表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人と竜の姫  作者: アデュスタム
第1章 フェンリル
2/73

02 三匹の竜

 02 三匹の竜



 男は川のほとりに座ると下流の方を眺めた。この辺りは少し高台となっているようで下流の方までよく見えた。

「まずは人里を見つけないとな。…ってこの世界には人がいるんだろうか?こんな竜みたいな生物ばっかだとどうしたらいいのやら。ま、人がいると思って行動した方がいいよなやっぱり」

 川は緩やかに右の方に流れている。もし人がいるなら川を下ればいつかは出会うだろう。

 後ろを振り向くと竜は伏せ状帯で体を丸め居眠りをしているようだ。長い首を羽根の下に入れてスピースピーと寝息をたてている。

「なんか原減ったな」

 腕時計を見ようと左手首を見るがそこには時計はなかった。

「あれ?時計がない…」

 座ってる周囲を見回しても無い。

「あれだけ走ったり高いところからも落ちたりしたしなあ。無くなって当然か。っとスマホは…」

 とポケットを探るがやはり無くなっていた。

「あーあ。仕方ないか。これだけ広すぎると捜すのも無理っぽいし。あきらめるか…」

 盛大に嘆息し落ち込むが後ろからのスピースピーという寝息に苦笑する。

「気楽そうだなこの竜」

 まっいいかと気持ちを切り替えてもう一度周囲を見た。今から行こうと思ってる川の下流の方に森らしきものが薄っすらと確認できた。

「まずはあの森を目指すとするか。食べられる物があるかもしれないしな」

 再び後ろを見て竜に声をかけた。

「おーい竜。ちょっと起きてくれえ。そろそろ俺行くぞ」

「ピギャ?」

 男に眠そうな目を向けるとなんとも気の抜けるような声で首を傾げた。その時だった。


 竜は急に森の方に顔を向けると身体をビクッとさせたかと思うと固まった。

「ん?どうしたんだ竜」

 不思議に思う男も同じように森の方に顔を向けた。

「うーん、なんにもないみたいだぞ。   ん?いや待てよなんか見えるぞ」

 目を凝らすと森の上空に何か点のようなものが見えた。

「なんだあれは。鳥…か?」

 竜の方を見ると森の上空を凝視したまままだ固まっている。

「おーい竜、どうしたんだ!?」

 びっくりしたようでビクッと身体を跳ねると男の方に顔を向けた。が、目が点になっていた。

 そしてなんか足踏みをしたり首を揺らしたり落ち着きがなく挙動不審な竜になっている。

「ほんとどうしたんだろ。あれが何か関係してるんだろうか」

 森の少し上を見てもう一度竜を見た。なんかうつろな目でそこを見ている。


 森上空の黒い点はどうやらこちらに向かって飛んできているようだ。

 よく見るとその点は三つ。近づいてくるとともに次第にそれが何かわかってきた。

「あ…!。あ、あれは、た、竜…! 三匹…か…」

 黄の竜の方を再び見ると、それを、あの竜たちを見ていてやっぱり固まっていた。

 次第に近づいてくる三匹の竜たち。黒色と赤ぽいのと青っぽいのが黒色の竜を先頭にこちらに向かって飛んできている。

 黄の竜を再度見るとさきほどとは違いお座りをして長い首を下げて上目遣いで竜たちを見つめている。

 逃げても仕方ないかという感じでおとなしくしている。何かがあったのだろうと思うが果たして何が?


 そして間もなく三匹の竜は男たちの前に静かに着地した。

 黒色の竜が二,三歩黄金の竜に近づくと黄金の竜は今度は首をすくめて上目遣いで黒色の竜をチラ見している。

 ふと黒色の竜の歩が止まりおもむろに男の方に顔を向けると一瞬縦長の瞳が少しふくらんだ。じっと見つめられ男は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。

「あ、あ、あの……」

 男は何も言えず黒色の竜の目を見つめた。

 しばらく男を見ていた黒色の竜は黄金の竜に顔を向け最後にチラッと男の方を見て今度はしっかりと黄金の竜を見据えた。

「ピギャピギャ」「グルルル」とか二匹はなんか話してるように見えたが男には竜の言葉なんかわかるはずもなく見ているしかなかった。たまに二匹は男の方を見ていたが何を話しているのかまったくわからない。

 そして最後に「パギャー」と「ガルルル」と鳴いたかと思えばどうやら話し合いは終わったようだ。そして黒色の竜は今度はしっかりと男の方を向いて頭を下げたように見えた。

 するとその黒色の竜の体が白く輝きだした。だが黒色の竜だけではなく青っぽいのも赤っぽいのも同じように男に身体を向けると白く輝きだした。

 しばらく白く輝いていた三匹だが十秒ほどたった頃だろうか、徐々にその輝きが収まってきてやがて消えた。そしてその竜たちが立っていた場所には三人の人間が立っていた。

 黒いスーツを着て黒い蝶ネクタイをしめた初老の男性、青い鎧をつけた歳の頃は二十代後半と思われる男性、そして濃紺の侍女服に白いエプロン、頭には赤いカチューシャをつけた年配に見える女性がたっていた。

 そして黒いスーツの男性が男の方に近づいてきて目の前に立つと恭しく一礼しこう言った。

「お初にお目にかかります。私は家令をしておりますバスティーア・ハイデスと申します。こちらは我が竜帝国青騎士団副団長のハンス、そしてこちらが副侍女長のライラです。……しかし凄まじい…」

 最後の方は何を言ったのかわからなかったが。次いで青い鎧をつけた男がビシッと気を付けをしてあっけにとられてる男の方に身体を向けた。そして敬礼だろうか右拳を左胸に当てた。

「自分は竜帝国青騎士団副団長のハンス・デルフレックと申します。……凄まじいってもんじゃないぞこれは……」

 そう言って一礼した。また最後の方は聞き取れなかった。

「わたくしは竜帝国副侍女長のライラ・ミルマーテスと申します。よろしくお願いいたします。……ほんとクラクラしてしまいそうですわ……」

 と言って侍女服のスカートを少し摘みうやうやしく一礼した。またまた最後は何を言ったのか。

「あ、はい。ありがとうございます。俺、いや僕は安藤功助といいます」

「アンドーコースケ様ですか?変わったお名前でございますな」

「え、あ、いや、えーと、名字が安藤で名前が功助なのです……が」

「そうですか。名字ということはアンドーが家名なのですね。我が国では名を先に名乗るのです」

「そうですか。では僕は功助・安藤になりますね」

「はい。それではコースケ・アンドー様。いろいろとお話したいことがございますのでぜひ我が竜帝国の王城までお越しください」

 と言って深々とお辞儀をした。

「い、いや、でも…。王城って、本当に?え、いいのかな」

 黄金の竜の方を見るとコクコクと頷いている。そしてその目は’来て来て’と訴えているように見えた。

「是非お越しください。姫様の足を治していただいたお礼も差し上げたいと思いますので」

「ひ、姫…様…?」

「はい。この黄の竜は我が竜帝国の王女様でございます」

「王女様…。こいつが…」

 少しお転婆ですがと苦笑する家令のバスティーア。

「そうでございますコースケ様。姫様の恩人をこのままお連れしないなどということがございましたらわたくしどもの首が飛んでいきます」

 と苦笑する黒家令のバスティーア。

「そ、そうですか。ではお世話になります」

 そう言って功助は黄金の竜を見上げた。

「そういえばハイデスさん」

「私のことはバスティーアとお呼びください」

「はぁ、そうですか。ではバスティーアさん。みなさんがこうして人になれるのならこの黄の竜の姫様も人になれるのですか?」

「はい。本来は可能なのですが今はなれません」

「え、そうなんですか。なんでか教えてもらえません?…よねえすみません」

「いえいえ大丈夫ですよコースケ様。しかしこの続きは帰城後にお話いたします。こちらもいろいろとお聞きしたいこともございますので」

「そうですか。わかりました」

 バスティーアは後ろに顔を向けると蒼い鎧の男に声をかける。

「ハンス副団長」

「はっ」

「コースケ様を背に乗せて王城までお連れしてください」

 そう告げたとたん功助とバスティーアの間に竜の顔がニュウっと出てきた。

「わっ、びっくりした。どうした竜」

 竜はバスティーアの方に目を向けると’パギャパギャ’と何か言ってるようだ。

「しかし姫様」

「ピギャッパギャピーギャ!」

 何を言ってるかまったくわからない功助だがやはりバスティーアにはわかるようだ。

「そのようなことは許可するわけにはいきません」

 バスティーアがそう言うとそれに続いて副侍女長のライラが言った。

「そうですよいけません姫様。コースケ様は何もご存じないのです。頭に乗せるなどと」

 それを聞いたハンス。

「姫様それはちょっと」

 と苦笑している。

「ピギャパギャッパー」

「わかりました。それでは背にお乗せするならば許可致しましょう」

 そうバスティーアが言うと竜はしぶしぶと言った感じで功助に顔を向けた。

「バスティーアさん、どうしたんですか?」

「はい。姫様はコースケ様を頭に乗せて帰城するとおおせで。しかしそれは許可できませんので背に乗せるならば許可しますと申したのです」

「そうですよね。さすがに王女様の頭に俺が乗るなんてそんな失礼なことできませんよ」

「それだけではないのです。本当の理由は」

 バスティーアはやれやれと言った感じで肩を竦めた。すると副侍女のライラが説明してくれた。

「我が竜族では求愛の方法なのです。竜化した愛する相手の頭に乗るのは」

「へ!そ、そうなんですか」

「はい。頭に乗った者はその角をしっかりと持ち振り落されないように耐えます。そしてそのお互いの両親の許しを得れば夫婦(めおと)になることができます。まあ、まだいろいろと定め事はございますが」

「そんな風習があるんですか。すごいですね怖そうだ」

「その風習を知らないコースケ様を頭に乗せて帰城すればどうなるとお思いになりますか?」

 ライラは説明に続けて功助に尋ねた。

「あ…。それはまずいでしょう。俺が結婚の相手だと誤解される」

 するとバスティーアが

「そうです。なので姫様にはコースケ様は背になら乗せても良いと言ったのです」

「おいおい竜。俺とはまだ出会って数時間しかたってないんだぞ」

 そう言って功助は苦笑した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ