クエスト『首なき騎士』⑦登ってはイケないnaい階段。
「究極の光属性魔法ーーーーーーーーーっ!!!!!」
言葉と同時に、光り輝くそれにサイクロプスの体が包まれ、俺の手の平から30cm程の十文字の光が放たれた。それはサイクロプスの右肩を掠め、ボトリと肩から腕にかけて地面に落ちる。やがて黒い煙が立ち上がり無に帰し、その痛みでサイクロプスは地面に這いずり転げ藻掻く。
「どんなもんだよ!俺の渾身の一撃の味は、いいパンチ効いているだろ?」
俺の全身全霊を賭けた一撃。今の俺の最大の火力。今日はもう俺はまともに動く事は出来ないだろう。ステータスもきっとダダ下がりだ。
着地と同時に前から倒れ込む俺に、サイクロプスは痛みに耐え、立ち上がり、息を荒げ、俺を見下し、左手で棍棒を拾い、それを振りかぶった。
「へへへへっ、お代は結構ですよ.............」
そう言った俺に不敵に口元も緩め、棍棒を振り落としたサイクロプス。
その時...........。
「大変美味しゅう御座いました!結構なお手前で............」
そう言ってサイクロプスを一閃。体が斜めに崩れるサイクロプス。
俺が放った光魔法はイフンと直線になる様にサイクロプスに放った。この一撃でサイクロプスが滅ぶも良し、イフンに活力を与えれば良しと思い放った全力の攻撃。
俺の光魔法で活力を得た冒険者ランクSのイフンの動きは2つ名の如く疾風。イフンが動く後から突風が吹き抜ける。黄金に輝く髪を前方に靡かせ、視界を妨げる髪を面倒そうに耳に掛ける仕草が、これまた愛くるしい。
濁りの無い真直ぐな瞳で俺を覗き込み。体全身ガタガタの俺を抱き締め、座らせると、微笑えみ。潤む瞳でもう一度俺を強く抱き締めた。
「い、いだい、おい!イフン俺を殺す気か!?おい!俺の体が今ボキッてなったぞ!折れたんじゃーないのか!?おい!ボキボキってなったぞ!おい!聞いているのか!?」
体の感覚が無い俺にそんな仕打ちをするイフンは、一度腕を解き。
「ご、ごめんなさい..............」
謝った後今度は優しく抱き締め直した。
「えっ!?どどどど、どうしたんだよイフン!?おおおお、俺の一撃で脳細胞やられたか?」
な、な、な、なんだよこの仕打ちは!何で感覚が無い今の俺にそんなご褒美を?感覚戻ってからまたお願いします。とテンパる俺に非常に小さい声で。
「..................ホントに............どうしちゃったんでしょうね私...............」
そう俺の耳元で囁いた。
何だ?何だよ!ドキドキする!イフン如きにドキドキする俺。どうやらステータスがとてつもなく下がり。女性耐性値も下がったらしい。
ニヤける俺を腕を突っ張り距離を取るイフン。俺の顔をトロける瞳でガン見した後。
「直ぐ終わらせます。ルルさんに与えられた力、存分に使わせて頂きますね」
そう言ってニッコリ笑って俺に魅せた。何故か頭がボッーとする俺。
そんな俺を他所にゆっくり立ち上がり、サイクロプスの方に振り返り、俺を護る様に佇む。
先程の攻撃でサイクロプスの片足を両断したイフン。立ち上がろうと藻掻くサイクロプスと俺の間に位置取るその姿は。
誰よりも勇ましく、誰よりも凛々しく、誰よりも安心感が持てる存在。
そうそこには正しく英雄と呼ばれる高みに聳え立つ。全力のイフン・バースデイの姿があった。
そしてイフンは姿を俺の前から消した。
見えない...........。
イフンの姿が目で捉える事が出来ない。突風だけがイフンの存在を知らしめる。
片足を失ってまともに立つ事が出来ないサイクロプスの体が右へ左へ前へ後ろへ流れ、突風の威力が如何に凄まじかを物語っている。体が流れると共に、至る所から血が噴き出し、悲痛な雄叫びを挙げるサイクロプス。
雄叫びを挙げ首を伸ばした刹那。サイクロプスの首元にイフンは容赦なく一閃。
顔と胴が2つに別れ、悶絶な表情を浮かべたままサイクロプス頭はゴロリと地面を転がり、一呼吸間を置いて、その巨漢の体も突風の勢いで、後ろに流れる様にしなり倒れた。
やがて黒い煙が立ち上がり、黒い煙の間から覗かせる、金色の乱れた髪を振り正し、透き通った白い肌の力強い太陽は、何処と無く寂しげな表情を浮かべ、腰の鞘に流れる動作で剣を収める。
そして白陽と呼ばれるその者は目を瞑り笑顔で俺の元へ向かい駆け出した。
黒い煙は今まで見た事が無い程の大きな魔石へと姿を変えて、俺とイフンの間に立ち塞がり、目を瞑りそこそこのスピードで、駆け出したガラクタの顔に...............。
めり込んだ.............。
「.................ホント............ポンコツだよなお前.............」
顔を両手で押さえ、地面にのたうち回るイフン。俺はそんなイフンを失笑して、大の字で体を寝かせ、ガタつく体で拳を作り、暗闇しかない天井を見つめた。
勝利した...........。
下位の神と呼ばれる存在を前に、どちらの命も失う事無く、俺はイフンに強く抱き締められた時の痛みで、イフンは魔石に食い込んだ痛みで、勝利と言う生存の実感を得た瞬間であった。
気が抜けたのであろうか?俺の目蓋が非常に重たい............。
俺はそれに従い静かに目を閉じた。
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「ルルさん!?大丈夫ですか!?ルルさん!?」
俺を呼ぶ声がする。視力が落ちたのか...........ぼやけて見える。ハッキリ見えない。耳に届く音も歪み低く聞こえる。あの技を授かる際に聞いた話だと、あれを使用した際に一時的に俺のステータスは赤子並みに低下するそうだ!時間を掛けてゆっくりとステータスが戻っていくそうだが..............。どうやら今は最低ラインに要る様だ。
いつの間に気を失っていたのであろうか?俺の首に手を回し、上半身を起こす人物の顔が霞んでよく見えない。
目を覚ました俺に安堵の表情を浮かべているだろう、その人物に、微笑みかける俺。
さて、勝利の余韻にでも浸ろうか!先程の様に軽いハグの御褒美が待っている!バッチコーイ!そう言うシュチュエーションだろうと俺は思う。普通ならば。
しかしだ!なにか雰囲気がおかしい。イフンの顔は魔石の衝突に因るものなのか?紅潮しているのか?、なんといえばいいのだろうか?分かりやすく言うならば、目がイッテいる様な。血走っている様な。瞳が小刻みに揺れている様な、そんな感じに見える。目が霞みよく見えないのだが...........。
そして、吐く息も荒々しい、まるでお預けをくらった獣の様であった。
そう言えば活力MAXのイフンは拝んだ事が無い!今の状態がノーマルなのか!そう思おうとする俺なのだが。
「あ、あのー..........その...........そのー、超怖いんですけど............こういう時の顔は.............笑えばいいと思うよ」
正直な俺は顔を引き攣らせそう言った。
「うふふふふ、ルルさん私.............嬉しくって.............」
何を言っているのだろうか?.........そんな顔はしていないと思う..........よく見えないが、間違いなく、ポンコツのこいつは獲物を狙う目だ!決して嬉しい時に見せる表情ではない事は直ぐに読み取れた。
なんだ!何か俺はイフンに対して、激怒する何かしてしまったのか?それともヤンデレなのか?
そうだ!キースが言っていた。怒った女性は褒めれば機嫌が直ぐ良くなると。そう褒めればいい。簡単じゃーないか!...............何を?...............一体ガラクタの何処をどう褒めればいいのであろうか?ホントに使い物になりませんね?だろうか?廃棄するの邪魔臭いですね?なのか?確かに抱き心地は大変良く出来ている。ん?そうか!それを褒めればいいのか!
「いいか!良く聞け!お前の抱き心地は中々良いよ。引き締まった中にも少し脂肪がある。お前の体は最高だ!正直俺はお前の体が好きだ!しゃぶり付きたい」
「................」
アッ、アカン!..........ダメだ!逆に冷たくなった様な気がする.........ここじゃない!ここじゃないんだ!そうだ!女性は体のラインとかを褒めれば喜ぶとキースが言っていた!体のラインで良いところを褒めればいいんだ!簡単じゃーないか!
「いいか!良く聞け!お前のオッパイは形は中々良いよ。谷間しか見てないけど、今度全部見せてくれ!しゃぶり付きたい」
「.................」
アカン!.......違う!..........そうじゃ無い!...........余計酷くなった様な気がする!そうだ!顔だ!キースは女性は容姿を褒めると良いと言っていた。綺麗、可愛いだけでは無く、その後に続く言葉で攻めれば良いと言っていた。簡単じゃーないか!
「いいか!良く聞け!お前の顔は最高に良いよ。しゃぶり付きたい」
「.................」
アカああああーんっ!..........俺のアホーーーーっ!..........どうしてこう正直に言葉に出るんだ!もっとあるだろ!もっと女性心を擽る様な誉め言葉を!...........ダメだ...........まともに女の子を口説いた事がない俺のバリエーションなんて無いも等しい。もうどうにでもなれだ!
「いいか!良く聞け!俺はお前の唇にしゃぶり付きたい!ベロチューチョロチョロしたい!」
「..................」
それを聞いたイフンは俺の顔から目をそらした様だ!口を手で抑え恥ずかしそうにしてる様に見える。
おい、ちょっと待て!何故そこなんだ!?おかしいだろ!自分で吐いた言葉だが、こんな言葉で心揺れる女なんてどーかしているだろ!?と俺は思う。俺は正直引いた。ドン引きだ!
ふむ、やはりフルパワーでも所詮はガラクタ!俺はイフンをそう評価した。
「...........していいですか?」
ガラクタは突然、主語を付けずにそんな事を言ってきた。
「何をだ!?」
ハッキリ言おう!俺はそれが何かを知っていた!ハッキリ見えないが、イフンのモジモジする態度が物語っていた。
しかしだ!恥かしめるは男の嗜みだ!これは常識だ!朝会った人におはよう、感謝する人にありがとう、悪い事をしたら御免なさい、と一緒の事なのだ!
「えっ!あの............その.............キキキキ、キスを.............」
うむ、70点だ!まだまだイケるぞイフン!だから俺は言った。
「よく聞こえないんだけど、何をしたいんだ?」
「えっ!?いや.............だから...........キキキ、キスを............」
ダメだダメだイフン!50点だ!下げてどうするんだ!仕方ない、少し助太刀してやるか!だから俺は言った。
「なぁー俺なんて言ったけ?えっと............確か..........ベロチュー...........あれ?俺なんて言ったっけ?」
さぁーこい!イフン!道は照らしてやったぞ!さぁー俺に続けイフン。
「.................チョッ、チョロチョロ................」
ぐあははははっ!やれば出来るじゃーないか!100点だ!よく見えないが、その恥ずかしそうにする姿。良く見えないが、頬を赤く染め、潤む瞳。よく見えないが、俺からそらす顔の角度!全てが良いではないか!ぐあははははっ!と目を瞑り心で笑う俺の不意をつき。
俺の唇に柔かい、何とも言えない感触が伝わった.............。
「えっ!?」
思わず心で言葉が漏れた。
目を瞑りながらでも分かる。これは!これは!絶対そうだ!間違いない!100%そうだ!
トロける。そうトロける感覚だ。全神経を唇に集中させ、感触を味わう。ヤバイ。本当にヤバイ。何やかんやで色々ヤバイ!
ハッキリ言おう!余は満足じゃ!この感覚だけでご飯を何枚お代わり出来るのであろうか?育ち盛りの俺はそりゃもう果てが見えない程の食欲だ!ヤバイな、俺、一つ大人になっちゃったよ!キースに自慢しよう。そんな事を考えている時だった。
俺の唇をこじ開け、何かが入ってきた.............。
ふむ、アレだ!これはナマコだ!そう俺の口にナマコが入ってきた。イフンめ!けしからん奴だ!ナマコを口内で飼うとは、本当にけしからん奴だ!大変良いよ。イキがいい。天晴れじゃ!
ダメだ俺はこのまま昇天してしまう。やり過ぎだイフン!もっと楽しませてよ!もっとゆっくり楽しませてよ!ダメだ!もう限界だ!と思った時。
俺の唇から感覚が消えた。勿論ナマコも何処かへ行ってしまわれた。
何故だ!何故止める!もうちょっとなんだ!と俺から離れようとする目の前の人物にしがみつき、抱き寄せ、俺は目を見開た。
俺の顔はそれはもう乱れきった顔をしていたのだと思う。時間の経過のおかげであろうか?不思議と視界は大分戻り、そんな俺の目に、力無く座り込む、とても悲しい顔をするキララの姿を捉えた。
「.................えっ!?なんで???」
俺は抱き付くのを止めて、キララの元に行こうと力を込めるが、体はピクリとも動かなかった。だから言葉で追い縋った。
「ちっ、違うんだ!キララ!俺の話を聞いてくれ!これは違うんだ!」
俺は抱き付いた腕を離し、キララに向かい必死に伸ばした。しかし、キララは悲しい顔をしたまま、俺達の行為に悲痛な表情を見せ、ゆっくり左右に首を振り、座ったまま、ゆっくり後退る。
キララの後ろには、エウリとアウェーが互いの手を取り体を震わせ俺達を軽蔑した目で見ていた。
その横に乙女騎士2人が頬を染め、抱き合い、ウットリした目で俺達を見ていた。
ダメだ!完全に勘違いされている?勘違いなのか!?そうなのか!俺はそんな浮ついた気持ちで、キスをしたのか!イヤ違う!俺はイフンが好きだ!勿論女性として!でもだ!俺はキララの事も好きなんだ!仕方ないだろ!好きになったもんは!そう仕方ないんだ!だから俺は、言葉する!そう俺は正直に言葉する!
そんな時だった!
俺の背後に立ち、肩をポンと叩く人物がいた。
俺はゆっくり振り返ると、そこには泣きそうな顔のイフンが居た。俺と目が合うと、ゆっくり首を左右に振った。
テメェー等!揃いも揃って!そんな顔を俺達にしやがって!俺はキレそうだった!
何だよ!何が悪いんだよ!お前らに迷惑掛けたのかよ!俺とイフンが仲良くしたらダメなのかよ!ふざけやがって!お前らがそんな態度取るから、俺の腕の中に居るイフンが、俺の首筋を舐めてくるんだぞ!分かってるのかよ...............。
ん!ちょっと待て!何故イフンが俺の背後に居るんだ?おかしいだろ!
ん!ちょっと待て!俺のパーティーにはもう1人なんか居なかったか?............ダメだ思い出せない..............極度な記憶障害だ!俺の脳細胞が全力で記憶の防壁を張っている。
しかしだ!何故か俺の額からダメな汗が垂れがれる。さぶイボも半端ない。ダメだクラクラしてきた。心臓が脳に血を送るのを拒んでいる。
そんな俺を腕の中の人物が声を掛けてきた。
「ダーリン。皆んな見てるちゃよ.............」
俺はそれを見た。
俺の腕の中には頬を朱色に染める化け物が居た。