04 トリー村から来た親子
04 トリー村から来た親子
・・・27日目・・・
そして二週間。
あれからいつも同じことの繰り返しだ。朝から魔法師隊の訓練をし夕方には自室で風呂に入り、そして夕食は国王との会食、そして就寝。
功助は今日も自室で朝食を採りミュゼリアの淹れたお茶を飲みため息をついている。
「コースケ様。最近ため息ばかりですよ。お気持ちはわかりますが…」
「あ、ああ。そうだよな。ため息つくと幸せが逃げて行くっていうからなあ」
「へえ、そんな言葉があるんですかコースケ様の元の世界には」
「ああ。そうなんだよ。はあ…、でもつい…な」
「コースケ様……」
少し小首を傾げパチンと手を叩くミュゼリア。
「そうだコースケ様、ご提案があるのですが」
「提按? なんだ?」
「今日は魔法師隊の訓練を一日お休みになさいませんか。そして少し城外に出て町を散策されてはどうですか?気分転換になると思うのですが」
「えっ…?町に…ねぇ。 気分転換か…」
「そうですよコースケ様。そうしましょう、ね。ということでラナーシア副隊長にちょっと話に行ってきますので、少し待っていてくださいね。すぐもどりますので」
というとミュゼリアはパタパタと廊下に出て行った。
「あ、……」
あっと言う間にドアは閉まり功助は中腰で右手をヒラヒラさせるだけだった。
一時間後。功助とミュゼリア、それになぜかフィリシアともう一人、ゼフじいさんが城門にいた。
「なんで二人がいるんだ?」
「なんでってそんなんわかるやろコースケはん。おもろそうやないか。初めて出るんやろ城下に」
カッカッカッと笑うゼフじいさん。
「ま、まあそうですけど」
「なんかあるような気ぃせえへんか。ワシはなんかあるような気がすんねんけどな」
「ちょっとゼフじいさん、そんなフラグいりませんから、ほんといりませんから」
「なんやそのふらぐつうのは。まあ、ええわ。ほんなら行こか」
とズンズンと城門に進むゼフじいさん。
「ちょっと待ってよおじいちゃん。さあコースケ様、ミュゼ、早く早く。おじいちゃんが行ってしまうわ」
「わかったわかった。んじゃミュゼ行こうか」
「はい、コースケ様」
功助とミュゼリアははしゃぐ二人を追いかけ跳ね橋に向かった。
「へえ、ここが城下の町か。けっこうにぎわってるな」
城を出て長いうねうねとした道を進むと整然とした建物が目に入ってきた。そしてその中の大通りを歩きながら周りをキョロキョロと見渡すと感嘆の声をあげた。
行き交う人たちは多種多様な種族が入り交じり、道の両側にはこれもまたいろいろな屋台が軒を並べていた。
犬や猫の亜人、二足歩行している熊や虎がワイワイガヤガヤと楽しそうに闊歩している。屋台は串焼きをはじめ、お好み焼きのような平べったいもの、肉のようなものを挟んだパンや桃のような香りのジュースっぽいものが売られている。
「活気があるなここは」
いまだに周りをキョロキョロしている功助にゼフじいさんが耳元でささやいた。
「コースケはん。ここの道の裏の方に行ったらええ店があるんやで。まあそこは夜にならなあかんけどな。そうや、娼館や、今度一緒に行こか。ええ娘がようけいるんやでぇ」
「うっ…、そ、そうですか。ま、また今度ということで…ははは」
と突き刺さるような視線を感じてそちらを向くと。
「コースケ様」
「おじいちゃん」
女性二人がジト目でこちらを見ていた。
「き、聞こえてたみたいですよゼフじいさん」
「ぬわっはっはっ。何、そんな細かいことは気にせんでええ。男っちゅうんはそういうものなんや。ガハハハハ」
「ちょっとおじいちゃん!コースケ様に変なこと教えないでよね」
「そうです。それにコースケ様。私信じてますからね。いいですか、信じてますからね」
「あ、ああ。大丈夫だ。ミュジェを裏切ることはないしゃ。あーっはっはっ」
と功助はさわやかに返事をした……つもりのようだ。
「まあ、ええやないか。さあてと、まずは何か食うことにせえへんか。なあコースケはん」
「えっ、ああ、そうですね。いい匂いがそこらじゅうからしていてたまりませんね」
「コースケ様。あれ食べませんか」
とフィリシアが指差す方には何かの肉の串焼きが炭火の上でジュウジュウと音をたてていた。
笑顔のフィリシアが買ってきますねとトコトコ歩いて行った。
「らっしゃいっ」
「おじさん、四本ちょうだい」
「あいよ」
熱いから気をつけてよと串焼き屋の店主が手渡した湯気のたった串焼きをうれしそうに持ってきた。
「はいコースケ様」
「おう、ありがと」
四人とも串を持った瞬間にはもう口に運んでいる。なんの肉かはわからないが口にしたとたんその芳醇な肉の香りとそれからほとばしる脂が口の中で楽しいダンスを踊った。
「うまいもんやなあ。ワシが焼いてもこんなうまく焼けへんでほんま。プロなんやなああの人も」
「そうですね。憎いほどの焼き加減がたまりませんね。肉だけに」
と功助が言うと、
「はふはふ。ほぅれすね。とてもおいひいれす。はふはふ。ひょっと熱いけろ」
とフィリシア。スルーされてしまったようだ。
「食べながらしゃべるのは行儀わるいわよフィル」
とミュゼリア。
「何言ってるのミュゼ。ここはお城の仲じゃないんだよ。そんなことな~んにも気にしない気にしない」
はふはふと串焼きを頬ばるフィル。
「まっ、それもそうか」
と同じようにはふはふとおいしそうに串焼きを食べるミュゼリア。
それからいくつかの食べ物やお菓子、桃のようなジュースを平らげ四人は満腹になった。少し休憩しようと広めの公園のベンチに座った。
ミュゼリアが「侍女が隣に座るなどということはできません」と功助の後ろに立とうとしたが、今はそんなことは関係ないから自分の横に座ってくれと頼むとしぶしぶといった感じで座った。
「ミュゼはどこまでいっても侍女なんだな」
と功助が少しあきれ口調で言うと
「はい。私は侍女という仕事に誇りをもっています。いついかなる場合でも私は侍女です。主にお仕えするのが本望なのです」
と胸を張った。
「そおら、またミュゼの侍女魂がお目見えだぁ。コースケ様、大変ですよこうなると」
「な、何言うのよフィル。私はね……」
「キャーーーッ!テ、テトぉっ!や、やめてくださいっ!お願いしますっ!!」
その時、女性の叫び声が聞こえた。声のする方を見ると数人の獣人らしき男が母子らしき二人を取り囲んでいた。
少年を一人の獣人が片手で首根っこをつかみ吊り下げており、他の男はその母親らしき女性の肩をつかみニヤニヤとした下種な顔をその女性に近づけていた。
「な、なんですかあれは」
と不愉快な顔を向けるミュゼリア。
「ほんと、なんてことしてるのよあいつら」
「さっきまで緑の騎士がいたんちゃうかいな」
と周りをキョロキョロするゼフじいさん。
「俺たちがこの公園に付いた時にちょうどどこかに行きましたよ」
「フィリシアっ!」
「はい、おじいちゃん」
フィリシアはそう言うと背中の翼を一気に拡げると空高く飛んでいった。
フィリシアを見送ったゼフじいさんは少しわくわくした。
「やっぱりおもろいことあったな」
と母子と獣人の方を見た。
「コースケ様」
「ああ」
と二人はベンチを立つと獣人にからまれてる母子の傍に走った。
「ちょっとあなたたち。何をしているんですか。その子を早く離しなさいっ!」
ミュゼリアが男たちにひるまず怒声を浴びせた。しかし、男たちはイヒヒとミュゼリアに下卑た笑いを向ける。
「あ~ん。姉ちゃん何言ってやがんだ。ケガさせられないうちに家に帰ってションベンして寝てろや」
「むむっ!」
ミュゼリアが嫌悪感を露わにした。
「ぐへへ。そうだぜ姉ちゃん。それとも何か、お前がこのガキの落とし前つけてくれんのか、あん」
「いいんじゃね。いい身体してるみてぇだ。ちょっと乳は寂しいみてえだけどよ。ガキの落とし前はこの姉ちゃんの身体でつけてもらわねえか」
「や、やめてください。その方たちには関係ないんですっ。お願いします」
と女性。まだ男に肩をつかまれていてその身体は小刻みに震えていた。
「やかましい。こうなったらお前も身体で落とし前つけてもらう。とその前にこっちの姉ちゃんを、なあみんな」
それはいいそれはいいと獣人たち。その中で一番人相、獣相の悪そうな男が二人に近づいてきた。
「よう姉ちゃん。ちょっと乳はみすぼらしいがそんなこたあどうでもいい。なあ、その身体で落とし前つけろや」
「ちょっと待てよ獣人」
と功助。
「あん。なんだあお前は。ケガしたくないならとっとと失せろや。それとも何か、そのひょろひょろしたその腕で俺らにはむかうってのか。やめとけやめとけ。地面に這いつくばるだけだぞ。ガハハハハ」
「ちょっ、ちょっとこの方を侮辱するのは許しません。謝罪しなさいっ」
「なんだあ姉ちゃん。こっちが下手に出て多羅つけあがりやがって。犯すぞてめえ」
と言うとミュゼリアの胸倉をつかみ宙に浮かべた。
「……」
それでもミュゼリアはひるまずにその獣人を睨む。
「いい加減にしろよ」
功助は自分より頭一つ以上高くがたいもでかいその獣人、おそらく熊の獣人の首を後ろからつかんだ。そして握る手の力を少しずつ強めていった。
「い、いてててて。く、苦しい。は、離せや」
熊の獣人はたまらずミュゼリアから手を離しその太い腕を振り回し功助を掴もうとしている。それをみたほかの獣人が功助の背中から飛びかかってきた。
「おらぁ、離せやこのガキぃっ!」
功助は後ろも水に右足を後ろに勢いよくあげて飛びかかってきた牛の獣人に蹴りを入れた。ウガッという声とともにそいつは数メートル吹き飛び動かなくなった。
「き、貴様ぁ!」
今度は女性をつかんでいたワニのような獣人が功助に横から飛びかかろうとしたが、その間にミュゼリアが入った。そして一瞬の間に氷の壁を作り出すとそれをワニの獣人目がけて押し出した。
「ウゲッ」
という叫びとともにワニの獣人はその氷の壁と地面の間に挟まれ動けなくなった。そしてミュゼリアがその上に飛び乗りピョンピョン跳ねていた。
残りは一人。子どもを吊り下げてたゴリラのような獣人が腰の両刃剣を抜くと功助に切りかかってきた。
功助は振り下ろされる両刃剣をじっくりと見ると空いていた左手の親指と人差指でその刃を掴んだ。
ゴリラのような獣人がその剣を押しても引いても剣は一ミリも動かない。功助はその挟んでいた指に少し力を入れてねじった。
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いとも簡単にその両刃剣は真っ二つに折れてその剣先が地面に転がった。
驚愕のゴリラ獣人。しかし少しは冷静のようで握っていた柄を離すと功助に殴りかかってきた。
しかし功助はそれを左手の掌で受けるとその拳を強く握った。ゴキッという音とともにウギャアという情けない声をあげて男は後方に飛び去りうずくまった。
「な、な、なんだ。貴様らは。ど、どこにそんな力が…う、うぐっ」
功助は他の獣人を相手にしていて少し弱まっていた手に力を入れた。
「う、うぐ。あ、あがっ…や、やめ…てく…れ…」
男はあまり力の入らない手で功助の手を叩いた。
「何をしたか知りませんが、あのような非道な行い、許しがたいです」
とその熊の獣人の前に立つと鋭く睨むミュゼリア。
「あ、あ、す、すまなかった」
と熊の獣人が言うと気を失った。
功助はそれをうずくまっている仲間の近くに放り出すと手をパンパンとはたいた。
「お疲れ様です、コースケ様」
「ミュゼも大丈夫だったか?」
「はい。問題ありません」
とにっこり笑うミュゼリア。
母子の方を見るとゼフじいさんが大丈夫ですかと声をかけていた。功助とミュゼリアも顔を見合わせるとそちらに向かった。
「あ、ありがとうございました。ありがとうございました」
女性は何度も何度も頭を下げた。
「テトっ!」
「か、かあさん」
強く抱き合う母子。怖かった怖かったとテト少年。よしよしと背中を摩る母。ホット微笑む功助たち。
「大丈夫でしたか?」
と功助。
「は、はい。ありがとうございました。このお礼は必ず…」
「いえいえ。そんなことは気にしないでくださいね。それよりどうして奴らに?」
「はい…」
とここでフィリシアが緑の騎士団を数人連れてきた。
緑の騎士が功助の顔を見たとたん左胸に拳をあてた敬礼をしたのをみた女性は少し不思議そうに功助たちを見ていた。
「で、こいつらどないすんねん緑の騎士はん」
「はい。詰所に連行し事情聴取します。たぶん二,三日は牢屋入りになると思います」
「そうですか。それじゃあとはよろしくお願いします」
「あの、申し訳ないのですが、コースケ様たちもご同行ください。すぐに終わらせますので」
この緑の騎士は功助の名前を知っていた。少し驚く功助。しかし横からミュゼリアが小さな声で囁く。
「コースケ様。白竜城の仲の人たちはみーんなコースケ様のことを知ってますよ。ちなみにですけど、『黒髪の英雄」とか『漆黒の騎士』とかって一部の女の子からは呼ばれてるんですよ」
「えっ、そうなの。知らなかった。…っていうか有名人なのか俺」
功助が…黒髪の英雄なんて中二でも使わないぞこの称号…と考えてると
「そうですよ」
、うふふと笑うミュゼリア。
「それと旅の方。あなたたちも話を聞きたいので詰所にきてください」
と緑の騎士がいうと母子も了承した。
母の名前はトリシア。男の子の名前はテト。二人はここ竜帝国の南方にあるフログス領のトリー村から来たのだという。フログス領はあのフログス伯爵が治める町だ。
ここ白竜城に、ある願いをするためにこの城下に今日ついたばかりだという。
はじめての大きな町にテトははしゃぎそして走り回っていたが、偶然ワニ顔の獣人にぶつかりそいつが持っていた酒の瓶を割ってしまった。
トリシアがテトを誤らせ弁償金も払ったのだがそれでも彼らは許してくれずテトに暴力をふるおうとしていた。それをとめてくださいと願うトリシアにも因縁をつけてもっと金をむしり取ろうとしていた。
「と、俺とミュゼが見かねて助けに入ったってことです」
「そうでしたか。わかりました。やつらは二,三日牢屋にぶち込んでおきます。コースケ様ご協力感謝いたします」
とまた功助に敬礼をする緑の騎士。
「それではトリシアさん、お子さんを連れてお戻りください。良き旅を」
と緑の騎士がやさしく声をかけて功助たちは詰所をあとにした。
功助たちはトリシア母子とともにさきほどの広場に戻ってきた。
知っているかどうかはわからないがフログス領から来たと言うその母子にそれとなくフログス伯爵のことを尋ねようと再びもどってきたのだった。
「フログス領から来たって言ってましたねトリシアさん」
功助はベンチに座るとトリシアに話をきりだした。
「はい。さっき着いたばかりでまだ宿も決まっていません」
「そうですか」
広場ではミュゼリアとフィリシアがテトと一緒に遊んでいる。遊んであげているのか遊んでもらっているのかはわからないが。
「それで、白竜城に’ある願い’をするってどういうことですか?」
「え…、あの…」
功助を見て言うかどうか思案してるようだ。それもそうだと功助。するとゼフじいさんが思案しているトリシアに話かけた。
「トリシアはん。このお方はな城竜城でもけっこう偉い人なんやで。今は臨時なんやけど魔法師隊の隊長さんしてはるんやで。そやさかい安心して言うてみ、もしかしたら力になってくれはるかもしれへんで」
「えっ、そうなんですか。さっきの騎士様の態度が他の方とは違うのはなぜかなと思ってはいたのですが、そ、そんな偉いお方に…。す、すみません。助けていただいてお礼も差し上げず」
といきなりベンチから立つと跪こうとしたが功助はあわてて止めた。
「ちょっ、ちょっと待ってください。そ、そんなことはしなくていいですから。っていうか、そんなことしないでくださいよ、お願いしますから。ね」
「は、はあ…でも」
「そやそや、そんなことしてもこのコースケはんは喜ばへんで。どっちかというとトリシアはんのその大きなので顔をパフパフしてあげた方が喜ばはるで」
とゼフじいさんは人差指でトリシアのちょっとばかり他人よりボリュームのある胸を指差した。
「え…、あ、…そ、そうした方がいいのなら…」
と顔を真っ赤にして胸を持ち上げるトリシア。
「わっ、わっ、そそそそそんなことしなくていいですから。ゼフじいさんっ!そんなこと言わないでくださいよ。俺ってそんな変態じゃありませんからっ!」
「ぐわはははは。シャレやシャレ」
それを聞いたトリシアは真っ赤になった顔を両手で隠して身体をくねくねさせていた。
バッコーン!
「うぎゃあああああああ!」
頭を抱えベンチから後ろに一人バックドロップをするゼフじいさん。
「この変態エロじじいっ!」
振りぬいたフィリシアの手にはサンダルが握られていた。
「は、話を戻します。えーと、’ある願い’というのは?」
「は、…はい」
トリシアはポツリポツリと話始めた。
トリシア母子は今から十年ほど前にフログスに助けられたのだという。その時に夫は亡くなりそれから女で一つでテトを育ててきている。
今から十年ほど前。フログス領トリー村に災害級の魔獣が来襲した。
それは牛の魔獣、ミノタウロスだ。その魔獣がフログス領に突然現れ破壊の限りをつくした。
それは蹂躙の所業ともいえる破壊だった。形あるものはすべて砕き、命あるものは赤子といえどミノタウロスの腹の仲に入れられた。
そこに現れたのがフログス伯爵だった。その時白竜城に登城していたフログス伯爵に魔獣来襲の報がありすぐさま白竜城から援軍を携え自領の危機に帰領した。
自ら先頭に立ち青の騎士団と魔法師隊を支持しミノタウロスを一斉攻撃。なんとかミノタウロスを倒すことができた。
倒れたミノタウロスの生死を確認するために近くに集まった騎士たちの仲にフログスも一緒に立っていた。
その時フログスの立っていた横の倒壊した家の仲から小さな声が聞こえた。最初は気のせいかと思ったがよく聞き耳をたてると赤ん坊の声だった。
すぐさま騎士の一人に捜索を命令したが、その時死んだと思われたミノタウロスが再び動いたのだ。そのためフログス伯爵の命令は破棄された。
死んでいると思われるミノタウロスが再び動き出してしまった。そう、アンデットとして蘇ってしまったのだ。確かにミノタウロスの腹には向こう側が見えるほどの風穴があき顔の半分も消え失せている。おまけに右足の足首から先と右腕、それに左手首も魔法により消失していた。
しかし所詮はアンデット。それも欠損部分が多いので騎士の敵ではなかった。
再びミノタウロスを騎士が攻撃する。その余波がフログス伯爵の付近にまでおよんだ。そう、すぐ横にある家だったものにもその余波は襲い掛かりより一層破壊されることになる。
その時である。その時フログ伯爵はその家に跳びこんだ。押しつぶされた家の仲。奥の方から赤ん坊の泣き声が聞こえる。
瓦礫を力ずくで持ち上げ前に進む。その時のフログス伯爵は今のようにぶくぶくとした脂肪の塊ではなかった。確かに少しは肥満体系だが軽い身のこなしで次々と瓦礫を除けて行く。
そして大きな板を除けると、そこには赤ん坊に覆いかぶさるようにその父と母だろう男女が倒れていた。
近くに寄り生死を確かめるが男の方はすでに事切れていた。女の方はまだしっかりとした息がありすぐに引き出せば助けられる程度の状帯だ。
必死に瓦礫を除けるフログス伯爵。木の破片や鋭く折れた柱などで傷ついたフログス伯爵の手。そして倒れてきた柱が膝に激突。膝を骨折してしまった。
それでも助けたいという一心で瓦礫を除けて行く。外からはミノタウロスと戦っている騎士団の余波が崩れかけの家を容赦なく襲う。メリメリという音があちこちから聞こえ今にも崩壊してしまいそうだ。
そして、退路を塞ぐ最後の柱を取り除いたとき。母と子をしっかりとかつぐとフログス伯爵は折れた脚を引きずりながら家の外に出た。その瞬間バキバキという音とともに家だったものは真の瓦礫と変わり果てた。
それと同時にミノタウロスも騎士たちの攻撃を受け真の骸となった。
その時の母がトリシア、その時の赤子がテトである。
しかし、この災害のあと、フログス伯爵は変わった。
このミノタウロスの件で王都である白竜城に報告のため登城し、そして一週間後に帰領してからフログス伯爵は変わった。
それまで温和でやさしかったフログス伯爵はまったく別人になったように変わった。それまではあまり着飾ったりしなかったが全身煌びやかな装いに身を包み、目つきも鋭く何を考えているのかわからない様相になった。
また、自分の私利私欲を欲し、他人を権力を使い意のままにした。犯行する者、敵対する者は容赦なく断罪した。
そのような領主が自領を豊にすることはできない。フログス領は徐々に衰退していった。住人は少しずつ他の町や村に移住し、大きな町だったフログスの町は数百人ほどしか住まない辺鄙な町と変わってしまった。
「待ち、いえ、もう村ですね。村に残った者はみんなフログス様のことを慕っている方々です。あのように変わってしまわれたのはきっと何かの呪いにでもかかったに違いない。白竜城の力を借りてフログス様を元のお優しいお方に戻していただきたいとそしてまた以前のようにフログス伯爵様に町や村を栄えさせていただきたいと嘆願書を持ってきた次第です。みんなの気持ちを込めたその嘆願書を私とテト、それにもう一人の冒険者とともにこうして持って来ました」
「三人で来てたんですか。それで、その冒険者の方は?」
「はい。ここに着いてすぐ宿を捜すと言って別れたままで…。でももう二時間はたつかと」
そんなことを話していると遠くから甲高くそして間延びした声が聞こえてきた。




