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異世界人と竜の姫  作者: アデュスタム
第1章 フェンリル
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19 マピツ山の魔族

19 マピツ山の魔族



「あの山まで三キロぐらいだって言ってたな確か。でもシャリーナさんたちはどうやってマピツ山に向かったんだろう」

 後にとてつもなく早く流れる景色。全身に激しくぶつかる風圧。それをものともせずマピツ山のふもとにたどり着いた。

「しかし早いな俺。一分ほどで着いてしまった。さて、気配を消して行くか」

 気配の消し方などまったくわからない功助。ただなるべく音を立てず静かに歩を進めるだけだと実践する。

 ’気配を消す’。これを極めれば視覚で認識できてても『いない』と感じてしまうらしいとベルクリットとハンスに教えられてはいたが自分には無理だと思っている。

 このマピツ山は老人や子供にでも登れるように整地された遊歩道が山頂までなだらかに続いている。

 その整地された道を功助はなるべく音を立てずそれでも急いで道を進んだ。

 山頂の方からはいろいろな属性の強い魔力を感じ凄まじい戦いが起こっているのだと手に取るようにわかる。

 それに加え剣戟の音も聞こえ、時に爆発の音と地響きが山を揺らす。おまけに上空から岩石の礫や炭化した木片が雨あられと振ってきている。

 それらを避けながら功助はやっと山頂にたどり着いた。そこでは騎士対魔族が凄まじい力で相まみえていた。

 蛇に手足がついたような黄色い目の魔族。おそらくムダンがその両の手に持った大剣をふるい白銀の騎士に襲い掛かる。

もう一人の黒目も白目もなくすべてが赤い眼で口が耳まで裂けた魔族、おそらくダンニンは黄金の騎士に無手で襲っている。その手はとても堅いのだろう、黄の騎士の剣を受けるとキンッという金属音が聞こえる。

 騎士の後方からは魔法師隊隊長シャリーナが魔法の杖を掲げ支援魔法を放ち援護している。

 そして魔族の後方には側近が護るその後ろで大きな身体を縮め丸くなって震えているフログス伯爵がいた。やはりその額には赤く細い線で何やら紋章のようなものが描いてあった。

 功助は魔族たちに気付かれないよう山頂を回り込みまずはシャリーナの近くに行った。物陰に隠れ小さな声で話かけた。

「シャリーナさん振り向かないで。戦況はどうですか?」

「う、あっ、その声はコーちゃん」

 びくっとしたが功助の言葉どおり振り向かず小さな声で返事をするシャリーナ。

「はい。驚かせてすみません」

「気が付かなかったわよあたし、コーちゃんが近づいてくるの。隠蔽の魔法でも会得した?」

「隠蔽の魔法?いいえ、わからないですが」

「そう。でもこれであたしの部屋まで誰にも気づかれずに夜這いできるわね。うふっ」

いつでも待ってるわと流し目を送ってくるシャリーナ。

「ちょ、ちょっとシャリーナさん」

「ふふ、冗談、じゃないかもよ、うふん。そうね、今は見ての通り力が拮抗しているのよねぇ。たった二人で十五人の精鋭の騎士と互角に戦ってるなんてさすが魔族だわ。あたしも魔法で支援しているけどこれがなかったら騎士たちはおそらくとっくにお陀仏になってたかもね」

 シャリーナは功助と小声で話しながら器用に騎士たちに援護の魔法を使っている。今も黄の騎士の一人の頭にムダンの大剣が振り下ろされる瞬間その剣の腹に氷のアイスランスを正確に当て軌道をそらせた。

「それほどに魔族は強いんですか」

「ええ。でも」

「でも、なんですか?」

 少し口の端を上げるシャリーナ。

「コーちゃんに比べたら弱っちぃわよ絶体」

「へ?」

 ちらっと功助の方を見るシャリーナ。

「倒したんでしょ?フェンリル」

「えっ。あ、はい」

 今度は白銀の騎士が突きだす槍の穂先に縮地をかけダンニンののど元に転移させた。しかしダンニンはそれをなんとか首をそらしいなした。

「ね。あの魔族、フェンリルより強いとは思わないわよあたし。コーちゃんもそう思うでしょ」

「え、は、はい。魔族たちからはあまりプレッシャー感じませんけど…」

「ふふ。じゃあちょっと働いてもらっちゃおうかしらねコーちゃん」

「はい。何をすればいいですか?」

「まずは魔族の後ろで丸まってるフログス伯爵を保護してもらおっかしら。あたしが診たところやっぱり魔族に操られているわね。あのおでこの赤い紋章がその証よ」

「わかりました。それでフログス伯爵の前にいる側近はどうしましょう?」

「ああ、あれもおそらく魔族よ」

「えっ!」

「うまく人型に化けているけどもうあたしの目は騙されたりしないんだからね。これまで何回も城で会ってるっていうのに気がつかなかったことに腹立つわっ」

「そうだったんですか」

「まあ、この話はまたあとでしましょう。それよりコーちゃん、ちょっとずつ騎士たちが押されてきてるわ。すぐにフログス伯爵を保護して」

「わかりました。でも、どうやって保護すればいいでしょう?」

「そうねぇ、魔法で眠らせてちょうだい」

「へ?でも俺魔法なんて……」

「まかせなさい。コツを教えるから大丈夫よ」

 そういうと睡眠の魔法のコツを教えた。

「わかりました。では行ってきます」

「行ってらっしゃい。お早いお帰りをお待ちしていますわ。うふっ」

 なんかシャリーナさんといると調子狂ってしまいそうになるなと苦笑する功助。

 功助はまた山頂を回り込みフログス伯爵の後方にまでやってきた。

「(でもシャリーナさんの言うとおりにしたら睡眠の魔法がかかるんだろうか……?)」

 功助は少し疑問に思いながらもフログスとその前三メートル離れたところにいる側近、人に化けてる魔族をじっくり見た。

「(なんて言ってはいられないか)」

 側近はたまに右手の手首から先だけを前方に動かして何やら呪文のようなものを呟いている。奴もダンニンとムダンを援護しているのだろう。ということはやはり今がチャンスか。

「(よし、このまま気配消したつもりでゆっくり近づいてと)」

 功助はゆっくりとゆっくりと草村から出るとまたゆっくりとゆっくりとフログス伯爵に近づいた。

 かなりフログスに近づいたがまったく気づかれていない。その前にいる側近でさえ功助の気配を感じていないようだ。

「(す、すごいな俺。まるでドラ○もんの石こ○帽子かぶってるみたいだ)」

 そんなことを考えながら亀のように背中を丸め震えているフログス伯爵の真後ろに着く。

「(指先を首と頭の境目の真ん中に近づけて…と)」

 そして指先から白い治癒の光魔法を少しだけ注ぎ込んだ。

 その瞬間フログスは糸が切れたあやつり人形のように力が抜け前に倒れそうになったが功助はあわてずフログスの巨体を抱えると後ろへと大きくジャンプした。

「(うぉっ!!)」

 声を出さなかった自分をほめてやりたいと苦笑する。

後ろへとジャンプした功助は、なんと一気にマピツ山のふもとまで跳んでしまった。視界から側近が消える瞬間も奴は功助に気付くことはなかったようだ。

「ああびっくりした」

 功助はフログス伯爵を抱えたまま立ちつくした。まあ、驚いて動けなかったのだが。

「一気にここまで降りてしまうとは…」

 と苦笑する。そして気絶しているフログス伯爵を見る。

「さて、フログス伯爵をどうするかだけど」

と周りを見るとちょうどいいところに洞穴があった。まあ、洞穴といってもそんなに大きくもないし深くもない。フログス伯爵一人くらいなら余裕で入れるほどの大きさだ。何かの祠なのかもしれないが。

「ラッキー!ここに置いておこう。念のために手足を縛り猿ぐつわもしておくか」

 功助は周囲の木から弦をいくつも取って手足を縛った。猿ぐつわをしようと思ったがいくらなんでも弦や葉っぱじゃ無理だしと、フログス伯爵の着ていたキンピカの服の袖を破り取って猿ぐつわをした。

 そして洞穴の奥に寝かすとまたマピツ山の山頂へ向かった。

 今度は一気に山頂までジャンプした。けっこうな高さまで跳びあがって少し驚いたがそのまま落下するとちょうど人に化けた側近の後ろに着地した。

「(あっ!気配消すの忘れた)」

 少しうろたえる功助。

「誰だ!」

 今度は魔族も気づき一瞬で功助に振り向くと右手の先から火炎球ファイヤーボールを放ってきた。

 功助はそれを片手で防ぐと口の端をあげた。

 魔族は少し驚いた顔をしたが続けて火炎球ファイヤーボールを連射してきた。しかし功助はそれをすべて片手で受け止めお返しに左手からフェンリルに放ったものよりかなり威力をおとしたコースケ砲を連射した。

 二発三発と魔族に命中するコースケ砲。十発ほど当たると地面に崩れ落ちて倒れた。そしてその身体は泡がはじけるように小さくなり、やがて消えた。その跡にはなぜか一枚の金貨があった。

「えっ。なんで?もう倒れたのか。あっけないけど、魔族なんだよなこいつ。でもなんで金貨が…。RPGじゃあるまいし」

 と首を傾げているとダンニンが吠えた。

「き、貴様あ!よくもデイコックを殺ったなぁ!!許さん!!」

 真っ赤な目を見開き耳まで裂けた口を大きく開き功助に向かって突進してきた。後ろから黄の騎士が切りかかろうとしたが邪魔だの一言で手から出した剣で一刀両断にした。黄金の鎧兜ごと頭から真っ二つにされた騎士はうめき声もあげる時間もなく血を吹き出し絶命した。

「く、くそっ。お前こそ許さないぞ!」

 功助がそう言うと魔族は騎士を両断したその剣で横なぎに切りかかってきた。半歩後ろに下がりそれを避ける功助。

 そして続けて何度も切りかかってくるがそれをことごとくかわす。

「(なんだこれは。切っ先がよく見えるし、素人の俺なのに太刀筋がはっきりわかる。除けるののが苦でもない。なぜだ…)」

「こしゃくなマネをぉぉぉ!」

 といいながら今度は首目がけて真っ直ぐ突いてきた。功助はその切っ先をじっくり見ると無意識に右手の平に魔力を集めてその切っ先の前に出した。

  キンッ!

まるで金属同士がぶつかった時のような音がして剣の動きを止めた。

「なっ……!」

「ふふ」

 功助は口の端を上げた。が本心では「な、なんで?なんで止められたんだ。ちょ、ちょっと」と冷や汗をながしていたりする。

 だが、あまりにもゆっくりで拍子抜けしてしまったのは確かだった。

「き、貴様…、何者だ?」

 眉間に皺を寄せて功助を睨むダンニン。

「俺はただの人だ」

 眉間の皺が一層深くなり睨む力を強めてくるがまったく恐怖は感じていない。もともと臆病だったのにと少し考えるが、まあいいかと考えるのをやめて前を見る。

 だが、ふっとダンニンの白目も黒目もなくすべて真っ赤な目の中にそれより濃い紅が浮かんできたように見えた。

何か吸い込まれそうな裂け目のその紅。周囲の音がふと消えた。

「(な、なんで 俺、こんなとこで 何、してるんだろ   早く 元の 世界に      帰らない と  こんな こと    してる 場合じゃ   な い の に…… 。 そうだ  何してるんだ  俺。 こんな竜たちのことなんて  ほっとけばいいんだ。 そうだ   俺は元の世界に帰らないと…。  元の世界じゃ俺の父さんや母さん 妹も待ってるんだ。  それにこないだのカンファレンスのレポートも提出しないといけない のに。早くしないと林さんや高橋さんに迷惑かかるのに。  そうだ 早く 早く…  早く……  ……竜の牙を引き抜いて……  竜の…    竜 ……   シ …シオン……。……!!)」

「コーちゃん見ちゃダメっ!!」

「うがっ!」

 女性の声が聞こえたかと思えば目の前の赤い目が青白い光とともに勢いよく横にふっ跳んでいった。それをボーッと眺める功助。

「何してるのコーちゃん!しっかりしなさいっ!目を覚ますのよっ!!」

「えっ……。あ、あれシャリーナさん、俺どうして」

「あれシャリーナさんじゃないわよもう。しっかりしなさい」

 鼻と鼻がくっつきそうなほど近くで銀の瞳が鋭く見つめてきた。功助より背が低いのでつま先立ちになっていて少し足もプルプルしているようだが。

「うわっ、近いですシャリーナさん」

 といいながら顔が熱くなる功助。

「お、俺、どうしたんでしょうか?」

 シャリーナは功助の鼻の頭に右の人差指の先をグリグリしながら顔を近づけると言った。

「覚えてないのねやっぱり。いい、あなたはねダンニンの呪縛に囚われる寸前だったのよ、わかる?」

「呪縛に…?そ、そうだったんですか。助けてくれたんですねシャリーナさん。ありがとうございます」

「ほんとわかってるのコーちゃん。まあ、お礼は考えておくからちゃんとあとで返してね。うふっ」

 と言いながら足をモジモジさせていた。

「なんて今は言ってる暇はないようね。来るわよコーちゃん」

「えっ、はい」

 シャリーナの魔法で吹っ飛ばされていたダンニンが憤怒の形相で戻ってきた。

「貴様らぁぁぁ」

 真っ赤なめを一層真っ赤にさせる憤怒のダンニン。

 シャリーナが杖を片手に構えて短く呪文のような歌を唱えるとその杖の先からまたあの青白い魔力砲が放たれた。

「くらいなさいダンニン!」

 蒼白い光の魔力砲がダンニン目がけ一直線。

「はああぁぁぁぁっ!」

 しかしダンニンは余裕で両手の平を胸の前に拡げるとシャリーナの魔力砲は弾かれ上空に飛んでいった。

「ちっ、やっぱりこれくらいの魔力じゃ効かないか。よしっ、コーちゃん、タッチ!」

「へ?」

 といって功助の後ろに隠れるシャリーナ。

「ちょっ、ちょっとシャリーナさん」

「頼むわよダーリン!」

「だ、誰がダーリンですかっ!」

「お、お前ら俺を舐めてるのかっ!」

 ダンニンは怒りがピークに達しているようだ。その証拠にダンニンの身体から黒い靄のようなものが染み出しその身体を包始めていた。

「あ、あの黒い靄は…!」

「覚えてるわよ。さっき魔法師隊でフェンリルに爆炎の灼風バーニング・フレイム・ウインドーをお見舞したときにも同じような靄がフェンリルを包んだわ。あの靄は障壁かも」

「でもどうやら障壁だけではないように思うんですけど」

 靄に包まれるダンニンを見てシャリーナに尋ねる。

「ん?そうね。障壁だけじゃないみたいね」

 功助の身体の横から顔だけ出してダンニンをみるシャリーナ。

 すっかり黒い靄に包まれたダンニン。しかしその黒い靄はゆっくりと薄れていきやがてさっきとは見るからに違う姿のダンニンが現れた。

「なんかさっきより変わったみたいね」

「変わったみたいって…、かなり違う姿になってますよシャリーナさん」

「あはは。わ、わかってるわよ。わかってて言ったのよ、わかった?」

「はあ…」

 背中にはコウモリのような一対の漆黒の翼。額からはねじれた三本の角が生えその赤一色の目には縦に亀裂が入りその奥に目よりも紅い瞳が鈍い光を放っている。全身が黒光りしていて手足の爪は鷲のような鉤爪。そして後ろには細く長いシッポがゆらゆらと揺れている。まさに悪魔といった容相のダンニンがそこにいた。

「貴様ら、滅してやる」

 クケケケケと嫌な笑い声をあげてまさに飛びかかろうとしている。

「うわあ、悪魔そのものだねえダーリン。勝てそう?」

「さあ、わかりませんがちょっと一発魔力砲を撃ってみます。ってダーリンって……」

「きにしない気にしない」

 とニヤリ。

「もう。それじゃ撃ちます!」

「おし、やっちゃえ!」

 功助は右手をダンニンに向けて照準を定めた。そしてダンニンが飛びかかってきたその瞬間。

「発射っ!!」

  功助の右手は白く輝くとその光の中から魔力の束がダンニンに向かって飛んだ。驚愕のダンニン。しかし飛びかかっってきた速力はもう止めることもできずコースケ砲の直撃をその全身に受けた。

「ウギャァァァァァッ!!」

 コースケ砲の光の中で何かが動いているように見えたと思えばダンニンの絶叫が聞こえた。もがき苦しんでいるようだ。しかし、コースケ砲の出力はあまり上げていない、軽く撃ったつもりだった。

コースケ砲の照射を止めるとそこには黒焦げになったダンニンが倒れていた。そしてその身体はデイコック同様泡となった。そしてそこには冷たい光を放つ拳大のガラスのような石があった。

「ヒューヒュー!やったわねダーリン。なんと一発でとどめをさすなんて、すごいじゃないのっ!さすがはダーリンっ!うふっ」

 と言ってシャリーナは功助の背中に抱き着いた。

「あ、あれ……?な、なんで…だ…」

 なんともあっけない結果に呆けてしまう功助だった。

「ダンニーーーン!!」

 そう言って騎士たちと戦っていた蛇に手足がついたようなムダンが絶叫しながら功助に突進して来ようとしたが周囲にいる黄の騎士と白銀の騎士の一斉攻撃を受けた。

「あぎゃあああああっ!」

 その身体から何本もの剣を生やしたムダンは怨嗟の声をあげると地面に倒れた。ムダンも先の魔族と同じように泡となると後には細長くひからびた蛇のようなものが残った。

「終わったわねダーリン」

「あ、はい。……じゃなくてですね、俺はダーリンじゃないですから」

 功助は自分の背中にしがみついてキャハキャハ言っているシャリーナをどうしようかと考えて騎士たちの方を見るが、みんな肩を竦めて笑っていた。

 ただ背中にとても大きな大きなクニクニと柔らかいものが押し付けられてて……、黙っていよう、うんと苦笑する功助。


 数人の騎士は現場検証のために残り、その他の者はマピツ山のふもとのフログス伯爵を回収、もとい、保護し白竜城に戻った。

 城に戻ると真っ先にシオンベールとミュゼリアが功助を出迎えた。

「コースケ様。ご無事のお帰りお待ちしておりました」

 と言って功助に抱き着くシオンベール。それを見て胸の前で手を組み笑顔のミュゼリア。

 するとその後ろからトパークス国王とルルサ王妃が近づいてきた。

「コースケ殿。なんと礼を申してよいか。シオンベールだけではなくこの白竜城の皆をも救ってくれた。感謝する」

 と国王。

「あたしからも言わせて。コーちゃんみんなを助けてくれて本当ありがとう。この御恩は一生忘れることはないわ」

 功助の両手を握る王妃の目には涙が浮かんでいた。

「あ、いえ。そんな俺に頭なんか下げないでください。お願いします」

 と頭をかいた。

「それに」

 と話を続ける功助。

「それに、たくさんの犠牲者がでました。もっと早くフェンリルを倒せておけば犠牲者もこんなに出なかったのかもしれないと思うと…」

「いや。それは結果論にすぎない。コースケ殿がもしこの世界に現れなければもっと犠牲者は増え、恐らく滅亡の一途をたどったかもしれん。またこれも過程だ。今こうして無事なものがたくさんいる。コースケ殿が皆を救ったのだ。これが今の結果だ。感謝こそすれ批難する者はおらぬ。もし批難する者がいたならばシオンベールが黙っておらぬのではないか?」

 と功助の腕にしがみつき微笑む愛娘を見る。

「はい。お父様。そんな者がいたのなら私がこてんぱんにしてやりますわっ!」

 と鼻息荒く拳を握るシオンベール。

「私も姫様に加勢いたしますっ!」

 ミュゼリアも両の拳を胸の前で握っている。

「どうだ。たのもしいであろうコースケ殿」

 はははと笑う国王。

「は、はい」

 功助もはははと笑った。

「それとコーちゃん」

「はい?なんでしょうか王妃様」

「あたしびっくりしてるのよ。あの人見知りのおっとりしたシオンがこんなに明るく人とお話できるようになったなんて。ほんと信じられないんだけど、これもやっぱりコーちゃんのおかげなのかしらね」

「いえ、どうなんでしょう。俺の影響があるのかはわかりませんが。もしかしたら人竜球の破壊で竜化して幼児化してしまったのが一因とも考えられるかなあって思うんですけど」

「ふむ。コースケ殿の考えもあるやもしれんな。どちらにせよシオンがこのように明朗になって喜んでおる。重ねて感謝する」

「あ、いえ。でもよかったですシオンが元に戻って。なあシオン」

 シオンの方を見ると不思議な笑顔をしている。

「あっ、はい。感謝しておりますコースケ様。それはそれで良いのですけれど、コースケ様。ひとつお尋ねしたいことがあるのですが」

「ん?なんだシオン」

「なぜコースケ様の背中にシャリーナ隊長がぶら下がっているのですか?」

 と功助の後ろを見る。そこには功助の背中から落とされないようにしがみついてるシャリーナがいた。しかし安らかな寝息をたてている。

「昨夜は一睡もしてないんだって。でも、よくしがみついたまま寝られるよなこの人」

と肩を竦めた。

「…ダーリン……」

「今のは…?…」

 と目を細めるシオンベール。

「シャリーナ隊長の寝言かと。でもダーリンって…?」

 とミュゼリア。

「どういうことですかコースケ様?」

 ずずっと功助に顔を近づけるシオンベール。

「あ、いや、シャリーナさんが勝手に…」

「…いやんダーリン…そんなとこ…あはん」

「……」

 みんな無言になる。

「ま、まあシャリーナ隊長ですから…」

 とミュゼリア。それはフォローなのかと周囲の者が彼女を見た。


 第1章終了です。第2章は近日中に投稿しますのでよろしくお願いします。


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