01 黄金の竜
生まれて初めての小説です。生暖かく見守っていただければうれしいです。
01 黄金の竜
・・・一日目・・・
「わわわっ!な、なんでなんでなんでやねん!!だ誰か助けてくれぇぇぇ!!」
一人の男が今だだっ広い草原を全速力で走っている。広くて気持ちよさそうだなあと思って走ってみるかというような気持ちで走っているのではなく、バカでかい竜に追いかけられてやむなく走って逃げているのである。
ーーバサバサ ズシンーー ーーバサバサ ズシンーー
バサバサと羽根で浮かびそして着地、またバサバサと羽根で浮かび着地。
そうやって跳ねながら男のすぐあとを追いかけてくるがたまに’ズベシャ’という音と振動が起こる。地上に慣れていないのかたまに前のめりに倒れているのだ。
竜が倒れる度に男はそのあおりで何回か前転させられ今では服も埃だらけの土だらけになっている。
「畜生、いい加減にしろよなバカ竜めっ!」
竜に追いかけられてからすでに三十分はたっている。しかし体感的にはもっと長いように感じている。が、ひとつおかしいことがある。それは自分の体力があまり減ってないことだ。
三十分以上も百メートル走のように全力で走って逃げているのだが全然疲れがないのだ。呼吸さえあまり乱れていない。
「まあ、そんなことは今はどうでもいい。とにかくこいつから逃げ切らないと俺に明日はない!」
なぜこんなことになったのか。走りながら思い出す。
さわやかな風が前髪を揺らし目を覚ます男。
「あっ!仕事に行かないと!!」
あわてて飛び起きると…。
「へ?な、何…?」
キョロキョロと周りを見渡すと、なんと三六〇度草原だった。
「あ、あれ……。な、なんでやねん」
もう一度見渡すがやはり草原が広がっているだけだった。
「そ、そんな……。こ、ここ、どこ?」
自分でも蒼ざめてるのがわかったが状況を確認してみる。
「確か仕事から帰ってマンションのドアを開けたよな。で、……。そのあとの記憶がない…」
しかしじっくり考えるとワンルームマンションの自室のドアを開けた瞬間眩暈を起こしたのを思い出した。
「そうだそうだ。でたぶん玄関で倒れたんだよなたぶんだけど」
それで目を覚ましたらこんなだだっ広い草原で寝てたのだ。驚くなと言う方が無理である。
「変だ、変だ。絶対におかしい。これは夢なのだろうか…。それとも…倒れてそのまま……。ここは死後の世界なのか…」
ほっぺたを抓ると痛いし、あちこち抓っても痛い。グーで頭を叩いたら星が見えた。
「夢でも死後の世界でも……なさそうだ。だったらここはいったいどこなんだ」
どっこらしょっと立ち上がりまた周りを見るが地平線まで草原が続いているだけだ。
「なんちゅう広さだ。草ばっかで木すら生えてないとは…」
ふと下を見ると妙な形の石らしきものがあった。
「なんじゃこりゃ」
しゃがんでよく見るが妙な物だった。
それは真っ白で日の光を浴びてキラキラと輝いていた。それは見ようによってはタケノコ。でも弯曲してて犬歯のようだ。それが男の倒れていた周囲に四本生えていた。触ってみるとツルツルしていて大理石のようだ。引っ張ってみてもビクともしない。
「なんだろ?まっいいか」
立ち上がりまた周囲をキョロキョロする。
その時無意識にズボンの後ろポケットに手を入れた。
「あっ、スマホ」
男はそれを取り出すと画面を見る。
「やっぱり圏外か…」
電源を切りまたポケットに入れた。そしてその時。
「ん?」
ふと空を見ると遥か彼方に何かキラッと光るものを見つけた。
「なんだ、UFOか?…なわけないか」
しばらくその光るものを見ているとそれがだんだんと大きくなってきているのに気が付いた。こちらに向かって来ているようだ。
「近づいてきてるなあれ。なんなんだろ?」
そして徐々にそれが何なのか判別できるにまで近づいてきた。
「ま、まさか…あれって…」
全身金色の鱗に覆われそして首が長くその先にトカゲのような顔があった。その額からは後方に伸びる四本の角が生えている。おまけに背中には一対のコウモリのような羽根がありゆっくりとはばたかせてこちらに向かって飛んでくる。
「あ、あ、あれって…、ド、竜……、竜……だよな」
その竜はどんどん近づいてくるとなぜか男の目の前に着陸した。そしてその細く縦長の金の瞳を男に向けて首を傾げた。
「わ、わ、わっ…」
男は腰が抜けたようで尻餅をついて動くことができなかった。
「ピギャッ♪」
身体に似つかわしくないかわいらしい声で鳴くとその長い首をズズーっと男に伸ばしてきた。
「わっ!」
腰が抜けたのも忘れ男は勢いよく立ち上がると回れ右をして一目散に逃げた。
「畜生め!ほんといい加減にしろよっ!」
男は走って走って走り続けた全速力で。しかし後ろからは巨大な竜が負けじとピョンピョンついてくる。
「ピッギャーピッギャプッギャー♪」
なんだかその竜は楽しそうな気がすると思うのは気のせいにしてとにかく走って逃げた。食われるものかととにかく走る男。
すると突然後ろで強めにバサッという音が聞こえたかと思った瞬間、巨大な影が男を追い越した。そして行く手を塞ぐように金色の鱗に覆われた短い足がその前に立ちはだかった。
「わわわわわわ!」
急ブレーキをかけたが慣性の法則に従いすぐには止まれず竜の太く短い足にぶつかってしまった。
「ドッシャーーーン!
「ピギャーーーッ!」
ぶつかった瞬間竜はその巨大な身体を横倒しにし両足をピクピクさせている。
うぐぐぐっ」
ぶつかり跳ね返された男も同じように草原をゴロゴロと転がった。
男は鼻を押え涙目だったりする。竜の方を見ると信じられない光景があった。
トカゲのような強面の目からは大粒の涙がポロポロ落ちていた。
「ピギャーッピギャーッ!!プギャーー!!」
「た、竜が泣いてる?嘘っ」
男がぶつかった左足にその小さな手を伸ばし摩っている。
「かなり痛かったのかな?」
なんか悪いことしたなと立ち上がり竜の方に近づいていく男。
「お、おい。だ、大丈夫か。な、竜」
すると左足を男の方に近づけてきた。そしてその短い手でその足を指さした。
「撫でろってことなんかな」
よく見るとその左足はおかしかった。足全体の色も赤黒く変色していて膝の辺りには何かが突き刺さった跡が黒くなり足首の周辺の皮膚は剥がれ骨まで見えている。
当然男がぶつかったせいではないのは明らかだ。何かに襲われたのだろうか。
「これは酷いな。こんな足でよく俺を三十分以上も追いかけてきたなお前」
男がぶつかったせいでここの痛みも強くなったんだろう。いまだに大粒の涙を流している。
男はその左足に手を伸ばし、手の平を向けたその時。
男の右手がほのかに青白く輝いた。
「な、なんじゃこれは!」
あわてて手を引っ込めて驚き右手をじっと見た。が、光は消えいつもの自分の手があるだけだった。
「おかしいな、気のせいか」
再び竜の足に右手の平を向けると、また光りだした。
今度は離さずにじっくり観察した。すると右手から光が足全体にひろがり皮膚や黄の鱗がうにょうにょと動き出した。
「うわっ、なんかグロいな。でも……。も、もしかしてこれって…」
男は左手も同じように竜の左足に手のひらを向けた。より一層輝きが増したような気がした。そして。
「ピギャピギャ♪」
なんか声が可愛らしくなったような気がした。そして竜の顔を見上げてみると涙は止まりなんかうれしそうにしている。
「そうかそうか。痛かったな。ほんとごめんな。それと辛かったなこの足」
「ピギャ♪」
「でもな、お前が急に俺の目の前にその顔を近づけてきたからなあ。けっこう怖いんだぞお前」
五分ほど青白い光を当てていると「ピギャーーッ♪」という声とともに竜は立ち上がり男の目の前でお座りをした。
左足は右足同様、美しい鱗で覆われ黄金色に輝いている。どこに傷があったのかももうわからなくなっていた。綺麗に完治したのだった。
「しかしすごいな俺の手」
今はもう青白い光は放っておらずいつもの手がそこにあった。
竜は男の方に顔を近づけてきた。男はその鼻先を軽く撫でてやった。竜はそれがうれしかったのか「グルルルル♪」と咽喉を鳴らした。そしてその長い舌を伸ばし男の顔をペロッと舐めた。
「あはは、くすぐったいよ。しかし、大きいなあお前」
見上げると十メートルはあるだろう。まるで二階建ての家がお座りをしているようだ。
「ピギャッピギャ!」
「でさ、なんで俺を追いかけたんだ?もしかして遊んで欲しかったのか?」
そう聞くと竜は羽根をバサバサはばたかせ「ピッギャー!」と鳴いた。
「そっか。でもなあ。遊んでほしいって言ってもなあ」
しばし腕を組み考えるがいい案も浮かばず。その間も竜は羽根をばたつかせていた。
「おいおい、ちょっとやめろって。それだけばたつかせると風が凄いんだぞ」
と言って竜を見るとばたつかせるだけじゃなく長い首も短い足も動かしてまるでダンスのようにどたどた跳ねていた。
「おっとあぶない。踏みつぶされるとこだぞおい。だからあぶないって!」
それでも竜の変なダンスは止まらず。
「だからやめろって!おい!やめんかぁぁぁぁっ!」
ピタッと動きが止まり、首を少し傾け、ゆっくりと目だけで男を見ると上げていた足を下ろし、胸の前で指をもじもじさせた。
チラッチラッと男の方を見るとすまなさそうに俯いた。
「ふう。なんちゅう竜だ。まるで人間の子供みたいだな」
男は苦笑を浮かべると近づいてその太く短い足を撫でる。竜はまたその顔を男に近づけてきたのでまたその鼻先も撫でる男。
何か遊んでやれることはないかと周りを見るとさっきの場所とはちょっと様子が変わっていた。
「ん?あそこに川があるな。それに木も生えてるし」
草ばっかりと思っていたが少し離れただけで小川と樹木、そして石がゴロゴロしている。
さっき走ってきた方向を見るがどれだけ走ってきたかは見当がつかなかった。
「けっこうな時間走ったからなあ。三十分くらい。ふつうでなら走れて五,六キロぐらいだろうけどあのスピードで走ったからなあ」
男は全速力で走った。百メートル走ぐらいのスピードで。男は運動はからっきしダメなのだが。走るのは遅く球技も苦手、泳ぐのは好きだが長距離なんて泳げない。そんな男が凄まじい速さで走った。たぶんオリンピックで金メダルを取れそうなぐらいのスピードで。
「単純に考えると百メートルを十秒だとして…、…三十分でえーと、十八キロ…?ま、まさか…。ま、いいか」
ひとまず移動距離はおいといて、竜に少し待つように言ってから男は小川の畔に近づいた。幅は五メートルほどで水深はあまり深くなさそうだ。水は澄んでいて小魚が泳いでいるのがよく見える。
足元を見ると拳大の石が転がっていたので何気なくその石を拾うと軽く投げてみた。
すると凄まじい音をたてて飛んでいった。投げた先には葉を茂らせた低木が生えていた。男の投げた石はその木に当たるとバキッと音をたてて木が倒れ石はそのままのスピードで百メートルほど飛んで行った。
「な…?!」
投げた姿勢で固まる男。信じられないと自分で自分の頬を叩いた。
「痛いっ!…ゆ、夢じゃないよな…」
男はもうひとつ石を拾うと今度は思いっきり投げてみた。
川の上を通った時には水しぶきが上がり川を超すと今度は土や砂が舞い上がり一直線に遥か彼方に飛んでいった。石が飛び去ったあとの地面は一直線に少しえぐれていた。
「な、なんじゃこりゃ?人間技とは思えんなこれは…」
これもまたひとまず置いといて。竜の下に戻ると男は竜に話しかける。
「なあ竜。ここはもしかして俺のいた世界じゃないみたいなんだがわかるか?」
ピーギャピーギャ!」
「そっかわからんか…って何言ってるかわからんなやっぱり」
男は今度はその場で屈伸運動を始めた。腕力があれだけ強くなったのだ脚力も少しみておきたくなったのだった。
「よしっ。やってみるか。って唐突だな俺も」
自分にツッコミを入れ苦笑すると男は膝を曲げ腕を後ろに引き軽くジャンプした。みるみる視界が拡がり勢いよく上昇し竜の頭も越えぐんぐん高くジャンプした。
「な、なんてジャンプ力!二十メートルは余裕でジャンプしてるぞこれは」
そして頂点に達すると引力に引かれ下降していく。すると「ピッギャー!」という声とともに男の下に竜の鼻先が近づいた。そして男が竜の鼻先に着地すると同時に竜は勢いよく男を上に突き上げた。
「あっ、うわぁぁぁぁぁっ!!」
男は強く跳ね上げられてさっきとは比べ物にならないくらい空高く飛んだ。
そして竜は絶叫する男の下にコウモリのような羽根をはばたかせ近づくとまた鼻先で男を空高く跳ね上げた。
うぎゃああああぁぁ!た、た、高い、高い、高いっ!!」
落ちては跳ね上げられ落ちては跳ね上げられと五,六回跳ね上げられついに雲の中に入った。雲の中から下に落ちて行くと、竜の姿が見えない。
「う、嘘だろ。おーい竜、助けてくれぇ落ちるぅぅぅ!」
雲の中から出てきたので竜は男を見失ったようだ。男は地面に向かい自由落下を始めた。
「うわっうわっうわっ!どどどどどうするどうする、どうしたらいいんだ!落ちるぅぅぅぅ!」
絶叫しながら真っ逆さまに地面に向かって落ちて行く男。
「うわあぁぁぁし、し、死ぬぅぅぅ!」
そして……。
ズッシャーーーーーン!!
隕石が落ちたのではないかというような音が周囲に広がり男は地面にぶつかった。
「うぐっ、うぐぐぐっ。----ううっ、痛いーーーお、俺生きてる…のか…」
顔を上げて見ると周りには直径二十メートルほどのクレーターが。そしてその中心に男がいた。
「あ、あ、あれだけの高さから落ちても俺…死んでない…。う、嘘…みたいだ」
その場で体を起こし呆然と座り込んだ。すると大きな影が男の目の前に静かに降り立った。
「ピギャーピギャー♪」
「なんかお前楽しそうだな。俺は全然楽しくなかったんだけど」
よっこらしょっと立ち上がり身体中を叩いたり動かしたりするも痛みも無しおまけに着ている服も大丈夫。砂や埃で汚れてはいるが破れたりとかはしていない。
「不思議だ…。どうしてしまったんだ俺」
頭を傾けて考えるも答えは出ず。
「やっぱりここは異世界なんだ。そして俺は異世界効果で頑丈になったんだ。それだとこの不可思議現象も納得だ。おまけにこんなでかい竜もいるしな」
男はピギャーピギャーと長い首を左右に揺らす竜を見上げた。
投稿は不定期ですが週に一回か二回できればと思っています。