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クエスト『首なき騎士』③王国騎士na話。

 王国騎士団。

 男の子であれば誰もが憧れる職業。王という御旗を掲げ。忠誠と言う大義名分を翳し。時には非人道的な行為も躊躇う事無く行う。洗脳された集団。


 何よりも名誉を重んじて名誉の為にその身を滅ぼす事もある。


 規律も厳しく。訓練も厳しいらしい。朝日が昇る前に起床し、日が暮れる迄、体を極限まで酷使して鋼の筋肉を作る。


 男女差別は無い世界ではあるのだが、その過酷さからその世界に身を置く女性の数は圧倒的に少ない。その男世界とも呼べる世界に身を預ける事が出来る女性と言えば、それはもう化け物の類の者である。


 その一人がイフン・バースディ。


 彼女は地獄の訓練をものともせず、王国騎士団の男共に混ざり、その才を遺憾なく発揮する遥か高みに力強く尚、可憐に花咲かせる存在である。



 しかし俺は思う事がある。

 女の居ない世界の何が楽しいのであろうか?と...........。

 確かに0では無いが、同じ場所に身を置く女性は化け物だ!イフンは例外中の例外でその容姿はとてつもなく良いのだが、他の女性の容姿はそれはもう見れたものでは...........。


 何を楽しみに王国騎士団の男共は鋼の筋肉を作るのだろう?忠誠?名誉?地位?だけなのだろうか?本当にそれだけなのだろうか?それだけで地獄の訓練に耐えれるのであろうか?俺の知らない何かが王国騎士団の中に存在しているのではないであろうか?


 俺には無理な世界。それが騎士団の世界。



 そして俺は今日...............王国騎士団の真の世界を目の当たりにする事になる............。

 

 ・

 ・

 ・

 ・


 1日が過ぎて早朝。太陽はまだ姿を見せない時間帯。気候が違う場所。霜が降り、吐く息が白い。いつもならまだベッドのヨダレがエライ事になっている時間帯なのだが、今日はそうはいかない。


 そう、とうとうクエスト依頼の開始日となる日だからだ............。



 「新しい朝が来た、希望の朝だ、喜びに胸を開け、大空あおげ..............」


 俺とキララは今、イフンの仲間。他のメンバーと合流して、縮こまった体を解す為の準備運動を行っている。


 イフンが泊まっている宿屋に、イフンと同行していた魔法使いが居て、転移魔法で一瞬で現地に到着した俺達。


 構成メンバーは全員で18人。俺とキララの2人合わせて全部で20人となる。

 1チーム6人パーティーの3チーム編成となりイフンがリーダーとなるチームに俺とキララが同行する手筈になっている。


 男は騎士11人。女騎士イフン1人。男の信仰系魔法使い2人。女信仰系魔法使い1人。男魔法使いが2人。女魔法使いが1人。まぁー当然だが女が少ない。恰好もガチガチだ。やる気をかなり無くした。


 しかしだ!キララだけがいつものガチガチな格好では無く、魔法使いとしての正装と思われる服なのだが..........これがまた何故かエロイ!ヘソが見える。太ももがメッチャ見える。短いローブで懸命に隠す真っ赤な顔がこれまた良い。


 「ふむ、苦しゅうない」


 俺としてはごっつあんですなんだが...........キララの体を他に奴に見られるのは少しイラっとする。というか皆見ている。めっちゃ見ている。ガン見だ。ガン見。俺も負けない。俺が一番近くから見てやる。近すぎて繊維しか見えないが、それでも俺が圧倒的に一番近い。

 

 「ゴチンンーーーンッ!」


 キララが俺の事がウザかったのか俺の脳天に鉄拳をお見舞いした。

 

 「ちょっとルル。どこ見てるの!」


 と、照れながら怒るので、俺は正直に。


 「繊維」


 「ゴチンンーーーンッ!」


 そう答えたらまた殴られた。


 俺は何故殴られたのか意味が分からない。だってそうだろ?太ももって言ってもきっと殴られた。肌って濁してもきっと殴られるんだ!しかも俺は本当に繊維を見ていたのに殴られた...............。

 じゃー最初から何も言わず2回殴ればいいんじゃないのか?..................ん?ちょっと待て!何故2回殴られる必要があるんだ!?


 よく分からなくなった俺は正座で首を傾げそんな考えをしていたら、立派な口髭のダンディなオジサンが怖い顔でキララに近寄り話しかけてきた。


 「恐れ入りますが...........其方のお名前は傲慢ごうまんの魔女キララ・パンプキン殿で相違ないかな?」


 それを聞いたキララはいつも俺の前では見せない真剣に怖い顔をして。


 「僕はそんな2つ名を名乗った事ないけどね!王国の犬がワンワン吠えるのは勝手だけど、僕の名前の前にその2つ名を付けるなんて、死ぬ覚悟は出来ているんだろうね?」


 と不敵に言ってのけた。

 それを聞いたイフン以外のメンバーが額に汗して殺気立つ顔で身構えた。


 ふむ、キララの過去は興味ないがイフン以外のメンバーからのガン見といい、本人が望まない2つ名といい、この反応といい、キララは一体王国で何をしたのだろうか?っていうか、何故最初からそんなに喧嘩腰なのだろうか?いくら王国でボッチだったからと言っても、その鬱憤を今晴らさなくてもいいのではないであろうか?やっていい事と悪い事があるだろうと俺は思う。まぁー性格が性格だからな!しゃーないか!


 しかしだ!俺はこーいうのが一番嫌いだ!一人に寄って集ってボッチにする行為は見ていて吐き気する。

 だから俺は言う!このオジサンは身分が高さそうだがそんなのは関係ない!俺は冒険者。この世界で何にも縛られない自由な者。それが冒険者だ。


 「おい!オジサン騎士!ウチのギルド長に文句があるなら俺に言えよ!!!」


 俺は普段見せないど真面目な顔をした。

 そして凄い気迫で俺はこう言った。


 「おい!オジサン騎士。言っとくがな!お前はキララの事をロクに知らないのによくも俺のギルド長に嫌がる事を言ったな!」


 「ル、ルル?ちょっと、これは僕の問題..................」


 何か言おうとするキララに手の平を晒して俺はキララの言葉を止める。後になって気が付いたが、俺はもうこの時キレていたんだと思う。


 そんな俺にも殺気を向ける他のメンバー達。

 なるほど。俺は理解した。キララだけでは無く。俺も警戒されている事を。


 「いいかよく聞け!オジサン騎士!並びにこの場にいる者共!お前らは俺とキララの事をどう思っているかは知らないが、俺とキララはお前達が思っている人間では無い!俺達の事を教えてやる!!!よく聞けよ!」


 俺は大声でそう言った。誰一人脇見もせず、皆が俺に注目する。

 そして俺は一つ息を吐き。静かに言葉したんだ......................。


 「俺は心が広い。しかしキララは狭い。俺は優しい。たがキララは酷い。俺はオープン。しかしキララは陰険。俺は笑う。けれどもキララはけなす。俺は愛する。なのにキララは怨む。俺は.......................」


 「ゴチンンーーーンッ!」


 「ちょっとルルぅーっ!君はどっちの味方をしているんだい!どう見ても僕を馬鹿にしている様にしか聞こえないんだけど!!!」


 そうキララは何故か俺に怒るんだ。

 

 「えぇぇーーーーーーっ。だってよホントの事................」


 「ゴチンンーーーンッ!」


 「君って奴はいつもそうだ!僕を一体なんだと思っているんだい!大体君はね!僕のいう事全く聞かないし!エッチだし!嘘はつかないけど悪い事ばかりするし!正直なのは良い事だけど、もっと考えてから喋ったらどうなんだい!..................ん?正直!?」


 「ゴチンンーーーンッ!」


 「君って奴は!僕をそんな風に僕を見てたのかい!もう怒った!さぁー今直ぐ楽にしてあげるからそこに横になりな!」


 キララはこのやり取りで3回、俺の脳天を殴り一人ボケツッコミを披露して、俺を殺すと言うんだ。

 俺は直に立ち上がり、腕をピンと天に向かい張り、助けてぇーとイフンの元に駆けだした。


 「イ、イフンお前キララの親友だろ!?助けろよおおおおお、俺このままだとマジ殺されるううううっ!」


 「ちょっ、ちょっとこっち来ないで下さいよおおおおっ!キララがそんな笑顔で殺意抱く姿なんて見た事なんてないんですから!逆に超怖いですからあああああっ!」


 俺から逃げるイフン。

 俺とイフンを追いかけるキララ。


 「こ、コラァーッ!このポンコツ。お願いだから逃げないで俺を助けろよおおおおおおおおーーーーっ!」


 「こ、このっ!疫病神!ルルさんに会ってから私ロクな目に遭ってないんですからね!疫病神。そう貴方は疫病神なんです!私の方に来ないでくださいああああああああーーーーいっ!」


 「ぎゃああああぁぁーーーーっ!キララの手が輝きだしたあああああっ!ヤバイよーーーーっ!俺死んじゃうよおおおおおおっ!ポンコツうううううっ!助けろよおおおおおっ!」


 「そ、そうだ!ギル!ギルあげますからどっかに行ってくださいよ!このままだと私迄巻き込まれます!お願いします。違う所に行って下さいよおおおおおおおっ!」



 それを見た立派な口髭のダンディなオジサン騎士が突然。


 「あはははははははははははははっ。イヤイヤこれは失礼。あはははははははははははははっ」


 キララの殺気に当てられ気でも触れたのか?大声で笑いだした。


 こいつ失礼と言っておきながらまた笑いやがったぞ!俺が甚振られるのがそんなに楽しいのかよ!よしそっちがその気なら俺にも考えがある。オジサン騎士も巻き込んで無理心中してやると思ったのだが................。


 立派な口髭のダンディなオジサン騎士がキララに向かい大声で。


 「これは失礼しました。キララ殿。貴女がこの2つ名をそんなに気にされているとは知らず。本当に申し訳ない事をした」


 キララに深く頭を下げて誤った。

 それを聞いたキララは俺とイフンを追うのを止めて、立ち止まり、ダンディなオジサン騎士の方に顔を向け。


 「.................いや、こちらこそすまないよ。王国に居る人間は腐った人間しか居ないと思ってたんだけどね。貴方は違うみたいだ。2つ名の事は気にする必要は無いよ。僕は実際そんなに気にしてないから。ただ王国の人間に言われると無償に腹が立つだけだから」


 輝く手を納め、自分の非も認めたキララ。


 以外だった。

 そんな単純に自分の非を認めるキララを俺は見た事が無い。。

 こいつ、こんなに寒いのにそんな恰好しているから風邪でも引いたんじゃないか?とも思ったのだが...............。

 馬鹿は風邪引かないしなぁーとそれを否定。じゃー何だ?と腕を組みフッとキララの顔を見たら。


 キララの顔は笑顔だった。

 なんだ!こいつ気持ち悪い奴だなぁーと俺は首を傾げたその時。ある事に気が付いた。


 ハッ!もしかしてキララの野郎、このオジサン騎士に惚れたのか!?

 そう思った俺はもう自分でも意味が分からない行動を取っていた。


 俺の体は勝手にオジサン騎士の元に足を進め。アァーッ!アァーッ!威嚇しながら無駄に顔を歪めオジサン騎士を色んな角度から睨み付けていた。

 それはもう凄い動きだ。マッハだ。マッハ。音速を超える動きだ!あれ?音が?遅れて?聞こえて?くるよ?だ!


 「ゴチンンーーーンッ!」


 キララにまた脳天を叩かれる俺。


 俺のマッハの動きに合わせた拳だ。つまりアレだ!カウンターだ!絶大な威力だ!今日イチのダメージに俺は脳天を押さえ、言葉無く地面に転がり藻掻く。


 「ルル、君は一体何がしたいんだい?本当にもう意味が分からないよ!」


 腕を組み呆れた顔で俺にそんな事を言うキララ。俺の方が何故叩かれるのか理解が出来ない。

 ヒリヒリする頭を我慢して胡座をかいて座り込む俺。


 「だってよーキララお前、このオジサン騎士にやたら優しいじゃないかよ!俺ん時は泣いても、わめいても止めないのによ.................」


 「ルル、何を勘違いしているのか分からないけど、自分の日頃行いを振り返ったらどうなんだい?」


 「るせーよ!」


 チキショウなんだよ!何でこんなにイラつくだよ!ってかキララもキララだよ!ふざけんなよ!俺には平気で魔法ぶっ放すくせによ!


 フテ腐る俺を見て、深い溜息を一つ溢し、困った顔をするキララ。

 そんな俺達の空気を読めないオジサン騎士が歩み寄り。


 「えっと、すまない君の名前は何て言うのかな?」


 俺に手を差し伸べ、ニッコリ笑いやがるオジサン騎士。


 「なんで、テメェーなんかに名乗らなきゃならないんだよ!」


 「ゴチンンーーーンッ!」


 「ルルぅーーっ!!!いい加減にしないか!君は一体何様だと思っているんだ!」


 キララが俺をそう諫める。

 しかし関係ない!俺は今本気で怒っている!キララが何と言おうがそんなの関係ない!そう俺はマジで怒っている。


 プイっとソッポを向く俺の代わりにキララが。


 「僕の連れが、そのーっ、本当にすまない。ちょっと変わり者でね。こっちに居るのは僕のギルドに在籍している。ルル・トイ.....................」


 と俺の紹介をしようとした時だった。


 「アンタなんかに!聞いてないわよぉぉぉぉおおおおおおっ!!!」


 体をワナワナと震わせ、何故か声を張上げるオジサン騎士。

 思わず...................。


 「「えっ!?」」


 俺とキララが思わずハモった。


 「いい、私は、かぁーーっれぇーーっに!名前を聞いているのよ!勝手に横からしゃしゃり出てこないで!このドロボウ猫!!!」


 キララに本気で怒り出すオジサン騎士。


 「「えっ!?」」


 と俺とキララが思わずまたもやハモる。


 おい、ちょっと待て!何かおかしい..............何かおかしいぞ!このオジサン騎士は何かがおかしい!俺の第六感がそう叫ぶ。何故か汗が噴き出てきた。鳥肌も半端ない。血の気が凄い音を立てて引いていく。


 オジサン騎士は俺の肩をガッシリ掴み。


 「ねぇー僕ぅーっ。お名前、おっ、しっ、えっ、てっ!」


 膝を落として、俺の耳元に無駄に息を吹きかけながらそんな事を聞いてきた。

 俺は危険だと判断した。キースと名乗ろうかとも思ったが、もう既に俺の名は何回か聞かれている。本当は言いたくなかったが、それはそれで大変な事になる気がして、本当の名前を告げる事にする。身体の震えが半端ない。


 「...................おっ、俺の名前は...........ル、ルル・トイドールです......あのーっ..............か、顔が超近いんですけど........離れて貰ってもいいですか?..........アイタタタッ、ちょっ」


 「もうーーーっ、僕ったら。そんな事言わないでよ。私寂しいわぁーーーっ」


 逃げ腰の俺を逃がさまいとしているのだろうか、肩を握る手の力を強めてきた。しかも小指が立っていた。

 これはアレだ!一番タチの悪い奴だ!会ってはいけない人種だ!好かれてはいけない人間だ!


 もたついている俺達を見かねたイフンが俺達の元に駆け寄って。


 「ダニエル様。お戯れはその辺にして、そろそろ出発の合図をお願いします」


 俺に助け舟を出してくれた。

 ん?ダニエル様!?イフンの上司?俺は自分の耳を疑った。


 「何よぉ!ちょっとぐらい、いいじゃない!イフンもしかして............アンタ!妬いてるんじゃないわよね!?」


 危険な香りがするダニエルは今度はイフンに絡んだ。

 後退り、ブンブンと勢いよく必死に首を横に振るイフン。


 それを見た俺はちょっと悲しかった。そこまで一生懸命否定しなくてもいいのではないであろうか?一緒にお風呂に入りかけた仲ではないか?もしかして、照れているのか?ポンコツなのにそういうところはシッカリしてやがる。


 照れやがって。可愛い奴よ俺はそうイフンを評価した。


 そんな考えをしている俺の顔に手を添え撫でる危険な香りがするダニエル。俺の全身の毛が逆立つ。


 「私を威嚇する目。まるで野生の狼みたいだったわ!私この子凄く気に入ったわ。お持ち帰りしちゃおうかしら?」


 頬を赤く染め、訳の分からない事を俺に言うつい尻に力が入る存在のダニエル。というか早く離れて欲しい。誰か!誰か助けて!と俺は目を瞑り懇願した。

 そんな時。



 「君!いい加減にしないと僕キレるよ!」


 と女神の声がした。

 その言葉を聞いたダニエルが額に青筋を浮かばせ立ち上がる。


 解放された俺。俺を迎える様に両手を広げる女神キララ。

 それを見た俺は涙を流し、一心不乱に地べたを這いずり、無様に体を進め、笑顔で俺を迎え入れる態勢を整えたキララをスルーしてイフンの足にしがみ付いた。


 「「えっ!?」」


 思わず言葉が漏れたキララとイフン。

 そんなキララを無視して俺はイフンにこう言った。


 「やっばり!お前が一番だよ。今の俺にはお前しか見えないんだ!」


 「えっ!?」


 思わず言葉が漏れたイフン。


 俺は色々考えた。

 ダニエルに汚染された体の感覚をより効果的に正常に戻す方法を。

 キララの骨と皮だけの体に触れても虚しいだけ。論外だ。無理だ。我慢ならん。ジルが居るなら俺は間違いなくジルに抱きつい付いた。


 しかしだ!この場にジルは居ない。

 だから俺は仕方なくイフンの足にしがみついた。この場に居る一番の癒しになるのはイフンの体だからだ。だから言った。お前が一番だと。


 こいつ、見た目以上に筋肉質だ。しかし悪くない。ハマリそうだ。


 「な、な、な、何を言っているんですか?この疫病神は!は、は、は、離して下さい!コラ!離せ!」


 足をブンブン振って俺から引き離そうとするイフン。

 女性が嫌がる事はしたくない。しかしだ!イフンはどMだ。嫌よ嫌よも好きの内だ。それに俺の負った傷は未だ癒えていない。だからしがみ付く。暫く離れない。この足は今俺の物だ!


 余りにも激しい抵抗に俺の体が左右に大きく揺れる。このままでは俺は引き離される。照れやがって!今更こんな事ぐらいで何を照れる必要があるんだ!だから俺は言った。


 「おい!ポンコツ。今更ジタバタするな!俺とお前は互いの温もりを感じ合った仲だろ!?」


 「...............はぁぁぁあああーっ!ななななな何を言っているんですか!?私達はそそそそそんな事しししししてませんよ!?はぁぁぁあああーっ!デタラメ言わないでくださいいいいいいいいっ!!!!」


 と顔を真っ赤にして、膝を落とし、俺の両肩を掴み、前後に揺らすイフン。

 ん?そういえば、俺がイフンの体を温める為に抱き付いた時、イフンは意識がなかったのか?まぁいい、そんな細かい事は..............。


 それは置いといてだ!ふむ、中々良い反応しやがる!俺好みだ!もうちょっと激しくても良いよ。

 そうイフンと楽しく遊んでいると。

 

 俺とイフンに2つの影が近づいた..............。



 「「ちょっとこれ!どういう事なの!?」」


 そうハモリ。キララとダニエルが額一杯に青筋を浮かべ手をポキポキさせて近づいてくる。


 「うるせー俺達の邪魔するな!!!あっちで殺ってろーっ。爬虫類ども!!!」


 俺は強気だった。だってそうだろ?俺がしがみついているのは冒険者ランクSのイフンだ。楽勝だ。英雄だ。女神とゲテモノなんて蟻んこだ。2人がどう足掻いても勝てない相手なんだ。


 確かに俺を庇う事はしないかもしれない............だが、俺は今イフンにへばりついている。そうイフンは自分の身を守る為に必然的に俺を庇う必要があるのだ!フハハハハハハッ!どっからでも掛かってこいよ!


 と、強気な俺だったのだが................。

 イフンがガタガタ震えだした。勿論へばり付いている俺にもそれが伝わり。


 「おい!ポンコツ!何をそんなに震えている。さっさと蹴散らせよ!瞬殺しろよ!」


 「むっ、無茶言わないでくださいよ..............あの2人私より強いんですから..............」


 と、訳の分からない事を言われた。


 「だってお前ランクSだろ?キララはBだし、ゲテモノは..............あっ!知らなかったわ」


 「ぼ、冒険者ランクなんてあてになりませんよ。じっ、実際にキララは私より強いですから...........それにあの御方は冒険者ランクSSの王国騎士団統括ダニエル・ローリー。2つ名、戦慄の乙女。王国騎士団のトップ2ですよ.................」


 おい、ちょっと待て!何で2つ名が戦慄の乙女なんだ?おかしいだろ!?どう見てもおっさんじゃないか!自分で言ってて違和感ないのかよ!................薄々感じていたのだが..............狂っている、この王国騎士団は狂っている................。




 2つ名、戦慄の乙女。

 その名を知らない者はこの世界には居ない。まだこの世界に多数の王国が存在した時、数々の武勇を世界に轟かせた騎士の一人だ。嘘か本当か、1つの王国をたった1人で滅ぼしたと聞いた事がある。

 その2つ名を聞いて生存している者はほぼ居ない、伝説とされる2つ名の一つだ。故にその人物像はベールに包まれ、憶測の元色々な説が囁かれていたのだが..............。


 まさか、おっさんだとは..........せめて女性にしろよ。と俺は思う。




 ヤバイ。俺はとんでもない人物に見染められた。ダニエルの態度から見てかなり俺に入れ込んでいる。ヤバイ。とにかくヤバイ。


 この場何とかしなくては..................。

 と、俺は他の騎士達に救いの目で見ると。残り10人の騎士共は、ダニエルの御乱心に身を震わせながら互いを抱きしめ合っていた。その姿を見て俺の顔は驚愕のものになる。

 

 怯えながらも、互いが顔を赤く染め、クネクネと吐き気を催すその動き。そして決定的な事に小指が不自然に立っていた。その光景はとても男同士の抱きしめ方では無かった。


 「なんだこれ?」


 つい言葉が漏れた。

 王国騎士団。過酷な環境に身を置く彼らは......................そう、彼女らだったんだ。

 




 自然に涙が零れて落ちた。

 俺も男だ。王国騎士団に入ろうと思った事だって勿論ある。今でも憧れていたんだ。でも。でもよ。その真の姿がこれだったなんて............知りたくなかった..............そう俺は知りたくなかったんだ............。



 そんな俺を見てキララとダニエルは何を思ったのか。


 「「ごめんよ」なさい..............」


 と、俺に謝った。

 キララとダニエルは俺に歩み寄り、イフンの足にしがみつく俺の肩をポンッと軽く叩くと。


 「「喧嘩はもう止めるから...............」」


 そう優しく言葉をかけた。

 意味が分からない俺。イフンを下から眺めると、イフンも何故か泣きそうな顔をしていた。どうやら俺の顔が、それはとんでもなく酷い泣き顔をしていたみたいだった。




 そして俺は声を出して泣いた……

 夢破られた子供のように………泣き続けたんだ……




 俺は今日程、心の底から声を出し泣いた事は無かった...........それ程までに、この真実は俺に、大きなショックを与えた..............。



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