙だとかんじていた。

 暇があればフログス領を視察して嘆息しを繰り返していた。そんな時である。

 アーマは三日ほど行方不明になった。屋敷の者はもとより家族も領民でさえアーマを捜した。三日三晩捜しに捜したが一向に見つからない。

 が、もうすぐ日が変わるかという時になんと牛舎の屋根裏で藁にまみれて倒れてるのが見つかった。

 屋敷に連れ帰ったが目覚めたのは一週間後だった。目を開いたアーマは一瞬不気味な笑みをこぼすと’願いは叶った’と一言言うとそのまま息を引き取った。

 なんの願いだったのか誰にもわからず葬儀も終わった。その時白竜城からはバスティーアが弔問に訪れていた。

 そして一ヶ月後。アーマの最後の言葉が気にかかったがフログス伯爵はシオンベールの誕生祝に登城した。

 そしてその時、自領にミノタウロス出現の報を聞き帰領しこれを打ち倒した。

 ミノタウロスが出現したのはなんとアーマの墓の仲からだった。フログス家の墓守が掃除をしているとアーマの墓が盛り上がり出てきたのだという。

 そして最初に喰われたのは近くにいた墓守ではなく屋敷内にいたアーマの妻だった。それから屋敷の外に出ると誰彼かまわず喰らい、破壊し続けた。

 ミノタウロスを討伐したあと、それが出てきた墓の中を調べた。が、なんとそこには、アーマの身体はあったが頭部だけがなくなっていた。

 調査をして白竜城に登城したフログスは事実を報告した。が、前国王をはじめ宰相や武官までもアーマが狂い魔族と契約し自領を破壊させたと結論づけた。

 フログスは父の無実を訴えた。自領を憂い自領のことを何より考えるような男が自領を破壊するなどということは絶対にないと。しかし訴えは退けられた。

 そんな時である。フログスの前に魔族が現れたのは。

 登城して四日目、 フログスはその時一人でマピツ山に登っていた。このマピツ山の遥か向こう側にフログス領がある。国王たちの決定に不満を持っていたが、それを覆すにはフログス一人ではどうしようもないことだった。

 遥か彼方を見つめながらその細い目から一筋の涙が頬をつたう。すると後ろから声がかかった。悔しくはないのかと、父の無実をはらしたくはないのかと。振り返るとそこには魔族がいた。

 その魔族ダンニンは何もかも知っていた。父アーマが契約したのはゼドンだったということ。アーマは自分の命を懸けても自領を豊にしたかった。その願いがゼドンに届いたのだ。

 ゼドンはアーマの命を引換にフログス領を豊にすると約束した。普通魔族との約束は契約をするのだがゼドンは言葉巧みに契約をさけ口約束だけで契約をさせた。もちろん口約束ではなんの意味もないのだが、アーマは不思議におもわなかったようだ。アーマはゼドンを信じてしまった。

 その魔族ダンニンはアーマは悪くない、みんなゼドンが悪いのだと言った。もし今お前が俺と契約したならばゼドンの否を自らが白竜城の国王に詫びに行くとも言った。父の無実を信じているフログスはその魔族の、ダンニンとの契約に応じてしまった。

 その契約は一方的なものだとわかったのは紋章を刻まれた後だった。口は勝手に他人をののしり、その腕は他人を殴り、そしてその心は閉ざされてしまった。

 そして帰領の日、フログスは顔つきも言動もまったくの別人になったようになり国王に告げた。父アーマ・フログスの罪は消えることはない、このグァマ・フログスがアーマに代わり自領を立て直してみせると。

 フログスの変貌に少し違和感を持った国王たちだが、その言葉に武官たちもうなづきアーマ・フログスのたった一人の乱心として決した。

 その事件の記録を隠滅させたのはその時にゼドンから側近として宛がわれたデイコックだった。


「そうか。そのようなことがあったとは。先代国王の思慮の無さと愚かさを痛感した。先代に代わり謝罪する。グァマ・フログス、申し訳なかった」

 と頭を下げる国王。

 それに驚いたのはフログス伯爵だけではなく全員が驚嘆を隠せなかった。

「へ、陛下っ!おやめくださいっ。私ごときに頭を下げるなどとは、そ、そのような……」

「いや、そうはいかん。お前の人生を壊した先代国王、俺の父が愚かな決定をしてしまったのだ。すまぬフログス」

「…陛下…」

 フログス伯爵はその細い目を見開きポロポロと涙を流した。



 俯き涙を拭ったフログス伯爵は今回のシオンベールの襲撃事件についても話しだした。

「今から一ヶ月半ほど前。、私の前にダンニンが現れたのです」


 城内の自室。側近の下フログスは一人でガブガブと酒を飲んでいた。その時背後に気配を感じ後ろを向くとそいつはいた。

 魔族ダンニン。そいつが微笑を浮かべ立っていた。彼は二週間後計画を実行することを告げに来たのだった。

 二週間後、シオンベール王女を襲い人竜球を破壊すると。

 そしてその十七日後シオンベール王女が絶息期の当日、狂暴な竜と化したシオンベール王女と魔獣フェンリルによって白竜城を陥落させる。

 成功すれば城はフログスのものとなるのだと。

 その方法を聞いた時フログスは卑しい目を一層卑しくして笑った。しかし、心の奥底に追いやられた本当のフログスの心は驚愕し、怒りそして憎悪した。しかしその心とは裏腹に身体はダンニンの言葉に歓喜し美味そうに酒を煽る。

 決行は二週間後。場所は白竜城の林の中。ダンニンはフログスにシオンベールをそこに誘い出すように指示した。がどのようにして林まで誘い出すかフログスの頭では考えがつかなかった。

 悩んでも側近に聞いても何もいい案が浮かばなかった。こうなれば無理やり連れ出そうと、考えるのをあきらめた。

 しかしその当日。フログスの願いが叶ったのかシオンベールはたった一人で林の中に散策に訪れたのだった。

 それからダンニンの言うとおりなんとあの災害級の魔獣フェンリルが現れた。

 フェンリルはゼドンによって眉間に付けられた傷口にムダンがキュプロープスに作らせた服従の魔法を込めた光の矢を打ち込み、魔族の思う通りに動く魔獣に作り替えた。大きさも自由に変えられこの時には体長二メムほどの小さな身体でシオンベールに襲い掛かった。

 襲われたシオンベールは魔法を使おうとしたがそれより早くフェンリルはその左足に噛みついた。痛みで気を失いかけているシオンベールのその胸にフェンリルの鋭い爪が振り下ろされる。そこには竜族の命とも言う人竜球がある。ちょっとやそっとの力では壊せるはずもないその人竜球をフェンリルはいとも簡単に破壊した。

 絶叫し痛みに全身を震わすシオンベール。そしてその意識が徐々に失なわれそこには黄金の竜が虫の息で横たわっていた。

 それを見て醜悪な微笑を浮かべるフログス伯爵。そのフログスを見てほくそ笑むダンニン。

 シオンベールの叫声を聞き騎士団や兵士がかけつけたがすでにフログスたちは逃げた後、フェンリルはわざと騎士団たちに姿を見せて消えた。

 自室に戻るとフログスは腹を抱えて笑う。

 フログスの目の前には同じように笑うダンニンと側近として白竜城に潜り込んだデイコックが笑っていた。

 しかしそれから十一日後、フェンリルが亜空間から逃亡してしまった。服従の矢の効果が予想より張るかに持続しなかったのが原因とムダンが言っていた。

 しかしキュプロープスが急きょ作った亜空間召喚魔法具によりかろうじて回収することができた。

 そして六日後、林の中から空間を裂いてフェンリルが現れたが異世界から来た男に討伐された。



 功助はミュゼリアとともに自室に戻りソファーに身体を預けた。時間は間もなく日を超えようとしていたが、熱いお茶が飲みたいと頼むとそんなことは気にしないでくださいと少しミュゼリアに怒られる

 そしてミュゼリアが淹れたお茶をゆっくりと口に含むとゴクンと咽喉をならし呑みこんだ。

「ふう。少し落ち着いた。ミュゼは大丈夫?」

「はい。私は大丈夫ですよ。でも今日はいろいろなことがあってとても忙しい日でしたね。このあとはごゆっくりお休みください」

「ああ、そうするよ。でも…」

「はい?」

 小首を少し傾けるミュゼリア。

「フログス伯爵も大変だったんだな」

「そうですね。あのフログス伯爵様が本当はお優しいお方だったなんていまだに信じられませんが」

 と苦笑するミュゼリア。

「そうだよなあ。でもあの契約の紋章だっけ?あれが消えて本当によかったと思うよ。四週間近くも気を失ってたのはおそらく心が傷ついててそれが回復する時間だったんじゃないかなと俺は思うんだけどな」

「そうですよそうですよ。たぶんそうですよコースケ様」

 と指を刺すミュゼリア。人を指差してはいけませんよと心でツッコむ功助。

 ミュゼリアのお茶で身体もリラックスした功助は間もなくベッドに入り目を閉じた。



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