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異世界人と竜の姫  作者: アデュスタム
第1章 フェンリル
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10 白竜城の人々

 10 白竜城の人々



 ・・・三日目・・・



 今朝もカーテンの隙間からやわらかな陽綱が室内を照らしている。

 功助はふかふかのベッドから降りるとストレッチをして身体中の関節や筋肉をほぐしている。するとまた昨日と同様ドアをコンコンと叩く音がしてミュゼリアの声が聞こえた。

「おはようございますコースケ様」

「はーい。今開けるからちょっと待って」

 カチャリとドアの鍵を開けるとミュゼリアが部屋に入ってきて一礼する。

「おはようございますコースケ様。お目覚めはいかがですか?」

「ああ。今日もよく寝られたよ」

「そうですか。それでは朝食の準備をいたします」

 ニコニコと微笑みながら朝食の準備にはいる。

「ああ。んじゃ顔洗ってくるよ」

「はい」

 それから朝食を採り今日の予定を聞いた。

「で、今日の予定はどうなってる?」

「はい。今日は昨日できなかった城内の案内をさせていただきます。そしてまたお昼は城内の食堂で採っていただきます。そしてお昼からは姫様とご遊戯となっております。バスティーア様が気をきかせてくださったのだと思いますよ」

「ああ。わかった。で、夜はやっぱり陛下たちと会食かな?」

「はい。そうです。今日のゲストは誰でしょうね」

 メモをポケットにしまいながら楽しみですねとミュゼリア。

「ではコースケ様。城内をご案内いたします。さあ行きましょう」

 そう言ってミュゼリアは部屋のドアを開けた。


 まず最初に訪れたのは城の中ではなくなぜか城の外だった。

 数段の階段を降りるとそこには大きな噴水があり勢いよく水を吹きあげていた。そしてその周りの花壇には色取り取りの花々が咲き緑の木々が陽綱に照らされていた。

「うわあ綺麗だなこれは」

「そうでしょそうでしょ。この庭園は一般の使用人たちの憩いの場になってるんですよ。でも爵位をお持ちの方々もたまに訪れていかれるんです、とても綺麗だなと感想述べられて」

「そうだろうなと思うよ。こんな綺麗なところでお昼食べたらさぞおいしいだろうな」

「はい。私も仲のいい友人とたまにここでお茶するんですよ。とてもおいしく感じます」

 ミュゼリアは微笑みながらそう言うと右の方を見た。

「あっ」

 うれしそうな声を出すと手を振った。

「ゼフじいさ~ん。こっちですよ~」

 手を振りながらピョンピョン跳ねている。

「おお、ミュゼ嬢やないか。久しぶりやな何しとってん?」

 と言いながら高枝切りバサミを持って近づいてきたその人は見た目七十過ぎに見える爺さんだった。

「お久しぶりです。なかなかここに来ることができなかったもので」

 といいながら軽く頭を下げている。

「かまへんかまへん。ミュゼ嬢も忙しいんやろし気にせんでええで。でもフィリシアとはたまにでええから遊んだってや」

「はい。ありがとうございます。フィルとはたまに食事とか一緒に採ってますよ」

「そうか、頼むで。で、こっちの兄ちゃんは?」

「あっはい。こちらはコースケ・アンドー様です」

「ん?コースケ・アンドーか。あんたもしかしてミュゼ嬢のこれか」

 といってニヤニヤしながら右手の小指を立てた。

「ち、違いますよゼフじいさん。コースケ様はそんなんじゃありません」

 思わずゼフの右手の指をつかむミュゼリア。

「なんやちゃうんか、お似合いやと思うんやけど」

 はははと苦笑する功助。ミュゼリアは真っ赤な顔をしてゼフの肩をバシバシ叩いている。

「で、ミュゼ、こちらの方は?」

 と言ってまだゼフを叩いているミュゼの肩をつんつんと突いた。

「あっ、はい。この方はゼフじいさんとおっしゃってこの庭園を管理されている庭師の方です」

「そっか、ここの庭を」

 ゼフはよろしゅうなと片手を上げてにっこりと笑った。その背中には一対の翼があった。どうやら有翼人と呼ばれる種族のようだ。

「で、ミュゼ嬢や。このコースケはんとやらは何者なんや?」

「はい。姫様の傷を癒してくださった人族の方です。一昨日からこの城にご滞在されています。ただいま私が城内のご案内をさせていただいているんですよ」

「ほお、そうなんや。……あっ、思い出したわ、トンズラしてたシオン嬢ちゃんがバスティーアはんたちに連れられて一昨日帰って来はった時にシオン嬢ちゃんの背中に乗ってた人とちゃうか?ほんで昨日あのフェンリルとたたこうた兄ちゃんやろ」

「そうですそうです。よく知ってますねゼフじいさん。さすがは庭師」

「知ってることと庭師は関係あらへんのんとちゃうか?まあええわ。そっかあんさんがなあ」

 といって功助をじっと見るゼフ。そしてうんうんと唸っている。

「ほう、そのブレスレットをしてるのにこれまた凄い魔力やな。ワシも長年生きとるけどこんな人族は初めてや。それも澄んでるやないか。ほんまえらい人族もおったもんやな」

 しきりに感心していた。

「それではゼフじいさん。コースケ様のご案内を続けますので失礼します」

「そう言って軽く頭を下げると「ほんならなあ」と高枝切バサミを振って見送ってくれた。

 さ、コースケ様。次行きましょう」

「ああ、うん。それじゃ失礼します」

 軽く頭を下げて二人は次の場所に向かった。


 庭園をあとにした二人は続いて訓練場へと向かった。

 そこはだだっ広い運動場のようなところであちこちで騎士なのか兵士なのかわからないが剣や槍、弓などを訓練しているようだ。少し離れた向こうの方ではローヴを着た人たちが何やら杖を上げたり下げたりしているようだが何をしているのか、遠目ではよくわからない。

「なあミュゼ。あれは何をしているんだ?」

 杖を振り回している集団を指差してミュゼリアに尋ねた。

「ああ、あれは魔法師隊の方々ですね。魔法の訓練をしているようです」

「魔法師隊?ああ、シャリーナさんとラナーシアさんのいるあの魔法師隊だな」

「はい。そうです」

「元気になったかなシャリーナさん。ひどいけがだったからなあ」

「そうですね。でもたぶんもう元気になってると思いますよ」

「そうだといいな」

 二人は訓練をしている魔法師隊の方を見た。

「行ってみますか?」

「えっ、行っていいの?訓練の邪魔にならないかなあ」

「大丈夫ですよ。たぶん」

「たぶんかいっ!」

「ははは。まあ大丈夫ですよ。では行きましょう」

 訓練場の中に入ると端の方を歩いて魔法師隊の方に歩いていく。その途中騎士団と思われる人たちの中から声がした。

「ミュゼリア、何をしているのだ?」

 そちらの方を見るとミュゼリアの兄、ハンスの姿があった。

「あっ兄上。今コースケ様に城内の案内をしているところです」

「そうなのか。くれぐれも気を付けるのだぞ。コースケ殿に無礼のないようにな」

「はい」

「コースケ殿、ゆっくり見て行ってくれ」

「はい。ありがとうございます」

「では兄上」

 といって再び魔法師隊の方に歩いて行く。

 すると、魔法師隊の方から奇声が聞こえてきた。

「ああーーーっ!コーシュケー殿ではありませんかぁぁぁー!」

 ドドドドドと砂煙をあげながら走ってきたのは魔法師隊のシャリーナ・シルフィーヌ隊長だった。おまけに大きな声で功助の名前を叫びながら。俺は首つりの死刑じゃないぞという功助の心の声が聞こえるはずもないが。しかし元気な様子でよかったと微笑む功助。

 だが元気よく走ってくるシャリーナを見て少し苦笑した。

 功助の前に来たシルフィーヌはピタッと止まり左胸に右拳をあてた敬礼をしてニッコリ微笑んだ。

 しかしピタッと止まるとは慣性の法則を無視しているのではと、この世界の物理法則に疑問を持つ功助。

「あ、あはは。ど、どもです」

 功助の肩や背中や胸をその小さな手でバシバシ叩きながらキャハキャハ言っている。そして一歩後ろに下がり功助の目を見つめた。

「ありがとうございましたぁ、ほんっっっっとにっありがとうございましたあ。ありがとうございましたぁ!」

 そう言って頭が地面に着くのではないかというくらい何度も頭を下げるシャリーナ。

「あ、いや、そんなに頭を下げてもらわなくても…いいですよ…。頭を上げてください。ね、シルフィーヌ隊長さん」

「な、なんてお優しいんですコーシュケーどのっ!ありがとうございますっ!!それにあたしのことはシャリーナ、もしくはシャリちゃんとお呼びくださいっ!」

「…はは、それじゃシャリーナさんで。それより身体は大丈夫なんですかもう。昨日の今日でまだ無理しないでくださいね」

「はいっ、大丈夫ですっ。元気モリモリ食欲モリモリおっぱいドッカーンですっ」

 なぜにおっぱい?と考える暇もなくマシンガンが炸裂しそうだ。

「でもぉ~コーシュケー殿ぉ。来るなら来るっていってくれたらあたしがじきじきにお迎えにいったのにぃ。あたしのことが心配で心配で居ても立ってもいられなかったんでしょう、ほんともう恥ずかしがり屋さんなんだからあ」

「ま、心配だったのは心配してたんですけど……」

 両手を胸の前で組んでいやんいやんと身体をくねらすシャリーナ。

「んもう、やっぱりそうだったのねぇ。ほんとあたしって罪よねえ」

 と悶絶寸前になっていると

「あ、あのシルフィーヌ隊長」

 とミュゼリア。

「なあにミュゼちゃん」

「す、すみません’コーシュケー様’ではなく’コースケ様’ですのでお間違い無きようお願いいたします」

「あらら、そうよねえコーシュケーってなんか変だなあって思ってたのよねえ。ごめんねコースケ殿。命の恩人の名前を間違えるなんてほんっっとごめんなさい」

 といってまた頭を下げた。

「お詫びにこの美爆乳をどうぞごたんのうくださいましっ!」

 といってローブを開きその爆乳を差し出した。だがローブの舌にはまだ軽鎧を着けていたので驚くだけで済んだ。しかしドキッとしたのは内緒にしておこうと功助。

「あ、いえ」

「んもう、照れ屋さんなんだから~ん」

「は、ははは」

「それでそれで、あたしの様子を見に来てくれたの?昨日のことなら気にしてないわよ、ラナーシア副隊長から聞いたけどあたしがフェンリルに噛みつかれてきを失ってたときに治癒術をかけてくれたんでしょ、もう感謝してるわほんとどれだけ感謝しても足りないくらい、それに治癒の時にあたしのボリューム満点美爆乳を生で触ってクニクニしてパフパフして治癒してくれたのなんてうれしいだけでぜーんぜん気にしてないから、気を失ってる時じゃなくてもコーちゃんならいつでもあたしの美爆乳を生でじっくり見て両手でムニムニ触ってくれてもいいんだからねっ、いつでも言ってね、ね、コーちゃん」

 す、すごい…息継ぎ無しで一気にしゃべった。と驚く功助とミュゼリア。

「あ、いえ。おかまいなく」

 功助は米かみになぜか汗が流れたのを感じた。この人には勝てないと。

「それとももしかして無理矢理あたしの手を取ってどこか一目につかないところに連れて行ってあんなことやこんなことをしようと思って来てくれたの?そんないきなりなんてあたし心の準備ができてなくて、でもコーちゃんならあたしもいいかなあって、でもやっぱり恥ずかしいかなあって。いやんいやんいやん。ほんとにもうコーちゃんったらもう積極的なんだからあ。でもいいわ積極的も嫌いじゃないからいつでもあたしの……」

 ベチコーーーン!

「ふぎゃらばわっ!」

 急に頭を押えうずくまるシャリーナ。その後ろには大きな木の板を振り下ろしていた真っ赤な顔の女性がいた。

「あっ、ラナーシアさん」

「いったーい!なにすんのよぉ」

 と言って後ろを振り向くシャリーナ。涙目で睨むがそれ以上に木の板を振り下ろしたラナーシアの目の方が怖かったのかすこし逃げ腰になっていた。

「シャリーナ隊長!なにすんのよじゃありませんっ。ここをどこだと思ってるんですかっ!あのようなことを大きな声で恥ずかしい。ほんと信じられませんっ」

「い、いいじゃない減るもんじゃなし。それに何よそれ。その木の板。もしかしてそれであたしのこの愛らしい頭をぶん殴ったんじゃないでしょうね」

「どこが愛らしいですかどこがっ!。そのおとぼけ頭を殴るにはこの板くらいが丁度いいんですっ」

「ひっどおおい。痛いんだからほんと」

「反省してください反省!ほんとにもう」

 そう言ってラナーシアは持っていた木の板を放り投げて功助の方に向き直った。

「コースケ殿。申し訳ございません。このおとぼけ隊長が失礼なことをぬかしまして」

 功助に向かって頭を下げるラナーシア。

「あっ、いえ、気にしてませんから。はい大丈夫です。それよりシャリーナさんは大丈夫ですか?」

 シャリーナの方を見ると頭を摩りながら功助の方を見ている。

「ねえねえ酷いと思うでしょコーちゃん。隊長をこんな目に合わすなんて酷い副隊長だと思うでしょ」

「あははは。まあ…」

 頭をかきながらチラッと魔法師隊の方を見ると

「ねえねえ、あの人族が一昨日シオンベール姫様の首にしがみついて来た方よね」

「そうそう。でも首じゃなくて背中に乗ってきたみたいよ」

「あら、あたしはシオンベール姫様に咥えられてきたって聞いたわよ」

「えーっ、わたしはシオンベール姫様のあとを走ってきたって聞いたけど、空中を」

「それよりどうあの黒髪。さらさらしてそうじゃない。触ってみたいわあたし」

「ああ、噂だとさあの黒髪一本一本が針のようになって飛んでくるって聞いたわよ。昨日のフェンリルを追い返したのもそれを使ったらしいわよ」

「ありうるかもねえ。あの魔力量だもの。フェンリルもシッポを巻いて逃げるわよねえ」

「それからさ、あの人族は、透視ができるって聞いたわよ私。なんかこっちの方みてるけどさあれって透視してるんじゃない。なんかじーっと見てるし」

「いやん。そんなことならかわいい下着着けてきたらよかった」

「透視できるなら下着なんか見てないわよ。あの人ぞくにはあたしたちが全裸にみえてるのよきっと」

「いやんいやんどうしよう。お嫁にいけなくなっちゃうわ」

「大丈夫よあんたはもともとお嫁にいけないから」

「ちょっとどういう意味よ」

 ひそひそからガヤガヤと騒がしくなってきているのは彼女たちは気づいてないようだ。しかし魔法師隊は女性しかいないのかと驚く功助。

「貴様らっ、静かにせんか!」

「はいっ、すみません!」

 ラナーシアが一喝するとようやく静かになった。

「ところでコースケ殿。この訓練場に何か御用ですか?」

「あっ、いや。ミュゼにこの城の中を案内してもらってる最中で。なあミュゼ」

「はい。ここを見学したあとは城内に戻り各所をご案内する予定です」

「そうでしたか。お見せするようなことは何もありませんがゆっくりとしていってください。さあシャリーナ隊長、そんなところで座り込んでないで訓練を再開してください」

 ラナーシアは地面に座り’の’の字を書いてるシャリーナの首根っこをガシッと握ったかと思えば片手でぶら下げながら魔法師隊隊員の方に連行していった。

「ラナーシアさんってけっこう男前だよな」

「そうですねえ」

 と言いながら苦笑する功助とミュゼリア。

 そのあと魔法師隊の訓練を見たが何かたどたどしいと思った。どうも新入隊員だったようだ。

 そして騎士団の一対多数の攻撃訓練などを見て城内に戻った功助たちは次に向かったのは控室や謁見の間などがある区画だった。

 今は特に登城している者もなく謁見の予定もないのですべて無人だった。

 一通り見て次に訪れたのはなんと洗濯場だ。

 多くの洗濯物がひっきりなしに運ばれ綺麗にたたまれた衣服や敷物、カーテンに布団までが各所に運ばれていく。

「いないわね」

「ん?何だミュゼ」

「あっ、いえ、なんでもないです」

「そう」

 中を少し見学させてもらったがほとんどが女性で汗だくになり働いていた。人以外の獣人や亜人が多いように思えたがその種族たちの方が力が強いので特に多いらしい。

 そして次に訪れたのは誰もが自由に使える休憩室だった。

 ドアを開くと何人もの使用人が功助とミュゼリアとをというより功助を見た。

 あちこちでひそひそと話をし始めちらちらと二人を見ている。

「コホン。うん、えーとコースケ様、ここが休憩室です。どうぞお入りください」

 ミュゼリアがわざとらしい咳をして功助に中に入るように勧めた。

「みなさん、この方はコースケ・アンドー様とおっしゃいます。ご存じの方もいらっしゃるでしょうが、コースケ様は昨日あのフェンリルと互角以上に戦い退けた力の持ち主です。でも、心優しいお方であのシオンベール王女様がお慕いされているお方です」

 ミュゼリアの紹介を聞くとザワザワと騒がしくなってしまった。

 その中からひときわ大きな声で一人の少女が声をかけてきた。

「ミュゼ~、こっちこっち。こっちおいでよ」

 そう言って手を振ったのは有翼人の少女だった。

「あ、フィル」

 ミュゼリアもその少女の方に手を振っている。

「さ、コースケ様あそこに行きましょう」

 ミュゼリアに連れられて少女のいるテーブルに着いた。

「コースケ様、こちらの有翼人はフィリシアさんです。さきほどの庭園のゼフじいさんのお孫さんなんですよ。そしてフィル、こちらが私が専属侍女としてお仕えしているコースケ様です」

「はじめましてコースケ様。お噂はミュゼから聞いております。あたしはフィリシアと申します。ミュゼとは小さい頃からの友人なんですよ。フィルとお呼びくださいね。よろしくお願いします」

 そう言うとフィリシアはペコッと頭を下げた。

「はい。コースケ・アンドーです。よろしくお願いします。フィ、フィルさん」

「フィル」

「え?」

 少し顔を近づけてくるフィリシア。

「フィル」

「は、はい。フ、フィル」

「はい」

 笑顔になった。

 それから少しの間だが三人で話をした。フィリシアは今月は洗濯場勤務だそうだ。さっきミュゼリアが捜してたのはフィリシアだったようだ。

 使用人はだいたい一ヶ月から三ヶ月サイクルでいろんなところに行くのだ。フィリシアは先月までの二か月間は厨房で働いていた。

「フィル、そろそろお昼だけどどうするの?」

「ああ、あたしは早番だったからもう食べたわよ。ミュゼたちはこれから?」

「そうなの。んじゃ今日はどこで食べましょうか。昨日は一食だったから…」

 ミュゼリアがどこで食べようかと悩んでいると

「ならミュゼ、今日は二食でしょやっぱり」

「そうよね。そこでいいですかコースケ様」

「ん?どこでもいいぞ俺は」

「なら二食にしますね。それじゃ行きましょうか」

 席を立ち功助が立つ時にさっと席を引いてくれるミュゼリア。

「ああ、ありがとミュゼ」

「いえいえ。んじゃフィルまたね」

「ええ。コースケ様、次はご一緒させてくださいねお食事」

「ああ。必ずね」

 フィリシアはぺこりと頭を下げるとお気をつけてと球憩室のドアを開け見送った。


 第二食堂。ここは第一食堂よりも少し小さ目で壁はガラス張りになっていてその向こうには池が見えている。一食は元の世界で言うと洋・中華風で二食は和食に近い。

「いい景色だなここは」

「でしょ。たまに来るんですよここ。ゆったりしててお気に入りの食堂なんです」

 ちょうど窓際が空いており二人はそこに座った。

「いらっしゃいませ。お品書きでございます」

 そう言ってメニューを持ってきたのは狼のような容貌のウエイターだった。第一食堂では獣人のウエイトレスさんだったが、ここはどうやらウエイターが業務を行っているようだ。

 周りを見ると虎やライオン、ゴリラにサイの獣人がいた。厨房の方を見ると白衣を着た熊がフライパンを操っていた。

「ありがとうございます。さあ、コースケ様何をお召し上がりになります?」

「ん?そうだな。ここのお薦めは何ですか?」

 狼のウエイターに聞くと

「はい。今日のお薦めはこちらの海戦天ぷら定食になります」

 そう言ってお品書きを指し示した。

「そっか。んじゃ俺はそれで」

「それじゃ私は山菜おこわ御膳で」

「はい。それではしばらくお待ちください」

 ピシッと一礼をして狼のウエイターは厨房に注文を告げにいった。

 満腹になった二人は食後のコーヒーを飲みながら外の景色を眺めていた。池には小さな水鳥が優雅に水面を移動し、時々水の中から小魚が飛び跳ねている。

「さてとコースケ様。それでは午後の予定を開始いたしましょうか」

「ああ、シオンとこに行けるんだよな」

「はい。姫様とご遊戯です。今日は何をされるんですか?」

「まだ考えてないな。さてどうしよっか」

「それでは道々考えましょうか」

「そうだな」

「では」

 二人は第二食堂を出てシオンベールの部屋に向かった。


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