クエスト『首なき騎士』②俺の能力na話。
左フック、右フック、左フック、右フック................。
体を∞の文字を描き左右に揺らし軽い体重移動と共に放たれる遠心力を利用した打撃技。デンプシーロールに近いその動き。
この技をこの世界で使える者はそう多くない.................。
「君って奴は!オラァ、良くも僕の!オラァ、気持ちを!オラァ、いつもいつも!オラァ、踏みにじって!オラァ、くれるんだね!オラァ...............」
俺は今キララに馬乗りにされボコボコに殴られている。確かに俺も少し悪い。でも聞いてくれ!俺は正直に答えただけなんだ。それでいいってキララがそう言ったんだ..................。
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冒険者カード。
冒険者になると誰でも貰える冒険者と証明するカード。このカードを持っていると、宿代や食事の割引、通行手形、税金の免除、街中の武器の所持等、様々な特典が付いてくるお得なカードである。
冒険者ランクに応じて、カードの色が異なり、俺のカードは最低ランクを示す白色。
ランク毎に毎月の魔物・魔獣討伐ノルマがあり達成出来なければ強制的に冒険者カードが没収される。
カードに表示されるのは、基本能力とされる4つの能力、所有するスキル、魔物・魔獣の討伐履歴となる。ランクが上がると他のステータス、運や器用等も表示されるそうだ。
このカードは不正が出来ない様に工夫されているらしくもし不正が発覚すればそれだけで牢獄送りとなる。
その他にも細かいルールがあるのだが特に注意しなければならないのはこれぐらいであろう。
まぁーそれは今はどうでもいい!目の前の問題を解決しなくては...............。
暗い.............非常に暗い.............。
俺の冒険者カードを見た2人の表情がとても暗い。何か言ってくれればいいのに黙ってただ遠くを見る目をしている。
それが何よりも痛い。俺の胸がとても痛い。やめてよ。何も悪い事してないのに凄く悪い事をした様な気分だ。
「あっ、あのーっ。なんかゴメンな............」
俺は何故か謝った..................。
しかし2人は完全に脱力し、俺の言葉を無視する。
「なっ、なぁーっ。肩凝ってないか?俺、結構得意なんだぜ!」
腕をまくり上げ笑顔で聞いてみたが............。
やはり反応がない。
「俺のモノマネ見てくれよ!結構評判いいんだぜ」
俺は顎をシャクッた.............。
しかしピクリともしない。
駄目だ耐えられない。この空気は悪過ぎる。とてもじゃないが純粋な俺には毒過ぎる。どうやってこの場から逃げようか?そんな事ばかりを考えていた。
その時。
「あらあら、凄い大きな声がしたので、楽しみに来たのですが、どうしたんですか?」
人の不幸が大好きな天使の声がした。
俺は天使の方に振り返り、涙を流し、天使にこう言った。
「ジ、ジルぅーっ!聞いてくれよ!あのキン骨マンとポンコツマンが、俺の冒険者カードを見て、あんな事をするんだ................シクシク」
ピクリと少し反応するが直ぐにまた元に戻ってドンヨリする2人。事の経過を知らない天使が男達が勘違いする仕草で俺に質問してきた。
「あらあら、ところでどっちがキン骨マンで、どっちがポンコツマンなのですか?」
天使にそう聞かれたから純粋な俺は指差し素直に答えた。
「うんとね!あっちの黒髪の骨と皮しかないペチャパイがキン骨マンでね。あっちの金髪の充電式の光魔法で活力を得る、ど変態がポンコツマンなの。どう?俺上手でしょ?褒めてジル。俺を撫で撫でしてジル。俺、もっと色々と大きくなれるから優しく撫でて.................」
と、振り返ったらもう天使の姿が消えていた。
うーん最近ジルも俺に冷たいよな!腕を組みそんな事を考えてたら体にさぶイボが立ち始めた。何だこれと腕を見ていたら俺の視界に2人の足が見えて、なんだよっやっと立ち直ったかと笑顔で迎えるように顔を上げたら...............。
それはもう大層御立腹の2人が手をポキポキさせて仁王立ちを決めていた。
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「取り敢えず実力を見ましょう。ステータスだけでは判断しきれないですから...........」
その言葉で俺は無理矢理にダンジョンに連れてこられた。渋々キララが俺に回復魔法を使いキララとイフンに受けた瀕死のダメージはもうない。
駆け出し冒険者のダンジョン。
そう呼ばれるダンジョンではあるが冒険者ランクEからAの冒険者が鍛錬と生活の為に訪れる場所。
最下層に行き着いた者は居なく。現段階で分かっているのは78階層迄。階層を降りる度に魔物・魔獣は凶暴さを増していき。78階層迄辿り着いた者は冒険者ランクAの42人パーティーだったそうだ。
各階層に階層BOSSが存在。BOSSを倒さなければ次の階層に進めない仕様になっているとの事。
勿論だが俺は1階層を狩場としている。
各階層にはちょっとした休憩ポイントが設置されている。先人の冒険者達が後世の冒険者に残したものである。
1階層で出現する魔物はゴブリン。
この世界で一番弱い魔物。1m程の緑色の人型の魔物。
魔獣はバット。
これまたこの世界で一番弱い魔獣で。全長80cm程の巨大な蝙蝠。
1階層の階層BOSSは強個体のゴブリン5匹らしい。俺は勿論拝んだ事は無い。
通常のゴブリンでも一度に相手に出来るのは2匹迄。それ以上になると俺は基本逃げる。3匹のゴブリンの相手はかなりキツイ。死んでしまう。
俺は30cm位の葉の生茂る木の枝を片手に持ち先頭を歩いている。
光源はダンジョン自体が薄っすら青白い光を放ち道を照らす。道幅・高さも余裕があり戦闘に何ら支障は無い。
少し歩くと直ぐにゴブリン1匹を発見した。
キララとイフンも目で捉えたようでイフンが俺に言葉を掛けてきた。
「では、戦い方を見せて下さい」
激励の一つも無いのかよ!とプクっと頬を膨らませプンプンしながら俺はゴブリンに向かい駆け出した。
ゴブリンも俺に気付いたようで腰に携える短剣を抜いて駆け出して来た。
ダンジョンに入る前にキララに言われた事がある。
「あれ、使っていいよ。僕の親友の前だしね。思いっきりやればいいよ!」
そう言って笑顔で軽いゲンコツを腹にくれた。
だから俺は今日はアレを使う事にする。神技投石は使わない。
ゴブリンに駆け寄りながらタイミングを見て俺は気配操作レベル5を使用する。
気配というのは戦闘中は結構馬鹿に出来ない。いきなり存在を強く感じると、感じた者は驚愕し、一旦思考が停止する。俗に言うスタン状態に陥る。
スタン状態時は全くの無防備となり、勿論俺は力一杯の振り抜いた拳はスタン状態のゴブリンの顔にクリティカルヒットする。
武器を落として後ろに吹き飛ぶゴブリン。
直ぐに立ち上がるが脳が揺れ、足はフラフラ、視界も定まっていないだろうと思われた。
それを見た俺はゴブリンが落とした短剣を拾い構え、ゴブリンに木の枝を投げる。生い茂る葉がほんのひと時ゴブリンから俺を隠す。ゴブリンの視界から消えたタイミングに合わせて気配操作レベル−5を使用。
圧倒的な存在感を持つ者が突然全く存在感を感じさせない者へと変貌を遂げたのだ。当然ゴブリンは俺を見失う。目で俺を捉えようが一度視界から消えた俺の存在はそう簡単に認識出来ない。
横に一歩体をズラして俺はゴブリンに突進。無防備なゴブリンの心臓に短剣を突き刺す。
ゴブリンは断末魔をあげて黒い煙と化し、ボトッと鈍い音をさせて、ドロップアイテムを落とした。
ドロップアイテム『ゴブリンの耳』を拾い拳で隠し、その拳を耳元に近づけ、俺は少し目を大きくして、キララとイフンの方に振り返り言葉と同時に拳を開いた。
「でっかくなっちゃった!...........」と……
俺は胸を張り誇った。
大いに笑えと空いた手の親指で鼻を弾いた。
するとどうだろうか?そんな態度の俺にイラっとしたのであろう2人はクスリとも笑わず、膝を落として地面から石を拾うと俺に投げてきた。中々な大きさだ。大きいのを選んでやがる。無言で何度もそれを繰り返す2人。俺を見る目が非常に冷たい。
俺は飛んでくるかなり大きい石に耐えながら。
「わっ、分かったよサッサと次行くよ。だっ、だから、投げないでよ。クスリぐらい笑ってよ。苦笑いぐらい頂戴よ」
俺の訴えは届かない。投げる石の勢いが増した。涙目で肩を落として俺は奥に足を進める事にした。
この技はキララに人前で使う事を禁止されている技。俺はそれを守っている。理由は知らないが、ど真剣な顔で言われたので、きっと理由があるのだろう。ん?どっちの技かって?ふふっ、それは想像に任せるよ。
ルルがゴブリンを倒して奥に進み始めてからイフンが。
「なっ!何なの!あれは...............あんなの見た事ないよ..............そ、それにいきなりドロップアイテム!.............」
ルルの技とドロップアイテムのスキルを見たイフンは驚いき目を見開いていた。
「うふふふっ、やっぱり君は凄いねイフン。あの技の価値がわかる人間はそうはいないよ。ドロップアイテムはよく分かんないけど...............」
「すっ、凄い、凄いよ!キララ。凄い人見つけたんだね」
瞳を輝かせて僕の手を握るイフン。
僕は何故かちょっと嬉しくて抑え目なコメントに切り替える。
「まっ、まぁー基本能力がね..............あれ、だからね...............もっと成長してると思ったんだけど................」
あれは酷過ぎるよ。とゲンナリした僕。
「能力なんて直ぐ上がるよ。能力を強さだと勘違いしている輩の一人だっけ?キララは」
そんな僕を見てイフンがそう言った。
僕は口元を緩め。
「うふふふっ、それを僕に言うのかい?」
「うふふふっ、だよねーっ」
「しかし、このままだと『首なき騎士』にダメージ与えられないね。それが一番の問題なんだけど..................」
顎に手を添え、考えるフリをしてイフンを横目で見る僕。
そんな僕を見てイフンは笑顔で。
「よく言うねキララ。私にスキルギフトさせる為に、これ見せたんでしょ?うふふふっ、いいよ。手頃なスキルをルルさんにギフトしてあげる」
それを聞いた僕の顔はついパァーッと明るくなり。
「ホントかい?やっぱり君に見せて正解だったよ。ルルも喜ぶよ。本当にありがとうイフン」
やっぱり持つべきは友だよ。イフン本当にありがとう。
「しかし、あの技は危険過ぎるよ。初見では絶大な威力を発揮するけど。知っていれば対処方法は幾つか直ぐに思い付く」
やっぱり気が付いたんだね。君は本当に凄いよイフン。
「うん、この技は普段使うのは禁止させているよ。ルルはそういう所は律儀に守る人間だからね。それに悪用も出来るだろ?ルルならきっとそういう使い方をするからね..........」
凄くゲンナリする僕。女風呂とか食い逃げに使いそうで本当に勘弁だよ..........。
それを見たイフンが。
「うふふふっ、キララは変わったよね。そんなに感情をおもてに表す人間ではなかったのにね...........ルルさんが変えたんだね」
なななななっ、何を言うんだい!イフン。僕がまるで鉄の女見たいな言い方して!ルルは関係ないだろ!...............あっ...........あるのかな?...............。
ハッ!ぼぼぼぼぼ僕はなんて事をおおおおおっ...............ふわああぁぁっ!
僕の乱れた顔を見るイフンは少し引き攣っていた。僕は顔を元に戻し。
「ちょっと!なんだい!その言い草は!僕に失礼だよ」
僕は紅潮し頬を膨らませてそう言った。
「うふふふっ、キララ可愛いね。ねぇーっ。ところであの技の名前あるの?」
「うん!ルルが冒険者ランクCになれば僕がルルに2つ名を与えるだろ?その時にさっきの技の名と同じ2つ名にするつもりだよ」
ちょっと照れ臭くなる僕。こういうのあんまり慣れてないんだよね。
「何、何?教えてよーキララ」
瞳をキラキラさせて聞いてくるイフン。やっぱりこういうのは苦手だなぁーと俯く。
「うんとね............きっと、ルルも気に入ってくれると思うんだけど...........笑わないかい?」
イフンの顔を俯き下からチラッと見る僕。
「うん、うん、笑わないよ!ねぇっねぇっ!キララ教えてよ」
僕は照れながらイフンの前にピョンと跳ね飛び、背中に腕を回し、イフンの顔を見てこう言った。
「手品師のように全ての者に驚きを与え」
ルル...........本当に君を見ていると驚く事ばかりだよ。
「道化の様に悪意も善意も全て笑顔に変えてくれるそんな存在」
ルル...........君の一つ一つの仕草に本当にいつも笑わせて貰っているよ。
「いずれこの世界に名を馳せる2つ名」
ルル...........断言しよう..........君はいずれ、そういう人物になる...........。
「『常識を破りし者、ルル・トイドール』。それが僕の冒険者の2つ名さ」
僕はニッコリ微笑みそう言った。
そして僕は一つもの凄く引っ掛かる事があったのでルルの元に駆け寄って質問する事にする。
「ねールル。1週間程前に剣を無くなったからギル頂戴って言って、僕はルルに1000ギル渡したよね?その武器はどうしたの?どうして持ってないの?どうしてゴブリンから奪った刃先がボロボロな短剣使っているの?」
僕から目を逸らしルルはポリポリと頬を掻くと。
「ああ!あのギルな...........おっ落としたんだ..........そう落としちゃったんだ!剣を買う前に落としちゃって.............」
ルルは目が泳ぎ、大量の汗を噴き出し、血の気が引いた顔でそう言った。
「怒らないから正直に何処で落としたか言ってごらん」
僕はニッコリ微笑みそう言った。
その言葉にルルは安心したんだろうね。正直に話してくれたよ。
「ダンの酒場で落としちゃった。エヘヘへ」
ルルの顔は緩み。反省の色は無く、照れたように頭をボリボリ掻いていた。
それを見聞きした...........僕の意識がぶっ飛んだ............。