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始まり②日常na話。

 俺は皆に嫌われているかもしれない……

 真相を知り、誰かに構って貰わないと死んじゃう俺はキララの方に振り返り真顔と言ってもゴブリン顔で。


「なっ、なぁーっ……キララ……お前は俺の事好きか?……嫌いじゃないよな?……」


「なななななっ!何を突然……そんな事を言っているんだい君はっ!」


 俺はキララの元に歩み寄り、顔を背けるキララの真赤な顔をガン見する。


「正直に言ってくれよ……お前……俺の事好きか?……」


 顔を伏せ、一拍、静かにキララは頷いた。


「キララーーーーーーーっ!俺もお前が大好きだあああーーーーーーーっ!もうお前を離さない。もう離したりなんかしてやらない!ずっと一緒に居てくれよな。俺お前しか居ないんだ!」


 俺の心地良く締まった腕がキララの透き通る美肌の身躯を圧迫する。


「ふわぁぁああーーーーーっ!ルル!ここではダメだよ!僕の知り合いが来てるんだ!ふわぁぁあーーーーーっ!」


 ん?知り合い?ざけやがって俺とキララの幸福なひと時を邪魔する奴は!と周りを見渡す。

 すると。


「ありがとう!」


 脳処理前に出た言葉。不可抗力とも呼べいいのか?


 ヤバイ。

 その言葉が一番似合うその人物は、金色の髪を腰まで伸ばし、引き込まれる様な潤んだ瞳、透き通る白い肌に、煌びやかな純白の鎧を纏う、女剣士であった。


 目のやり場が定まらずキョドリながら頬を染め、オドオドする仕草が、とても愛おしかった。

 この人物は誰?早く紹介してよ!と思い。キララの頬に手を添え俺の方に引き寄せると。


「ふあぁぁっ、ぼぼぼぼ、僕をどうする。つ、つもり、なのさ、ヨ、ヨダレ垂らして……ぼぼぼほ、僕に近寄らないでよ……」


 瞳を上上下下左右左右と精神強化を施し、訳の分からない事を言うキララ。BAはどうするんだ?とワクワクしながら暫く様子を伺うも流石のキララでも無理なようだ。


「チィッ!使えねぇ奴!……」



 ポンッ!そうそう、忘れるところだった。嫌らしさが出ているのか?なるほど!これはいけない。ジュルリと口端に輝く雫を腕で飛散させ、直ぐに顔をキリッ引き締めると言ってもゴブリン顔でキララにこう言った。


「お前とのイチャイチャの相手はこの後タップリしてやる。時間が惜しい、早くこの方を紹介しろ!」


「ふあぁぁっ、ほほほほ、本当に何を言っているんだ!君わぁぁあああっ!大胆にも程があるだろぉぉおおおおおっ!!!」


 赤面して俺に怒鳴るキララ。

 女剣士の方を見ると、女剣士はビクッと御満悦な反応を魅せ、キョロキョロと視界のやり場を探しキララ同様、美貌が食欲を促す朱色になっていた。


 じーっと造形美、身のこなし、潤う唇に心奪われていると……



「……お、お邪魔みたいなので……明日の朝また出直します……ごゆるりと……」


 女剣士はポツリと呟いて、椅子から立ち上がり、顔を伏せ、逃げる様に部屋から出て行った。


 邪魔なもんか!キララが邪魔だ!だから居ておくれよ!と言葉を掛ける前に部屋から出て行った女剣士。

 暫く沈黙する部屋。


 俺はゴブリンのマスクを脱ぎ「チキショー」と床に叩きつけると。


 「風呂入って来る」


 そう言って立ち上がろうとする俺の腕を不意に掴み俺から目を背け、頬をリンゴ色に染め、目玉を湿らせ。


 「.............う、うん」


 お子ちゃまがしおらしく返事した。

 何か絶大な勘違いをしているようだが俺はそれを無視した。


 ・

 ・

 ・

 ・


 俺は風呂に浸かり体を癒す。

 俺の体には様々な傷後が残っていた。これらの傷は全て俺が幼い時に受けた傷で、冒険者になってからの傷は全て回復魔法で傷一つ残らないのだが、古傷は回復仕切れないらしい。俺の体がそれを物語っていた。


 俺の村は農業で生計を立てる人々が住む村で魔獣・魔物に襲われる事も珍しくなかった。特に一番村から離れた所にあった俺の畑では魔物・魔獣の一番の標的となり村に住む誰よりも襲われた回数が多く、俺は自然と1つのスキルを身に付ける事となる。


 スキル『気配操作』


 その名の通り、自分の気配を意図して上下させる事が出来るスキル。他のスキルとは違いレベルがマイナス・プラスに変動する事が出来るレアスキル。


 魔物・魔獣が現れた際にはスキル『気配操作』をマイナスに振り魔物・魔獣をやり過ごし、誰かが襲われそうな時にスキル『気配操作』をプラスに振り引き寄せた。


 似た様なスキルで『潜伏』『誘き寄せ』なるスキルがあるそうだが、潜伏スキルは気配を弱める事しか出来なく、誘き寄せスキルは気配を強める事しか出来ないらしい。

 『潜伏』と『誘き寄せ』は相反するスキルな為、両方を取得するのは、不可能との事なのだが...........。


 レアスキルの割にはショボくねぇーと思うのは俺だけなのであろうか?



 そうこうしている間にのぼせてきた俺は風呂から上がり、着替え、、風呂場から出ると。風呂場の前でキララが壁に背をもたれ三角座りで待っていた。


 「あっ!ぼぼぼぼ、僕も、おおおおおおお、お風呂入るね..........」


 一瞬だけ俺と目を合わせて、頬を赤く染め、俯き、少し駆け足気味に、風呂場に入るキララ。


 うん?どうもいつもと調子が違う。

 誰かにイジメられたのか?そうだ!とポンッと手を叩き、キララにドア越しで喋り掛ける。


 「なぁーっ。キララ。ワッペン見に行かねぇか?もしかしたら掘り出し物あるかもしんねーし」


 「え!?あっ!うん、分かったよ。ちょっとお風呂上がる迄待っててくれるかい?」


 「ああ、分かったよ。ゆっくり入りな。時間もある事だしな」


 そう言って俺はキララが風呂から上がるのを待っていた。



 「お、お待たせ...........」


 背後からキララの声がして振り返ると。

 そこには、いつもガチガチの黒い服を着ているキララが、腕を出し、少し膨らむ胸の谷間を見せ、太ももを見せる全身真白な服を恥ずかしいそうに可愛く着こなす姿があった。


 「ありがとう!」


 脳が信号を間違えた。どうも神経系統でトラブルが発生しているみたいだ。


 「へっ、変じゃーないかな?こんな服着るの初めてで。エヘヘへへ」


 笑い声はキモかったが笑い顔は可愛かった。


 「おっおう!か、可愛いな...........」


 「................そっか...........ありがとう..............」


 ヤバかった。キララのクセに、本当に本当にヤバい可愛い笑顔をしやがった。早く治れよ脳神経。


 「じ、じゃ行くか.............」


 ほんのチョッピリ意識した俺は余りキララを見ずに、ギルドの出口のドアを開け、キララが付いて来れる速さでワッペンを物色しに街へと繰り出した。



 街へと出た俺達なのだが、神経系統がトラブル中の俺はキララを意識して思う様に言葉が出ない。何かキララが言ってくれればいいのだがキララも何故か俺に悪態をつこうとしない。

 

 ぎこちない俺とキララ。


 このままではいけないと思った俺はキララに言葉を掛けてみる事にする。


 「キ........キララちゃん。あのーっ........そのーっ.........今日もいい天気だね...........」


 と空を見上げると目茶苦茶曇っていた。雨降りそうだ。ヤバい.......やっちまったと頭を抱える俺に。


 「...........う、うん。そうだね。今日はホントにいい天気だね............」


 と空を見上げたキララも頭を抱えていた。


 なんだこれ?

 俺達は一体どうしてしまったんだ?と地面を人差し指でボジボジとテンパる俺達に。


 「おっ!これはこれはルルとキララ様ではないですか?2人は仲がいいねぇーいつ結婚するんだい?」


 おでん屋台のオヤジが声を掛けてきた。

 茹で蛸みたいに紅潮する俺とキララの顔。それを見たおでん屋台のオヤジが。


 「ふっふーん。まだまだお子ちゃまか」


 と呟いた。


 プライドを傷つけられた俺達はイラっとした。

 オヤジに俺達が如何に大人なのかを見せつける方法のサインを俺がジェスチャーで送ると、キララは親指を突き立てた。


 「おい!オヤジ。コンニャク貰おうか!」


 「はいよ!毎度ーーーっ」


 景気良い声と共に俺の前におでんのコンニャクを皿に盛り、突きだしたオヤジ。


 「おい!キララ」


 俺が一言言うとキララは俺の背後に回り込み、オヤジから皿を受け取り、コンニャクが突き刺さった棒を掴むと。


 「行くよ!ルル!」


 熱々のコンニャクを俺の口の中に押し込んだ。


 「ホフーーーーーーーーッ!ホフホフ!モフーーーーーーーーッ!」


 悶絶する俺の顎と頭をガッチリ固めたキララ。のたうち回ろうとする俺だがピクリともしない。顔がコンニャクの熱さで茹で上がり、鼻からとてつもない息を撒き散らし、目を見開き、白目が充血する。


 灼熱の煮汁をじんわり滲み出し口内の粘膜と呼ばれる全てを溶解し直接痛覚を甚振るコンニャクは、俺の喉を拒絶して長々とツルンとコミカルに猛威を振るう。


 「どお?オヤジさん。僕とルルってこんな危ない事もしてるんだよ!大人だと思わない?」


 不敵に言ってのけたキララ。

 それを見たオヤジが。


 「.........ああ、そうかい.........そりゃーっ凄いこって.........」


 あろう事か不憫な目でそんな事を言いやがった。

 カチンときたのであろうか?キララは俺の鼻を摘みコンニャクを無理矢理飲み込ませると。


 「オヤジさん。次卵ね」


 「はいよ!毎度ーーーっ」


 卵を受け取ったキララは口を押え地面に転がる俺の動きを足で静止させると、マウントを取り、無理矢理俺の口の中に卵を放り込んだ。


 「ンウッフーーーーーーーーッ!ンフンフンフ!ンウッフーーーーーーーーッ!」


 悶絶する俺の顎と頭をガッチリ固めたキララ。目から血が噴き出しそうな俺は必死に藻掻くがビクともしない。


 灼熱の煮汁を覆う白い大膜は軽く弾み爆発する。黄色い弾薬がホロリと崩れ、唾液と煮汁が固形物を粘着質に変化させ俺の口内に纏わりコンニャクに受けた重症を嘲笑う。


 俺を押さえたままキララはオヤジの方に振り返ると。


 「どう?これでもまだ分かんない?」


 「..........ああ..........ルルとキララ様は本当に凄い大人だよ..........」


 それをオヤジの口から聞いたキララは余裕の表情を浮かべ。


 「分かればいいんだよ。分かれば」


 キララは満足したようなのだが、しかし。


 「巾着も貰えるかな?」


 「はいよ!毎度ーーーっ」


 そして。


 「ンッモフーーーーーーーーッ!ウンモンフ!ンウッフモーーーーーーーッ!」


 こうしてキララは1人遊びを俺に始めた............。



 最初の大ダメージで俺やられ損じゃねぇーと思ったのだが、その後キララは普段見せない笑顔を振り撒き「まぁいっか!楽しければ」と俺は呆れ顔で消化する。


 試練なのであろうか?

 俺達に声を掛ける街人はこぞってキララの感情を逆撫でしては俺に絶大な被害を及ぼす。


 苦難を乗り越えやっと辿り着いたワッペンを取り扱う道具屋。俺は満身創痍の体を引き摺り。店の中へと足を進めた。


 肝心なワッペンは品切れ状態。何の為に俺はと嘆く間も無く、道具屋に入るなり別行動を取ったキララが。


 「ねぇーっ!ルル。見ておくれよ!これ可愛いだろ?」


 とキララが俺の前に突き出した不気味なパペット。藁で形を成した異形の姿は呪いじみた何かを感じた。


 「................あっああ、可愛いかもな?................」


 俺の引き攣りながらも笑顔の顔に。


 「僕も知らない物なんだけど。遥か遠くにある大陸の伝統的な想いを伝える人形なんだって、そんな説明しか書いてないだけど。釘を打ちつけて顔の部分に似顔絵を貼るといいそうなんだ」


 パペットを見つめるキララ。横顔で見るキララの表情は神妙な面持ちな笑顔だった。


 「へぇーっ。変わった人形なんだな」


 「.............そっそれでね............ルルの顔.............はっはっ..............貼ってもいいかな?」


 上目遣いで気恥ずかしそうなキララ。俺は気持ちを揺り動かされキララから目を逸らし。


 「あっああ..............お前の好きにすればいいよ」


 頬をポリポリ描いて照れ臭くそう言った。


 「うん!部屋に大切に飾っておくね」


 俺に満面な笑みをくれるキララ。ここが外じゃなければ俺はきっと抱き締めていただろう。



 「じゃーっ。ちょっと待っててくれるかい?僕これ買ってくるよ」


 特に欲しい物が見当たらない俺は1人レジに向かうキララを余所にウロウロと店内を物色。

 普段行かない黒いカーテンに仕切られた部屋も覗いて見るか?と足を進めた先にキララが俺の似顔絵を貼ると言った不気味なパペットを見つけた。


 「へぇーっ。人気商売なんだな」


 と俺も手に取り確かめようとした時。俺の背後からソッと手が伸びて不気味なパペットを先に手に取る街人。

 何やらぶつぶつと独り言を呟き、小刻みに揺れる瞳を肥大させていた。


 「殺してやる。呪ってやる。復讐してやる」


 僅かに聞こえたその言葉。俺の体が震えだす。

 俺に構わず隠すように不気味なパペットを抱え、街人は黒いカーテンの向こう側へと姿を消した。


 暫く放心状態。ハッと我に返り周りを見渡すと、そこはあからさまに忌まわしく、怪奇、暗晦たる品々を揃える場所であった。


 ガタブルする体を気力で奮い立たせ俺はポツリと呟いた。




 「.................あれ..............やばくねぇ?...............」




 そして、その声は突然響き渡った。


 「キャアアアアアアーーーーーーッ!」


 店の外から聞こえる女性の叫び声。

 俺はその場で何も見なかった事にして急ぎ外へと駆け出した。



 道具屋の外に出ると叫び声を上げた少女と思われる人物と、その人物を取り囲む様に佇む3人の忌み嫌われる格好の人物を目で捉えた。


 「おっ!お前らは.............」


 少女は長い黒い艶髪と黒いワンピースを風で靡かせ、恐怖で委縮して動けないでいる。

 その少女に只佇む3人は、顔を覆う涅色の三角頭巾を被り、全身を墨染のローブで包隠す、唯一露出する手を黒く墨で塗り潰す。胸には逆十字を掲げ異教徒信者、邪教徒信者と呼ばれ忌み嫌われる者達。


 .............一見そう見えるのだが。



 「どっ、どうしたんだい?悲鳴が聞こえたけど..........」


 道具屋で会計を済ませたキララが駆け寄り俺に声を掛け、瞬時に俺の目の先のやり取りを見て。


 「何しているんだいアイツ等は..........」


 乾いた声でそう言った。


 声は聞こえないものの、その邪教徒信者3人は少女にペコリペコリと頭を下げて、懸命に謝り、許して貰ったみたいで、申し訳なさそうに少女をやり過ごし「お前が間違ったんだろ!」「何言ってんだ!テメェーの所為だろ!」と軽い肘のつつき合いを俺達に見せた。


 そして邪教徒信者3人内の1人が俺とキララの存在に気が付き、俺達の方に指を差し、今だ気が付いていない険悪な雰囲気の2人の肩をポンポン叩いて、俺達の存在を知らしめると、3人は駆け足で俺達の元に近寄る。



 「「「キッ!キララ様ーーーーーっ!」」」


 俺達の元に着くと同時に掛けられて言葉。俺の事なんて眼中にない。


 「マジパネェよ!」「ほっ本物じゃん!嬉しゃなす!」「可愛うぃす!」勝手にキララをそんな言葉で評価し始めた3人。


 そうこれは何を隠そう。この街を中心として徐々に勢力を拡大しつつある。キララに無断でタイアップした商品の販売。キララに秘密裏で勝手に行われる会報。キララにまつわるエトセトラ。キララを一方的に応援するコミュニティ。



 キララ非公認ファンクラブの面々である。



 始まりは街の外でキララが街人を助けたのが起因する。何でも街人を助けた際キララが魅せた圧倒的暗黒感オーラに心惹かれた街人が「神天既に死す。邪天今に立つべし」を叫びだしたのが始まりだとか。


中々な大金を払い助けてくれる神の信仰者より、無料で世話を焼く邪悪なキララに敬意を払った言葉。


それに共感した人々、単純にキララの美貌に惹かれた人々が、なんやかんやで人が集まり会員数は1万を超える勢いだとか。



 「コラーーーーーッ!君達それ止めろって言ってるだろーーーーっ!どうして勝手な事をするんだい!本当にやめて欲しいんだけど!」


 拳を振り上げ激怒するキララ。

 流石はファンクラブと言ったところか?そんなキララに怒られて嬉しそうにモジモジし始めた3人。


 ハッキリ言おう。逆効果であると。


 更にキララの罵声は続くが何の反省の色も見られない。

 キリが無い。このやり取りはエンドレス。俺は無視され、放置され、聞きたくも無いキララのご褒美の言葉のオンパレードが耳に入ってくる。

 イラッとした俺はキララとキララ非公認ファンクラブ3人の前に立ちはだかり言葉を掛ける。


 「おい!雑魚共。俺の女に手を出すな!」


 「「「え!?」」」

 

 夢を打ち砕く俺の一撃。絶句のキララ非公認ファンクラブ3人。

 そしてキララは。


 「......ふっふっ.......ふわああああーーーーーっ!ルル!何言っているんだい!ふわあああーーーーーっ!」


 「グァハハハハッ」と下品に笑い。腰に手を置きキララ非公認ファンクラブ3人を見下した俺をポカスカと殴る愛おしいキララ。

 そんなラブラブな俺達に激怒したキララ非公認ファンクラブ3人はキララに真相を確かめようと近づく動きを見せるが、俺が立ち塞がりそれを阻止。


 「おい!テメェーら!そんな汚い手でキララに近づくなよ」


 俺は鼻クソをホジリながらそう言った。


 「そっ!そうか貴様があの冒険者ルルだな!?キララ様の御加護を一身に受け。堕落した生活の日々を過ごすと言われている悪魔!」


 「なっ!何こいつか!ゆっ許せん!」


 「我らが黒い3兄弟。キララ様の為にお前に罰を下してやる!」


 俺に敵意を向ける3人は身構えた。


 「ああっ!いいぜ!相手になってやる」


 「ちょっ!ちょっとルル。僕達、冒険者は.............」


 「分かってるよキララ。お前は離れて見てな!俺のスンゴイ所見せちゃうぜ!」


 「で、でもルル!これは僕の問題なんだから!僕が解決しないと!」


 「何言ってんだ!オメェーはよ!俺言ったよな?『俺の女に手を出すな』ってな」


 それを聞いたキララは目をゆっくり下に向け一気に赤化。黙って左手と左足、右手と右足を交互に動かし俺から離れて行った。


 ふむ、新しい反応だ!嫌いじゃないがイマイチだ。俺はそう評価した。



 冒険者にはルールがある。

 そのルールを破ると俺達は即お縄、そしてライセンス剥奪、過剰とも思える罰則が待っている。


 武器の使用は城、街、町、村、その他、人と分別する集団地域で禁じられている。また魔法も然り。治癒系は例外としてはいるがそれにも許可がいる。そしてここが一番の今回のポイントになるだろう項目が存在する。

 それは。


 喧嘩御法度。


 まぁこれは致し方ない事だと思う。何故なら俺達冒険者は殺しのプロ。格好良く名前は変えて『冒険者』と言っても所詮は生命を絶つ事を生業としている訳だ。

 道具屋が手先が器用な様に、鍛冶屋が鉄の取り扱いに長けている様に、農民が作物の知識が豊富な様に、俺達冒険者は生命の絶ち方について日々精進している。


 プロとアマ。


 喧嘩をした場合どっちが勝つかなんて誰もが分かりきった事。脅威となり得るのは実際の武器だけでは無い。俺達その者が生きる武器なのだから。



 それを危惧したキララだったのだが、俺には関係ない。ムカつく奴は殴るし、ムシャクシャすれば喧嘩もする。ルール?そんなもんクソ食らえだ!俺の前は誰も走らせねぇーっ!っと、そんな態度を見せる俺だったが内心はドキドキしている。願わくば冒険者の肩書にビビッて引いて欲しい。


 そんな考えをしている俺にキララ非公認ファンクラブ3人はストレッチを始めた。


 こ、こつら............俄然やる気全開じゃん............。


 「さぁー殺し合いを始めようか!」


 そう強者の如く言い放ったのは俺では無く、黒い3兄弟。

 俺とキララが話し始め、気を遣い、準備運動で間を繋いで待っててくれた勝気で紳士的で合理的な3人であった。


 肝心な俺はアワワっと冷や汗タラタラ。


 はぁーっ。仕方がない。

 不本意ながら俺も少しは本気をだそうと。地面に転がる小さな石を6個拾う。

 拾った手を広げ、空いた手の中指を親指で抵抗を作ると、反動を利用して小石を一つずつ、言葉を発しながら弾いた。


 「右-左小指-第2関節」


 右に居る男の左小指第2関節に小石が当たる。


 「えっ!?」


 思わず言葉にする驚愕の事実。



 「中-右薬指-爪」


 中央に居る男の右薬指爪に小石が当たる。


 「えっ!?」


 思わず言葉にする小石の命中精度。



 「左-右中指-第1関節皮膚」


 左に居る男の右中指の爪の上に僅かに空間。皮膚に小石が当たる。


 「えっ!?」


 思わず言葉にする俺の神技。



 「左-右小指-第1関節。中-右人差し指-第1関節指蛸。右-左薬指-逆剥け」


 全てが俺の宣言通りの場所に小石がぶつかる。小石の大きさから殺傷能力は皆無。コツンと存在を知らしめるだけの物。

 しかしそれだけで十分。何故なら黒い3兄弟は立ち尽くし言葉を失ったからだ。


 俺はニヤリと口元を緩め黒い3兄弟に言葉を掛けた。


 「なぁーっ。もしもなんだが..............」


 俺は手の平サイズの下手すれば死ねる大きさの石を拾う。


 「この石に炎が舞い上がる程の回転を加えて................」


 俺は石を手の平を開き黒い3兄弟に晒す。


 「お前達の急所にぶち込んだら、どうなると思う?」


 俺の手の平に置かれた石は小刻みに動き始めた。


 後ずさる黒い3兄弟。体がガタガタと震えだし、互いの顔を見合うと、クルリと180度回転して、手を上げ一目散に逃げ出した。



 「ふははははっ!雑魚共め!一昨日きやがれってんだ!ふははははっ!」


 体勢を崩さず勝利の雄叫びを上げる俺の元にキララが歩み寄る。


 「ルル!投擲ホーミングスキルだよね!?すっ凄いよ!僕、君の事誤解していたみたいだよ!かなりのレアスキルだよ!」


 「ふっ」


 尊敬の眼差しで俺を見るキララ。俺は余裕の顔で爽やかに髪をかき上げ鼻で笑った。


 投擲ホーミングスキル?なんだそれ?

 勿論俺にそんなスキルは無い。ただ本当にコントロールが良いだけだ。1年近く命懸けの投石を繰り返してきたんだ。これぐらい無いと、俺はとっくに死んでいる。


 「そっ!それに。物体に炎が立ち上がるまで回転させる魔力も持っているとはね。本当に脱帽だよルル。あれだろ?『メテオストライク』だろ?最上級のスキルじゃないか!」


 「ふっ」


 満面の笑みで俺に軽く拳を当てるキララ。俺は余裕の顔で爽やかに両襟を両手でバンッと勢いよく張り鼻で笑った。


 メテオストライク?なんだそれ?

 俺『もしも』ってちゃんと言ったよな?石が震えだしたのは、黒い3兄弟がこれで引かなかったら俺ボコられかも?からくる恐怖の超振動によるものだ。


 何やら壮絶な勘違いをしているキララ。俺はそれを敢えて無視した。




 「で、でもルル。どうしてあんな事したんだい?もしあの3人が引かなかったら君は冒険者としての未来が.............」


 俺の服をギュッと掴み顔を曇らせたキララ。


 「.............大した事じゃねーよ。勘違いすんなよ。お前の為にやったんじゃないからな!...............あれは.............その、イラっとさせられたから............俺自身の為だったんだからな................」


 キララは俺の言葉に甘い顔して静かに。


 「うん............そっか...............でも、ありがとう....................」


 顔を伏せた。


 「おっ。おうよ!」



 キララはいつもガチガチの全身隠す色気の無い黒い服を着し、合気道と呼ばれる古流柔術でキララ非公式ファンクラブを穏便に追い払うのだが、でも今日は透き通る白い肌を出し白い服を着用。


 勘違いかもしれないが?もしかしたら俺の為に?そう思うと3兄弟の炭で塗り潰した手で触らせる事なんて出来ないだろ?

 キララの透き通る美肌を汚されるのを見るのも嫌だ。キララの綺麗な服にシミなんか作ってみろ。俺、発狂しちゃうぜ!まぁ1番の理由はそうなった時の悲しいキララの顔を見たく無い...............。


 何だよテメェー!うるせぇーっ!何言わせてんだよ!ニヤニヤするんじゃねーよ!こっち見てんじゃねーよ!


 と俺は無言で、何も聞こえない、誰も居ない空間に、手足をパタパタさせて、照れを怒りに変換して撒き散らしていた。

 そうやって透明人間と闘っていると。



 「ピィーーーーーーーーーっ!誰だぁーっ街中で喧嘩をしている奴は!」


 お節介な街人が通報したのであろう見回り隊がやってきた。


 「はぁーっ。面倒なのが来たね」


 肩を落とすキララ。

 冒険者の俺達が関わったともなれば長時間の聴取を余儀無くされる事は明々白々。

 だから俺はキララに手を差し出して。


 「逃げるぞキララ」


 そう言ってニッコリ微笑んだ。


 「うん!」


 俺の手を取りキララも微笑み駆け出した俺達。

 流れで手を繋いだものの、直ぐにその行為を意識した。互いの手の肌触り、温もり、血潮、全ての感覚が一気に繋いだ手に注がれる。


 .................と、そこまでは良かったのだが。


 「あっ!ちょっズザザザザザザザザザーーー...........」


 俺は冒険者ランクE。キララは冒険者ランクB。根本的に基本能力値が違い過ぎる2人。

 地面を蹴る脚力。足を動かす速さ。天と地の差が俺の足をモタつかせ、顔面を大地と呼ばれる自然の拷問具と頬を擦り合わせ、血肉はこの世界に捧げられた。


 階段の段差の鋭利な角が顔面にめり込み、急反転で体はしなり煉瓦の壁にめり込む。少しの突起に体が舞い上がり、かなりの勢いで地面に叩きつけられた。


 俺が通る後には紅い血道が付き従い。見回り隊がそれを目印に必死に追い縋る。


 『引きずり回しの刑』


 この世界ではかなりハイランクな死刑よりも罪が重い極刑であるそれは、見回り隊の体力が尽き、俺と繋ぐ手の感覚に混沌するキララが自我を取り戻す迄約20分程の時間を要した。



 「ルッ!ルルーーーーーッ!」


 泣け叫び俺の悲惨な姿に動揺するキララ。声を出す余裕も無い俺に。


 「誰に!誰にやられたんだい!?」


 とほざきやがった!何も言えない事をいい事に。


 「直ぐに回復させるからね」


 そう言って片手だけを添えればいいものをHP残り1の俺に身体を寄せ付けると。


 『ヒール』


 静かに回復魔法を唱えた。

 お前もしかしてこれがしたくてワザとやってねぇよな?と一瞬考えたのだが、揺れるキララの肩を見て「まぁ生きてるしいいか」とそれを消化する。


 瀕死の重傷を負い興奮状態。傷が癒え始めても治らない俺は実は『狂戦士バーサーカー』なのだろうか?と考える。

 いや違う。これはキララの体温に俺の感覚が蝕まれているのでは?そう思うとキララの体を俺の手が自然に起こし、キララの瞳を勝手に見つめる。


 恥じらいながらも俺を見つめるキララはゆっくり目蓋を落とし、俺とキララの唇が惹きつけ合う。


 それはとてもゆっくりと流れた時を刻み。そして飾らず。それでいて自ずと起こり得る現象。

 運命と呼ばれる言葉がある。俺はほんの少しそれが理解出来た気がした。


 俺の目蓋もゆっくり落ちて。

 運命に逆らう事無く。キララの光沢を帯びる薄紅色の唇に俺の唇を近づける。


 どうしてこうなっちまったんだろうな?

 決してキララの事が嫌いな訳では無い。俺はキララが大好きだ。親友としても、異性としても、ただ俺はこんな事をして良い人間では無いと思っている。

 冒険者である限りその命はいつ果てるかもしれない。だから俺はキララの気持ちを知りながら傷付かないようにノラリクラリ躱してきたのだが今回ばかりはどうもお手上げだ。


 ..............いや、ダメだろ!


 キララを悲しませたく無い。キララの相手は俺じゃ無い。冒険者では無い誰かと幸せに笑って生きて欲しい。


 俺はゆっくり目を開けキララを見つめる。


 目を瞑り、唇を細くして俺を待つキララ。

 俺の目から涙が伝う。


 ごめんなキララ...........俺やっぱり............お前が悲しむ姿.............どうでもいいわ!


 と俺は目を瞑りキララに近づくと。


 ..............いや、ダメだろ!


 俺はなんて事を考えたんだ!ダメだダメだ!誘惑に負けるな俺!俺は我慢出来る子だろ!?とキララの方に振り向くと。


 ごめんなキララ...........俺やっぱり............お前が悲しむ姿.............むしろ見たいわ!


 と俺は目を瞑りキララに近づくと。


 ..............いや、ダメだろ!


 そのやり取りを5回程繰り返す。キララの顔は至るところがピクピクと痙攣し今の顔を作るのがとても辛いようだった。



 いつまでキララのこの顔が続くのだろうか?ふと気になった好奇心旺盛な俺が抱いた疑問。俺はその問にすっかり毒を抜かれキララの顔の変化に注視する。


 10分経過した。キララの額から汗が吹き始めた。

 20分経過した。キララの唇が凄く尖ってきた。

 40分経過した。キララは何故かやつれた。ゲッソリだ。


 ダメだ見てられない。ドンドン生気を失っていくキララ。このまま放置してギルドに戻ろうとも考えたが流石に可哀想だ。


 そうやってキララに仕返ししていると。



 「うふふふっ。楽しそうですね」


 俺の背後から聞こえた男を勘違いさせる甘い声。俺は直ぐに振り返り乱れた顔でその人物に駆け寄る。クラウチングスタートの要領でその人物に飛び込むとヒョイと避けられた。


 頭を強打した俺に。


 「うふふふっ。もうーっ大胆なんですから」


 とこれまた男心を擽る甘い言葉で勘違いさせる。


 「アイタタタタ。ようジル。こんな所で会うなんて運命か?」


 「うふふふっ。いえいえ。今日の晩御飯買い出しに来てましてホラあの店に用事があったんですよ」


 俺に甘いジルが指差す方向を見ると、あからさまに毒を取り扱う店の風貌を漂わせる店が見えた。


 「へっ、へぇーっ。そっそうだったんだ.............」


 俺は殺されるかもしれない。

 徐々に毒を飲まされているのであろうか?そんな不安が頭に過る。


 ん?晩御飯?と俺はキースの言葉を思い出した。


 「あっ!スマン。ジル。俺今日キースと約束してるんだったわ!俺夜飯要らないわ」


 「もうルルさん。いつも言ってますけど、そう言う事は早く言ってくださいね!」


 俺のホッペを人差し指でツンツンして勘違いさせるジル。


 「ああ、そうだ!ジルも一緒にどうだ?一緒に飲みに行かないか?なーいいだろ?」


 「うーーーん」


 男を勘違いさせる仕草をして悩むジル。クネクネしている。俺も一緒にクネクネしてみた。


 「なぁー行こうよ!きっと楽しいから、なっ!なっ!」


 俺はクネクネしながら追い縋った。何故なら俺と一緒に飲む理由の一つがジルの存在。そうキースはジルが好きなのである。

 かなりの頻度でキースに酒を奢って貰っている俺としては、何としてもこのチャンスで少し恩を返したい。


 「分かりました。荷物もありますので遅れて行きますね.........えっと場所は?」


 「ダンの酒場だよ!絶対来てくれよ!奢るから!」


 キースが.............。


 「はい!分かりました。楽しみですね..........ところでキララ様は何をなさっているのでしょうか?」


 首を傾げジルが質問してきたので。


 「ああ、アイツは今。ファンタジー世界に転生してるんだ。そーーーっとしておいてやってくれ」


 「まぁーっ凄い境地に足を踏み込んだんですね。鳥系亜人タイプですかね?流石キララ様ですね。でわ、私はそろそろギルドに戻りますね」


 そう言葉を残し男が勘違いする様な歩き方でギルドの方へと足を進めるジル。

 よしっと小さなガッツポーズをする俺。キースの喜ぶ顔が目に浮かぶ。

 そして。


 俺は冷たい目でキララの方に振り返ると。


 「おい!キララ現実に戻ってこい!」


 と体を揺らすも中々現実に目を向けないキララ。ゲッソリしながら口を尖らせている。もう意地なんだろうか?頑として体勢を崩さない。


 「はぁーーーっ」


 仕方が無いと俺は。


 「じゃあなキララ。達者でな!」


 そう言って俺はキララの元から去った。

 暫く歩き大通りに出ると俺の背後から。


 「うわああああああああーーーーーーーーっ!うわああああああああーーーーーーーーっ!」


 大泣きしながらもの凄いスピードでキララが俺に向かい駆けてきた。

 ドン引きする俺。逃げようにもキララの鬼気迫る恐怖が足をガタつかせる。


 「うわああああああああーーーーーーーーっ!うわああああああああーーーーーーーーっ!」


 泣き叫び俺の胸を中々な強さでドスドス殴ってくる。


 「わっ分かったよキララ。俺が悪かったよ。もう殴んなよ」


 「うわああああああああーーーーーーーーっ!うわああああああああーーーーーーーーっ!」


 余りにもしつこいキララのグズリ。

 俺はキララの両手を掴むと。




 不意にホッペにキスをした。




 「これでいいだろ?今はこれしかしてやれねーよ」


 「エヘヘヘへ」っと全てが垂れ下がるムーミンなキララ。

 このまま放置も考えたのだが、きっと同じ事が..............悪寒に襲われた俺は。


 「キララも来いよ!今からキースと飲み会だ」


 そう言って腰に手を置き腕でくの字を作ると。



 「うん!」


 元気よく返事した笑顔のキララは俺の腕に手を回す。




 俺はキララに笑顔を送るとエスコートしてダンの店へと足を進めた。





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