クエスト『首なき騎士』①イフン・バースデイna話
今日は曇り空。雨は降らない雲だが太陽の光を遮断して少し肌寒い。
何故か死ななかった俺は今ギルドの花壇の花に水を撒いている。俺の癒しの時間。
ギルド自体は魔法防壁が張られていて全くの無傷。何やら過去の反省から学んでの対処らしい。
しかし俺の私物は全て廃と化した。秘蔵のお宝を多数所持していた俺は少し涙目で水を撒いている。
そんな俺を。
「あははははは、馬鹿ルルがまた乙女チックな事してんぞーっ。皆んなこっち来いよーっ。馬鹿ルルをからかおうぜ!」
近所の悪ガキ共が俺と距離を取り石を投げてくる。
いつもであるなら子供と言えども容赦ない俺は全力で蹴散らすのだが今日はそんな気分では無い。
そう俺は死の宣告を受けたのだ。
明日には俺は死ぬのであろうか?そんな事ばかり考えていた。
しかしだ!子供と言うのは本当に容赦ない。
最初は小指の先程度の石を投げるぐらいだったのだが俺の反応が薄い為、徐々に大きくなり今では手の平サイズの石を投げてくる。スピードは無いものの血が出る。痛い。やめて。ドキドキする。
そんな俺を見ながら腹を押さえ笑い転げるガキ共。自分の血を見て俺の中の『狂戦士』が目覚めた。
「クソガキ共、これでも食いやがれええーーーッ!ブッシャーッ!」
俺は黄色い化け物じみた妖精のように身体を上下させ、バケツの水を子供達に撒き散らした、しかし最近のガキはすばしこくヒョイとそれを避け鈍臭い通行人に水をブチまけてしまった。
「あはははははっ、バーカ!お尻ペンペン」
最後まで俺を罵りガキ共は何処かへ姿を消した。
水を浴びた間抜けな通行人は、少し間を置いて。
「キャッ!もうーやだぁぁーっ!!!グチョグチョになっちゃったよ」
つい卑猥なイメージをしてしまう言葉を口にしてその場に座り込む。
その言葉で男の通行人は頬を染め、びしょ濡れの煌びやかな純白の鎧を着る女剣士にやらしい視線を送り、前屈みになっていた。
俺も一瞬その美貌とその言葉で鼓動が高鳴るものの、俺の目は直ぐに冷めた目に変貌を遂げた。
「死神が来た.........」
思考とは別の生き物である、正直な身体を持ち、不甲斐無くも前屈みの俺の目の前に居る、この女騎士は昨日キララの部屋で会った人物。冥府への招待状の送り主。
昨日の酒場でキララが言った言葉を思い出す。
「水すまない。えっと...............あんた確か、疾風のイフンだろ?」
「えっ?あっハイ!私は王国騎士団千人隊長疾風のイフン・バースデイであります。所であなたは?ん?どこかでお会いしましたよね?えっと!」
「ああ、俺はこのギルド『愚か者フール』の唯一の冒険者。ルル・トイドールだ」
「あああああああ!あの時のゴブリン!キララの彼氏さんですね」
ふむ、彼氏ときたか。まぁいい。そんな事で怒る気の小さい俺では無い。
しかし、何故この女はこんなに笑顔を振りまくのだ?普通の男なら勘違いしてしまうだろう。しかしこいつは地獄への案内人。俺の心は全く靡かない。
ジルはエロく男達を誘惑だとすれば、イフンが振り撒くのは純情な素振りで俺が何とかしてやらなくては的なものであった。
ふむ、こいつは危険だ。気を抜くとケツの毛まで毟り取られ奉仕する自分が想像出来た。
「なぁーイフン。お前仮にも2つ名持ちで疾風なんだろ?何で避けないんだ?ほらよ、手を貸してやるよ」
「あっハイ!ありがとうごさいます。ヨイショッ!ええっと私は基本のんびりさんなんですよ。どうしてこんな2つ名を貰ったのか自分でも不思議で..................」
なるほど!天然ってやつか。一番タチが悪い。
「わざわざ、来てくれたのに申し訳ないのだが今キララは外出中でな、直ぐに帰って来るとは思うけど。良かったらギルド内で待ってるか?」
「いえいえ私もここで待ってます。一人で待っててもつまらないので、クチュン」
「風邪か?すまん!俺の所為だな、待ってろ直ぐにタオル持ってくるよ。イヤ面倒だないっその事風呂入るか?」
「いえ、いえ、そんな気を使わないで...............クチュン」
「いやダメだろ!遠慮すんなって。キララの親友なんだろ?じゃー尚更だ。親友を風邪引かせたってバレたら俺が殺されてしまうよ。直ぐ出来るから。さあ行こう」
「あっハイ!ではお言葉に甘えて頂きますね」
俺は先に進みギルドのドアを開けてイフンを招き入れる。
「ここでちょっと待っててくれるか?直ぐに用意してくる」
「あっハイ!……ねぇルルさん……一つ質問していいですか?」
「ああ?何だ?言ってみろよ?」
「どうしてさっきから前屈み何ですか?」
「………」
汗が湧き水のように溢れだしながらも俺はそれを無視した。
タオルを腰に何重にも巻き付け、強制的に何かを鎮火させ、ジンジン痛む何かに堪えながらも、何事も無いように振舞う俺は……
「先にこれ渡しておくよ。ホラッ受け取れよ」
今だに俺の前屈みを理由を問う、歪にキレる眼を作り俺を見下すイフンの顔に「もうやめてよっ!」と、内股ながらも大きく振りかぶり、丸めたタオルを思いっきり投げた。
何故かイフンは手を上げずタオルがイフンの顔に巻き付いた。イフンは微動だにせずにそのままの状態で立ち尽くす。
しまった……記憶を消失させる為にも石でも仕込んでおけば良かった。
そう後悔しながらも、俺は風呂場に行き浴槽にマジックアイテムで水を張る。ボタン一つで一瞬で浴槽に水が溜まり。そして違うマジックアイテムで水の温度を上げる。これも一瞬。
風呂場から出てイフンの元に足を進めると。
「やっぱりか!」
イフンはタオルを顔に巻き付けたまま微動だにしていなかった。
「おい!イフン風呂出来たから入れ!服は風呂場にあるマジックアイテムで自分で乾かせよ。分かったか?」
「.....................」
返事がない...........何でだ!?
絶対に聞こえている筈なのに何故返事をしない。人柄を見ただけの判断だとイフンは人の呼び掛けを無視する様な人間だとは思えないのだが..............。
首を傾げイフンに近寄り顔に巻き付くタオルを取る。
「おい!どうかしたのか?」
イフンはタオルを引っ張る程度の力でピクリとも体を動かさず俺の方に倒れてきた。
「おっ!おい!」
俺は男らしく倒れてくるイフンを優しく受け止めず。ヒョイと体を避けて倒れるイフンから身をかわす。
「ゴチィィーン!ガシャーーーンン!」
大変良い音がして少し前のめりに顔から地面に強打したイフンはピクリとも反応を示さない。
どMなのか!?と暫く様子を伺うも一切反応が無い。流石におかしいと思いイフンを抱きかかえて声を掛ける。
「おっ、おい、大丈夫かイフン。死んだか?俺助かるのか?」
淡い期待を抱くが残念ながらイフンは生きていた。
一見、目を瞑り寝ている様にも思えたのだが様子がおかし過ぎる.........。恐る恐る頬に手を当ててみるとイフンの体の異常に気が付いた。
異常に体が冷たい...........有り得ない程ひんやりしていた。
ふむ、このまま土にでも埋めれば俺助かるかも?とも考えたのだがバレたらキララに無残に殺される。
しかしだ!どうすればいいのか?............。
「仕方が無い緊急事態だ!これは人助けだ!決してやましい気持ちは無い。だから恥じる事は全く無い、正々堂々とやればいい。じゃ遠慮なく」
俺は緊急事態と称してイフンの体の鎧を剥ぎ。そして思い切り抱き付いた。
「ふむ、少しばかり筋肉質だが悪くない」
そう一瞬顔が乱れるのだが.............直に苦痛の顔に変わる。
「ざ、ざぶくで、いだい..........度が過ぎるぞお前、どんだけ冷え性なんだよ!」
イフンについ、キレかかったが流石にこれは俺の趣味に付き合わせている場合ではない!まるで氷じゃないか!。
キララがバケツの水に魔法で細工したのか!?タチの悪い悪戯しやがる。しかし、今はキララの陰口を叩いている場合では無かった。
体を温めなければイフンは死んでしまうかもしれない……
「やったーーーっ!」
俺は生まれて初めて人の不幸を心の底から喜んだ。
「いやいやいや……ダメだろっ!……仕方ない……助けてやるか……さて、どうしたものか……」
考える必要は無かったが、一応それとなく悩んだフリをした。
「人命救助だ。人命第一。これが全てだ」
俺は締まりが無い顔を必死に引き締め、誰も居ない空間に言葉を掛け……。
「イフン。風呂入るぞっ!」
ヨダレを拭いながら、裏声で……
「ありがとうルルさん。私一人では入れないから連れてって」
下手くそな腹話術を披露した。
ここの浴槽は大人5人が足を伸ばして入る事が出来る程の大きさがある。意識の無いイフンを一人で浴槽に浸からせた場合、溺死と言う無残な死が容易に想像できる。だから俺も入る。支えがいる。何の問題もない。人助けだ。困ったらお互い様の精神だ。
風呂場のルールを重んじる俺はどうしてもやらなければならない事があった。
そう服だ。ルールを尊重する俺としては絶対に守らなければならない事。服を着たまま風呂に入るなど言語道断。不本意ながらそういう事だ。
だからイフンの服を脱がすし俺も脱ぐ。勘違いしないで欲しいこれは正当なルールなのだ。
取り敢えず俺は先に自分の服を脱ぐ。服を脱ぎ終わった俺は次にイフンの上着に手を掛ける。全面に8つボタンがある。中々ボタンは外し難く。
「じっ、焦らすやん」
一応人助けと言う口上を述べた俺としてはここで体に触れる訳にもいかず。体に触れない様に服のボタンを外す事にする。
一番上のボタンを外す。手が震え出した。二番目のボタンを外す。目が泳ぎだした。三番目のボタンを外す。鼻血が出た。
3つのボタンを外す先に待ち受ける、究極の逆三角が放つ光に俺は包まれた。
人はそこに神秘な力を度々目撃し、そして中には自身を見失う迄の魔性的な力を持つ領域と呼ばれる部位。男のバミューダートライアングル、胸の谷間か露わになる。
「ごっつあんです!」
両手を合わせて神秘の谷間を拝むのは一般常識。
その余韻を残しながら俺は更なる高みを目指す為「残りをと」と、煙が立ち上がるの勢いで手を擦り合わせた時。
「ドカッァァーーーーンンッ!」
風呂場のドアが勢いよく開いた。
「ねぇー何してるの!?」
そこには禍々しい漆黒のオーラを纏い、目を不気味に輝かせるキララが居た。
「人助けだ!あっち行ってろ、お子ちゃまが!」
と、俺は再びイフンのボタンに手を伸ばし始めたのだが..........。
ん?キララ???
俺は汗を垂らしゆっくりと風呂場のドアの方に目をやる.........。
「ぎゃああああぁぁーーーーっ!ちちちちっ違うんだ!誤解なんだ!ごごごごごごごめんなささささささぃぃーーーーっ!!!」
やましい事は何一つしていない。やましい気持ちはこれっぽちも無い。もう一度言っておこう、これは応急処置。人命救助なのだから……だが、身体の防衛本能が勝手には反応し、生に縋り付くための土下座した。
しかし、人の優しさが分からないキララ。兎小屋に居ても遜色無いとても可愛い癒し系の俺に容赦無くキララは魔法を放った。
「ライトアサルトォォーーーッ!」
「ああ……俺……お陀仏だわっ……」俺は目を瞑り身構えた..........しかし、いつまで経っても痛みが無い。
ゆっくり目を開けると。
....................えっ!?
魔法は俺では無く。何故かイフンに放たれた。イフンの体が光り輝いている。
それを見た俺はキララの元に歩み寄り。
「おい、キララ何をしたんだよ!いくら俺の事が好き過ぎるからって、やきもちでもやっていい事と悪い事があるんだぞ!仮にもお前の親友だろ?おい!何とか言ったらどうなんだ!?」
俺は頭に血が上りキララの胸ぐらを掴み怒りを露にした。
キララは確かに酒場でイフンの事を親友だと言った。なのに何故こんな事が出来るんだ!ふざけるなよ!冗談じゃすまさない!
そんな俺を虫ケラを見る目で見下しキララが。
「何を勘違いしているか分からないけど、イフンはこれで動ける様になるんだ」
「なに!?」
イフンの方を振り返ると、イフンは何事も無かった様にムクッと上半身を起こして首を傾げていた。
「イフンはね、太陽神の加護に強く依存している子でね。太陽光が遮られると著しく能力を失い日常の生活もままならなくなるんだ。こんな曇りの日に出歩くなんて本当にどうかしているよ。わざわざ僕の方から出向いたのに行き違い。そしてこの様だよ。今の魔法は光属性の魔法。余り僕は得意では無いけども日常の生活ぐらいは暫く送れるぐらいの能力は取り戻した筈さ」
「あっそうなんですか.......ポンコツロボットと親友だったんですね........」
俺はキララの胸ぐらから手を離し、その時に付いた服のシワを「はぁーっはぁーっ」と、甘い吐息を吹きかけ丁寧に伸ばした。
「うふふふふっ、ポンコツロボットとはうまい事を言うね。ルル」
少し紅潮するキララは俺に笑顔をくれた。
「あはははは、だろ?じゃー親友同士積もる話もあるだろうから俺は消えるよ。いや、ほんとビックリする一日だった.............」
俺は頭をボリボリ掻いて、キララの横を通り過ぎようとした時。
「ガシィィッ!!!」
結構な力でキララは俺の腕を掴んだ。超痛い。腕があり得ない方に向いている。
「あっ、あれ?……ねっ、ねぇー……キララさん……こっ、これ折れてんじゃねぇ?」
俺の額からダメな汗が一杯噴き出てきた。
俺の質問を無視してキララが……
「何処に行こうとしているのかな!?未だこのケリは付いてないと僕は思うんだけどね」
そう、不気味な輝きをより一層強く放つ眼で俺を睨み付ける。
「イヤイヤ、ハーピーエンドじゃーないか!これ以上のエンディングは無いと、俺は思うんだけどな。イフンは無事回復。他に何が要るって言うんだよ。ホントどうかしてるぜお前」
「イヤイヤイヤ、自分の今の姿を鏡で見た方がいいと思うよ。女性の前でそんな格好をする男の末路は、いつも決まってるとは思わないのかい?君の方がどうかしてると思うよ」
「イヤイヤイヤイヤ、それは定番中の定番過ぎて、そろそろ新しい風を取り込まないと、いい加減飽き飽きだぜ」
「なるほど一理あるね!」
キララは俺の肩にポンと手を置いた。
「だろ!?イテテッ……キララさん……俺の肩外れたんですけど……」
絶大なダメージを受けながらも安堵した。キララの笑顔で俺は命を繋いだのだと。けれども……
「じゃーここで完結を迎えるなんて、洒落た終わり方なんてどうかな!?」
笑顔でキララはそう言ったのだ。
「えっ!?............馬鹿野朗!それこそ、定番.............ん?斬新かな?...........」
「じゃーこれで完結だね..............」
俺に手を見せた。キララの手はもうそうれはそれは神々しく凄く光り輝いていた。
「ちょっ、ちょっと待て、キララ話合おう。俺が英雄になるって話なんだから....................ちょっとおおおおお!!!」
人の話を最後まで聞けないキララ……光り輝く手を俺に向け言葉した。
「いっぺん、死んでこいやああぁぁーっ!ヘルファイヤァァーーーーーーッ!!!」
キララの言葉と同時に手から放たれる地獄の炎。俺はその炎に包まれながらも周囲を見渡した。
家の家具は瞬時に蒸発。俺のお気に入りの限定版「まどかちゃんの歯ブラシ」が灰と化し、俺のお気に入りの限定版「まみかちゃんタオル」がススに変わる。俺の身体は炎に包まれ、痛みの感覚はまだ追い付いていないのだろうか、全くの皆無。
威力もさることながら広範囲である魔法。ちょっと心配してイフンの方に振り返ると……
いつの間にか防御魔法陣に囲われたイフンは、そんな俺を見て口に手を添えニヤニヤしていた。
そして、明らかにオーバーキル魔法を俺に放ったキララ……お前は一体どんな顔をして俺にこんな仕打が出来るんだと振り返ると……
「うーん.............結局定番になっちゃったね。デヘヘヘヘ」
薄れいく意識の中、俺が見聞きしたキララの笑い声はとてもキモかったが、笑い顔はとても可愛かった。
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あの後俺の所業をキララがイフンにチクリ、俺は凄い軽蔑した目でイフンに見られ続けている。
しかし、そんな目で見られても俺の表面上はなんら変わらない。日頃から軽蔑、侮辱、憐れみ、鬼畜を見る様な目で見られるのは慣れている。朝起きると枕がとてつもなく濡れて、時折高い所に上り、履いている靴を脱ぎ、綺麗に揃えるくらいへっちゃらだ。
イフンは風呂に入り、濡れた服を乾かして、今は応接間でキララと軽い談笑を繰り広げていた。
今は天然要素は一切感じられず。どちらかと言えばお堅いイメージ。どうらやポンコツロボットのイフンは充電の溜まり具合で性格が変わる人物なんだと予想される。
ジルが紅茶とお菓子を運び。少し紅茶味わったところでイフンが自分を引き締める為であろうか?一つ咳払いをして話を始めた。
「改めてまして。私は王国騎士団。千人隊長が一人。疾風のイフン・バースデイであります」
背筋をピンと張り、真直ぐに俺を見て、そう言った煌びやかな純白の鎧を着た女剣士イフン。
「ああ、よろよろ」
俺は鼻クソをほじりながらそう言った。
「コラァーーーッ!ルルもうちょっと真面目にやらないか!」
キララが俺の態度を大層気に入らないみたいでイチャモンをつけてくる。
真面目も何も俺は死ぬんだぜ?洗脳を受けた騎士じゃーあるまいし一介の冒険者に礼節を求める方がどうかしてるってもんだと思うけどな。勿論口にはしないがそういう事だった。
「っで、いつ執行するんだよ?」
回りクドイはもう面倒だ。さっさと終わらせたい俺はそう言った。
「執行?なんだいそれは?」
こいつ......この期に及んでまだ白を切る気か?本当に可愛くないな。
「俺の死刑宣告だろ?『首なき騎士』なんて俺倒せないじゃん」
「「.................」」
「さっさと終わらせようぜ!もういいよ覚悟したよ」
「「あはははははははははは..........」」
こいつら........俺の覚悟を笑いやがった。
イラっとした俺は鼻クソを丸めて腹を抱えて笑うキララに投げておいた。
「おい!笑うなんて失礼じゃーないか!?仮にも俺は命を捧げるって言ってるんだぜ!」
「あははははは.........違う違う!そうじゃ無いから。ルル、君は死なないよ。僕達が守るからね」
「..............ん?どういう事だ!?意味分かんないだけど」
「そこからは私が説明致します。ルル・トイドール殿。貴公には我々が弱めた『首なき騎士』のトドメを刺して頂ければそれだけで結構です。勿論『首なき騎士』は一切身動き取れない状態に致しますので、安心してクエストに臨んで下さい。我々が欲しいのは『首なき騎士』のドロップアイテム『聖騎士の宝玉』であります」
「..............えっ!?どういう事だよ!俺死ぬんじゃないのか?」
そう俺はそう決めつけていた。
「安心して僕が君を死なせないよ」
キララのその言葉に俺は暫く放心状態に。
何かが俺の中から湧き上がってきて唇が震えた。そして、目頭が熱くなり俺は静かに目を閉じた。
キララ止めてくれよ。そんな顔でそんな事を言うのは............卑怯だろ。
こんな俺でも色々考えたんだ。ジルとの事、グラムとの事、アイリとの事、リアとの事、そしてほんのちょっぴりキースとの事も、でもやっぱり一番はキララだった。理由はともあれ俺を冒険者として拾ってくれたはキララだ。
今まで、まともな稼ぎもしないヒモ男の俺の面倒を見てくれてたんだ。少しでも恩を返したかった。例えそれが俺の命だとしてもだ。そんな覚悟をしたんだ俺は..........。
男の涙なんて格好悪い、だからそれを聞いた俺は顔を伏せ、一生懸命耐えたんだ..........でも駄目だった...........。
「................ぶばっあああああああっ!ギララ、おで、じななくていいのか?なぁーおで、じななくていいのか?まだごのギルドにいでいいのが?」
一気に涙がこぼれ落ちて俺は言葉もロクに喋れない。
だってそうだろ?こんな俺をキララは見捨ててなかったんだ。それを知った俺は不甲斐なくもキララの足に縋り付き泣きわめいていた。
キララはいつものガチガチの服では無く丈の短いワンピースを着ていたのでついでにパンツを覗いておいた。白だった。以外だった。ちょと引いた。ハッキリ言って気持ち悪い。
「うん、死なせないよ!だって僕のギルドの唯一の冒険者だしね。それにルルと居ると楽しいもん」
そんな事を平然とニッコリ笑顔で言った、色々と気持ち悪いキララ。
鳥肌を立たせながら『俺は何でキララのパンツ見て引いたんだ。喜べよ俺。奮い立てよ俺」と後悔した。
でも、嬉しかった。これ以上の言葉は無い。まだみんなと、まだバカ騒ぎが出来る。そう思うと、ただ、ただ嬉しかったんだ.............。
そんな俺の頭をキララは優しく撫でてくれた。俺が泣き止むまで撫でてくれた。
「ありがとう」本当は言いたかったけど、この時は言葉に出せなかった..................。
「うぐっ、うぐっ、でも、それじゃー俺、目茶苦茶美味し過ぎないか?トドメって一番美味しい所じゃーないか?」
この世界では魔物・魔獣にトドメを刺す者が一番ステータス上昇の恩恵を受ける。パーティーであれば順番に魔物・魔獣にトドメを刺すのが暗黙のルールとなっている程だ。
しかも相手は『首なき騎士』。俺のステータスは一気に向上する事は間違いなかった。
「ええ、そうですね。ルルさんが結果的に一番美味しい思いをするかも知れませんが、今回のクエストにはそれ以上の価値があるのですよ。ルルさんはご存知ですか?ドロップアイテムの出現確率を..........」
「いや、知らないけど、そんなに酷いのか?」
「ええ、それはもうとても酷いです。有り得ないぐらい酷過ぎます。ルルさんの性格ぐらい酷いかもしれません……『首なき騎士』のドロップアイテム『聖騎士の宝玉』を求めて我々はこの1年間『首なき騎士』を狩り続けました……結果手に入れたのは1つであります。1日3討伐を繰り返した結果ですよ。その1つを手に入れた事もきっと運が良かったんでしょうね」
おい、ちょっと待てイフン!……何故、ロクも知りもしない俺の名が出てくるんだ?しかも何故、俺を最上級で表したんだ?おかしいだろ?
「えっ!ルル程なの!?」
おい、ちょっと待てキララ!............何故、心肝から身を震わせる必要があるんだ?さっき一緒に居て楽しいって言ったばかりだよな?何故、そんな多汗して親指の爪を噛む必要があるんだ?
「本当に最低ですよっ!.........」
おい、ちょっと待て2人共!............何故、その言葉の後に2人揃って俺を見る?俺はそんなに女の敵なのか?やめろよそんな目で見るな!俺だって傷付くんだぞ!
まぁいい、まぁいいさ。後でジルに慰めて貰おう。
「で、そのドロップアイテム『聖騎士の宝玉』は何個必要なんだ?」
「取り敢えずの依頼内容は1ヵ月間1日3討伐『首なき騎士』の狩りであります」
かなり俺にとってはありがたい話。俺の輝かしい冒険者ライフの夢が大きく前進する事は間違いない。
報酬の話も聞きたいが、それは止めておこう。きっとキララが口止めしているに決まっているし、キララの事だ、がっぽりせしめているだろうしな。
しかし疑問が残る。考えるだけ無駄だだな。そう思った俺は直接聞く事にした。
「イフン、疑問が幾つかあるだが、いいかな?」
「はい、何ですか?」
「ぶっちゃけ『首なき騎士』の強さは知らないがイフンってそんなに強いのか?千人隊長って冒険者で言えばランクBかC位じゃーないのか?1年間狩続けたって言ってたから左程心配はしていないが、『首なき騎士』のトドメを俺に任せるって言ってもそんな余裕あるのか?」
俺の問いにキララとイフンは笑顔を見せた。
「疾風のイフン。その名は王都では知らない者が居ない程有名でね。千人隊長に甘んじているのは決して実力がそぐわないからではないんだよ」
「ん、どういう事だ?」
「分かり易く冒険者ランクで言うとね。ランクSそれが疾風のイフンの実力さ」
「おい、キララ。イフンはどう見てもMだろ!お前何言ってるんだ!俺は人見る目は有る方だ!断言しようイフンは......................えっ!?冒険者ランクS?」
そんなの当然知っているよ的にコクリと頷くキララ。えっ!どっち?どっちの意味なの?的な表情で取り敢えず額に汗してコクリと頷くイフン。
「で、でも、変じゃーないか!俺だって流石に冒険者ランクSの2つ名ぐらい全員知ってるけど、疾風って2つ名なんて聞いた事なんかないぞ!」
「まぁね、その2つ名は王国騎士団に入ってからの2つ名だしね。冒険者だった時の2つ名は..........白い太陽。ルルも聞いた事あるだろ?」
「あああああああああああああああ...........」
「そう、『白陽のイフン』それが冒険者ランクSの時の2つ名さ」
キララが何故か無い胸を張りそう言った。照れくさそうにするイフンは少し俯き頬を赤く染めていた。
白色の鎧を纏う光り輝く黄金の髪の人物。俺はてっきり男だと勘違いしていた。まさか俺と変わらない齢の女とは思ってもいなかった。
「でででででも、おかし過ぎるだろ!冒険者ランクSの化け物がどうして千人隊長止まりなんだ!?」
そう問いかけた途端。キララとイフンは互いの顔を見合い、苦笑いして、俺の方に振り返り、腰を曲げて、腰に手の甲を当てて、口の前に空いている手の人差し指を立てて、片目を瞑り、可愛らしく。
「「それはちょっとオフレコで!」」
と、ハモリぬかしやがった!
ちょとイラっとした俺は冷たい目になりながらもある事を思い出した。キララはイフンの事を親友だと言った。イフンもキララに心を開いている様で……それはつまり……。
この2人は親友、つまり同類!言えば問題児。色んな意味で人間止めました的な存在だ。
何か王国でやらかして千人隊長で止まっているんだなと俺は納得した。
「他の疑問はなんですか?」
イフンが俺に問いかけて来た。
「ああ、これが最後の疑問だ。疑問と言うより悩みかな?感想を聞きたい。俺のは成長がなちょっと..................人より小さい様な気がして...................取り敢えず見てくれ!」
俺の鬼気迫る表情に固唾を飲む2人。
俺は表情を崩さずに2人にゴソゴソとある物を見せた。
徐々に蒼白になる2人の顔。
その表情に俺は思わず口元が緩む。
耐えられなくなった2人が。
「「きぃっいやぁぁぁああああーーーーーーーーーーーーーっ!」」
と、ハモリ、盛大な絶叫を上げた。
「ふははははははははははははははっ..........さぁ感想を言え、どうだっ!どうだっ!何とか言ってみろよーーーっ!言えたらの話だけどなっ!」
俺はそれをキララの前に晒した。キララは号泣し始めた。
そして次にイフンの前にそれを晒した。イフンは気を失った。
「ふはははははははははははははは...........ははっ.........ははっ.........辛ぇーっ.........」
俺は両手両膝を床につき、俺はポタポタと涙を床に零し、俺も……泣いた。
キララとイフンに見せた物。それは.....................。
名前:ルル・トイドール
種族:ヒューマン
HP:9
MP:6
腕力:4
魔力:2
防御:3
速さ:6
【スキル】
気配操作レベル5(MAX)
ドロップアイテム率上昇
俺の冒険者カードだ!