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異世界人と竜の姫  作者: アデュスタム
第1章 フェンリル
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18 VS フェンリル -後編-

 18 VS フェンリル -後編-



「それよりもコースケ様。おケガを治しましょう」

「それがいいですコースケ様。姫様も治癒術がお得意なんですよ」

「ええ。コースケ様には及びませんが、けっこう得意なんですよ」

 と胸を張る。

「…それよりもってな…。ここは危ない……」

 コースケ様っ!」

 黄の瞳が功助を睨む。

「あ、いや、その…」

「さあ、見せてください。ただちに治療いたします」

「は、はい」

 美人が怒ると怖いっていうけどあれは真実なんだなと功助。

「コースケ様。今失礼なこと考えてませんでしたか?」

 笑顔のシオンベール。

「い、いえ。何も…」

 やっぱり思った、逆らってはいけないと。

 シオンベールの手の平が輝いたかと思えば白い光が功助の左肩と手首を包んだ。

「う、いでで」

 肩のケガはともかく、左手首の骨折が治っていく時に自分の意識とは関係なく手首が勝手に元の形に戻っていく。そんな妙な感覚が数十秒続いたかと思えば治癒の光はゆっくりと消えてそこには元通りになった肩と手首が見えた。動かしてみるも痛みもなくスムーズに動いている。

「シオンありがとう。それにしても治癒術ってすごいよな。よくこんな魔法が使えるなシオン」

 と功助が治癒術に感心してるとミュゼリアがあきれたように言った。

「コースケ様。それをコースケ様がいいますか。瀕死のシャリーナ隊長を治癒し、そしてさきほども見てましたが重症のラナーシア副隊長を治してたんですよ」

「あっ、そういえばそうだったな。あはは」

 するとシオンベールが功助の肩をちょんちょんと叩いた。

 コースケ様、なごんでいる暇はないようですよ」

 とシオンベールが指刺した方を見ると左前足を失ったフェンリルが三本足で立ち激怒の目を三人に向けていた。

「ああ、そうみたいだな。シオン、ミュゼ」

「「はい」」

 功助はフェンリルから目を離さず二人に言った。

「頼む。安全なところまでさがっててくれ。頼む」

「…コースケ様」

「姫様…」

 シオンベールはミュゼリアをチラッと見ると言った。

「わかりました。ミュゼリアとともに下がります。でも、さきほどのようなことがあれば私たちは何をするかわかりませんので」

 と笑顔で言った。

「あ、ああ。大丈夫だ。じゃ一気にフェンリルを倒してくる」

「ご武運を」

 シオンベールは胸の前で手を組むと功助に微笑んだ。


「覚悟しろよフェンリル!」

 功助は走りながら考えた。もしかしたら自分にもフェンリルの光の球やシャリーナたち魔法師のように魔力で攻撃することができるのではないかと。これだけの魔力量があるのだ、可能なのではないかと。

 フェンリルはまだ動かない。もしかしたら三本足で動けないのかもしれないが。

 功助はフェンリルから二百メートルほどのところで止まり試すことにした。

「以前ミュゼが言っていたよな。『魔法はイメージ』だと。よっしゃ、いっちょやってみるか」

 元の世界には漫画やアニメ、小説にとイメージするには問題ないほどの記憶がある。子供のころからそれらを見て育ったのだイメージするのは簡単だ、そう功助は思った。

 功助はおもむろに右手を前に出し拳を握った。そしてその拳に自分の魔力が集まっていく想像をした。そうしていると胸の真ん中から右肩を通り肘を抜け、手首から強く握った拳に何かが流れていく感覚がした。

「おっ、これはいけるかも!」

 すると突き出した右の拳がほのかに白く光った。少し微笑を浮かべる功助。

「よしっ、サ○コガンだ!行けええええええ!!」

「 握った拳に集まった魔力を前方に発射するイメージをすると、一直線にフェンリルに向かって光の束が飛び出した。

「どうだっ!」

 しかし功助の初の魔力攻撃はフェンリルに華麗に避けられた。そのまま進んだ初の魔力の束は一直線にすっかり夜が明けた空の向こうに消えた。

「コースケ様素晴らしいですっ!魔力をそのように放出されるとは!コースケ砲と呼称いたしましょう!!」

 あっ、いいですね姫様その呼称。はい、コースケ様。そのイメージでどんどんコースケ砲をぶっ放してください!!」

 後ろの方からキャハキャハと美女二人の声援が聞こえた。

「コ、コースケ砲って…。これはサイ○…いや、まあいいか。よし。次行くぞっ」

 功助はフェンリルに向かって走った。さっきと同じイメージを右の拳にのせてフェンリルに何発もコースケ砲を発射したが、フェンリルはそれをことごとく回避する。

「な、なんでだ。一発くらい当たってもいいだろがぁ!」

 といいながらジャンプすると至近距離からフェンリルの胴体に発射した。

 フェンリルは今度はうまく回避できず、しかしとっさに伏せたのでコースケ砲はその背中をえぐった。真っ赤な血が飛び散り肉の焼ける臭いがして、そして白い背骨が露わになった。

 ’ギャオウゥゥゥゥゥ!’

 痛みの方向が響きまたもその炎の目が功助を憎々し気に睨んだ。

 功助はフェンリルの前方に着地するとまた一気にその顔面めがけジャンプした。そして右手に魔力を流して打ち出そうとしたその瞬間。そう、フェンリルは一瞬の間に功助の目の前から消えた。

「ど、どこだ。どこいった!」

 着地しし周囲を見渡すもフェンリルの姿がない。すると後ろからミュゼリアの声が聞こえた。

「後ろですコースケ様ぁぁぁぁ!」

 声のまま後ろを向くとあれだけでかかった身体が大型犬ぐらいの大きさになったフェンリルが真っ赤な口を開けて功助に飛びかかってきた。

「う、うわっっ!」

 功助は飛びつかれ地面にホールドされた。ただフェンリルの左前足が無いので功助の右手は無事だ。その右手でフェンリルの下顎を掴み突っ張った。

「く、くそっ!」

「コースケ様っ!!」

 こちらに向かい走ってくる二人の声が聞こえた。

「く、来るな!!」

「しかし」

「いいから来るなっ!俺を信じろっ!」

「コースケ様…」

「必ずフェンリルは倒す。だから離れててくれ。頼む」

「………わかりました」

 二人の悲し気な声が聞こえたが、功助の言うとおり安全な場所まで後退した。

 功助は全身に魔力を入れてなんとか逃れようとした。イメージが大事だともう一度心に念じた。そして四肢に魔力がいきわたるイメージを膨らませ爆発させた。

「く、くっそぉぉぉ!これでどうだぁっ!おぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁっ!!」

 功助は渾身の力を振り絞りフェンリルを跳ねのけた。

「はあ、はあ、はあ。けっこう疲れるなこれは」

 額の汗を腕で拭うとフェンリルを睨んだ。

 フェンリルは三本足で功助に飛びかかろうとしている。大きさはまた元どおり電車一両ほどだ。

「また行くぞっ!」

 功助はまた走りながらフェンリルの顔目がけてコースケ砲を放った。避けられると思ったのだろう、フェンリルは首を少し動かしただけだ。だがフェンリルの顔の横を通り抜けるだろうと思われた光の束は急速にカーブしフェンリルの右の耳を消し飛ばした。

「よっしゃ!でもできてよかった」

 このコースケ砲はあの左腕に精神力で撃つ銃を持つ男、そう、毒蛇のような名を持つ男のイメージなのだ。その男もカーブさせそれを撃っていた。それが功助にもできたのである。

 ’ギャワオオオオッ!’

 痛みにもだえるフェンリル。功助はフェンリルの前に立つと再びジャンプしその鼻っ先に蹴りを入れようとした。しかしその瞬間。

「うわっ!」

 功助は突然開いたフェンリルの口の中に入ってしまった。そう、つまり喰われたのだ。

「「キャァァァァァッ!コースケ様ぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 シオンベールとミュゼリアが絶叫した。

 ’グ、ググググ、グワワワワ!!’

 口を閉じたフェンリルが苦悶のうめき声をあげた。

「あっ、フェンリルのく、口が……」

 ミュゼリアが驚愕の声を上げる。

 ゆっくりとだがフェンリルの口が徐々に開いて行ったのだ。

「く、口の中にっ!」

 シオンベールが、ミュゼリアがフェンリルの口の中に見たものは

「「コ、コースケ様っ!!」」

「うおりゃああああっ!!」

 功助は腕と足に力を入れてフェンリルの口をこじ開けていった。大きく開いたフェンリルの口を功助は思いっきり開けた。

 バキバキという音が顎の関節から聞こえフェンリルの口はこれでもかというくらいに大きく開いた。おそらく顎関節はくだけただろう。

 功助は口の中から飛び降りるとフェンリルに振り返った。だらしなく開いた口からは涎がしたたり、身体全体がブルブルと震えやがてフェンリルは横倒しになった。しかしその炎の目は功助を睨んでいる。まだ殺られてないぞと言うように。

 しかしその時フェンリルのシッポの先から細い糸のようなものがうねうねと出てきた。その細い糸は次第に太くなり触手のようにフェンリルを包み込もうとしている。

「あっ、あれは。この間の触手。また亜空間に引き戻そうとしているのか。くそっ!」

 逃してなるものかとコースケ砲を触手に連射する功助。切断され、ちぎれてフェンリルから剥がれ落ちる触手。しかしそれより早く亜空間の裂け目から次々と触手がフェンリルに絡みついてくる。徐々に亜空間に引き戻されるフェンリル。

 とうとう首までが亜空間の裂け目に入ってしまった。その時下を向いていたフェンリルが顎関節を破壊されただらしなく開けた口の中に赤い光源を生み出した。さっきとは大きさが全然違うがあれはあの光弾だ。

「そっか。そこに打てばいいのか」

 功助はその光弾が発射される前に自分の右手の拳に魔力を集中しそれをフェンリルの口の中目がけて発射した。

「逃がすかあああああああああああ!」

 コースケ砲はフェンリルの打ち出そうとしていたその光弾と口の中でぶつかり誘爆を起こした。そしてその爆発は下顎を砕き破壊する。

 コースケ砲はそれでも勢いを落とすこともなく口の中から上にカーブした。功助はコースケ砲に上にホップするイメージを与えていたのだ。

 そのイメージどおり咽喉の奥から脳へと方向をかえ内部から頭を砕いた。その瞬間炎の目は一度大きく燃え上がると勢いを小さくしやがて消えた。炎の瞳が消えると同時にフェンリルは亜空間の裂け目に引き込まれこの場から姿を消した。

「やった…か…」

 功助は戦闘の構えを取りながら亜空間の裂け目が消えた辺りを凝視している。だがしばらくしても魔力をかんじない。功助はゆっくりとその構えを解いた。

「ふう。終わったか…」

 功助はその場に座り込むと深呼吸をした。

「「コースケ様ぁぁぁぁっ!」」

 功助が後ろを振り向くと自分に向かって走ってくる二人の美女が見えた。

「よっ」

 功助は立ち上がると片手をあげて笑った。

 そして功助の胸に飛び込んでくる黄の瞳。それを見て胸の前で手を組み満面の笑顔の薄紫の瞳。

 その二つの瞳からはとめどなく涙が頬を流れた。

「よ、よかった…。コースケ様、本当によかった。そして、あり…」

 功助はその後を言わないようにとシオンベールの唇に人差指をあてた。

 小首を傾げるシオンベール。

「コースケ様?」

「その後はまだ言っちゃダメだシオン。まだ終わってない」

 功助はそういうとマピツ山と城の一番高い塔を見た。

「そうですねコースケ様。さきほどミュゼリアから聞きました。マピツ山と城の主塔はどうなったのでしょう」

 シオンベールもマピツ山と城の塔を見上げた。

「ミュゼ。どうなったかわかるか?」

「い、いえ。あれから、バスティーア様が城内にお戻りになられてからは何も連絡がございませんのでわかりません。すみません」

「あ、悪い。謝らなくてもいいよミュゼ。よしっ、まずは城内をちょっと見てくる」

「コースケ様?お一人でですか」

 とミュゼリア。

「ああ。だからまたシオンと二人で待っててくれ。いや、あの騎士の方たちのところに行ってラナーシアさんと一緒に負傷者を助けてくれないか」

 功助をじっと見るシオンベール。

「コースケ様……。はい。わかりました。ミュゼリアとともに助けに行ってまいります。ミュゼリア行きますよ」

「はい。了解いたしました」

 と言ってミュゼリアはシオンベールに一礼をした。

「それではコースケ様。行ってまいります。コースケ様もお気をつけて」

「ああ。わかった。頼むぞ二人とも」

 そして功助は城内に入って行った。


 城内に入り廊下を走る功助。急いで主塔に上がる入口に向かおうとしたが、大事なことに気付いた。

「主塔ってどこだ?」

 数十メートル走ったところで立ち止まりあちこち向いて誰かに尋ねようとしたが誰一人いなかった。

 功助は頭をポリポリかくと誰もいないのにばつが悪そうにしながら廊下を戻り城の外に出た。するとすぐ近くから自分を呼ぶ声がした。

「はあ、はあ、コースケ 様、はあ、はあ、どうされたの ですか? はあはあはあ」

 バスティーアだった。かなり息を切らしているが何があったのか。

「あ、いえ…。それよりどうしたんですか、そんなに急いで」

「はあ、はあ、そんなことはどうでもよいのです。はあ、はあ、コースケ様はやはり凄いお方でした。ふう。姫様を救い、あのフェンリルまで倒してしまわれた。このバスティーア感無量でございます。ふう、ふう」

 といって汗を拭きながら深々と頭を下げた。

「あ、いえ、そんな。頭を上げてください。それより陛下たちとあのマピツ山の魔族はどうなりました?」

「はい。陛下はご無事です。侵入した魔族も倒しただいまは主塔の上層階で事の終わるのをお待ちでございます。マピツ山の方も黄の騎士5名と白銀の騎士十名、そしてシャリーナ隊長の十六名でさきほど向かいました」

「そうですか。それじゃ俺もマピツ山に向かうことにします。そうそう、シオンとミュゼは騎士団の救援に行きました。できれば人を集めて助けに行ってもらえますか?」

「了解いたしました。コースケ様、ご無事のお戻りをお待ちしております」

「ありがとうございます。では」

 功助はそう言うと南にあるマピツ山に向かい走った。


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