天界①
雲の上に着いた。
はしゃぐ俺とラピス。そんな俺達とかなりの温度差がある、ませたお子ちゃま2人は只ぼーっと指を咥え、そんな俺とラピスを見ている。
「ルルさん。見てくださいね」
と笑顔で大きく跳ねて大の字で足場の雲に正面から重力に身を任せて突っ込むラピス。
「ゴチイィィィーーーンッ!」
雲と言えども人が乗れる雲だ。それ相応の硬さはあるみたいだ。
ラピスは俺に背を向け、無言でムクッと上半身を起こすと、自分の顔にヒールを唱えているようだ。白い雲が中々広範囲に渡り赤く染まり、キラリと輝く無数の白い物体は歯だと思われた。
「...............おっ、おい!ラピス。アレを見ろよ」
気不味くなった俺は指差しそう言った。暫く沈黙があったが治療が完了すると。
「わあぁぁーっ!アレがゲートですね」
と何事も無い素振りでラピスが微笑んだ。
「だっ、だろうな!早速行くぞーっ!俺に付いて来い」
「あーっ!ズルいですよルルさん!置いてかないで下さいよ」
「「あははははははははっ」」
とアホみたいに駆け出した瞬間。黒い煙が立ち上がりそれは姿を現せた。
「オチだ!オチが来た!」
つい言葉が漏れた。
――サイクロプス。
分かっていたが実際に見るとやはり怖い。
「チィッ。しゃーねぇーか!」
とショートソードを構える俺の前にラピスが歩み立つ。
「私に任せて下さい」
ぶつぶつ何かを唱えて。
「リバース!」
サイクロプスの頭上から魔法陣が出現し、その魔法陣が必死に藻掻くサイクロプスを吸い上げた。魔法陣の上からは黒い煙が立ち上がり、まるでミキサー。魔石化は無く、まるで時間を戻した様な攻撃だ。
「すっ。すげー!やるじゃねぇーかよ!ラピス」
とラピスの背中をバンバン叩く。
「あっ、ありがっ、ちょっ、ちょっと、いたっ、痛いですよ!ルルさん」
ゲート迄は約500mといったところか?この間に幾つのエンカウトポイントがあるのであろうか?そんな考えをしている時だった。
「おい!ラピス。アレは何がしたのか理解出来るか?俺にはサッパリだ」
「理解不能の行動はルルさんの得意分野でしょ?ルルさんに理解出来ない事が私に分かる筈無いでしょ」
何故か納得した俺は2人の幼女の動きを凝視する。
何を思ったのであろうか?2人の幼女は腕を水平にピンッと張り、指を全て上を向け「キィィーーン!」っと乗れる雲ギリギリから隙間なく螺旋状に中央に向け駆けていた。
勿論エンカウントポイントを全て踏み付ける2人の幼女の後からは至る所から黒い煙が立ち上がる。そんな事をする2人の幼女の顔からは笑顔が溢れていた。
溢れ出るサイクロプス。一体何体居るのやら。数えるのもイヤになってしまった。
駆け回る2人の幼女に目を奪われているサイクロプス。手を広げ掴もうとするが、加速、ヒョイッと身をかわし上手に逃げ回る2人の幼女を追い掛け回している。
「遊んでいるのか?」
「みたいですね」
と首を傾げて考える俺とラピス。
ふと、ある事が俺の頭に浮かぶ。サイクロプスは2人の元で集団となり固まっている。これなら俺でもいけるかもしれないと俺の口がニヤリと吊り上り実行に移す事にする。
「おーいっ!シロとクロ。真っ直ぐ俺の方に来ーーーいっ!」
「ちょっ、ちょっと!ルルさん!なっ、何言ってるですか!?」
「まぁー見ときなってラピス。今度は俺が見せてやるよ。っと言っても1000年前のラピスに貰った魔法なんだけどな」
「はっ?はぁーー。分かりました。お任せしますね」
俺の言葉を聞いた2人の幼女は、俺に従い2人横並びになり、俺に向かい駆けて来た。勿論全てのサイクロプスが後に続いている。
騎士殺しである2人の幼女を少しでも時間があれば騎士の元に連れ回していたのは伊達じゃない。それなりの友好関係は築けた筈だ。俺の言う事を聞く様に餌付けもしてきた。
俺は手を2人の幼女。皆で勝手にそう呼んでいるシロとクロの方に晒すと。
「シローーーっ!クローーーっ!俺の後ろに突き抜けろおおおーーーーっ!」
コクリと頷くシロとクロ。
2人が俺の横を過ぎたのと同時に俺は光り輝く手から魔法を放つ。今の俺の最大火力。
「喰らえええーーーっ!究極の光属性魔法ーーーっ!」
光は十字に形どり閃光の様に過ぎ去ったと同時に全てのサイクロプスが消滅。
「「なっ!」」
思わず俺も口にして2人ハモッた。
「ル、ルルさん貴方一体何者なんですか!?こっ、こんなの見た事ないですよ.................」
「あっ、ああ、俺もだ...............こんなに強くなってたんだな。俺って................」
俺が放った究極の光属性魔法は全てのサイクロプスを黒い煙に返して、全てが巨大な魔石に姿を変えた。
雲をえぐり、究極の光属性魔法の通った場所の全てが十字を形どっていた。デカさも半端無く、城にでも放てば、大きな風穴を開けれると思われる。
勿論俺の足先から雲は消失し魔石は地上へと向かい落下していった。ゲートに続く雲は僅かにしか残っていなかったが、何とか天界には行けそうだ。
体の脱力感はかなりある。だが、もう1発全てを絞り出せば発動する事が出来るかもしれない余裕もあった。
ヤバイ!俺チョー強くなってる...............。
なんと言えば良いのであろうか?実感が無さ過ぎる。全く嬉しく無い。俺がこんな事をしていいのであろうか?俺みたいな雑魚キャラが一丁前に主人公キャラ的な事をしていいのであろうか?そう思うと凄く罪悪感に苛まれる。全国区の主人公様に謝りたい。そんな思いが込み上げてきた。
そんな考えをしている俺の袖をクイクイと引っ張り。
「ルルさんがこんな凄い人だとは思いませんでしたよ。ごめんなさい。雑魚だとばかり..............でも、これなら道中何があっても大丈夫ですね!勇気付けられました。ホント凄いです。私の騎士さん」
「ラッ、ラピス...............」
と笑顔でそんな事を言ってくれた。
「泣いてるんですか?さぁーっ。行きましょ」
「うっ、うん」
思わず涙が溢れ落ち、そんな情け無い俺の手を引っ張りゲートに向かい足を進める俺達。
シロとクロは折角楽しかったのにーっ!もっと遊びたかったのにーっ!と言わんばかりに涙を懸命に腕で拭う俺の尻を何度も蹴り続けていた。地味に痛い。
雲の上から落ちた巨大な魔石はディルパレス城にそこそこに致命的な損害を与え、修繕費用の予算案のおびただしい書類の山がアルベルトの机の上と部屋に積み重なった事は言うまでも無い。
城内の人員は奇跡的に軽症多数で済んだそうだ。
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ゲートをくぐると一面が光に包まれた。
俺の視界も白色しか認識しなくなり、体の一つ一つが引き離される?痛みは無い。気持ちいいか?と言われれば、気持ち悪い寄りだ。地に何処かしらが着けていない所為であろうか?非常に強いに緊張感に襲われた.................。
いつからこの場所に佇んでいたのだろうか?気が付くと周りは森の様な場所に居た。
見た事が無い草花ばかりだ。炎なのであろうか?色とりどりのメラメラと形状を変化させる地に顔を垂らす花。まるで水の様に透き通り風で微かに波打ち輪郭を描く木々。そんなのばかりだ。
うーん。ラピスの要望とはちぃと違う様な............。と考えた俺なのだが。
「きゃあああああーーーっ!凄い綺麗ですね!何ですかアレ?何ですかアレ?何ですかアレーーーっ!」
と大変満足なされた様なので結果オーライだろう。
「ねぇーっ。ねぇーっ。ルルさんアレなんですか?羽で種を飛ばしている様に見えますが.............」
とラピスが指差し答えを求めてきたので。
「ああ、あれはタンポポの友達だ!」
と俺が知っている花の名前を答えておいた。間違ってはいない筈だ。
「じゃーあれは!?木に顔がある様ですが..............」
「ああ、あれはシーマンの友達だ!」
「じゃーっ。じゃーあれは!?禍々しく漆黒な花を咲かせ本当は仲良くしたいのに不器用で誰からも分かって貰えない可哀想な花に見えますが.................」
「ああ、あれはキララだ!」
「じゃーっ。じゃーあれは!?刺々しい蔦を自分の体に巻き付け自虐を楽しんでる様に見えますが.................」
「ああ、あれはイフンだ!」
「じゃーっ。じゃーあれは!?頭がデカ過ぎて自分の首を絞めているニワトリ野郎の様に見えますが.................」
「ああ、あれはアルベルトだ!」
「じゃーっ。じゃーあれは!?私を凄くやらしい目で見る下劣な虫ケラは?」
「ああ、あれはロケットだ!」
「凄いですねルルさん。何でも知ってるんですね」
「よせやい!照れるじゃーないか!」
そんな時だった。
「ルルさん!アレは..............」
と目を輝かせるラピスが指差す方向には3本の木があった。その木は半透明で周りは白く中に行くほど黒くなり、木の中で、根っこから発生する光り輝く幾つもの小さな気泡らしきものを、枝の先へと運んでいた。気泡らしきものの大きさは不規則で、光も多彩な色を彩っていた。
「まるで夜空ですね。まだ私とシロちゃんとクロちゃんの名前呼ばれて無いから、きっとあの3本の木が私達なんですね............なんちゃって!」
と舌を軽く出し自分の頭を軽く小突くラピス。俺は笑顔で。
「いや、間違ってねーよ!アレは間違いなくラピスとシロとクロだ」
パァーッと顔を明るくしたラピス。シロとクロも若干嬉しそうな顔している様に見える。
ラピスははしゃぎ、シロとクロの手を取ると、クルクルとステップしながら笑顔で周り始める。シロとクロも無表情ながらもスキップと尻尾を振っているので楽しんでるいるのだと思われた。
それが暫く続いて。突然。
「ガサゴソ、ガサゴソ」
と3本の木の近くの茂みから、大層やる気の無い、人生を舐めきった目の、2足歩行するサル的な生き物が頭をボリボリ掻きながら歩いて来た。
それを見たラピスが手で口を押さえ。
「ぷぷぷっ。アレはルルさんですかね?ぷすぷすっ。ソツクリですよ」
ちょっと引き気味ながらも、そんな可愛い仕草をするラピスに、苦笑いしながら。
「だな!後は俺しか残ってねぇーもんな」
とニッコリ笑ってやった。
するとその俺的なサル的な生き物は、何をトチ狂ったのであろうか?3つの木に均等に、やたら股間を擦り付けて、大変満足そうに、事を始めた。
「「「「......................」」」」
「うああああああーーーっ!くたばれ!このルル的存在めっ!このど変態っ!このどスケベっ!近寄るなっ!うああああああーーーっ!」
「痛いっ!本当に痛いっ!やめて!お願い!キズついちゃう!痛いっ!」
3人は足元の小石を拾っては、何故か俺に向けて本気な強さで小石を投げてきた。
俺はそんな中、俺的でサル的なそれに石を投げてやった。中々のダメージを負う中でも、その動作を止めず。俺的なサル的なそれは、その行動に全てを賭けている的な覚悟がそこに見えた。
そんなこんなありながら森林と思われる場所をゲートから直線に足を進めて行った。
暫くすると、森らしき場所を出て、草原らしい場所に出てた。ちょっと向こうには湖があり、更に奥には神殿らしき建造物が建ち並んでいる。
寒い所から来た所為であろうか?日差しが強く少し暑い、しかし丁度良い風がその暑さを緩和してくれる。普通であれば清々しいのだが、3人はあの俺的なサル的な生き物の出来事があってから俺に近づこうとしない。
仕方ないと俺は、大きな葉っぱを引き千切り、湖から勾配がある丘の様な場所に駆け出した。
「おい!見ろよーっお前達。スッゲーの見せてやるよ」
と大きな葉っぱに駆け乗ると、勢いよく丘を下り始めた。
「ちょっ!ルルさん!危ないですよ!」
「ズザザザザーーーーーーーーっ」
と丘を滑り。勢いよく。
「ピチョン...........ピチョン.............ピチョン........ピチョン......ピチョン」
湖の上を跳ね飛んだ。
「ぐはははははっ!どうだ!俺カッコイイだろーーーーっ!」
何回か水面を跳ね飛ぶ俺。
「すっ凄い!」
と少し振り返りラピスとシロとクロの顔を見ると驚きに満ち溢れていた。
しかし、徐々に勢いが無くなり、湖に体が沈み始めたので、泳ごうとしたのだが.............。
「..............ん?............あれ?ガボガボガボガボ」
何故か体が湖の中に引き込まれ溺れる。
「ルルさーーーーんっ!ちょっとふざけないで下さいよーーーーっ!ルルさーーーーんっ」
湖の中。テンパる事無く腕を組み何故溺れるのかと考えていると、体が光に包まれて、湖の底から俺の後襟を持ち勢いよく水面に向かう存在を目で捉えた。
そして。
「ザパーーーーーンっ!」
と勢いよく水面を飛び出ると、水面に立ち、水面を歩き、俺を引き摺り、ラピスの元に歩み寄るその存在。
「えっ?えっ?何で?何で?」
起きている現象に理解出来ないラピスはオドオドしている。シロとクロはいつもと変わらずボーっとしていた。
ラピスの元に着いたその存在は、紳士的にラピスに頭を下げると、ラピスに微笑みながらこう言った。
「私の名前は神ヘルメス。可愛いお嬢さん。貴方が落としたのは、この金色のルル・トイドールですか?」
「................なんだこれ?」
つい言葉が漏れた。