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気が付けば英雄と呼ばれる存在になりまして  作者: 陽空
そです!わたすが○○○なんです!
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リバースバベル㉛上司の扱いは酒の場で決まるna話

食事中はお控え下さい。

 それは神輿に担がれた後、宙高く舞い落ちた後の事。

 地上に落下する痛みと、上に圧し掛かる重みで、意識を失ったマンドが眼を開けた時にはもうその椅子に座らされていた。



「我らが王よ。お目覚めかな?」


 聞き慣れない低い声質。

 唐突に耳に飛び込む言葉の意味が分からないが、その一言一言がマンドの身体に斬りつけられるように刻まれ、骨に直接叩きつけるように響く鈍い音。



「始めてお会いしたのは、貴方様が意識を失っていた時、その際には名を明かす事が出来なかった非礼をお許し願いたい……」


 余りにも自分と懸け離れた体格。その鍛え抜けれた筋肉は、別次元な生き物とマンドの眼に映る。

 そして、マンドを宿すその者の漆黒の眼力は、マンドの身体を圧迫するように硬直させ、声帯の筋肉は著しく機能を失い、声を出す事を許さない。


 今の状況を分かり易く伝えるなら、袋の鼠。もしくは台風の目に居る感覚。



「我が名はマクスウェル・パンプキン。

 ランタン族族長にして、キララ・パンプキンの父親で御座いますれば、今日をもちまして貴方様の手足となる者の名。どうぞお見知り置きを……」


 その言葉で、挿げ替えられたマンドの手足。


 その場から逃げる為の縦に振る手が、とてつもなく重々しく、その場から逃げる為の地を足が、果てしなく大きいモノに成り代わった。


 ゴミであるマンドが、到底扱える圧力ではない。


 

「我らが王よ。目覚めたばかりでは御座いますが……

 建国に必要な書類がこのように溜まっており、早速目を通しサインを宜しくお願い申し上げます。私は、残りの議題の擦り合わせをして参りますので、これにて失礼させて頂きます……でわっ……」


 自分の意思を何か一つでも間違えると、頭である自身を容赦無くもぎ取る、そんな危険がその手足には孕んでおり、

 訳が分からない状況に、茫然と言うよりは、心ここに在らず。

 心ここに在らずと言うよりは、魂すらもそこに無い心境で1人、天幕内の椅子に座らされ、次々と天幕に運び込まれる書類を余所に、ただ遠くをマンドは見る事を余儀なくされた。



 そんな亡骸のようなマンドの耳に入って来たのは、



「イフン達の言う通りだったよ。いや、参ったね。僕達の”お嫁サンバ”があんなに好評だとは思いもしなかった……」


「うふふっ。そうですね。センターのキララはとても輝いてましたよ……」


 キララ達がシュベルグとナナヒカリの結婚式の催しで披露した、歌の自己評価。

 意識を失っていたマンド、まさか結婚式が今行われているとは思いもしなかったが、キララとイフンの格好でお祭り的なものだと連想するに至る。



「でも、きっと僕が推した”関白宣言”でもウケたと思うんだけど……」


「そっ、そうですね……是非に今度の機会に……」


 そう言葉を濁し、泳ぐ眼を横に流すイフン。


 目立ちたがり屋のシロとクロを差し置き、キララをセンターに置きキララを表に立たせたのは、空気を読めない古い考えのキララの選曲を何としても阻む為の処置であり、そうして脇を固めた結果だった。



「「「僕は、君の味方っ」」」


 捲り上げた天幕の入口からそう漏れ聞こえるのは、今はその舞台で、次は私達よと主張するようにテクノ的な歌をシロとクロとラピスが熱唱する声。

 何時もマンドに放たれるドスの利いた声質では無く、可愛らしい裏声で、



「「「搔き消せないメロディーっ」」」


 搔き消したい思いしかない、今のマンドを逆撫でする内容の歌詞であり、

 天幕に入って来た我関せずのキララとイフンを合わせ、マンドの気を知らない仲間の、スッコスコの中身の無い、口先だけの軽い音が、沸々とマンドに怒りを沸き立たせるは当然だった。



「ギララざんッ、イフンざんッ!あんだ達ッ、今いっだい何しですんですが?これはいっだいどう言う事なんですがッ!オデ、キララざんの親父さんに王とか言われでるんで……ゴボッ……」


 そうマンドが声を荒げるのだが、その言葉途中、鈍い音と共にマンドの声が途切れた。


 痛みは無く、視覚的にも何も起こらなかった。

 しかし、ジンジンと徐々に喉元に痛みが走り、声が出せないマンド。何事かと自身の喉に手を置くと直に理解が及ぶ。

 クッキリと拳の跡を残し、陥没する喉仏。いや、正確には、視覚的に突起する分の甲状軟骨だけが何者かにより粉々に砕かれていたからだ。


 その時マンドが細目で、存在自体を否定するようにマンドに背を向けるキララとイフンを見るのは、その謂れなき暴力に対しての反抗的な態度を示す行為であり、

 決して、何処かの美少女セーラー戦隊のように、乙女として大事な部分を淡い色で発光させ、物心がついたばかり男子が思わず眼を逸らし恥じらう、お父さんが身を乗り出し妄想を膨らませる魔法で、ステージ衣装をチェンジしていたキララとイフンのそのモザイク補正を、眼を細めると見えるという迷信を信じていたからではないと、マンドの名誉の為に説明しておく。



「今度はイフンが主役。僕は邪魔にならないようにバックダンサーに徹するよ。ギミックは正常に機能していたし、後は君の心の準備が出来次第舞台に戻るけど、どう?緊張はしていないよね?」


「ええ、任せて下さいキララ。もう準備は出来ています。行きましょうキララ……」


 一秒でも時間が欲しいと言わんばかりにキララとイフンは、忙しなく天幕を後にして去ったのだが、何というかイフンのその時の衣装は、紅白歌合戦の紅組のラスボス的な衣装を纏っていた。



『………』


 そんな天晴アッパレなイフンに何故、バックダンスが必要なのか、キララと余り接点を持たなかったマンドにはその見当外れな思考が理解出来なく、寧ろ、邪魔でしかないそのキララの要らぬお世話に多汗を拭う。

 そして、喉元に残るこの痕は間違いなくキララの一撃によるもので、一言も僕に話しかけるなと、そう言われているように受け取るのは仕方なく。

 そして、そんな無慈悲をくれる、理解不能な生き物のキララの父であるマクスウェルの気分を損ねるのは、自殺行為でしかないとマンドの身体が即座に行動を起こす。


 それは、誰よりも底辺で、誰よりも生に無様にしがみつく、ゴキブリの生命力に近いホビット族の防衛予知の本能。



『うぉぉぉおおおおーーーーッ!』


 声として放たれる事は無かったが、そう聞こえてきそうな形相で、マンドは山のように積み上げられた書類に、



『早ぐ終わらせないどッ、理不尽に殺ざれるううぅーーーーぅぅッ!』


 そうやって、死の物狂いで、本気のサインを書き始めたのだった。




 

「いやぁ、中々盛り上がってんじゃねぇ?」「ほんと、ナナヒカリ綺麗だったね」



 楽しそうに、そんな事を口遊み、ぞろぞろと天幕に戻ってきたルル達。


 何故、この天幕に戻ってくるのか?そう思いながらもマンドは決してそれを口にしない。それこそ謂われない暴力で制圧され、時間のロスを招き、積み上げられた書類の処理の遅延になるからだ。


 サインが終わった書類の数が言わばマンドのライフゲージ。最終的にマクスウェルの只の言葉によるダメージがこの書類の数により緩和されるからで、自身が耐えうるだけのマクスウェルの攻撃力まで引き下げる為に、今の内に少しでも数を稼がなければいけない。


 そんなマンドが、ルル達の入室と共に、殺気立つ開始の表情から明鏡止水の如し、一見、死人のように波風立てない安らかな表情を浮かべているのは、



『一生懸命じでいるど、ぜっでぇールルが邪魔してぐんがんなッ!』


 最近になって分かったのだが、ルルは何でもかんでも釣り上げられる雑食の”ブルーギル”では無く。とても繊細で面倒な”ヤマメ”なのだとマンドは知ったからである。

 その嗅ぎ分ける嗅覚は鋭く、自然と流れる自分好みの餌には見境なく喰いかかり、あからさまに誘う餌や、好みではない餌には見向きもしない。


 ならばと、試しにマンドなりに思うルルが嫌がりそうな雰囲気を作り上げてみたのだが……



「はいはい。ルル君。オシメ見まちょうねっ……」


 机の上でイフンに無理矢理押さえつけられている幼児のルルは、

 黒い覆面が持ち味の、悪の組織に改造手術を施されている最中であり、その非人道的な人権侵害に今は、とてもそれどころではないようだ。

 激しい抵抗を見せていたルルだったが、抵抗虚しく、ありのままの姿を晒されると、全て諦めたように虚脱し、マンドの方に首を倒した。


 そこでルルと目が合うマンド。



『ルルよ……なんて眼をじでやがるんだ……お前は……』


 恐らくルルなりに、今のマンドの立ち位置を把握しているのだろうか、

 ルルはマンドを、マンドはルルを、互いが互いの今の惨めな姿を瞳に映し出し、



『『今のアイツよりは、百倍マシか……』』


 そんな勇気を、互いに与え合ったのだった。


 


 ルルはマンドを見るばかりで近寄ろうとはしないのは、

 幼児化したルルに興味津々とキララ達のいい玩具にされており、身動きが取れないでいたからなのだが、



『嫌な予感じじがじねぇ……』


 そうマンドの防衛予知の本能が働くのは、今は嵐の前の静けさ、というよりは平穏というべきか、いや、そもそも既に、自身がここで書類にサインをしている事自体が暴風域の中にいる窮地なのだが、

 それでも、今がぬるま湯に浸かっている気分になるのは、それ以上の異変が背後からヒタヒタと足音を立て近づいている感覚に陥ったからであり、

 いまだ安心は出来ないと平然を装いながらもマンドは黙々と、自分のライフゲージを稼ぐ行為である書類のサインに勤む事にしたのだ。






 同じ天幕で全く違う空気が2分する。

 陽気なルル達の空気と、マンドが作り上げていたのはドンヨリ負の念が漂う嫌な空気。

 分かり易くこの状況を例えるならば、高校入試の際、専願で合格通知を貰った者と、併願が滑り、もう一方の入試に向け猛勉強に励む者との空気程の違いがその場にはあった。


 表面は平然を装いながらも、中身がドロドロ状態なマンド。

 幾ら署名をしようとも次々と運ばれてくる書類は溜まる一方で、それを嘲笑うかのようなルル達の弾む声が癪に触る。


 そして、一度天幕を離れていたラピスからの、



「ナナヒカリさんのお色直しが済んだようです。皆さん会場に戻りましょう」


 その聖女の導きに、これで署名に1人で集中出来ると、机の下で小さいガッツポーズを決めるマンドだったのだが、



「俺もういいや、お前らだけで楽しんで来いよ……」


 祭り好きなルルの予想外なマンドを奈落の底に突き落とすその一言で、苛立ちながらも懸命に滑らせていたマンドの手がピタリと止まり、背筋に汗が伝うと共に、ペンを握る手が汗ばんだ。


 感じ取られないように、必死に表情を固め、揺れる指先で、それでも署名を続ける。


 いや、しかし、まだ可能性は残っていると、チラリチラリとキララ達を見るマンド。灰汁が強い4人。そんな鬼畜女子にそのままルルの意見が素直に通るとは思えなかったからで、

 そう思うと、



『グハハハッ、ルル。オデがこんな残念な目に遭ってるんだッ。オメェーもそでに値する報いはあっでいいよな?グハハハッ』


 腹の底から、そんな汚い笑いが込み上げてきた。


 しかし、そんなマンドの思いに反して、暴力と言う絶対的権限を行使せず、にこやかに、何故か乙女チックに……

 と言うか、新婚ホヤホヤの新妻のように、

 


「じゃあ、ルルさん行ってきます…」「行ってくるよルル」「「ルルお兄ちゃん待っててね」」


 そんな黄色い声で、天幕を後にしたのだ。



『えっ……なんで?……いづもの無慈悲は?……』


 そう縋るような眼で、天幕を後にしようとするキララ達を見送るマンド。


 天幕に訪れてから眼が一度も合わなかった4人の鬼畜女子。勿論、4人にマンドなど眼中に無く、そんな乞う願う眼差しは、気付かれる事は無かったのだ。




 キララ達が天幕から姿を消すと、マンド自身キララ以上によく知らない人物の膝に、ルルは当然と這い上がり、ラピスが持ち込んだ飲み物を口に含む。

 ルルのスキル”水質データ要求処理ウォーターサーバー”を知らないマンドにとってそれは、縁の下で茶を嗜む行為に映るのは当然だった。


 ホッコリと魂の汚れを吐き出すように、



「ぷふぁぁーーー。染みるーーーぅぅっ……」


 その発言に、少しばかりの違和感を感じながらも、これなら問題ないかとマンドは胸を撫で下ろし、フンドシを締め直し、書類の山と向き合った。





 それから時間がどれ程経ったのかは分からない、だが、次々と持ち運ばれる書類が徐々に減っていく順調さにマンドの顔が嬉しさに解れ、酷使する身体を労うように「うーん」と、背筋を伸ばした時。

 思わず、ルル達の様子が気になり、その方向に眼をやったマンドの眼に飛び込んで来たのは、


 頬を赤く染め、妖艶な体躯をより耽美とさせるのは、殺意に近い危なさを秘めた、その女の求めるような人を狂わす仕草だった。


 マンドが男を虜にさせる魔性の女に見惚れていると、それに気付いた女と目が合い、思わず手を振り、笑顔を送る。

 マンドのその好意に応えるように女は舌舐めずりを一度行うと、ゆっくりと雌豹のようにマンドに這い近づく。

 その近寄りがたい高踏に、崇高美に、マンドは思わずゴクリと喉を鳴らした。


 机の下を這い越え、マンドの睾丸に近い股に絶美な指を置き、豊満で絹のように白い肌をマンドの体型に合わせ、舐めるように滑り、立ち上がると、

 その女は、思わず奇声を上げてしまうマシュマロのような柔らかい尻をマンドの膝に置き、マンドの首元に男の魂を絡め取る指を当て、蛇がまとわりつくように頸椎まで余韻を残しつつ手を回す。


 全てを忘却される溶けるような瞳で、マンドの耳元に甘い息を吐きかけ、思いもしない言葉をマンドに囁いたのだ。

 


「ワレッ……儂の悲恋の何がおもろいねん……ぶち殺される覚悟出来てるんやろな……ヒック…ヒック……アカン……はっ、吐きそうや……甘いリキュールはつい飲み過ぎてまうな……オイッ!課長向かい酒やっ!」


「はいッ!部長只今ッ!」


 そう手を揉むように飲み物を手に持ち近付いたのは屈託の無い笑顔のルル。


 その光景は完全に只の酔っぱらいで、部下のマネージメントのトップである部長の悪癖な絡みであり、やたら、ベタベタとマンドの体を触りたがるのは、鬱憤を晴らす為のパワハラと呼ばれる、地位が自分より低い者を虐げる快楽だった。


 ルルから受け取った飲み物を、女部長が瞬く間に飲み干すと、



「あかん無理や、オイッ、新人はよッ、何か受けるモンよこせやッ!ぶち殺されるか、受け皿よこすかッ、はよ選べやッ!この薄らハゲの新人がッ……おぅっ、おうっ……アカン……もう……出そうや……」


 マンドの頭を景気よくバシバシ叩いていた女部長は、頬を河豚のように膨らませると、マンドの膝の上でクルリと身体を反転。

 机の書類を紙代わりに、何枚も無造作に鷲掴むと、

 女部長の口からマーライオンの如し、虹色のソレは流れ出た。


 女部長が掻き集めた机の上の書類が受け皿となり、一応生物学的には性別が女の部長の体裁は保たれたのだが、



「ヨッ!部長っ、おっとこまえーーッ!……ささっ、更なる向かい酒です」


 課長と呼ばれたルルが更に飲み物を促し、



「アカン……また出そうや……」


 更に、紙を何枚も鷲掴み、受け皿にする女部長。


 そう、それはマンドが積み上げたサインを終えた書類であり、マクスウェルと言う暴風を恐れたマンドが、必死に積み上げた防壁となる書類の山。

 後にマリンと紹介される部長の、縦社会の洗礼である横暴な汚水により、マンドがコツコツ積み上げた苦労が、夥しい高位な水に、無惨にも無情にも流されて行く。

 そのパワハラに、マンドは暫く硬直するのは仕方なく。


 程なくして、それを幾度となく繰り返す部長と課長のイビリに耐えられなくなったマンドは、



「イッ、イヤァャァァアアーーーーッ!お願いッ!止めてぇぇぇーーーーッ!」


 そう両手で両目を隠し、内股で、活舌よく震えながら、新人女子社員のような叫び声を上げていた。

何だかんだで、こう落ち着きました。

すみません……

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