クエスト『首なき騎士』⑰小公女キララna物語。
明日はup出来ないと思います。
次も脱線すると思います。本当に申し訳ありません..................。
言葉不足でした追記します。
そんなこんなで俺達の『首なき騎士』の討伐を開始してから1週間が経過した。
何とか『首なき騎士』と乙女騎士、キララ、イフンから命を取り留めている俺は、今日、食事当番となるのだが……。
俺は、何故か戦闘よりも命を賭して、その食事当番を行わなければならない。ピンチだ。ピンチ。大ピンチ。このクエスト最大の大ピンチかも知れない?
そう俺は、この食事当番で何か1つでも間違えれば、命を落とす可能性がある。
それ程の危険がこの食事当番には潜んでいるのだ。
「みんなっっ、今日は僕がメイン料理を拵えるよ。僕の料理は人気あるからね。
よーしっ!今日はトビッキリの自信作をお披露目するよっっ」
1人緊張感が全く無いルンルンな声を俺達にくれるキララ。
食事当番は本来4人で行うのだが、今日は訳があり5人で行う。その食事当番の1人がキララとなるのだが、そして、俺のピンチの原因が何を隠そう、このキララなのである。
如何せんキララの食事当番の時の料理は酷い。
3度目の食事当番となるキララなのだが……
1回目のキララの食事を、勇気の名の元、勇敢に立ち向かって食した乙女騎士達は3日程に渡る、酷い嘔吐と下痢に見舞われ、数人が討伐を見送り、急遽編成を見直し、倒れた乙女騎士達が、治療そっちのけで、突然気力を振り絞り、遺書を書き出した事態に至った程だ。
それからはキララが食事当番の時は、皆が討伐時よりも危機感を持って決死に食事に挑むようになっていた。
何故キララに一言誰も文句を申さないかと言うと、それは単純にキララが自分の料理を自信を持って提供している事が起因する。
そう、誰もが、恐怖とその優しさで、満面な笑顔で料理を差し出すキララに面と向かって文句が言えないのである。
それを何とかしようと、緊急会議が開かれ、キララに内緒で、キララ以外の全メンバーが就寝時間に集まり、その役を無理矢理擦り付けられたのが俺だったという訳だ。
冷たい視線を一身に集め、俺はそれを引き受ける代わりに1つの条件を出した。
それは今、俺の胸ぐらを所狭しと握り上げ、グラリングラリンと涙目で俺の体を揺らす、イフン、アウェー、エウリの道連れである。
「おっ、おい、ぐるじい、止めど、おで、じぬ……」
「「「うわああああっーーーっ!お前なんか死んでしまえばいいんだああああっ!うわああああっーーーっ!」」」
見事な協調。一糸乱れずハモる3人。俺の身体を揺らすグラングランも半端ない。
そうやって、じゃれていると。
「ねぇー。何やってるの?」
疑問に思ったキララが首を傾げ声を掛けてきた。
「「「なっ、何でもないよ、ところで今日は何を作るの?キララ」様」」
ハモり、勘付かれないように、俺の胸ぐらから急ぎ手を放し、キララに返事をする3人。
アウェーはむせる俺に最後に蹴りをくれた。
「ふっふーん!知りたいかい?今日はね!僕のとっておきの料理。ハンバーグだよ」
そんな3人の心中を察することが出来ない、空気が読めないキララは、鼻を高くしてトンカチを突き出しそう答えた。
ハンバーグ。
この世界ではひき肉、玉ねぎ、パン粉、ミルクをコネて焼くだけの簡単料理。
子供から大人まで大人気の一品であり、それを、どうやって死に繋がる料理に仕上げるのかが、非常に楽しみである俺なのだが、今回に限りそれを作らせる訳にはいかない。
何故なら、俺が一番にそれを食さなければいけないからだ!
「いいかいッ!料理は愛情とも言うけど、愛情だけではお腹は膨れないんだッ!技術も伴わないとね。
僕の料理スキルを目で盗んで、君達も料理の腕前を上げればいいよ」
要らぬ事を言ったキララ。3人は苦笑いでそれに答えていた。
「よしッ!じゃーまずは玉ねぎをカットするよ」
そう言って玉ねぎを取り出しトントントンと手際よく、トンカチで潰し出すキララ。
もう既にワンアウトである。
3人は、苦笑いしながらも「すごーい」等のお世辞を絶え間なくキララに送り、そんな乾いた声援であろうとも、キララは満更でもない様子であった。
玉ねぎに含まれる催涙物質を撒き散らし、ひたすら玉ねぎの栄養成分を全て縛り出し、ただのスコスコ物体へと引き下げるキララ。
飛び散る催涙物質がキララの目に入り、キララの近くに居た3人の目にも催涙物質が飛び込んだ。
催涙物質が目に混入した4人は涙を垂れ流し、視界を奪われ、キララはトンカチを見当違いの所に振り下ろし始めた。
トンカチが軽量カップを粉砕し、トンカチが包丁を粉砕し、トンカチが台所の固形洗剤を粉砕する。
ありとあらゆる物を粉砕し続けるキララ。
見えていない筈の3人なのだが、それでも「キャー凄いキララ」等のエールを送り続ける3人。それに気分を良くするキララの暴走は止まらない。
催涙物質の効果が切れ始めた頃にはキララは元の位置に戻り、粉砕したそれらを全てまとめてボールに入れる暴挙を見せ。
一部始終その惨劇を見ていた俺がジャッジする判定は、没収試合なのだが、もう少し様子を見ようと思う俺が下した判定は、宇宙の果て程に長い目で見たツーアウトである。
そのボールにパン粉、ミルク、ひき肉を入れてこね出したキララ。ふむ、ここは問題ないかも?と思ったのだが……。
何故か、キララがこねるボールから黒い煙が立ち上がるのだ。
「いいかい?これが僕の一押しだよ。ここでね愛情を持って魔力を込めて、こねるんだッ!」
要らぬ事をしたキララ。
キララの愛情と呼ばれる魔力は明らかに禍々しく、ふと天井に立ち込める溢れ出た魔力の黒い煙を眺めると、キララの愛情が髑髏の模様をカタチ取っていた。
「これがキララの愛情か……大層、歪んでやがる……」
もうダメだ。チェンジだ。こんな物は食えないッ!そう判断した俺はキララに言葉を掛ける。
「おいッ!キララ。それは何だッ!?一体何を作っているッ!?お前は何がしたいッ!?俺達を殺す気かッ!?いや、殺したいんだなッ!そうなんだなッ!?」
突然の俺の言葉に呆気を取られる4人。
暫くして、キララの顔が、ミルミル濁り始め……
「ルル……君は何を、この僕に言って……」
「何を言っているんですかッ、ルルさんッ!キララに謝ってッ!!!」
キララが何か言いかけた言葉にかぶせてイフンが俺に突っかかってきた。
イフンは、キララ以上に怒っているようで、一人悪役となる俺。
しかしこれは俺にとっては大チャンスであり、だから俺は、必要以上にイフンを煽る事にした。
「何故に、俺が謝なければいけないんだ?本当の事だろ?それに、何だこれは?お前も分かってんだろッ、イフンッ!ふっ、友情ゴッコか?アホらし……」
「うぐぐぐぐぐ……キララが頑張って作ってるのに……何ですかそれはッ!?ルルさんッ、キララに謝って下さいッ!」
「ふっ、何でもはないだろ!?一生懸命作った料理が、殺人料理になるってホント終わってるだろ!?お前だって本当はそう思ってるんだろ?」
「うぐぐぐぐぐ……いい加減にして下さいよ、ルルさん……流石に私もキレますよ……」
歯を食いしばり、静かな声でイフンはそう言ったのだ。
ニンマリと思わず、俺の口元が緩み、
「ふっ、そこまで言うならお前が食ってやれよ!キララの料理をお前が食してみせろよ!やれるもんならなッ!」
イフンに人差し指を突き出し俺は、声を大にしてそう言った。
「………分かりました」
まんまと俺の描くシナリオに乗っかった、アホなイフン。
何かを覚悟したような表情のイフンは、俯き無言で、キララがこね終わったボールから呪いの掛かった物質を取り出し、一人サイズの形に整え、焼きだし、
そしてそれを一口サイズにして、口の中に放り込んだ。
「ハムハムハム、ゴックン……大変美味しゅうございました……」
食した後に、キララの方に振り向きニッコリ笑って、そう言葉を残して、体はピクリとも動かさず、イフンは白目を向き、盛大に泡を吹き出す。
「蟹だッ!蟹ッ!蟹が居るぅーーーーッ!」
蟹が泡を吹くのは、呼吸困難に陥った危険な状態である事を意味し、冷たい目でイフンを見る俺を他所にキララが、
「イフーーーーーーーッンン!!!!」
そう叫び、涙を垂れ流し、イフンを抱き横にする。大した友情劇を俺の前で披露したのだ。
そんな喜劇を見せられ、大いに笑ってやろうとも思ったのだが、俺の代わりに最初にキララの殺人料理を食してくれたイフンを、そのままお陀仏させる訳にもいかず。
「おいッ、まだ間に合う筈だッ!エウリ、アウェー。
イフンを抱え、外でキララの殺人料理を吐き出させろッ!急げよ、手遅れになるッ!!!」
「「は、はいッ!!!」」
俺は、そうフォローを入れておいた。
急ぎアウェーとエウリはイフンを抱きかかえ外へと運び出したのだが、イフンが見せるその後ろ姿は無謀にもキララの料理に挑んだ勇敢な冒険者ランクSの尊き姿など一切無く。
只のアホにしか俺は見えなかった。
「うううううっグスン……ううううううっグスン、グスン……」
力無く崩れ、涙を垂れ流すキララ。そんなキララに俺は容赦無く言葉を掛ける。
「いいかキララ。お前の料理は猛毒だッ!皆がお前を甘やかすから、気付かなかったのかもしれんが、これで分かっただろう?お前が作る料理は殺人をも可能にする。そんな料理なんだッ」
泣きながらコクリコクリと素直に頷くキララ。
このまま放置する事も考えたのだが……それではキララの為にならないと判断した俺はキララでも出来る事を教える事にした。
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食事の時間が来た。
食事の場に来たメンバー達は入口に備え付けられている手洗いを済ませ、料理が並ぶ椅子に腰掛けようとした時。
「あ、あのーすみませんでした。これ使って下さいっっ」
自分の料理が殺人料理だと知ったキララは素直に俺の言う事を聞いて、手洗いを済ませ料理に手を付けようとしているメンバー達に、今までの殺人料理を提供していた事への謝罪と共に、キララが作ったある物を配っていた。
「あのーーーこれは一体???」
そう質問する討伐メンバーに、キララは恥ずかしそうに俯き、
「ぼぼぼぼぼ僕の、唯一出来る事なんだ……そそそそその、ルルに教えて貰ってね……」
言葉後は、顔を上げ、満面な笑顔を浮かべ、そんな返事をし、
「フィンガーボールって言うそうだよっっ」
そうニッコリと笑顔を振り撒くキララに、
「……えっ!?……もう手洗い済ませたよ」
迷惑そうに、それの受取りを拒否する討伐メンバー。
「……」
それもその筈、今日の献立は、キララが貴重な食材を無駄にした所為で、残りの食材を吟味した結果により”スムージー”になったのだ。
流動食であるそれに、手拭きであるフィンガーボールなど、必要がある筈がなく。
そう突き放されたキララは、悲しげな表情を浮かべ、俯いていた。
しかしこのままではいけないと、自分を奮い立たせ。皆の元に駆け寄っては、丁寧に言葉を送り、フィンガーボールを勧めるのだが、受け取ってくれる討伐メンバーはいなく。
それでも誰かが使ってくれる事を信じて声をかけ続けるキララは……。
「あっ、あのーっっ。これ使って下さ………キャッ!」
椅子に座っている討伐メンバーに声をかけようとした時、不意に立ち上がった別の討伐メンバーとぶつかり、トレーに乗せていたフィンガーボールを全て溢してしまったのだ。
「あっ、すみません……大丈夫ですか?……」
そう優しく、ぶつかった討伐メンバーに声を掛けられ、
「あっ!これっ………」
と、キララがフィンガーボールの容器をぶつかった討伐メンバーに渡そうとしたのだが、
その容器の中には水は無く……
言葉途中に、それを認識したキララは、縋るような動きを、心から漏れ出ようそする言葉を塞き止め、
キララに怪我が無い事確かめると、その討伐メンバーはその場を去り、
「……使って……使ってくれませんか?」
その優しそうな討伐メンバーが去った後に、力無く、誰も居ない空間に言葉を向けるキララ。
「誰か……要り……ませんか?……」
そう途切れ途切れに、言葉を繋ぎ、呟き。
キララは、フィンガーボールの水を溢した床を、自身の腰に携えるエプロンで、丁寧に拭き始めたのだった。
何処かで聞いた事がある、悲しい物語の悲劇な小公女のようなキララ。
その出来事の一部始終を物陰から見ていた俺は、きっと、あしながおじさん的な立ち位置のだろうが、俺にそんな甲斐性は無く、この物語は主人公が悲劇のまま幕を降ろす。
結局その後も、その場に居ない女性陣を除く、全討伐メンバーに受け取り拒否され続けたキララ。
それからのキララは、料理に今まで以上の愛情を何の惜しげも無く注ぎ込むようになり、
そのキッカケを作ったと、俺は今まで以上に皆から白い目で見られる事態になるのは、トンだトバッチリだと思うのは、俺が何か間違っている所為なのであろうか?