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異世界人と竜の姫  作者: アデュスタム
第1章 フェンリル
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16 魔法師隊隊長と家令

 16 魔法師隊隊長と家令



 時間は少し戻りーーー

 ーーーーーシャリーナ視点ーーーーー


 フェンリル出現の法を聞きあたしたち魔法師隊は、姫様のお部屋とフェンリルが出現した林との中間で待期していた。

 ’グワルルルルルゥゥゥ!!’

 林の方向から赤い炎の目をギラつかせフェンリルが魔法師隊が待期している広場にゆっくりと歩いてくる。

 あの声を聞くと背筋に寒気を感じる。あの時、フェンリルが現れたあの時。

 あたしはフェンリルの攻撃で傷を負った兵士の治癒をしていた。フェンリルが裂け目から出てきたことはわかったが今治癒術を止めればこの兵士の命は危ない。治癒術を継続していると強い魔力と殺気を感じた。振り向くとフェンリルはすぐ目の前にいた。

 回避することも間に合わずあたしはフェンリルの牙がお腹と背中に食い込むのを感じた。そしてその瞬間痛みと恐怖で気を失ってしまった。その後のことはまったく覚えていない。

 目が覚めたのは治療室のベッドの上。あたしは一体どうしたのか、なぜここにいるのか。

 そしてフェンリルに噛みつかれたことを思い出した。そして自分の身体を調べた。目で見、手で身体じゅうを触った。でも、フェンリルにつけられた傷はただの一つも無かった。

 それどころか子供の頃に獣に襲われた時の古い古い傷跡も無くなっていた。

 何があった……。あれからどうなったのか。それよりもなぜあたしは生きているのか。


 あとでラナーシア副隊長から聞いた話だとあたしを助けてくれたのはあの姫様とともに白竜城に訪れた人族らしい。王との謁見の部屋でフログス伯爵に言いがかりをつけられた人族のコースケ様だった。

 その凄まじい治癒術であたしの身体を完全に治癒してくれた命の恩人。魔力封じのブレスレットをしていてもあの魔力量は人族だと思えないほど、いや、おそらくあたしたち精霊族や魔族でもあの魔力量を持つ者はほとんどいないだろう。

 そんなことを考えているとフェンリルの口に何かが加えられているのが見えた。暗い中よく目をこらしてみるとそれは緑の騎士団の身体だった。

 頭を少し降ると緑の騎士は無造作に放り出された。

「ラナーシア、そして魔法師隊のみんな」

「はい」

 赤銅色の瞳があたしを見る。魔法師隊のみんなもあたしの目を見る。全員を見渡すとあたしはこう言った。

爆炎の灼風バーニング・フレイム・ウィンドーを使う。準備して」

「くっ…!」

 絶句する声が聞こえた。それもそう、爆炎の灼風バーニング・フレイム・ウィンドーは風と火の融合の上位の魔法。詠唱魔法の中でも最上位の魔法で使える者はそういない魔法なんだから。

 炎の精霊サラマンダーの力を持つラナーシア・サラマンディスと、風の精霊シルフの力を持つあたし、シャリーナ・シルフィーヌがいるからこそできる究極の融合魔法。

 あたしとラナーシアが並んだ後ろに二十人の魔法師隊の精鋭が並び詠唱は始まった。

 頭上二十メムには風の渦と炎の渦が干渉し合い徐々に融合し一つの渦となる。赤かった炎は青白くなりまるで龍が渦を巻いて暴れているようだ。そしてその周囲には精鋭の魔法師たちの結界で広がらないように球体にしていく。

 完成した直径十メムの爆炎の灼風バーニング・フレイム・ウィンドーをお見舞しようとした時、フェンリルはその魔力を感じたのだろうそれを見てあたしたちを見た。が、それだけだった。そんなものには興味もないぞというようにまた姫様の方を向いた。

「ちっ!舐めてくれるじゃないの!ラナーシアっ、お見舞いするわよっ!」

「はい!!」

 あたしたちはタイミングを合わせ爆炎の灼風バーニング・フレイム・ウィンドーをフェンリル目がけ放った。

「「バーーーニングーーー・フレイムウ・ウィンドォォォォ!」」

 フェンリル目がけ飛んで行く爆炎の灼風バーニング・フレイム・ウィンドー。もうすぐ着弾というところでフェンリルの身体に黒い靄のようなものが広がった。

「(あ、あれはまさか。いえ、大丈夫この爆炎の灼風バーニング・フレイム・ウィンドーが破られるはずがない)」

 あたしはそう思った。そして爆炎の灼風バーニング・フレイム・ウィンドーはフェンリルに着弾しその身体を焼きつくす。悲鳴のような咆哮をあげるフェンリル。

 炎は徐々に小さくなりやがて消えた。消えたあとには黒い塊がのこった。

「やったぁ!」

 あたしは歓喜の声をあげた。ラナーシアもうれしそうだ。後ろの魔法師たちもお互いに抱き合い喜んでいた。みんなあたしの周りに集まりみんなでハイタッチをして喜びを分かち合った。

 しかし姫様は何かに怯えるようにまた城壁に体当たりをし始めた。一人姫様を見るあたし。するとあの黒い塊が動いたのが見えた。

「ま、まさか。そんな…」

 黒い塊からはまたあのフェンリルが再生してきた。やはりあの靄のようなものは障壁だった。以前何かで読んだことがあった。凄まじい力を持った魔物はあのような靄の障壁を出すことがあると。

「ああああっ!あれはっ!ま、まさか……」

「きゃあぁぁ!」

 魔法師から奇声が発せられた。それもそうだ、あのバーニング・フレイム・ウインドーが効かなかったのだ。あたしも腰がぬけそうになったがそんなことはしていられない。

 そう思った時、青の騎士団のベルクリット団長が叫んだ。

「全員フェンリルを攻撃だっ!行けえぇぇぇっ!」

 青の騎士団と緑の騎士団がフェンリルに向かい攻撃を開始した。爆炎の灼風でも倒せないフェンリルが剣や弓で倒せるとは思えない。

「くそっ。こうなったら最後の手段だ。青の騎士団団員に告げる!竜化せよ!!」

 ベルクリット団長が決断した。竜化して戦うんだ。数は十体。これでフェンリルも倒せる、そう思った。

 青の騎士たちは竜となると一斉にブレスをフェンリルに浴びせた。いくらフェンリルでも十本のブレスを受けたらひとたまりもない。これで終わる、あたしはそう思った。ここにいる全員同じことを思っただろう。

 ’グワオォォォォォッ!!’

 聞こえる咆哮、それはブレスの中のフェンリルの断末魔だと思った。しかしその声とともに十本ものブレスが吹き飛んだ。

「ま、まさか!あのブレスが効かないなんて。……」

 あたしは叫んでいた。でも最後まで言えなかった。

 突然フェンリルが近くにいた竜の首に噛みついた。

「あっ………っ!!」

 そしてこともあろうその首を噛み切った。

 その首はバウンドしあたしたちの目の前まで転がってくると数回口をパクパクさせると動かなくなった。目は見開き恐怖で瞳孔が大きくなっていたのをあたしは忘れないだろう。

 遠くで誰かが悲鳴をあげたが誰だったのか。

「みんなしっかりして!今気を抜くと全員死ぬわよっ!」

 戦意を失くしかけた魔法師隊にあたしは活を入れた。

 その後もフェンリルは竜たちに襲い掛かったが、あっという間に四体の竜が殺られた。

 あたしたち魔法師隊も竜に加勢しフェンリルへの攻撃を開始した。

「シャリーナ隊長ぉぉぉぉ!」

「だ、誰?」

 その時、誰かがあたしの名を呼んだ。その声の方を見ると黒い侍女服のスカートを持ち上げて水色の髪の少女が走ってきた。

「あ、あれはミュゼちゃん」

 あっけにとられてるとミュゼちゃんはあたしの前までくると息を整えるのも時間の無駄だと言うように話始めた。

 しかし、その前に言いたい。

「ミュゼちゃん、スカートたくしあげて足が完全露出しててセクシーよ。おまけに白いパンツもちらっと見えて悩殺的よ」

「はあはあ。うぐっ。シャシャシャシャシャリーナ隊長っ! はあはあ。そそそそそんなことはどうでもいいんですっ! ちょっとは、はあはあ、恥ずかしい、はあはあ、んですけど、はあはあ。それよりも、はあはあ」

 ミュゼちゃんの言うことにはあのマピツ山に二人の魔族がいるらしい。それとフログス伯爵も。伯爵の額には契約の紋章があるらしい。あたしにその紋章を解呪できないかと。バスティーアさんが選んだ人たちとマピツ山に行って欲しいと。

「それにしてもマピツ山に誰か行ったの?」

「いえ、コースケ様がここから見られたのです。肉眼で」

「ま、まさかここからだとマピツ山の山頂まで直線で三クムから四クムくらいはあるんじゃないの?いくら魔力を集中しても見えるわけないよミュゼちゃん」

 と一笑したけどミュゼちゃんの目は嘘を言っている目じゃなかった。

「ほ、ほんとうなのミュゼちゃん」

 頷くミュゼちゃん。

「今バスティーア様は主塔に向かっておられます。別の魔族が陛下たちを狙っているらしいのですが、金の騎士様たちにそれを伝えに」

「わかった。すぐに行くわ。ラナーシア!」

「はい」

「今の話効いてたわよね。今からここを離れるけどあとお願いね」

「はい。わかりました。それにしてもコースケ殿はつくづく規格外ですね」

「そうね。さすがはコーちゃん。あたしのいけないところがうずうずしてきそうだわ」

 パッコーン!

「いったいぃぃぃっ!」

 ラナーシアの手にはなぜかスリッパが握られていた。

「なんでスリッパなんか持ってるのよっ!」

「そんなことはどうでもいいんです。なぜそんなハレンチなことを大きな声で言えるのですかっ!恥を知りなさいっ、恥をっ!!」

 赤い髪に負けないくらいラナーシアの顔は赤くなっていた。

「さ、今すぐに主塔に行ってバスティーア様に合流してください」

 とミュゼちゃん。そうだった。

「主塔に行ってバスティーアさんに合うのね。わかったわ。ラナーシアあとまかせたっ!」

 あたしは身体に風を纏わせると主塔に向かって飛んだ。


 ーーーーーバスティーア支店ーーーーー

 私は姫様が明けた壁の穴から城内に戻り陛下の下へ急いだ。

 陛下と王妃様は主塔の最上階におられる。先ほどフェンリルが出現した際に移動していただいたのだ。その護衛には陛下直属の騎士である黄金の騎士と王妃様専属の騎士白銀の騎士がついているので安心はしていますが。

 しかしこの一連の出来事が魔族によるものだったとは誰も思いつかないことでした。フログス伯爵は以前はおだやかなお方でしたが魔族と関わってしまわれたのでしょう。それを誰も気づかずこのようなことになってしまった。誰のせいでもないですが私も責任を感じます。

 私は主塔に入る入口に近づいた。しかしその前に誰かがいるのに気付いた。よく見るとそれは城の者ではなく黄色くにごった目をしている魔族だった。魔族と言ってもそこにいるのは下級も下級、私でも相手にできるかもしれない程度の魔族が見張っていた。

 私はとっさに廊下の曲がり角に身を潜めどうするかを考えた。来た方向を見ても誰一人の姿も確認できずまた曲がり角から主塔の入口の魔族をみた。

「これはやるしかありませんね」

 私は少し廊下を戻ると軽く手を振ったり屈伸運動をしたりして身体をほぐした。長年戦いなどまったくしてないのでかなり身体は訛っています。急に戦っては動きが鈍い私には不利です。少しでもほぐして動きやすくしておかねばと入念にストレッチを行いました。

 少し身体が温まり筋肉もほぐれたのでまたゆっくりと、廊下の曲がり角から主塔の入口を診ました。さきほどと変わらず魔族が二人立っています。あくびをしたり二人で話をしているようなので周囲の警戒は怠っているのはあきらか、今がチャンスです。

 私は人竜球の魔力と体内魔力をほんの少し融合させた。私たち黒竜族に伝承される一子相伝の業。竜化せずに竜化時の力を半分ほどを使えるようにする奥義『竜人融気(りゅうじんゆうき)

「一割ほどでいいでしょう」

 これで私の身体は堅い鎧のように鉱質化した。

 私は曲がり角から飛び出ると右側の魔族にまず正拳突きを眉間目がけてお見舞した。その魔族は私のスピードに対処すらできずグシャという音とともに頭部が砕けた。

 反対側の魔族は私が片方の魔族を一瞬の間に屠ったのを呆然と見ていた。そのため私の左足での蹴りを防ぐこともなく胸部が破裂し絶命した。

「ふう。私もまだまだやれるかもしれませんね。というより相手が弱すぎたんでしょう」

 私は一人苦笑すると入口から中に入りらせん状の階段を上に登っていった。

 この塔は6階建てで今陛下たちは5階におられるはずです。四階と六階には白銀の騎士が、陛下と同じ5階には黄の騎士が護衛しているはずです。

 コースケ様が3つの窓のところとおっしゃっていましたがそれは3階のところ、あれからあまり時間がたってませんのでおそらく魔族はまだ3階にいると思われます。

 私は二階にあがると隠し階段を使い四階にあがりました。ドアを5回叩くと中から声がしてゆっくりと隠し扉が中へと開きそれと同時に私の首と心臓の辺りに剣の切っ先が向けられました。

「おお、バスティーア殿」

 白銀の騎士は剣を鞘に納めると私に入室を促しました。

「失礼いたします。バスティーア・ハイデスでございます」

 と一礼をしました。いついかなる時でも家令たる者として当然の所作です。

「何用か?」

「はい」

 私は魔族がこの下の階にいること、この一連の所業が魔族によるものという推測を話しすぐに陛下たちを暗殺しようとしている魔族を排除していただくようにと申しました。

 この階にいる白銀の騎士は6人。そのうちの四人がすぐさま3階に降りていき、そして5分とたたないうちに戻り魔族を処分したとの報告がありました。魔族はなんとたった二人だったそうです。いくらなんでも少なすぎると思いましたが他にはいなかったようです。

 そうしているとコンコンと窓を叩く音がして全員抜剣し身構え窓の外を見ると銀色の髪と同じ色の瞳が中を見ていました。魔法師隊隊のシャリーナ・シルフィーヌ隊長がコースケ様の命を受けやってきてくれました。

 すぐさま窓を開け入室してもらうと二人で陛下のおられる5階へ昇りました。

 部屋に入ると中では陛下と王妃様が壁の窓から下を見ておられましたが、いきなりお二人が抱き合われたので何事かと私も別の窓から下を覗きましたが、恥ずかしながら私も歓喜の声をあげておりました。もちろんシャリーナ隊長も飛び上がって喜びを表しておりました。

 少し離れたところでコースケ様に優しく抱かれ笑みをこぼされている姫様がおられたのです。

 コースケ様の魔力で姫様の竜化がとれて人型になれたのです。人竜球が完全治癒したのです。これを喜ばずしてどうしましょうか。

 私は陛下と王妃様の下に行き涙を流し歓喜にあふれるお二人にお祝いの言葉を告げました。

 そして喜ぶお二方には言いにくかったのですがコースケ様の推測をお話いたしました。そして納得された陛下は黄の騎士5人と白銀の騎士十人、そしてシャリーナ隊長の計十六人でマピツ山に行くようにと命を下されました。

 マピツ山の魔族に悟られないようにするために国宝である転移門を使用する許可も得てこの主塔の6階にある転移室に向かいました。

 そして十六人は転移室からマピツ山へと瞬間移動していきました。


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